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俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第1章 闇の組織、始動
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第22話:街道沿いの古い館

木々が鬱蒼と生い茂る北の旧街道。


左の道を進む俺――クロノ・アルヴァース、レオンハルト、リゼリアの三人、そして少し離れた位置を保つ『情報屋の少女』の四人は、湿った土の道を北へと向かって歩みを進めていた。


ぬかるんだ路面には、重い荷を積んだ馬車の車輪の跡が途切れることなく奥へと伸びている。


途中の古い石碑や倒れかけた案内標識にも、あの『三本線と点』の刻印が刻まれていた。

分岐点では『点一つ』だった刻印が、進むにつれて『点二つ』、『点三つ』へと、点の数が徐々に増えていっていた。


俺は黒ローブの袖をバサリとなびかせ、ニヤリと胸を張った。


「ふっふっふ……間違いない! この『三本線と点』は、敵の組織が張り巡らせた秘密の暗号だ! 点の数が増えるほど敵のアジトへ近づいているというわけだな!」


前世のライトノベルの知識をフル回転させ、脳内で秘密結社の陰謀劇を膨らませる俺。


すると、後ろから歩いてきた情報屋の少女が、街道脇の古びた石碑の前で脚を止めた。

彼女は石碑に刻まれた『三本線と点3つ』のマークを静かに指先で撫で、手元の小さな羊皮紙の古い地図を開いた。


「……待って」


俺は振り返った。


「なんだ、情報屋? 解読のヒントでも分かったのか?」


少女は古地図と石碑の傷を交互に見比べ、冷めた瞳で静かに首を振った。


「……これ、秘密組織の暗号なんかじゃないわ」


「えっ!?」


俺が目を丸くすると、少女は羊皮紙の地図を俺たちに見せて指し示した。


「この刻印、昔この旧街道が主要な交易路だった時代の『街道標識』よ。この斜め三本の線は、当時の官道のシンボルマーク……」


少女はそのまま街道の奥を指さした。


「分岐点から始まって、点一つ、点二つ、点三つ……位置と地図を照合すると、どうやら街道の『区間番号』を示しているみたいね」


少女の冷徹な分析。


だが、俺の脳内では即座に最高に都合の良い変換が行われた。


(うわぁぁぁぁっ!! 出たぁぁぁぁっ!! 秘密組織の暗号じゃなくて『古の物流ルートを示す隠し標識』か!! 『表の地図には載っていない、過去の交易路を辿りし者のみが辿り着く隠れ家』みたいなやつじゃん!! 秘密結社の中継基地って感じでめちゃくちゃ格好いいなそれ!!)


内心で大興奮して目を輝かせる俺。


レオンハルトも紫紺の瞳を細め、殺気を孕んだ声で低く呟いた。


「……流石にございます、ボス。敵は廃道となった古の物流ルートをそのまま組織の密輸線として再利用しているのですね……。表の警戒網を潜り抜ける見事な隠蔽工作にございます」


(いや、昔の標識が残ってるだけの道路を馬車が走ってるだけだけど!?)


