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俺の妄想が、なぜか異世界で本物になっていた  作者: 砂利天
第1章 闇の組織、始動
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第16話:大商人ヴァルカ

その日の放課後――実家の手伝いを終えた夕方。

いつものボロ倉庫に集まった俺――クロノ・アルヴァースは、前回手に入れた伝票を握りしめ、黒ローブの腕を組んでうーんと唸っていた。


「『大商人ヴァルカの交易商会』かぁ。昨日の伝票に書かれてた名前だけど、どんな怪しい裏組織なんだろうな……」


俺が前世のライトノベルの知識をフル回転させて悪徳商人のイメージを膨らませていると、古びた扉がギィと開いた。


入ってきたのは、大きめの外套のフードを深くかぶった銀髪の『情報屋の少女』だ。

彼女は俺たちの前まで歩み寄ると、小さく折り畳まれた厚手の羊皮紙をテーブルへ淡々と置いた。


「……ヴァルカ商会について、少し分かったわ」


俺は目を丸くした。


「もう!?」


「たまたま大手商会の動向は常に見張ってるから、情報を整理しただけよ。……今回は大物の商人だから、銀貨五枚。……買うの、買わないの?」


「買う! 速攻で買う!」


俺が銀貨五枚を手渡すと、少女は手際よく受け取ってポケットに仕舞い、冷めた声で報告を始めた。


「ヴァルカ商会。王都でも五指に入る規模の大手交易商会よ。食料、木材、建築資材から一般的な魔道具まで……扱っている品も極めて健全。街での評判もすごく良いわ。貧民街への炊き出しや慈善事業もやってるみたい」


俺は思わず「えっ!?」と声を上げた。


「評判が良い……!? じゃあ、あの『蛇の刻印』はなんだったんだ? 勘違いか?」


「そこが変なのよ」


少女は指先で羊皮紙の図表を指し示した。


「商会全体の取引や帳簿は、どこをどう見ても完璧に正常。だけど、一部の特定の資材――西地区の工房や南地区の保管庫を経由している荷だけ、通常とは違う不自然なルートを通ってる。そして、その特定の荷にだけ……あの『蛇の刻印』が刻まれているわ」


俺は首を傾げた。


「普通の商会なのに……なんで一部の荷にだけ蛇の印があるんだ?」


本当に純粋な疑問。

だが、俺の脳内では即座に厨二心のファンファーレが鳴り響いた。


(うわぁぁぁぁ! 表向きは市民から愛される慈善家の大商人……でも裏では怪しい荷物を運ぶ秘密組織と繋がっている……! これぞ秘密結社ものの王道・超定番の展開じゃん!! アツすぎるだろ!!)


胸の奥で大興奮する俺を見て、レオンハルトが紫紺の瞳を爛々と輝かせ、感極まったように深々と頭を下げた。


「……お見事でございます、ボス。表の顔である『善なる商人』と、裏の顔である『不自然な物流』……その二つを同時に見抜かれ、敵の本質を喝破されるとは……!」


(いや、ただの定番のシチュエーションにテンション上がってるだけだけど!?」)


