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俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第3章 王都地下に眠る循環陣
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第77話:点と点の接続

秘密基地の作業台に広げられた王都の大型地図。

そこには、昨夜の旧大聖堂を含む三つの地点が赤線で結ばれていた。


「……南西の旧水路なら、昔一度だけ入ったことがある」


壁際に佇んでいたガルドが、地図の端を指で叩いた。


「警備隊にいた頃、職人街で起きた盗難事件の捜索でな」

「盗難?」


レオンが身を乗り出す。ガルドは古びた記憶を掘り起こすように視線を落とした。


「ああ。工房からいくつもの部材が抜き取られた。だが、盗まれた物は最後まで見つからなかった」

「何が盗まれたんだ?」

「魔導工具と金具、それに魔力を通す特殊な導線だ。当時はただの行き詰まった事件だと思っていたが……今思えば、妙だな」


ガルドの言葉に、バルドが太い腕を組み、重々しく頷いた。


「南西の旧水路は、数十年前に放置された古水路だ。湿気やガス、石畳の崩れも酷い。盗品を隠すには打ってつけの暗がりだな」

「だが、第二層まで降りるなら途中で崩落している場所もある」


ガルドが地図上の廃井戸の記号を示した。


「だから、旧職人街のこの位置から降りる。底の管理孔からなら第二層へ直接行ける」


その指先をじっと見つめていたシィが、ふと小さな声を漏らした。


「……ここだけ、他の場所と記号が違う」

「どう違う?」


バルドが覗き込む。シィは細い指で地図の記号を丁寧になぞった。


「古い。使われなくなった区画の記号が、そのまま残ってる」

「……不自然だな」


ミリスが眉をひそめて顔を寄せる。


「……この地図、いつ作られたものですか?」

「少なくとも十年以上前です」


リィネが帳簿の端を指で押さえながら即答した。


「……待ってください。その古い記号の区画ですが、この小口仕入れの記録にも不自然な形で登場します。『旧水路補修用の資材』として処理されていますが、ここ二か月ほど少量ずつ買い集められています」

「古い水路なら、補修が必要になることもあるんじゃねぇか?」


レオンの素朴な疑問に、リィネは一度頷いてから、別の欄を示した。


「補修なら石材や補強材が中心になるはずです。ですが実際に買われているのは、魔力を通す金具と導線ばかりです」

「……旧水路の補修に、そんな金具は使わねぇな」


ガルドが現場の記憶を重ねて低く言う。ミリスも仕入れ記録の型番を指でなぞった。


「補修にしては不自然ね……。既存の設備を直すためというより、何か別のものを繋ぐために見えるわ」


ガルドの過去の記憶、シィが気づいた地図の異状、リィネの仕入れ記録、ミリスの魔導知識。

バラバラだった不快な点が、南西区の地下という一つの場所へ、急速に一本の線となって繋がっていく。


「調べるなら、まずこの旧職人街の第三区画だな」


ミリスから遠隔監視用の小型念話器を受け取り、地上支援に残るミリスとリィネに見送られ、俺たち六人は基地をあとにした。


王都南西区――旧職人街。

かつては多くの鍛冶場や魔導工房が軒を連ねていたという街並みは、新しい市街地の開発から取り残され、今は人通りもまばらな静寂に包まれていた。


「……この辺りも、昔は職人の威勢いい声が響いていたんだがな」


先頭を歩くガルドが、風化したレンガ壁を見上げながらぽつりと呟いた。

やがて俺たちは、細い路地の奥にひっそりと佇む、蔦に覆われた古い石造りの廃井戸の前に辿り着いた。


ガルドがかがみ込み、井戸の縁にそっと指を置く。


「……苔が剥がれてる。ここだけ最近触られてるな」


シィが周囲の地面に視線を落とし、少し離れた土の上を指差した。


「……足跡は消されてる。でも、あそこの土が不自然に固まってる」

「……井戸に入る前に、一度立ち止まった跡だな」


ガルドが土の手触りを確認し、短く頷いた。


「見張り……あるいは、周囲の警戒か」


そのまま井戸の底を覗き込んだガルドが、不意に視線を深めた。


「……水がない。この辺りは雨が続いていたはずだ」

「水がない?」


バルドの問いに、ガルドは暗闇を見つめたまま答えた。


「……底の石壁が外されてる。奥に通路が開いてるな」


そこから生ぬるい地下の冷気が吹き上がっていた。誰かが今も、この井戸を通路として使っている可能性は高い。


シィがロープを固定し、バルドとレオンが左右の路地へ警戒の目を向ける。リゼリアが魔力の乱れを探り、指示などなくとも全員が滑らかに次の動作へ移っていく。


ガルドが井戸の淵に手をかけ、底の石壁へそっと指先を触れさせた。


「……待て」


ガルドの声に、誰も動かなかった。井戸の底から聞こえるものだけに、耳を澄ませる。


「何だ?」

「……いま、石に微かな振動が伝わった」


全員が無言のまま、井戸底の暗闇へと意識を研ぎ澄ます。

重苦しい静寂が、数秒間流れた。


――カン……。


暗闇の奥から、硬い金属が石を叩くような微かな音が響いた。


――カン……。


ガルドがゆっくりと顔を上げ、腰の短剣の柄にそっと手を掛けた。


「……下に、誰かいる」


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