第27話:鉱山からの帰還
地下保管庫を後にし、気絶させた見張り二人が転がる第3坑道の暗い通路を慎重に通り抜ける。
俺――クロノ・アルヴァース、レオンハルト、リゼリアの三人は、洞窟の出口へと向かって足早に歩みを進めていた。
通路の隅に転がる男たちを横目で見やりながら、俺はふと足を止めた。
「なあ……あいつら、このまま置いていって大丈夫なのか?」
レオンハルトが静かに男たちを見下ろした。
「麻ロープで頑丈に縛ってございます。いずれ目を覚ますでしょうが、自力での脱出は不可能ですな」
リゼリアが周囲を警戒しながら小さく首を振った。
「……変に起こして暴れられても困るし、あの地下保管庫の場所を知られないためにも、このままにしておくのが一番だよ。後はあいつらの仲間が気づくでしょ」
「そっか。じゃあ、今は帰ろう!」
俺たちは坑道を抜け出た。
外の採掘場広場に出ると、西に大きく傾いた太陽が橙色の光を投げかけていた。
俺の黒ローブの懐には、ずっしりとした重みが収まっていた。さっき地下保管庫から持ち出した、あの青く光る拳大の魔導鉱石だった。
歩くたびに、懐の中でずしりと揺れる。
(……うぐっ、やっぱり結構重いな)
俺が歩きながら手で懐をそっと押さえていると、隣を歩くリゼリアが呆れたように言った。
「ほら、言ったでしょ。拳大の結晶なんだから重いよって」
「う……いや、でもさ! せっかく見つけた『青く光る魔導鉱石』だぞ!? 秘密組織が隠してた危険なアイテムなんだから、持っていきたいに決まってるだろ!」
リゼリアは少し可笑しそうに笑った。
「クロノって本当にそういうの好きだよね。……で、王都に戻ったらそれ、どうするつもりなの?」
「どうするって……秘密基地の棚に飾るか、俺の部屋の机の上に置く!」
リゼリアがすかさずツッコミを入れた。
「自分の部屋に置いたら秘密基地じゃなくて、ただの自室のインテリアでしょ」
後ろを歩いていたレオンハルトが、紫紺の瞳を細めて恭しく首を傾げた。
「……流石はボス。あえて日常の自室に保管することで、灯台下暗し……敵の捜索網を完全に欺く完璧なカモフラージュにございますな」
(いや、ただ自分の部屋に置いて鑑賞したいだけなんだけど!?)
◇
俺たちは採掘場を後にし、今朝登ってきた険しい山道を下り始めた。
一時間ほどかけて山道を下ったところで、先頭を歩いていたレオンハルトが足を止めた。
「ボス。そろそろ少し休憩いたしましょう。急な山道を下るのも体に負担がかかります」
「おう! じゃあ、ちょっと休憩しようぜ!」
山道脇の大きな平らな岩に、俺とリゼリアは腰を下ろした。
山間のひんやりとした風を感じながら、リゼリアが水筒の水を一口含んで呟いた。
「……今回の遠征、分かったことが一気に増えたね」
「おう! 王都の別館から運ばれた『蛇の刻印』の荷の正体が、あの青く光る『魔導鉱石』だったんだろ! しかも、あそこには別の大きな搬入路があって、荷物は北境方面へ運ばれる予定だった!」
リゼリアが小さく頷く。
「うん。でも……西の境界砦へ向かう荷の話もあったし、同じ相手が別々の場所へ運んでいるのか、それとも全く別の取引なのか……まだまだ分からないことだらけだよ」
リゼリアは少し考え込み、
「そういえば……あの情報屋の少女にも、今回のことを話した方がいいのかな?」
リゼリアの問いに、レオンハルトが答えた。
「あの情報屋であれば、この『北境方面』について我々の知らぬ情報を掴んでいる可能性もございますな」
俺はニッと笑った。
「よし! 王都に戻ったら、またあいつを探して話を聞いてみようぜ!」
俺の中では、今回の遠征は大成功だった。
魔導鉱石は手に入ったし、知らなかった搬入路まで見つかった。何より、謎がまた増えた。
俺は黒ローブの胸を張って、ニヤリと笑った。
「ふっふっふ……つまり、まだまだ謎だらけってことか! 秘密組織の陰謀を暴く冒険は、これからが本番ってわけだな!」
リゼリアは呆れたように肩をすくめた。
「……結局、根本的な謎は何も解明してないのに、どうしてそんなに嬉しそうなの」
レオンハルトが深々と一礼した。
「……それこそが、ボスがお示しになった『次なる調査への布石』にございます」
(いや、ただ単に謎が増えてラノベっぽくてワクワクしてるだけだけど!?)
◇
さらに山道を下り、日がすっかり茜色に染まる頃、俺たちは今朝小型荷車を留め置いた大きな木陰まで戻ってきた。
一頭立ての馬は、路肩の草をのんびりと食んでいた。
荷車の状態を確認したレオンハルトが、空を見上げて言った。
「ボス。山間の日はすっかり暮れかかっております。今から王都へ向かえば完全な夜間移動となり、滑落の危険がございます。本日もこの場所で野営とし、明朝、王都へ帰還するのが安全かと存じます」
「よし! 無理して夜道を走る必要はないな。今日もここで野営にしようぜ!」
二度目の野営ともなると、昨夜よりも俺たちの動きはずっとスムーズになっていた。
俺が周囲の乾いた落ち枝を集めて薪を作り、リゼリアが荷車から毛布と手提げランタンを取り出す。その間にレオンハルトが火床を整え、素早く焚き火を起こした。
やがて、パチパチと薪がはぜる温かい火を囲み、俺たちは堅焼きパンと乾燥肉の夕食をとった。
食後、俺は黒ローブの懐から、あの青く光る魔導鉱石を取り出した。
パチパチと揺れる焚き火のオレンジ色の光と、手の中の不気味で冷たい青白い光が重なり合い、幻想的な陰影を作っていた。
「……やっぱり、すごく綺麗だね」
リゼリアが火の光に照らされた鉱石を見つめて呟いた。
「だろ? やっぱり持って帰って正解だったぜ!」
俺は鉱石を掲げ、焚き火の明かりにかざした。
「でも、これだけ高純度の魔導鉱石なら、普通とは違う特殊な性質があるかもしれないよ。明日、王都に戻ったら秘密基地でじっくり調べてみよう」
リゼリアが鉱石を見つめたまま言う。
「おう! そうしようぜ!」
暗闇が支配する静かな森林の中。
焚き火の温もりに包まれながら、俺たちは毛布にくるまった。
(明日は王都か……。帰ったら、この魔導鉱石をじっくり調べてみよう!)
俺は懐の青い結晶をそっと押さえ、そのまま毛布にくるまったのだった――。
◇
翌朝。
澄み切った朝の光が森に差し込む中、俺たちは野営地を手早く片付け、小型荷車に乗り込んだ。
御者台のレオンハルトが手綱を滑らかにしごくと、荷車はガラガラと車輪を鳴らして旧街道へと走り出した。
平坦な街道を進む荷車の揺れは、険しい山道を歩いた後の体には心地よかった。
昼前。
俺たちは無事に王都の北門を潜り抜け、見慣れた街並みへと戻ってきたのだった――。




