44 ミスリルの使い道
誤字報告いつもありがとうございます。
「お、戻ってきたか。まぁ無傷で帰ってきたところを見ると… 80階層攻略したのか?」
「まぁね」
「その辺の詳しい話は後で聞こうじゃないか。とりあえず今回呼び出した件について話をさせてもらう」
うーん、ギルドマスターの顔を見る限りやっぱり良い話では無いようだな。しかもギルドマスターにとっても悪い話なのかな? あからさまに嫌そうな顔をしている。
「実はな、お前さん達の活躍がいろんな地方に広まっているんだ。それでギルドのナイトグリーン支部から緊急で指名依頼が来ているんだよ」
「指名依頼? でも指名依頼ってCランク以上じゃないとダメなんじゃ? 俺はFランクだけど?」
「そりゃ記録だけを見たら新規登録がほんの3~4か月前だったからな、どれだけ急いだって簡単には上がらないさ。しかしお前さん達はすでにリャンシャンダンジョンの最高到達記録の保持者だ、その実力は疑いようもない」
「いやいや、そもそもの話指名依頼はCランク以上って決まりがある限り、俺達の実力云々は関係無いだろう? というか、その依頼内容ってどういった話?」
「うむ… 勇者パーティの指揮下に入って魔王討伐に貢献せよって事だな」
「勇者? それに魔王って」
なんだよそれ、俺が一番避けたいと思っていた案件じゃないか! というか勇者っていたんだな、わざわざ召喚するくらいだからいないのかと思っていたけど。
「そして当代の勇者はナイトグリーン王国の王子でな、ナイトグリーン支部のギルドマスターと連名で来ているんだよ。まぁはっきり言えば王族の権限を使うって言いたいわけだな」
マジか! 勇者というからてっきり俺以外の召還された人かと思ったら現地の人ですか! でもまぁ勇者というくらいなんだからきっとお強いんですよね? じゃあ俺とは縁の無いところで勝手に討伐とかすればいいんじゃないかと思うんだけど。
それに… こういった話だとグレイが食いつくんじゃ?
俺の後ろで立っているグレイの顔をチラリと見てみる… あれ? あまり興味がないような顔をしているな。
「む? なんだご主人?」
「いや、魔王と聞けば戦いたいとか言い出すんじゃないかと思ってね」
「ふむ。まぁ昨日までの俺なら言っていたかもしれないな… だが今日、ミスリルゴーレムを相手に単騎で戦わせてもらったのに結果を出せなかったからな。あれではある意味俺の負けのようなものだ、その状況で魔王などと聞いてもやる気は起きんな。まずはミスリルゴーレムを殴り倒してからじゃないと納得はできん」
「お、おう」
なるほどそうか、アレはグレイの中では敗戦扱いになっていたのか。まぁあれだけ時間をかけて戦ったのに、速度で優っていたのに倒せなかったというのは屈辱だったというわけか。しまいにはクローディアがあっさりとやっつけてたからなぁ… 確かに悔しいかもしれない。
「ちょ、ちょっと待て。ミスリルゴーレムだと? どこで出たんだ?」
おお、ギルドマスターが変なところに食いついたぞ?
「ああ、80階層のボスがミスリルゴーレムだったんだよ」
「80階層のボス… ぐぅぅ、うちの支部にいる冒険者達では辿り着く事ができないじゃないか。それで? ドロップは? やはり出たのか?」
「そうだな、ミスリルのインゴットというか角棒が2本出たな。1本5㎏くらいだったかな?」
「ほほぅ! さすがにその量では剣などを作るには足りないが、いいじゃないか! 価格を調べるからちょっと待ってくれ!」
おや? このままだとミスリルを買い取られてしまいそうな流れだぞ? やばい、訂正しておかないと!
「いやいや、ミスリルは売らないよ。これから数を集めて俺達用の装備を作るつもりだから」
「なんだと!? しかし数を集めるという事は80階層のボスを周回するつもりなのか?」
「そうだね、ちょっと面倒ではあるけど見返りはしっかりとあるからね」
おや、ギルドマスターがなにやらワナワナと震えているぞ? どうした?
「み、ミスリルは非常に高価で5㎏のインゴットであればすぐにでも財を築けるぞ? ここは売った方が得策だと思うんだがどうだ?」
「どうだと言われてもねぇ、高価なのは俺でも知っているよ。だからこそ手に入れて装備をって思ってるんだ」
「頼む! これから周回するというのならこれからも手に入るだろう? そのインゴット2本、ギルドに売ってはくれないか? もし可能であるならば、お前さん達は対魔王の最前線に行かずにこの街でミスリルを掘るという理由で断る事も出来るぞ?
ここで手に入れたミスリルをナイトグリーン支部に転売し、向こうで対魔王用の武器を作らせる… うん、現地に行かずともしっかりと貢献できるし良い考えだと思わないか?」
「うーん…」
なんか上手い事乗せられてる気はするんだけど、でも最前線とやらに行かなくて済むなら安い取引になるのかな?
「クローディアはどう思う?」
「そうじゃの… ミスリルを前線に送るという理由でこの町に残るんじゃったら、今後も定期的にギルドに売らんといけなくなるのぅ。そうなると80階層で停滞するという事になるのじゃが… グレイが暴れるんじゃなかろうか?」
「なんだと? 俺は言うほど気は短くないぞ。いいではないかミスリルゴーレム狩り、俺も舐められたままでは気が済まんからな… 殴り倒せるようになるまで狩ったって構わないぞ」
「そうかの? まぁグレイがそう言うのであれば受けても問題はないじゃろ。少なくともナイトグリーンに行ってしまえば勇者の支配下に置かれる事になるようじゃからそれは避けたいところじゃな」
「そうだな… 俺もいきなり誰かの下に置かれるなんて嫌だしな」
「うむ。私の主だからこそ従っているが、他の人間などに従う気はないのじゃ」
「俺もだな。その勇者とやらがご主人よりも強いとは思えないしな」
「ボクはご主人様以外の命令なんて聞かないよ!」
おお…
「いやいや、さすがに勇者と言われるほどであれば俺なんかが太刀打ちできるはずないって」
「何を言う、主の力は支援者としての能力じゃ。私達をこれほど有効に活用できる者など他にはおらんよ。強さとは何も物理的な事ばかりではないのじゃぞ」
「そうだな、俺の強さを今以上に引き出してくれるのはご主人だけだ」
「ま、まぁそういう事らしいからミスリルは売る事にするよ。その代わりさっき言った通り現地入りの話はうまい事やっといてよ?」
「おお任せておけ! さすがにミスリルが取れるとあっちゃ優先度は段違いになる、ミスリルの武器が出来上がれば前線で戦う者達も攻撃力が上がるからな!」




