↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第1章 闇の組織、始動
PR
39/119

第38話:対決

レディンを出発し、王都へ向けて街道を南下し始めてから数時間。

俺たちはアルヴァース商会が手配してくれた最速の快速馬車に揺られていた。


「次の乗り継ぎ拠点まで、あと少しです」


御者台から御者の声が飛ぶ。

俺たちは、地脈の幹線が通る街道沿いの公共設備を先回りして確認しながら南下していた。


だが――。


「……ねえ、何かがおかしいわ」


窓の外を監視していたリゼリアが、鋭い声で言った。

街道の先。次の中継宿場の手前に立つ、石造りの『大型魔力増幅塔』。

周囲の街道を照らす街灯や施設へ強い魔力を供給するための重要施設だ。


昼間だというのに、その塔の頂部から、不気味な青紫色の魔力が黒煙のようにモワモワと立ち上っていた。


「火事か!?」

「いいえ! 魔法回路に許容量を超える膨大なエネルギーが流れ込んで、限界まで『励起(れいき)』されている音よ! このままじゃ過熱して暴走するわ!」


リゼリアが顔を強張らせる。

馬車が急停車すると同時に、俺たちは武器を手に飛び降りた。


――ドクン……ドクン……!


地面の奥底から、重苦しい脈動音が響いてくる。あの北境の街で聞いた地鳴りよりも、遥かに高密度で、脈打つような不気味な振動。


「クロノ様! 地下保守口の扉が破壊されています!」


レオンハルトが大剣を構え、増幅塔の脇にある地下への重い鉄扉を指差した。

南京錠が魔法の熱でドロドロに溶かされ、地下から冷気とともに激しい魔力の狂乱が吹き出している。


「……いるな」


俺は短剣の柄を握り直した。


「行くぞ!」


◆


地下へと続く階段を駆け下りる。

湿った暗闇の奥、広大な地下石室の中央に、それはあった。


地脈と地上設備を繋ぐ巨大な『魔導基石』。

その表面には、数年間眠っていたはずの青灰色の粉末がドロドロとした怪光を放ちながら結晶化し、地脈から汲み上げられた莫大な魔力を強制的に過熱・励起させていた。


そして、その基石の前に、一人の男が静かに立っていた。


漆黒の外套。胸元に刻まれた異形の紋章。

男がゆっくりと振り返る。冷徹な黒い瞳が、俺たちを射貫いた。


「……ほう。ネズミが紛れ込んできたか」

「貴様……何者だ!?」


レオンハルトが前に出て大剣を構え、鋭く叫んだ。

男は長革の手袋を嵌めた手をゆっくりと掲げ、冷ややかに唇を歪めた。


「我が名はゲルハルト。『冥脈のゲルハルト』とでも覚えておくがいい」

「お前が……北境の地にこの不気味な仕掛けを施した張本人か!」


リゼリアが杖を構えて詰問する。だが、ゲルハルトは眉一つ動かさなかった。


「静かにしろ。すでに遅い。この基石の励起は最終段階に入った。北の起点から放たれた波動は、このノードを通じてさらに加速する。……一度動き始めた連鎖は、そう簡単には止まらん」

「させるかよっ!」


俺の叫びと同時に、レオンハルトが弾丸のような踏み込みで地を蹴った。

大剣が一閃し、音を置き去りにしてゲルハルトの首筋を薙ぐ!


――ガァンッ!!


激しい火花。ゲルハルトの周囲に展開された漆黒の魔導障壁が、レオンハルトの全身全霊の一撃を真っ向から受け止めた。

それどころか、障壁から放たれた黒い魔力波がレオンハルトの巨体を強引に押し戻す。


「くっ……なんという剛力と結界の硬度……!」

「無駄だ。我らが『漆黒の導師』より賜りし冥脈の術式、生半可な剣技で破れると思うな」


ゲルハルトが冷たく手を一振りすると、黒い魔力の衝撃波が壁となって爆発した。


「レオン!」

「問題ありません! リゼリア殿、援護を!」

「『氷天の尖槍』!」


リゼリアの詠唱とともに、無数の氷の長槍がゲルハルトの障壁へ殺到する。

激しい炸裂音。だが、凄まじい密度の黒い魔力が氷の槍を次々と粉砕し、蒸発させていく。圧倒的な魔術の格の違い。


しかし、氷の飛沫が舞い散る中、俺は極限まで集中を高めていた。


ゲルハルトの障壁。一見すると無敵に見える球体の結界。

だが――。


(……待て。あの障壁、ゲルハルト自身の魔力だけで展開してねぇぞ。足元の基石から溢れ出てる黒い魔力を吸い上げて維持してやがる)


