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俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第1章 闇の組織、始動
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第40話:大樹の根

夜の街道を爆走してきた馬車が、王都の城門をくぐり抜けた瞬間。

俺たちの目に飛び込んできたのは、静寂とは程遠い光景だった。


「ひ、ひぃぃっ!? 地面が……地面が波打ってるぞ!?」

「逃げろ! 建物から離れろ!」


悲鳴と狂乱。石畳の街路がまるで生き物のように不気味に上下へと撓(たわ)み、沿道に立ち並ぶ高級魔導店舗の窓ガラスが次々と割れていく。

街灯は明滅を繰り返し、中央広場の魔導導水管からは青紫色のスパークとともに水柱が爆発的に吹き上がっていた。


「……王都全域で、魔力の流れがおかしくなってる!」

「北境からの波だけじゃない……! 王都の地下でも、ものすごい魔力が膨れ上がってる!」


窓から身を乗り出したリゼリアが、真っ青な顔で叫ぶ。


「北境からの伝播だけじゃない! 王都の地下でも、得体の知れない膨大な魔力が脈打って膨れ上がってる!」

「くそっ……! 止めるぞ!」


俺たちは馬車を飛び降り、惨状と化した王都の石畳を駆け抜けた。

向かうは、全地脈の幹線が交差する中央魔導噴水塔。その地下保守口だ。


だが、噴水塔の基部に辿り着いた瞬間、頭上から凄まじい落石音が響いた。


――グラグラグラッ!!


「しまっ――天井が崩れるぞ!」


激しい地鳴りとともに、数トンはあろうかという巨石の瓦礫が地下階段の入り口を塞ぐように落ちてくる。


「ハァァァァッ!!」


レオンハルトが前に躍り出ると、大剣を横一文字に構え、落下してくる巨大な瓦礫を力ずくで受け止めた。


「レオン!?」

「ぐぬぬっ……! 問題ありません! この程度の瓦礫、私が支えます! リゼリア殿、結界を!」

「『氷天の盾』!」


リゼリアが杖を突き出し、レオンハルトの頭上に氷の強固な天井を展開する。

激しい摩擦音と火花。だが、階段の正面は完全に瓦礫で塞がれてしまった。


「正面はダメだ! ……待て、この構造なら左脇に旧式の排水導管があるはずだ!」


俺は破砕した石壁の隙間を指差した。


「こっちだ! 狭いが、地下の大空洞へ直接繋がってる!」

「了解です! お二人を先に行かせます……ハァッ!」


レオンハルトが瓦礫を強引に壁際へ押し戻し、俺たちの後に続いて狭い導管へ滑り込んだ。


◆


排水導管を抜け、俺たちが地下大空洞の内部へ足を踏み入れた、その瞬間。


俺の口から、思わず声が漏れていた。


「……すげぇ」


言葉を失うほどの、圧巻で恐ろしい光景だった。

視界の全てが、巨大な『石の根』によって埋め尽くされていた。


地面も、壁も、はるか上方の天井すら判別できない。

北境から流れ込む無数の地脈。王都の各施設へと繋がる魔導導線。それらの根本が集約された『最終結節』。

太さ数十メートルにも及ぶ巨大な石造りの幹が地下空洞の全域に這い回り、何百本もの太い枝となってのたうち回っている。


その一本一本の内部を、ドクン……ドクン……と脈打つように、膨大な青紫色の狂乱魔力が駆け抜けていた。

本来なら、ここへ集められた魔力は深層地脈へと流されるはずだった。

だが、何者かによって長年その流路が僅かずつ狂わされ、行き場を失った魔力がこの結節の内部へ蓄積され続けていたのだ。

この結節へ密かに蓄積され続けていた過剰な魔力が、北境からの波をきっかけに臨界点を超え、いよいよ暴走を起こそうとしていたのだ。


まさに――『大樹の根』。


あまりにも巨大で、あまりにも凶暴な、世界規模の魔力災害の心臓部だった。


「……こんなの……どうやって止めろっていうのよ……!」


リゼリアが震える手で杖を握りしめる。


「王都中の魔力がここに集まってる……! 私たちの魔力なんて、この巨大な根の一本を潤すことすらできないわ!」

「怯むな、リゼリア殿!」


レオンハルトが大剣を巨大な根の根本へ深く突き立て、足場を固めた。


「どれほど相手が大きかろうと、我らの成すべきことは変わらない! 私の全身全霊を魔力の『柱』とせよ!」

「レオン……ええ、そうね! やってみせるわ!」


リゼリアが溢れ出る魔力を杖に集中させ、多重魔法陣を展開した。


「第3ノードと同じよ! 『逆位相・相殺波』――撃ち抜きなさいっ!!」


リゼリアの放った全力の相殺波が、うねり狂う大樹の幹へと突き刺さった。


――ガァァァァンッ!!


