↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第1章 闇の組織、始動
PR
32/117

第31話:北へ向かう商隊

王都を出て、数時間。

街道には、アルヴァース商会の商隊が長く連なっていた。

先頭と最後尾には護衛が付き、その間を何台もの荷車が進んでいる。積まれているのは食料、衣類、燃料、暖房用の魔道具。どれも北境では欠かせない冬前の物資だ。


「こうして見ると、結構な量だな」


俺は自分たちの乗る荷車から、前後へ続く荷車を眺めた。


「冬前ですからね」


リゼリアが答える。


「北境では毎年この時期に輸送量が増えるんでしょう?」

「ああ。特に今年は注文が多いらしい」


昨日、商会で聞いた話を思い出す。

北境のいくつかの町から、魔道具の修理部品の注文が増えている。それだけなら、まだ不思議ではない。寒くなれば故障も増える。冬を前にして、整備をするのも普通だ。


だから――。

今のところ、何かがおかしいと断言できる材料はない。


「…………」


俺は前方へ視線を向けた。

街道沿いには、一定の間隔で魔導灯が設置されている。昼間だから、当然そのほとんどは消えていた。

そのうちの一つが――。


――パッ。


一瞬だけ、青白く光った。


「……ん?」


俺は目を細めた。すぐに消える。


「まただ」

「何がですか?」

「いや、魔導灯」


俺が指差す。リゼリアもそちらを見る。


「……本当ね」

「昨日も同じの見たぞ」

「回路の不調かしら」

「さあな」


前を走る荷車の御者にも聞いてみたが、御者は苦笑いするだけだった。


「北の街道じゃ、ここ最近たまにありますよ」

「たまに?」

「ええ。寒くなると魔道具の調子も悪くなるんでね」

「そんなもんか」

「そんなもんです」


御者は笑った。商隊は、そのまま進んでいく。

だが、しばらくすると今度は俺たちの乗る荷車から妙な音がした。


――カチッ。


「?」


荷車に取り付けられた補助用の魔道具が止まった。車輪を補助していた魔力が消え、荷車がわずかにガタリと減速する。


「どうした?」


俺が声をかける。


「すみません!」


御者が慌てて魔道具を確認する。


「一瞬、魔力が切れただけみたいです!」

「壊れたのか?」

「いえ、もう戻ってます」


言われて見てみると、魔道具は何事もなかったかのように再び稼働していた。


「……妙ね」


リゼリアが小さく呟いた。


「さっきの魔導灯と同じ?」

「ええ。完全に壊れたわけじゃないわ」


彼女は魔道具へ手をかざす。


「内部の魔法回路にも、これといった損傷はないみたい」

「じゃあ、やっぱりただの不調か?」

「まだ分からないわ」


リゼリアは手を離した。


「一度だけなら、単なる接触不良とも言えるもの」

「ふーん」


俺は再び前方を見た。

商隊は静かに北へ進んでいる。まだ、何も起きていない。……そう思っていた。


 ◇


夕方。

商隊は北へ向かう途中の小さな宿場町に到着した。今日はここで一泊するらしい。


「明日には北境の拠点都市まで入りますよ」


商会員の男が教えてくれた。


「今夜はゆっくり休んでください」

「ここから北境の拠点まで、どれくらいあるんだ?」

「馬車なら半日ほどですね」

「なるほど」


俺たちは宿へ向かった。

宿場町はそれほど大きくないが、商人や旅人の姿は多かった。冬を前に、北へ向かう人間が増えているらしい。


「水、ちょっと少なくないか?」


宿の井戸を見ていた俺が言った。


「そう?」


リゼリアも覗き込む。


「昨日まで普通だったんですけどねぇ」


宿の主人が困ったように首をかしげた。


「今日は妙に水が少なくて。濁りも少し出てますし」

「雨が少なかったんじゃないの?」

「最近はそれほどでもないんですが……まあ、古い井戸ですからね」

「ふーん……」


リゼリアが井戸へ近づいた。桶を下ろし、水を少量すくう。


「…………」


彼女は水面をじっと見る。


「どうした?」

「……少し変」

「何が?」

「水そのものというより……」


