第26話:青白い光の正体
不気味な冷たさを孕んだ青白い光が、暗い地下保管庫の湿った床を細く照らし出していた。
蓋のわずかな隙間から漏れ出る怪しい光を前に、俺――クロノ・アルヴァース、レオンハルト、リゼリアの三人は息をのんで静まり返っていた。
(うわぁぁぁぁっ……!! 来た……来た来た来たぁぁぁぁっ!! 暗闇に密かに隠された、怪しく輝く謎の発光体……!! これぞまさに悪の秘密結社が裏でコソコソ集めている超危険アイテムそのものじゃないか!!)
黒ローブの胸を躍らせ、内心で大興奮のファンファーレを打ち鳴らす俺。
リゼリアがそっと屈み込み、手提げランタンの灯りを木箱の釘や鉄枠にかざして確認した。
「……無理にこじ開けると、中のものを壊しちゃうかもしれない。金具を一つずつ外した方がいいよ」
レオンハルトが無言で前へ出ると、持参していた手工具を取り出し、一言も発さずに手際よく鉄枠の留め具と太い釘を外していった。
金属が軋む不穏な音がカビ臭い洞窟に響く。
やがて全ての留め具が外されると、レオンは慎重に木箱の厚い蓋を持ち上げた。
次の瞬間――。
あふれ出した眩い青白い光が、俺たちの黒ローブと洞窟の岩壁を鮮やかに染め上げた。
箱の中に敷き詰められた黒い敷布の上。そこに静かに鎮座していたのは――幾重もの鋭い結晶の角を持った、拳大の青い鉱石の群れだった。
どこか透き通るような青い結晶の奥で、脈打つような不気味な光が淡く蠢いている。
近づくと、洞窟のカビ臭さを押し払うような、ひんやりとした冷気が肌を刺した。
リゼリアが手袋をはめた指先でそっと鉱石の表面に触れ、驚愕に目を見開いた。
「これ……『魔導鉱石』だよ……! それも、見たこともないくらい純度が高い……!」
「ま、魔導鉱石……!?」
俺は思わず声をあげた。
(うわあぁぁぁぁっ!! 出たぁぁぁぁっ!! 魔導鉱石!! 悪の組織が超兵器を起動させたり、古代の魔導兵器を復活させるためのエネルギー源の定番じゃん!!)
脳内で厨二病の妄想が大暴走する俺。
リゼリアは静かにかぶりを振った。
「……こんなに高純度の魔導鉱石、普通は市場になんて絶対に出回らないよ。強力な魔道具の材料にもなるし、もし売れば一箱で家が何軒も建つくらいの莫大な価値がある……。でも……」
リゼリアは不審そうに周囲を見回した。
「……一体何に使うつもりなんだろう? これだけの量を密輸して、何のために集めているの……?」
俺は周囲に並べられた他の木箱へと駆け寄った。
「おい、こっちの箱も見てみようぜ!」
レオンハルトが別の木箱の蓋を工具で少し持ち上げると、そこからも全く同じ不気味な青白い光が漏れ出した。
「こっちも同じだ……! 蛇の刻印が入ったこの大きな木箱、全部に魔導鉱石が入ってるのか!?」
レオンハルトが整然と積まれた十数箱の積み荷を見渡し、低く呟いた。
「これほどの量を動かすとなれば、相当な人数と大きな荷車が必要になりますな」
「じゃあ、ここまで運んだ奴らは相当大がかりな準備をしてたってことか!」
俺がそう言った時、リゼリアが地下保管庫の床を見つめて首をかしげた。
「……ねえ、妙だよ」
「ん? 何がだ、リゼ?」
「この大量の重い木箱、ここまで人が一つずつ手で担いで運んできたようには見えないよ。ほら、床にいくつも車輪の跡や、重い箱を引きずった筋が残ってる」
レオンハルトも屈み込んで床の凹みを指先で確かめた。
「……確かに。これほどの重量物を人力のみで運ぶのは不可能です。しかし……我々が通ってきた第3坑道の通路は、荷車が通れるほどの幅はございませんでした」
俺はハッと息をのんだ。
「えっ……? じゃあ、奴らはどうやってこの荷物をここまで運んだんだ!?」
リゼリアが手提げランタンを少し高く掲げ、保管庫の奥を照らした。
「……あれ?」
松明の明かりが届かない壁際に差し掛かった時、かすかな冷風がリゼリアの髪を揺らした。
「ちょっと待って。あそこ……風が流れてる」
レオンハルトが足早に近づいて確認すると、壁際の岩の奥に大きな横穴が続いていた。
「……これは」
レオンがランタンを足元にかざす。その横穴の入り口の床には、まだ新しい車輪の跡がはっきりと残されていた。
リゼリアが横穴の奥を見つめ、静かに呟いた。
「この荷、私たちが来た山道とは違う、別の搬入ルートから運ばれてきたみたい……」
俺は横穴の奥を指さした。
「なるほど! 俺たちの知らない裏の搬入路があるってわけか!」
俺は目の前の山積みになった青く光る木箱を見つめ、ゴクリと生唾を呑み込んだ。
(うわぁぁぁぁ……これ、持って帰ったらめちゃくちゃ凄くないか!? 秘密組織の戦利品として最高すぎるだろ……!!)
だが、俺の内心を見透かしたように、レオンハルトが静かに告げた。
「……ボス。この大量の魔導鉱石を王都へ運び出すには、荷車が必須にございます。我々の荷車は山道の手前に置いてきておりますし、仮に持ってできたとしても、我々の一頭立ての荷車では到底積みきれません」
「うぐっ……! 確かにそうか……」
現実問題として持ち帰れないことにガックリ肩を落とす俺。
リゼリアが床の隅に散乱していた焦げた木札を拾い集めた。
数枚の木札は煤で汚れて文字が潰れていたが、そのうちの一枚に擦れた文字が残されていた。
「……見て。これにも文字が書いてある」
そこには不気味な蛇のマークと共に、こう刻まれていた。
『搬出先:北境方面』
リゼリアが木札を見つめ、静かに呟いた。
「北境方面……。王都の極秘別館から運ばれてきたこの鉱石は、ここで保管されたあと、さらに北の国境地帯へ運ばれる予定だったんだ……」
「北境方面……! 前に聞いた西の境界砦へ向かう荷といい、今回の北境方面といい、いろんな場所へ荷物を動かしてるんだな!」
リゼリアは少し考え込み、首を横に振った。
「……西の境界砦へ向かう荷があった一方で、こっちは北境方面……。同じ相手が別々の場所へ運んでいるのか、それとも別の取引なのか……これだけじゃまだ分からないね」
安易に決めつけず、分かっている事実だけを整理するリゼリア。
俺は木箱の青白い光を見つめ、未練がましく拳大の輝く結晶を手にとった。
「……じゃあさ、せめてこれ一個だけ持って帰るか!」
すると、レオンハルトが紫紺の瞳を感服の光で揺らし、深々と頭を下げた。
「……流石はボス。現物を完璧な証拠として確保されるその明晰なご判断……感服いたしました」
(いや、ただ単に一個欲しかっただけだけど!?)
俺は黒ローブの裾をバサリとなびかせた。
「よし! とりあえず戻るぞ!」
「「ハッ!!」」
俺は懐の魔導鉱石をもう一度ぽんと押さえた。
(ふっふっふ……帰ったらこれ、じっくり見てみよう!)