しかし――。

相殺波が届いた瞬間、凄まじい反動の衝撃波が逆流し、地下空洞全体を吹き荒れた。


「きゃあああっ!?」

「リゼリア殿!?」


リゼリアの身体が激しい爆風で弾き飛ばされ、後ろへ倒れ込む。それをレオンハルトが間一髪で受け止めた。

巨大な幹はびくともせず、それどころか、弾かれた衝撃でさらに激しい青紫色の火花を散らし始めた。


「ダメ……! 押し戻せないわ……! 規模が違いすぎる……ノードと同じやり方じゃ、波のパワーに押し潰される……!」


絶望が地下空洞を支配しかける。

青紫色の光はさらに増し、王都の地上から届く地鳴りはより一層激しさを増していった。このままでは、王都そのものが地脈の暴走に呑み込まれる。


だが――。


俺は短剣を握りしめ、前へ出た。

うねり狂う巨木の根。吹き荒れる魔力の火花。その激しい光を見つめながら、俺の頭は急速に冷えていた。


(……待て)


俺は顎をさすり、ボソッと呟いた。


「……消そうとするから、押し負けるんじゃねぇか?」

「え……? 何言ってるのよクロノ、消さなきゃ王都が――」

「これ、全部止める必要なんかないんじゃねぇの?」


俺は巨大な根の束を指差した。


「流れてんだろ? 膨大な魔力が、行き場を失ってここで暴れてんだ」

「……! それって……!」


リゼリアが弾かれたように目を見開いた。


「流れてるなら――流れる場所へ戻してやればいい。全部を打ち消すんじゃない。逆位相で一瞬だけ『波の頭』を押さえつけて、本来の地脈の深層へ流路を切り替えるんだ!」

「……っ! 完璧な打ち消しじゃなく、流路の誘導……! それなら、私の魔力でも流圧に割り込める……!」


リゼリアの瞳に、再び強い光が宿った。


「そうか……! 流れを止めるのではなく、流れを戻す……! これが、本当の『逆流』ね!」

「よし! 腹は決まったな!」


俺は短剣の先で、大樹の根の複雑に交差する一点を指し示した。


「レオン! 根の右側、一番太い幹の接点を固定しろ! リゼは俺の合図と同時に、その接点の真下へ逆位相を打ち込め!」

「承知っ!!」

「了解よっ!!」


レオンハルトが雄叫びを上げ、崩れかける石柱と巨大な幹の間へ自らの体を割り込ませた。黄金の気合が全開になり、押し潰されそうな巨大な根を力任せに押し留める。


「クロノ様! どこです!?」

「右じゃねぇ! もっと下……あの青い光が溜まってる場所だ!」

「ここか!?」

「まだだ! 波が膨らむのを待て!」

「クロノ……早く! レオンが持たないわ!」

「焦るな……よく見ろ……!」


焦り狂う空気が充満する中、俺の目には、魔力の波の動きがスローモーションのように映っていた。

太い幹の内部。青紫色の魔力がドクンと膨らみ、頂点に達して一瞬だけ息を呑むように静止する――。


「――今だーーーーっ!!」

「『逆位相・流路解放』――行けぇぇぇぇっ!!」


リゼリアの杖から放たれた極限の一撃が、俺の指し示した一点へと完璧なタイミングで突き刺さった。


――キィィィィィィン……!!


地下空洞全体を切り裂くような、透き通った摩擦音。

そして――。


――キュンッ!!


地下保守通路で、第2ノードで、第3ノードで聞いてきた、あの決定的な反発音。

相殺波の衝撃で巨大な波の頭が押し潰され、行き場を失っていた莫大な青紫色の魔力が、開かれた一本の太い根へと一気に吸い込まれていく!