相変わらずの噛み合わなさの中、少女は淡々と路面の車輪の跡を見つめ、短く付け加えた。


「……刻印自体は昔のものだけど、この車輪の跡と折れた小枝は新しいわ。誰かがこの古いルートを意図的に使っているのは確かね」


少女はそう言うと、静かに再び歩き出した。俺たちもその後を追った。


 ◇


さらに二十分ほど進むと、旧街道の奥で急に樹木が途切れ、開けた空間が現れた。


夕闇が迫る森の静寂の中に、ひっそりと佇む大きな建物があった。


苔むした灰色の石造りの壁、半ば崩れかけた瓦屋根。かつては街道を行き交う旅人や荷馬車が身を寄せたであろう、『旧宿場町の古い館』だった。


今や人の気配はなく、看板も外され、完全に打ち捨てられた廃屋に見えた。


「うわ……すごいボロい館だな……」


俺が物陰から覗き込むと、リゼリアが路面を指さした。


「クロノ、見て! 車輪の跡が、あの館の裏手に向かって続いてるよ!」


館の正面入口は固く閉ざされていたが、裏手へと続く雑草の生い茂る小道には、はっきりと黒い馬車が通過した深い溝が残されていた。


俺たちは息を殺し、館の裏手へと回り込んだ。


そこには、かつて荷物の保管に使われていたと思われる、頑丈な木扉のついた大きな地下蔵の入り口があった。


地下蔵の重い扉は半開きになっており、周囲には真新しい足痕と、重い箱を引きずったような擦れ跡が残されていた。


(うわあぁぁぁ……!! 来た……!! 山奥の廃館の地下蔵……!! 秘密結社のアジトっぽさ10,000%じゃん!!)


胸の奥で高鳴る鼓動を抑え、俺は冷徹なボスの仮面を維持した。


レオンハルトが無言で剣の柄に手をかけ、気配を完全に消して地下蔵の内部を覗き込む。

しばらくして、レオンが静かに首を横に振った。


「……ボス。中に人の気配はございません」


どうやら敵の人間はすでに立ち去った後らしい。俺たちは慎重に地下蔵の中へと足を踏み入れた。


カビ臭い地下蔵の中には、打ち捨てられた古い樽や藁が散乱していた。

だが、その一角に、つい最近まで大きな積み荷が置かれていたと思われる、ホコリの払われた空間があった。


そして、その床の上にぽつんと残されていたものを見て、俺はハッと息をのんだ。


それは――壊れた木箱の破片だった。

そこには、不気味な『蛇の刻印』がはっきりと焼き付けられていた。


「あっ! 蛇のマークだ!」


少女が静かに歩み寄り、壊れた木箱の破片と、周囲の床に残された痕跡を注意深く検分した。


「……ここが敵の本拠地というわけではないみたいね」


「えっ、違うのか?」


少女は指先で床のホコリを拭い、冷静に言葉を重ねた。


「生活感がないわ。見張りの痕跡も、長期間滞在した形跡もない。……ここは、王都から運び出した荷を一度運び込み、別の馬車や人員へと積み替えるための『中継地点』として使われていた可能性が高いわね」


俺は手に入れた『蛇の刻印』の木片を握りしめ、ニヤリと不敵に笑った。


「ふっふっふ……なるほどな! 敵のアジトじゃなく、荷の中継拠点ってわけか!」


すると、地下蔵の奥を調べていたリゼリアが声をあげた。


「クロノ! こっちに何か落ちてるよ!」


駆け寄ると、積み荷が置かれていた床の隙間に、荷札らしき小さな木札が落ちていた。


少女がそれを拾い上げ、手提げランタンの灯りにかざす。そこには不気味な蛇のマークと共に、かすれた文字でこう記されていた。


『輸送先:北の鉱山跡・第3坑道』


クロノは目を見開いた。


「北の鉱山跡……!?」


少女は木札を握り締め、静かに呟いた。


「……王都の極秘別館から運び出された荷は、この古い館で積み替えられ、さらに北の鉱山跡へと運ばれている……。荷の本当の目的地は、あそこね」


ついに見えてきた、危険な裏取引の本当の目的地。


だが、館の外はすでに深い夕闇が包み込み、冷たい夜風が木々を揺らしていた。


少女は館の出口を見つめ、冷静に進言した。


「……今日はもう遅いわ。北の鉱山跡は王都からかなり離れた山奥よ。徒歩で行く距離じゃないし、向かうならしっかり移動手段や装備を準備してからにするべきね」


クロノはハッと我に返り、黒ローブの袖をバサリとなびかせた。


「よし……! この荷がどこへ運ばれていたのか、次の行き先が分かったぞ! 今日はもう遅い。一度王都へ戻って、明日は北の鉱山跡へ向かう準備をしようぜ!」


「「ハッ!!」」


少女も館を出ると、俺たちとは少し距離を取ったまま王都へ戻る道を歩き始めた。


俺たちも来た道を引き返し、その夜のうちに王都へと戻ったのだった――。


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