↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
117/119

第116話:静かなる波紋

いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!

第5章『深淵の警鐘』が始まります!

クロノたちを待ち受けるのは、散らばった手掛かりと、簡単には答えの出ない謎。

一見すると何の変哲もない記録。

どこか不自然な痕跡。

そして、少しずつ見えてくる、何かがおかしいという違和感。

一つひとつを調べ、仲間たちと知恵を出し合いながら、クロノたちは真相へと近づいていきます。

しかし、手掛かりを追えば追うほど、謎は深まっていくことに……。

果たして、散らばった痕跡は何を示しているのか。

そして、クロノの胸に秘められた記憶は、この世界の謎とどこかでつながっているのか。

ぜひ、クロノたちと一緒に考察しながら、物語を楽しんでいただけたら嬉しいです!

それでは、第5章『深淵の警鐘』を第116話『静かなる波紋』からお楽しみください!


第四点検坑口の封鎖から一夜が明けた。


地下で起きた一連の事件は、表向きには地下遺構の崩落危険として処理されていた。


冒険者ギルドは第四点検坑口周辺の立入禁止措置を完了し、現地には警告札と封鎖用のロープが設置された。安全が確認されるまで、関係者以外の立ち入りは認められない。


地下大空洞で古代装置が引き起こしかけた異常について、一般に公表されることはない。


一方、警備組織では、俺たちが提出した資料と物証をもとに、関係部署への聞き取りと記録照会が始まっていた。


事件は、次の段階へ移ろうとしている。


◆


「警備組織の窓口で、昨日提出した資料の受領と、初動の照会手続きが開始されたことを確認してまいりました」


拠点の作業室。


リィネは持ち帰った受領控えを机の上に置き、俺たちを見渡した。


「提出した特注継手や増幅機構などの物証に加え、出荷数量の食い違いを示す記録の写し、夜間便の手配に関する資料についても、正式に照会対象として受け付けられています。計画推進課をはじめとする関係部署への事実確認も進められるそうです」


「よし。まずは、正規の手続きが動き始めたわけだな」


ガルドが頷いた。


ミリスも、わずかに表情を和らげる。


「これで、地下で発見したものが単なる現場の証言だけで終わることはありませんね」


「ああ。物証も記録も、正式に提出した。あとは調査の結果を待つことになる」


そう答えながら、俺は机の上に並べられた資料に目を落とした。


出荷された継手は十二個。


だが、受領記録に残っていたのは十個。


数字の食い違いは、記録の上に確かに存在している。


ただし、それだけで残る二個がどこへ運ばれたのか、誰が関与したのかまで分かるわけではない。


公的な調査が始まったことは、大きな前進だった。


少なくとも、ここから先は俺たちの手元にある情報だけで結論を急ぐ必要はない。


そう考えていた。


――だが。


「……少し、気になるところがあります」


机の上の書面を見比べていたミリスが、ふと手を止めた。


「リィネさん。この照会対象の一覧ですが、バルトロ技師に関係する過去の資材手配記録について、確認できていない部分があるように見えます」


「確認できていない部分、ですか?」


リィネが身を乗り出す。


ミリスは書面の一角を指で示した。


「こちらです。今回の照会対象として挙がっている記録と、私たちが調査の過程で把握した情報を照らし合わせると、該当する年度の台帳について、保管番号を確認できない箇所があります」


「保管番号がない?」


ガルドが眉を寄せた。


「記録そのものが存在しないってことか?」


「そこまでは分かりません」


ミリスは慎重に首を振った。


「別の部署で保管されている可能性もありますし、付属書類が別の台帳にまとめられている可能性もあります。現時点では、照会対象の一覧だけでは確認できない、ということです」


リィネも書面を確認しながら頷いた。


「ええ。窓口で確認できたのは、あくまで今回の照会手続きが開始されたことと、その対象となる記録の取り扱いについてです。個々の台帳が実際にどこへ保管されているのか、あるいは保存期限を過ぎているのかまでは、まだ回答を得ていません」