俺の目には、見たままの違和感が映っていた。

足元の基石が吐き出している乱れた魔力の『メインの流れ』に乗っかって、障壁を強化しているだけだ。


「……レオン! 奴の正面じゃなくて、足元の左側……一番魔力が渦巻いてる接点を叩け!」

「……!? 承知!」


レオンハルトは一切の躊躇なく跳んだ。

ゲルハルトの本体ではなく、彼が立つ左足元の魔力導路の接点へ、全重みをかけた大剣を突き立てる!


――ズドンッ!!


「なっ……!?」


ゲルハルトの顔に初めて驚愕が走った。

足元の魔力供給を途絶させられた瞬間、漆黒の障壁がグラリと大きく波打ち、薄く歪む。


「リゼ! 今だ!」

「『閃光の破砕波』――っ!!」


リゼリアの極大魔法が、歪んだ障壁の薄皮を一瞬で撃ち抜いた。

ガラスが粉砕するような凄まじい音とともに障壁が崩壊する。


「……見事だ。だが――!」


ゲルハルトが直接手をかざし、漆黒の魔力弾を放とうとした瞬間。

障壁の破片を突き破って迫っていた俺の一撃が、彼の胸元へと深く突き刺さった。


――ドゴォォン!!


魔力を凝縮させた直撃。

ゲルハルトの巨体が激しく吹き飛び、地下石室の壁へ深く叩きつけられた。


「……がっ……ハハッ……!」


壁に埋もれたゲルハルトが、吐血しながら冷たい笑いを漏らした。

胸元の胸甲は砕け、完全に動力を失っている。


「終わったぞ……! 早く基石の動力を止めろ!」


レオンハルトが叫び、基石へ駆け寄る。

しかし――。


――ゴォォォン……!!


ゲルハルトを倒したにもかかわらず、地下石室の振動は収まるどころか、より一層激しさを増していった。

基石から溢れる青紫色の光が、怪しく明滅を繰り返す。


「な……なんで!? 奴は倒したのに!?」


リゼリアが青ざめて基石の魔法回路に取り付く。


「ダメ……! 制御が効かないわ! この男の魔導具は、始動させるための『鍵』に過ぎなかったのよ! 一度エネルギーを溜め込んだ基石は、自律的に次のノードへ向かって魔力を押し出し始めてる……!」


血を吐きながら、壁の奥でゲルハルトが喉を鳴らして笑った。


「……ハ……ハハ……言ったはずだ……『一度動き始めた連鎖は止まらん』とな……。私を殺そうと……ここを壊そうと……既に波は次のノードへ渡った……」

「くそっ……!」


レオンハルトが大剣を振り下ろし、鍵となる魔導具を粉砕した。だが、基石から伸びる魔力の流れは、すでに南へと走り抜けていた。


ゲルハルトはそのままガクリと頭を垂れ、完全に沈黙した。

倒した。敵の実行犯を叩き潰した。

……なのに、何も解決していない。


リゼリアがゲルハルトの外套からこぼれ落ちた極秘の計画書を拾い上げ、ページをめくった。その手が激しく震えている。


「……最悪よ。この計画書……ノードが進むごとに、次の設備が励起するまでの待機時間がどんどん『短縮』されていくわ……!」

「短縮……!?」

「ええ! 始動までの猶予がどんどん短くなってる! 次のノードが励起するまで……もう数時間もないわ!」

「そんな……! この速度では、王都へ戻るまでに間に合いません!」


レオンハルトが絶望に顔を歪めた。

倒しても止まらない自律連鎖。加速するタイムリミット。

圧倒的な敗北感が、地下石室を支配した。


だが――。


暗闇の中で不気味に明滅する基石の導路を見つめていた俺は、顎をさすりながらボソッと呟いた。


「……なあ」

「何よクロノ!? 今は一刻を争うのよ!?」

「いや……さっきから見てたんだけどさ」


俺は数日前に、あの古い地下通路で目撃した光景を思い出していた。


「……流れていくのを正面から止めようとするから駄目なんじゃねぇの? さっきの魔力……流れていくなら、逆に流してやればいいんじゃねぇの?」


「……え?」


リゼリアとレオンハルトが、同時に弾かれたように息を呑んだ――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。