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スパルタ予習

「ぐおおおぉぉぉぉーー! 死ぬ、死んでまうーー!」


 10を超えるリザードマンの群れに追われながら死にものぐるいでハイテ丘を逃げ回るギル。


「はいは〜い、逃げちゃ駄目ですって。リザードマンの弱点は頭だって教えたじゃないですか。さっきと同じ様に死角から勢いをつけてナイフを突き立てるんてすってばぁ」

「さっきは一匹でしたよぉぉぉぉ、なんで今回は急にベリーハードモードなんですか!?」


 丁度良い形の岩に腰掛けて、旗を振り振り応援している精霊ルピルに対し、息も絶え絶えに大声で質問する。


「リザードマンは行動パターンが少ないですから相手の動きをよーく見て対応すれば大丈夫ですって、上手くいけば左腕一本食い千切られてる内に5匹は仕留められますよ」

「ぜ、全然上手く行ってねえぇぇぇぇ!」


 涙目になりながら逃走を試みる事10分。ようやくリザードマンを振り切ったギルは丘の中腹でへたり込んでしまう。


「はぁ、はぁ、はぁ……し、死ぬところだった」


 そんなギルの様子を見ながら呆れた声でルピルが声を掛ける。


「もう、何やってるんですかギル君。これじゃあ予習にならないですよ」

「はぁ、はぁ……そ、そんな事言われても、今まであんな数のリザードマンに遭遇した事なんてないですよ?」


 懐疑的な目でルピルを見るギル。


「あ、もしかして疑っちゃってます? 神剣レッドペンサーの力」

「いや、実際こんな凄い世界を作り出してるわけだしそこに対しては全く疑ってないです……」



 神剣レッドペンサーの力はギルの想像を遥かに超えるものであった。精霊ルピルと一体化した時のみ、その真価を発揮する神剣は上から下へと垂直になぞるように虚空を切ると光輝く次元の狭間が出現させた。

 吸い込まれるようにその中へと誘われると光の先に現れたのは、明日小テストが行われると予見されたハイテ丘であった。無論、家からハイテ丘まではかなり距離があるにも関わらず一瞬で移動が行われた事も驚きであった。しかし、それ以上に空は明るく晴れ晴れと澄み切っていたのだ。先程までは確かに夜だったはずなのに……そんな狐につままれたような不思議な感覚は神剣レッドペンサーの時間移動という神の所業たる力を信じるには十分なものだった。



「ただ、ちょっと過剰予習なのかなって。さっき予習した時はリザードマン一体でしたよね? ルピルさんの言われた通り木の上からひと突きで仕留められましたし、いい練習にも自信にもなったと思うんですよ」


 ギルの疑問はもっともであった。今、複数のリザードマンから命からがら逃げ切ったこの予習は2回目……。

 実は初回の予習については1時間程で成果を出しており、今回の予習は元の時間軸に戻った後でのリトライだったからだ。そんなギルに対して諭すようにルピルは言う。


「ギル君。神剣ゼミの予習はあくまで予習なんです。明日の未来に来ているわけじゃなくて、今居るここは、まあ擬似世界みたいなものなんです」

「はい。それは分かります」


ギルはこくりと頷く。体感的にも分かっていた。意識のハッキリした夢の中……このハイテ丘はそんな場所だったからだ。


「未来予知じゃなくて、過去の傾向を元に考えられる未来予測みたいなものですね」

「……でも、それなら尚更おかしいですよ。リザードマンの群れなんて5.6年に一度あるかないかのレアケースですよ? そんなところまで対策していたらきりがないんじゃないですかね?」

「う〜ん、そうですねえ。確かにここの問題が出る確率は低めですけど」

「ですよね。とり敢えず実戦訓練は出来たし、この世界で死んじゃってもアウトなら、いきなりこんな危ない予習をする事もないと思うんですよね」

「そうですね〜。まぁ複数形リザードマンの出題確率は40%ほどですから今回は辞めておきますか?」


 ギルは流れで「はい」と言い掛ける。しかしルピルの言葉は聞き捨てならないものであった。


「え……40%?」

「はい。出題確率が一番高いのは単体リザードマンとの対峙で50%。ですから先程の予習で十分な可能性もありますよ」


 ルピルはにこにこと笑顔を絶やさず続ける。


「仮に40%を引いたとしても逃げる練習は出来ましたし、まあ死ぬ事はないんじゃないですかね。本番では他のクラスメートもいるから囮にもなるでしょうし」

「え、ちょっと……」

「じゃあ、今日はお疲れ様でした。おやすみなさい〜」

「ちょ、ちょっと待って!!」


 ギルに背を向け次元の狭間を開こうとするルピルを呼び止める。


「はい? なんですか? 大事なものは友達です、自分を優先する勇者は屑だ、と罵っておきながらいざ実戦ではクラスメートを置き去りに逃げる予定のギル君」

(なんかめっちゃ怒ってるぅ!)

「いやいや、そんなつもりはないですって! それにリザードマンの群れが40%!? なんで明日に限ってそんなレアケースが?」

「さぁ? でもリザードマンの群れならまだいい方ですよ」


 ギルはドキッとする。神剣ゼミの予習問題は単体リザードマン50%、リザードマンの群れ40%。ということは……


「……ちなみに残りの10%って?」

「大型リザードマン。このあたりでは中々お目にかかれないタイプの大物ですね」

「い、いやいやいや! そんなの今まで一度だってハイテ丘に出て来たことないですよ!? 勇者要請案件じゃないですか!」

「そうなんですか? じゃあ良かったですね〜」

「何がいいんですか! そんな危険な可能性があるなら明日のテストは中止にしてもらいましょう!」

「でもギル君は勇者になるんですよね? 勇者要請案件ならギル君が倒しちゃえばいいんですよ。きっと評価もうなぎ登りですよ〜」

「そ、そんな事できるわけ……」


 ルピルは近くに突き刺していたレッドペンサーを指差し微笑む。


「大丈夫ですって。レッドペンサーと私がついてますから。あ、でも予習はやらないと駄目ですよ。多分ギル君の今の力だとレッドペンサーを扱えるのはせいぜい一振り……一撃で仕留めないといけないですからね」

「へっ? えっ?」

「さぁ、じゃあちゃんとできるようになるまで100回は予習しますよ。夜は長いですからね〜」


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