俺たちは大商人ヴァルカの拠点がある中央区の商会本部へと向かった。


 ◇


――同時刻。王都中央区、立派な石造りの大建築物『ヴァルカ商会本部』。


その豪華な執務室の暗がりで、仮面をつけた『漆黒の導師』の男と、黒い高級シルクの服を着た男が密談を交わしていた。


仮面の男が、冷たく低い声で吐き捨てる。


「……南地区の保管庫に続き、西地区の工房の監視網も破られた。奴ら『クロノ・ヴェール』の手が、着実にこの商会へ近づいている」


高級シルクの服を着た男――ヴァルカ商会の裏の幹部が、冷や汗を流しながら震えた。


「ば、馬鹿な……! 我が商会の裏の取引は、表の膨大な正規取引の中に完全に紛れ込ませてあったはず! 一介の監視者や衛兵に見抜けるはずがない……!」


「奴らはただの監視者ではない。『古代の怪物』率いる謎の組織だ。……すでに我が組織とヴァルカ商会との繋がりまで見抜いていると考えるべきだろう」


「ひっ……! で、では……ワシはどうすれば……!?」


「落ち着け。表向きのヴァルカ商会は、どこまでも『清廉潔白な商会』として振る舞え。……商会長であるヴァルカ本人すら、我が組織の裏の動きなど一切知らんのだからな」


仮面の男は、不気味な鼻笑いを漏らした。


「ヴァルカという『無知な善人』を表看板にし、その陰で荷を運ぶ……。クロノ・ヴェールとて、表向き善人であるヴァルカ本人には手出しできまい。……引き続き、奴らの動向を監視しろ」


「は、ハッ……!」


仮面の男は静かに窓の外へ視線を向けた。


 ◇


夕暮れ時。中央区の華やかな大通り。


大きな石造りのヴァルカ商会本部の前に、黒ローブ姿のクロノ、レオン、リゼリアの三人組が到着していた。少し離れた建物の影には、外套のフードをかぶった情報屋の少女も様子を見守っている。


(ふっふっふ……ついに来たぞ! 表向きは善人を装う悪徳大商人ヴァルカの本拠地……!)


悪の親玉の姿を一目見てやろうと、クロノが物陰からワクワクしながら商会の敷地内を覗き込んだ、その時だった。


商会の豪華な馬車留めで、一人の立派な身なりの人物が動き回っていた。

豊かな蓄え髭に、高級だが質素な服を纏った初老の男性――彼こそが、大商人ヴァルカ本人だった。


ヴァルカは、荷揚げ作業中に転んで積み荷を崩してしまった若い従業員に駆け寄ると、自ら手を貸して荷物を拾い上げていた。


「大丈夫かい、怪我はないか? 積み荷の心配より、まずは自分の体だよ」


「ヴァ、ヴァルカ様……! 申し訳ございません!」


「ははは、品物はまた仕入れれば済む。さあ、怪我がないなら温かいスープでも飲んでおいで」


さらにヴァルカは、商会の門前にやってきた貧しい身なりの親子に優しく微笑みかけ、自らの財布から銀貨を出して手渡していた。


どこからどう見ても、心の底から優しい、理想的な『善人』そのものの姿。


物陰でそれを見ていたクロノは、ぽかんと口を開けた。


「……え?」


想像していた「ヒヒヒ、金ならいくらでもあるぞ」という悪徳商人のイメージと180度違う光景に、クロノは完全に固まってしまった。


(えっ……? めちゃくちゃ良い人じゃん……。困ってる従業員を助けて、貧しい親子にお金をあげてる……。えっ、悪徳大商人じゃないの……!?)


隣で見ていたレオンハルトも、紫紺の瞳を細めた。


「……なるほど。完璧な演技、あるいは表の顔……。周囲の目を欺くための徹底した偽装にございますね」


「いや、どう見ても素で良い人に見えるけど!?」


混乱するクロノ。

そして、建物の陰からその光景を見ていた情報屋の少女も、冷めた瞳を深く沈めた。


(……ヴァルカ本人は、本当に何も知らない『善人』……? なら、あの『蛇の刻印』を使って商会の中で裏の荷を動かしているのは……一体誰なの……?)


 ◇


ヴァルカ商会を離れ、夕闇の路上を歩く三人。


背後から静かに追いついてきた情報屋の少女は、振り返ることなくそっけない声で短く告げた。


「……次の『ヴァルカ商会の裏の動き』についての情報、知りたかったらまた買いなさい」


クロノはハッと正気に戻り、ニッと笑った。


「おう! 絶対買うよ! 助かるよ、情報屋!」


「……そう」


少女はそれだけ言うと、夕闇の路地へ静かに消えていった。


クロノは腕を組み、ニヤリと笑った。


「よし! ヴァルカ本人は良い人そうだけど、商会の中に怪しい裏があるのは確実だ! 次はもっと深く探ってみようぜ!」


「「ハッ!!」」


「……ふっふっふ。こういう展開、やっぱり面白いな!」


三人は夜の街へと駆け出していった。


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