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俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第1章 闇の組織、始動
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第25話:第3坑道の探索

静寂が、重苦しく第3坑道の奥に立ち込めていた。


曲がり角の壁に身を寄せ、息を殺す俺――クロノ・アルヴァース。


俺の前にはレオンハルトが無言で立ち、いつでも踏み込めるよう静かに身構えている。その後ろではリゼリアが指先に小さな光を灯し、魔法の準備を整えていた。


(うわぁぁぁぁっ……!!)


胸の奥で、心臓がドクンドクンと激しく鳴っている。


(これだよ……これ! 敵のアジトに潜入して、物陰に身を潜めながら見張りの動きをうかがう……! 秘密組織のボスとして、あまりにも完璧なシチュエーションじゃないか!!)


俺は思わず黒ローブの裾をぎゅっと握りしめた。


その時――。


坑道の奥から聞こえていた男たちの話し声が、ふっと途切れた。


『……よし、俺が入口のほうをちょっと見回りしてくる』


低い声が響いた。

続いて、重い靴音がこちらへ向かって歩み寄ってくる。


……一歩。

……また一歩。


手提げランタンの黄色い明かりが、曲がり角の向こうでゆらりと揺れ始めた。


(来る……!)


俺は息を止めた。


レオンハルトが、ほんのわずかに腰を落とす。

リゼリアの指先に灯る魔法の光がすっと消えた。二人とも、一筋の息遣いすら殺している。


俺も黙っていた。

……いや、俺が何か指示を出したほうがいいのか?


(えーっと……こういうとき、ボスって何て言うんだ? 『掛かれ!』か? それとも『消せ』とか……!?)


俺が脳内で焦りながらセリフを探している間にも、足音は刻一刻と近づいてくる。


ランタンの明かりが、曲がり角からゆっくりと現れた。

男が一人、手提げランタンを掲げてこちらへ顔を出す。


「なっ……何者だ、お前ら――」


その瞬間だった。


レオンハルトの影が、踏み込みの音すら立てずに素早く滑り出した。


男が驚愕の声を張り上げるより早く、レオンの手刀が男の喉元へと寸分の狂いもなく打ち込まれた。


「がっ……!?」


男は喉を押さえ、膝から崩れ落ちる。レオンはその体を静かに抱きかかえ、床へと横たえた。


だが、曲がり角の奥から二人目の男の声が上がった。


『おい! どうかしたか!?』


急な異変に気づいた重い靴音が迫ってくる。


「リゼ!」


焦った俺が思わず叫ぶと、リゼリアが壁の影から素早く飛び出した。


「『拘束の糸(ロープ・バインド)』!」


リゼリアの指先から放たれた無色の魔法の糸が、角から飛び出してきた二人目の男の両足から腰にかけて一瞬で絡みついた。


「うわっ!? なんだこれ――!?」


前のめりに体勢を崩した男の首筋へ、レオンハルトの手刀が素早く振り下ろされた。


男は白目を剥き、そのまま静かに意識を失った。


レオンハルトは倒れた男の脈と呼吸を確認すると、すぐにもう一人へ視線を向けた。

リゼリアの魔法の糸は、二人目の男をしっかりと縛り上げている。


「……これで大丈夫」


リゼリアが小さく息を吐いた。


「見事です」


レオンハルトは短くそう言うと、持参した麻ロープで気絶した二人をしっかりと縛り、坑道の隅へ移動させた。


俺は黒ローブの胸を張り、ニヤリと不敵に笑った。


「ふっふっふ……よし! 見張りは片付いたな。潜入成功だ!」


すると、レオンハルトが紫紺の瞳を細め、深々と頭を下げた。


「……お見事でございます、ボス。二人目が現れた瞬間、即座にリゼリアへ指示を飛ばされるとは……あの一声だけで、全員の動きを繋げられるとは見事なご判断にございます」


(いや、焦ってリゼリアの名前呼んだだけだけど!?)


俺たちは拾い上げた手提げランタンの灯りを頼りに、さらに坑道の奥へと足を進めた。


 ◇


坑道は奥へ進むにつれて緩やかな下り坂になり、岩肌のあちこちに補強用の古い木枠が組まれていた。


カビと湿った土の臭いが深まる中、さらに五分ほど進むと、急に周囲の空間が開けた。


そこは、かつて掘り出された鉱石を溜めておくための、広い地下保管庫だった。


壁面には松明が灯され、広場の床には新しく運び込まれた大量の積み荷が整然と並べられていた。


俺たちは物陰の岩の陰に身を潜め、周囲を慎重に観察した。


「……誰もいないね。さっきの見張り二人だけだったみたい」


リゼリアが周囲を見回して呟く。


俺たちは物陰から出て、保管庫の中に並べられた木箱へと近づいた。


頑丈な鉄枠で補強された大きな木箱。その側面に焼き付けられていたのは――あの不気味な『蛇の刻印』だった。


俺は息をのんだ。


「あった……! 間違いない、蛇のマークだ!」


昨日の古い館に残されていた木箱と同じマーク。

王都の極秘別館から黒い馬車で運び出され、途中の古い館で積み替えられた荷の最終目的地は、間違いなくこの第3坑道の地下保管庫だったのだ。


レオンハルトが鉄枠の木箱を指先で確かめ、低く呟いた。


「……王都の裏社会から運び出された品が、この山奥の廃坑に集積されている……。ボス、これは単なる一時的な隠し場所ではございませんな」


俺は黒ローブの袖をバサリとなびかせ、ニヤリと胸を張った。


「ふっふっふ……当たり前だ! 秘密結社がこれだけの厳重なルートを使って運んできたんだ、ろくな代物じゃないぞ!」


保管庫の中には、蛇の刻印が捺された木箱が十数箱も積まれていた。これほど膨大な量の荷が、王都の極秘ルートからここまで密輸されていたのだ。


俺たちが一つ一つの木箱の周囲を調べていた、その時だった。


 ◇


「……待って」


リゼリアが、壁際に置かれていた少し小ぶりな木箱の前で足を止めた。


「どうした?」


「この箱……」


彼女は木箱の前にそっとしゃがみ込んだ。


蓋は釘で固く打ち付けられている。

だが――。


「……少しだけ、隙間がある」


リゼリアが手提げランタンをそっと近づけた。


木箱の蓋と側面の間。

ほんのわずかな隙間から、何かが漏れ出ていた。


最初は、ランタンの黄色い明かりが反射しているだけかと思った。

だが違う。


光は、箱の内側から生まれていた。


淡く。

そして、冷たく青白く。


「……ねえ、クロノ」


リゼリアの声が、わずかに低くなる。


「これ……何か光ってるよ」


俺とレオンは同時に振り返った。


「な……なんだ、これ……?」


俺は息を呑み、思わず一歩近づいた。


木箱の隙間から漏れ出す青白い光が、俺の黒いローブの裾を淡く照らし出す。


「……クロノ。開けてみる?」


リゼリアが小さく尋ねた。


「……ああ」


俺は木箱を見つめた。

その隙間から漏れる光は、まるで箱の中からこちらを覗き込んでいるようだった。


「いったい……何が入ってるんだ?」


俺はゆっくりと、不気味な光を放つ木箱へと手を伸ばした――。


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