その一本の根は、空洞の最下部――はるか地中深く眠る『本来の深層地脈』へと真っ直ぐに伸びていた。

深くへ潜り込んだ青紫色のエネルギーは、地下深くで網の目のように分岐する無数の流路へと拡散し、見る見るうちにその濃度を薄れさせていった。


――ズズズズズズズ……!!


やがて、うねり狂っていた『大樹の根』から凶暴な光が消え去る。

代わりに巡り始めたのは、穏やかで澄み切った、本来の鮮やかな青い光だった。


大樹の根全体を優しく満たす光。

地鳴りは完全に静まり返り、地下大空洞に静寂が戻っていた。


◆


俺たちが排水導管を抜け、地上へ這い出た時。


夜空の下に広がっていたのは、奇跡のような静寂だった。


撓んでいた石畳が動きを止め、割れかけていた建物が静まり返る。

そして――。


ぽっ……。


中央広場の魔導灯に、温かな光が点灯した。

それを皮切りに。

一つ。

また一つ。

さらに一つ。


光の波が街道を駆け抜けるように連鎖し、王都全域の街灯や建物の窓に、本来の明かりが次々と戻っていった。


『あ……灯りが……!』

『揺れが止まったぞ!』

『助かった……! 助かったんだ!』


街のあちこちから、溢れ出すような歓声と泣き声が湧き上がってくる。

王都を襲っていた異変は、完全に収束した。


「……やった……やったわ……!」


リゼリアが杖を抱え、その場にへたり込んだ。


「見事な指揮でした、クロノ様……!」


レオンハルトもまた、大剣を鞘に納め、誇らしげに胸を張った。


二人の笑顔を見つめながら、俺も「へへっ、楽勝だったな」と笑おうとした。


――その時だった。


足元の瓦礫の中に、地下の制御盤から吹き飛んできたと思われる焦げた石版の片隅が転がっているのが目に留まった。

ゲルハルトが仕掛けの奥に刻んでいた、この大仕掛けの根幹を示す刻印。

そこには、不気味な異形の紋章とともに――文字が刻まれていた。


「なに……これ? 文字のようだけど、風化して潰れてて全然読めないわね……古代の記号かしら?」

リゼリアが首をかしげながら覗き込んでくる。

だが――俺の目には、はっきりと見えていた。


『漆黒の導師』


「…………」


その瞬間。

俺の背筋を、氷のような冷たさが走り抜けた。


知っている。

この文字を。この言葉を。

俺は、知っている。


さっき下でゲルハルトの口から聞いたからじゃない。

もっと前から。

前世の俺が、自室のノートに書き殴った。

誰にも見せるつもりなんてなかった。

思い出しもしたくなかった、痛々しい黒歴史。

世界を裏から操る、架空の悪の組織――その名前として、俺自身が考えた言葉だった。


他の刻印は削れ、判別すらできない。

なのに、その5つの文字だけが――紛れもない『日本語』として、完璧に読むことができた。


(……嘘だろ……? なんで……俺が昔ノートに書いてた名前が……この世界に……?)


手先が冷たくなり、呼吸が止まり、思考が真っ白に染まっていく。


「……クロノ?」


怪訝そうに顔を覗き込んできたリゼリアの声に、俺は弾かれたように跳び起きた。


「あ、いや! なんでもねぇよ! ただの変な文字だ!」


俺は焦って石版をポケットの奥深くへ押し込み、引きつりそうな顔を無理やり歪めて笑ってみせた。


「さ、終わった終わった! 腹減ったし、早く帰って飯にしようぜ!」

「もう……相変わらずね」


リゼリアが呆れたように笑い、レオンハルトが「賛成です!」と声を弾ませる。


二人が夜の街並みを歩いていく。

その背中を追いかけながら、俺はポケットの中の石版を、壊れそうなほど強く握りしめていた。


(……漆黒の導師……)

(なんで……俺が考えた名前が、この世界に存在してるんだ……?)


王都の夜は、何事もなかったかのように静まり返っていた。

けれど俺の胸の奥だけは――いつまでも、静まらなかった。


これで、第1章完結です。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

次から いよいよ第2章です。

七星7人ようやく集結です。

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