リゼリアは指先に微小な魔力を集める。水面がわずかに波紋を描いた。


「……地下の水の流れ……水脈まで何か影響を受けてる?」

「水脈?」

「まだ確信はないわ」


リゼリアは首を傾げる。


「でも、魔力の微細な流れが、ほんの少し不自然に引きつってる」

「水にも魔力って関係あるのか?」

「自然環境の中には、多少なりともね」


そう言って、彼女は水から手を離した。


「でも、これだけで異常と断定はできないわ」

「そっか」


また一つ。小さな不調が増えた。

昼間の魔導灯。荷車の補助魔道具。そして井戸。

どれも単独なら、よくある日常の不調に見える。


俺は宿場町の通りを眺めた。


「…………」


何となく、引っかかる。

昨日、王都で見た魔導灯。今日の街道の魔導灯。荷車の補助具。井戸の水。全部、ただの偶然なのか?


俺はしばらく考えて――。


「……なあ」

「どうしたの?」

「北に行くほど、この故障……増えてねぇか?」


リゼリアが黙った。そして、ゆっくりと周囲を見回した。


「…………」


確かに。

王都では一回。街道に出てから、いくつか。そして、この宿場町では井戸まで妙な状態になっている。


「言われてみれば……」


リゼリアが呟く。その横で、レオンが静かに口を開いた。


「つまり……北へ進むほど、発生頻度が上がっている」

「まあ、そういうことになるな」

「…………」


レオンは街道の先を見つめた。


「北で発生している何らかの異常が、徐々に南へ広がっている可能性があります」

「そこまで分かるか?」

「まだ仮説です」


レオンは即答した。


「ですが、昨日の魔導鉱石。北境で増えている修理部品の注文。そして、この不調の増加」

「…………」

「偶然が重なりすぎています」


俺は腕を組んだ。


「確かにな」


とはいえ。まだ何も分からない。明日、北境へ入れば何か見えてくるかもしれない。

その程度だった。


 ◇


夜。

夕食を終えた俺たちは、夜風に当たろうと宿の外へ出ていた。

空には星が出ている。宿場町の外側に広がる街道の先には、遠くに連なる山々が黒い影となって夜空に浮かんでいた。


「……寒くなってきたな」


俺は外套を引き寄せた。


「北へ近づいたからでしょうね」


リゼリアが答える。

宿場町の入口付近から伸びる街道沿いには、夜の道を照らす魔導灯が一定間隔で並んでいた。


俺は何気なく、その街道の奥を見た。


――フッ。


「?」


遠くの灯りがひとつ、消えた。

少し手前。さらにひとつ。


――フッ。


「……なんだ?」


さらにその手前。またひとつ。


――フッ。


「…………」


俺は腕組みを解いた。


「おい」

「どうした?」


隣にいたレオンが振り返る。


「あれ」


俺は街道の先を指差した。


「魔導灯、消えてないか?」


レオンが目を細める。


「……確かに」


さらにひとつ、消えた。またひとつ。そして、またひとつ。

夜の街道沿いに灯っていた光が、まるで目に見えない何かに押し潰されるように、北から南へ向かって順番に消えていく。


しかも――。


「……北からだわ」


リゼリアが低く呟いた。

俺たちのいる宿場町へ向かって、遠く北側の灯りから順番に。少しずつ。こちらへ向かって迫ってくるように。


「…………」


俺は暗闇の向こうを見つめた。山々の向こう。そのさらに先にある、北境。


「……明日、何か分かるかもな」


そう呟いた。

けれど。その夜、北から南へと順番に消えていった灯りが、何を意味していたのか。

俺たちは、まだ知らなかった。


 ◇


翌朝。

快晴の空の下、商隊は宿場町を出発した。

昨夜の街道の魔導灯は、朝になれば何事もなかったかのように消えていたが、俺たちの胸にはかすかな引っかかりが残ったままだ。


「さあ、半日もすれば北境の拠点都市ですよ!」


御者の威勢のいい声とともに、馬車が北へ向かって走り出す。

俺は静かに、窓の外の北の山々を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。