第34話:つながる点
翌朝。
俺たちはレディンの冒険者ギルドから出された「街道および周辺設備の調査依頼」を受け、街の外へ向かっていた。
目的は明確だ。
昨日、俺が何気なく口にした「地下」という着眼点。それが本当なのかを確かめるため、実際に不調を起こした現場の設備を直接検分することになった。
「昨日ギルドでまとめた資料によると、この先の中継宿場にある『魔力中継塔』と、その先にある『大井戸の揚水機』が不調を起こしているわ」
馬車の窓から外を眺めながら、リゼリアが書類をめくる。
「どちらも完全に破損したわけじゃないけれど、出力が急激に低下したり、駆動音が途切れたりを繰り返しているらしいの」
「中継塔と揚水機か……構造は全然違うんじゃないのか?」
「ええ。機械としての構造もパーツも別物よ。だからこそ、直接見てみないと分からないわ」
馬車が揺れ、目的地である中継宿場へと到着した。
◆
「いやあ、助かりました。腕の立つ魔法士様方に見ていただけるなら安心です」
宿場の管理人が、俺たちを街道沿いに立つ石造りの『魔力中継塔』へ案内してくれた。高さ五メートルほどの小さな塔で、この塔を経由して周囲の街灯や公共魔道具へ魔力を分配・安定供給するための設備だ。
「昨日の昼頃から急に不調になりましてね。回路は焼けていないのに、急に魔力が途切れるんです」
リゼリアが塔の点検口を開け、内部の魔法回路に手をかざした。
青白い魔力の光が彼女の指先から伸び、複雑な回路を走っていく。
「……やっぱりね。内部の魔力導路にも、回路の結晶にも焼き切れや亀裂はないわ」
「じゃあ、なんで途切れるんだ?」
「回路そのものが壊れているんじゃないの。……まるで、流れてくる魔力そのものが、外側から引きつらされているみたい」
リゼリアは眉をひそめ、次に宿場内にある『大井戸の魔導揚水機』へ移動した。
重厚な金属で作られた揚水機を同様に検分する。
「……こっちも同じだわ。揚水機の構造も、どこの工房で作られたかも、使われているパーツもさっきの中継塔とは全く違う。……でも、共通点があるわ」
「共通点?」
俺とレオンが顔を見合わせる。
「ええ。どちらも『地域を流れる魔力を受け取り、安定させたり、他へ中継・分配したりする役割』を持っていることよ」
「役割……?」
「そう。作った職人や部品が同じなんじゃない。持っている『機能』が同じなの」
リゼリアが指を立てる。
「北境中の公共設備がすべて壊れているわけじゃないわ。不調を起こしているのは、どれも『魔力の安定や中継』を担う公共設備ばかり……」
その時だった。
――ギャオオオオオン……!!
宿場の遙か外、山側の森の奥から、地響きのような不気味な咆哮が轟いた。
通りにいた人々が一瞬、緊張に体を硬くする。
「な、なんだ……!?」
「また山から魔物が下りてきてるのか!?」
怯える住人たちの声。だが、咆哮は人里へ向かってくることはなく、何かにパニックを起こしたように山奥の方向へ逃げて去っていった。
「……やっぱり、山側の環境そのものが落ち着かない状態になってるみたいね」
リゼリアが遠くの山並みを見つめながら呟く。
「魔物たちも、地下や山全体の微細な異変を感じ取って怯えてるのかもしれないわ」
地鳴り。魔道具の不調。そして山奥で怯える魔物。
すべてが少しずつ、だが確実に繋がっている手応えがあった。
俺は改めて、動かなくなった『魔力中継塔』の魔法回路を覗き込んだ。
「回路は壊れてない。部品も正常……」
俺は顎をさすりながら、見たままの感想を口にした。
「……これ、壊れてるっていうより、なんか『外から邪魔されてる』みたいだな」
「!」
レオンハルトが目を見開いた。
「外から……邪魔されている……!?」
「だってそうだろ。機械は壊れてねぇのに、動かそうとすると外から妙な圧力がかかって止まるんだろ? だったら、外から誰かに邪魔されてるとしか思えねぇじゃん」
「……破壊ではなく、干渉……! 機能を阻害するための工作……!」
レオンハルトが戦慄したように呟く。
「クロノ様……! つまり、この不調は老朽化による事故などではなく、明確な『機能への干渉』……!」
「え、いや、俺はただの例えで――」
「いいえ、クロノの言う通りかもしれないわ!」
リゼリアが強い調子で言った。
「急いでレディンに戻って、もう一度ギルドの地図を検証しましょう!」
◆
夕方。レディンの冒険者ギルド。
俺たちは打ち合わせ用の丸卓に北境の地図を広げ、不調が報告されている公共設備の位置に印を付けていった。
揚水設備。街道の中継塔。工房の公共魔力炉。地域の安定中継器。
地図の上に描かれた赤い点が、不気味な偏りを見せ始める。
「……見て」
リゼリアが低く絞り出すような声で言った。
「不調を起こしている設備には、あきらかな偏りがあるわ。どれも『地域の魔力を安定・中継する役割』を持った設備ばかり……」
「無差別に故障が起きているのではない……」
レオンハルトが地図を睨みつける。
俺は完成した地図の点々をぼんやりと眺めた。
「……なんか、選ばれてるみたいで変じゃね?」
「…………!」
二人同時に息を呑んだ。
「選ばれている……」
レオンハルトがその言葉を噛みしめるように繰り返す。
「無差別に異常が発生しているのではない……特定の役割を持つ設備だけが『選ばれて』不調を起こしている……!」
「ええ……偶然の重なりにしては、あまりにも偏りすぎているわ」
リゼリアが地図を見つめたまま、低く呟いた。
「まるで……誰かが意図的に、この機能を持つ設備ばかりを狙って『選択』しているかのように……」
一体何のために、特定の機能を持つ公共設備だけが選ばれているのか?
ただの事故だと思われていた異変の裏に、底知れない人為的な影が浮かび上がり、不気味な静寂が室内を支配した――。