「つまり、記録がないと決まったわけじゃないんだな」


「はい。現時点では、所在を確認できていないというだけです」


俺は黙って二人の話を聞いていた。


最初から隠蔽を疑うのは簡単だ。


だが、記録が一覧に見当たらないというだけで、誰かが意図的に消したと決めつけることはできない。


行政上の保管区分が違うのかもしれない。


単なる記載漏れかもしれない。


あるいは、俺たちがまだ知らない事情があるのかもしれない。


今の段階で、どれか一つに決める根拠はなかった。


「なら、まずは正式な照会の結果を待つべきだろうな」


俺がそう言うと、ガルドは腕を組んだ。


「それはそうだ。調べてもらえるなら、調べてもらえばいい。わざわざ疑ってかかる必要はねえ」


「ああ。だが――」


俺は、机の上に置かれた出荷記録の写しを手に取った。


「記録の所在が分かったとしても、それだけですべてが明らかになるとは限らない」


◆


警備組織が追うのは、提出された物証と記録から確認できる事実だ。


それは当然のことだった。


関係部署への聞き取りを行い、記録を照会し、証言と物証を突き合わせる。そうした手続きを積み重ねなければ、誰かを不正に関与したと断定することはできない。


だが、俺たちが知りたいのは、帳簿の数字だけではなかった。


バルトロ技師は、どのような経緯で特注継手を手配したのか。


十二個出荷された継手のうち、受領記録に残っていない二個は、どこへ運ばれたのか。


そして、第四点検坑口へ部材を届けるまでに、どのような人物が関わっていたのか。


今ある資料から分かるのは、出荷と受領の数量に食い違いがあること、そして夜間便による手配が行われていたことだ。


その先の流通経路は、まだ見えていない。


たとえ関係する帳簿がすべて見つかったとしても、記録に残された取引と、実際に現場で行われた受け渡しが、完全に一致しているとは限らない。


正規の記録を追うことと、現場で何が起きたのかを突き止めること。


この二つは、似ているようで別の作業なのだ。


「バルトロ技師への聴取も行われるだろうな」


バルドが低い声で言った。


「本人が手配の経緯を説明すれば、話は進む。だが、本人の証言だけで、部材が実際にどこを通ったのかまで確認できるとは限らない」


「そうだな」


俺は頷いた。


バルトロがすべてを正直に話す保証はない。


だからといって、最初から彼が口を閉ざすと決めつける必要もなかった。


重要なのは、誰かの証言だけに頼らず、実際の取引や運搬の経路を確かめることだ。


「俺たちが調べるべきなのは、その部分だ」


俺は出荷記録の写しを机に戻した。


「公的な調査は警備組織に任せる。こちらは、現場で何が起きたのかを追うために、別の手掛かりを探す」


「別の手掛かりっていうと?」


ガルドが尋ねた。


「部材を実際に運んだ人間や、手配を仲介した人物だ。工房とバルトロの間で、どんなやり取りがあったのか。帳簿に書かれていることだけじゃなく、現場で誰が動いていたのかを調べたい」


「なるほどな。職人同士のつながりや、実際に荷を運んだ連中から話を聞くわけか」


「ああ。記録に残された取引を否定するつもりはない。だが、記録だけでは見えない部分があるなら、別の方向から確かめる必要がある」


レオンハルトが静かに頷いた。


「手配の経路をたどれば、誰が部材を動かしたのかも分かるかもしれないな」


「そうだ。まずは、そこからだ」


俺は手帳を開き、次に調べるべきことを書き留めた。


バルトロ技師と工房『双頭の槌』。


その間で行われた注文と受け渡し。


そして、出荷された十二個と、受領記録に残る十個の差。


今はまだ、それらを結びつける答えはない。


だが、調べるべき場所は見えてきた。


「公的な調査の進展は、リィネを通じて確認していこう。俺たちは、部材の流通経路を独自に追う。まずはバルトロ技師の周辺で、手配に関わった人物がいなかったかを調べるぞ」


仲間たちが、それぞれに頷いた。


地下での事件は終わった。


しかし、事件に使われた部材が、誰の手を経てあの場所へ運ばれたのかは、まだ分かっていない。


公的な記録を調べる者たちと、現場のつながりを追う俺たち。


それぞれの調査が、やがて同じ場所へたどり着くのか。


今はまだ、誰にも分からなかった。


ただ一つ確かなのは、俺たちには、まだ追うべき手掛かりが残されているということだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。