76 騎士タケノ・コノサト
誤字報告いつもありがとうございます。
「それじゃあ100階層でも目指してみるか。上位種っていうなら100階層のボスか、そうじゃなくてもまだ先に出るだろうからね」
「望むところだな。毛皮も集まるだろうし良いではないか」
「フカフカの毛皮で寝れるようになるんだよね? すごく楽しみ!」
「そうじゃの、乱獲しながら進もうではないか」
やる気は満々のようだった。まぁ確かに今使っている毛布はゴワゴワしていて少し硬いし、地べたに直接寝転ぶよりもマシというレベルだもんな。俺も地味に2枚重ねで敷いて寝てるくらいだし、これがあの毛皮でってなると早く欲しいと思うもんね。
「じゃあ今日はこのまま野営して、明日からは全員で先に進むって事で決まりだね。いつものようにしっかりと休むようにな」
近頃はコカトリスばかりを狩っていたせいか、今回のように新しい魔物が出てくるとグレイのやる気が止まらなくなるんだよね。しかもあの毛皮で作るであろう寝具を皆も乗り気だというのはいいね! 俺の我儘に付き合わせてという罪悪感も薄れるというものだ。100階層まで10日以上かかるだろうけど、やる気のある内にやっておいた方が良いと思う。あくまでも予想だけど、100階層のボスは巨大スライムのように特殊な手段を考えなければいけない感じの魔物ではないと思っている… あくまで勘だけどね。
まぁアレだ、フカフカ毛皮を目指して頑張ろうではないか! おやすみ!
SIDE:ナイトグリーン王国騎士団、第1部隊隊長
「よし、1日休んだから疲れも取れただろう。今日は朝から情報収集だ! 1パーティはギルドに行き、噂の連中の評判を探り、もう1パーティはギルド周辺の屋台などで噂を拾ってくれ。昼前に一度集合な」
「ダンジョンには入らないんですか? 隊長」
「ダンジョン入りは明日以降だな。例の奴らと行き違いになっても面倒だし、まずはどんなペースでギルドに顔を出しているかなどを調べるのが先だ」
「それもそうですね… 殿下からの命令書を渡さないといけませんし」
「おいっ! ここでは殿下の名を出すなといっただろう。出していいのは勇者様という称号のみだ」
「了解っ!」
「では始めるぞ!」
部下達はそれぞれメンバーと共に宿を出ていった。
俺はというと… ギルドマスターと会談しなければいけないのだ。
「はぁ面倒だな、出来れば俺もダンジョンの探索に行きたいんだがこればかりは直接命令されたし、部下達に任せるわけにはいかん」
面倒な理由は多々あるが、中でも一番嫌なのは… リャンシャン支部のギルドマスターは割と口が達者な上に強情だと言われているからだ。命令書を渡してそういう事だからと伝えても、あれやこれやと反抗してくると思われる。最初から例のパーティを魔境に送る事を断ってきたしな… 恐らく今回も言い訳を用意して言いくるめてくるだろうと予想できる、つまり部下に任せたらやられるという事だ。
ギルドに着いて見渡してみると、部下達が依頼表が張ってあるコーナーで他の冒険者たちと話をしている… うまく仕事をしているようだな、これなら少しは有力な情報が手に入ってくるかもしれんな。
さて、俺も仕事をするか。
「ギルドマスターに面会したい、俺はナイトグリーン王国騎士団、勇者様付きの第1部隊長タケノ・コノサトだ」
「ギルドマスターに面会ですか? 本日の予定はすでに埋まっており、後日になるかと思いますが…」
「すまんが俺の名を告げて至急問い合わせてもらいたい、今回来たのは勇者様からの指示であり緊急案件なのだ」
「わかりました、少しお待ちください」
ここまでは想定通り、支部を預かるギルドマスターが暇なわけないからな。飛び込みでの面会がすんなり通るとは最初から思っちゃいないさ。だが勇者様の案件だったら? 冒険者ギルドは総出と言っていいほど魔境の攻略に力を入れている、その旗印である勇者様の名を出せばどれほど忙しかろうと後回しにすることはできんだろう。
問題はここからだ。武力だけではギルドマスターを務める事はできんからな、それにここは商人の国アキナイブルー… その国のギルドマスターなのだから現状を上回る利益を提示しないと例のパーティを放出などしないであろう。
後はアレか… 俺達でミスリルを収集できるかどうか。聞けば80階層のボスとしてミスリルゴーレムがいるという、ミスリルゴーレムは言うに及ばずアイアンゴーレムでさえその強固な体に傷をつける事ですら大変だと聞く。
残念だが俺にはゴーレムとの戦闘経験がない、だからはっきりと『勝てる』と言い切る事ができないのだ。もしも勝てなかったら? それは流通し始めたミスリルが滞る事。魔境での戦いにようやく見えてきた光を失う事となる。
「やはりナイトグリーン支部のギルドマスターの言は正しいか… しかしそうなれば、どんな手を使っても例のパーティを勇者様の軍門に下らせないといけないな」
勇者様以外の王子を立太子させたい勢力もさすがに噂くらい聞きつけているだろう、そうなれば例のパーティだって飲み込まれてしまうかもしれない。
魔境の最深部に潜むと言われている魔物達の王… それの討伐だけで勲功が足りなくなってしまっては本末転倒なのだ。
とりあえず今日はギルドマスターを見定め、それから例のパーティを見定める。
どこの出身なのか、家族はいるのか… それを聞き出してしまえば身内を人質にできるだろう。
まずは穏便に話を進めないとな。
「お待たせしました、ギルドマスターが今からお会いになるそうです。それではご案内します」
「うむ、急ですまんな」
よし、まずはギルドマスターとの舌戦だ、こちらの意図を悟られずに相手の情報を抜き出す… 大変な仕事だがこれも勇者様のため、ひいては世界のためなのだ。欲に塗れた対抗勢力の思い通りにはさせないぞ!
 




