テスト
「皆、席につけ。今日は小テストやるぞ」
突然の発表に教室内からは「えぇ〜」と不満の声が漏れる。フレイア魔法学校ではこうした抜き打ちテストは珍しいことではない。戦場に出れば準備を怠った者から命を落として行く。そんな心構えを学生時に身に付けさせる為でもあった。
「推薦が決まっている者も手を抜くなよ、この試験も内申に響くんだ。あまり悪い結果を出せば推薦取り消しもあるからな」
ギルの担任は少し厳し目の口調で注意を促す。この時期になると大体の人間の進路が決まっている。そのせいで試験に緩みが出る事を危惧しての事だった。
「今から正午までに防具を一品叩いて持って来い。部位は問わないが鱗仕様のものに限る、だ。それではくれぐれも怪我のないようにな」
担任が話し終わると皆重い腰をあげて一人、また一人と教室から出て行く。
「うへ〜最悪だなぁ、まさかの鍛治テストかよ。そんなの鍛治職志望の奴だけやらせときゃいいじゃねーか。なぁギル」
「ん、あぁ。でもテストだから」
「おいおい、物分かり良すぎだろギルゥ〜。しかも鱗仕様って……正午までに作ろうと思ったらハイテ丘に出没するリザードマンから剥ぎ取るしかないじゃんかよぉ。一人じゃ絶対無理なヤツじゃん、これ多分テストと称して強調性とか見てんだぜぇ。担任マジ性格悪いわぁ」
「イチカはまだ推薦取ってないもんな」
「お前だって同じだろ、いつまでもティアちゃんと同じ学校とか夢見てないで、戦おうぜ現実と」
(どこかの妖精みたいな事言うなよ……)
ギルは少し前の席に座るイチカの頬をつねりながら反論する。
「別にティアと同じ学校に行きたいわけじゃない。勇者になる為にアルテマ学園に入りたいだけだ」
自らを言い聞かせるように呟く。頬をつねる指には自然と力が入っていた。
「痛、痛いってギル。分かった分かった、俺の勘違いだったよ悪い悪い。それよりほら、俺達も早く行こうぜ。後何人誘ってチーム組まないととてもリザードマンは倒せないからな」
そう言って机の横に立て掛けてあった小剣を手にする。そんなイチカを横目で見ながらギルはポツリと呟く。
「……なぁ。このテストって当然過程も見られてるよな」
「うん? 当然だろ、完成品だけ持っていけばいいなら金があるヤツは町の防具屋で正規品買って来ちゃうぜ」
「だよな」
「まあ俺達にはそんなカネもないし考えるだけ無駄無駄、ほれ早く行くぞ」
ギルはイチカの差し出した手を取ろうとはしなかった。そして小さく頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
「悪いイチカ。今日は他のヤツと組んでくれないか?」
「んあ? なんだよギル、やる前から諦めてるのか? そういえばお前鍛治苦手だったもんな」
「いや、そういうんじゃなくて……」
ギルも机の横に吊るしていた小剣を取り出すとおもむろに鞘を外す。抜き身となっと剣は陽の光を浴びギラリと光る。
「一人でやったら評価点も高いだろうからさ」
イチカは耳を疑った。ギルは成績でいうと自分と同じくらい。実戦演習だけならば自分の方が結果を出しているくらいだったからだ。そのギルがこの近辺では強魔物に分類されるリザードマンを一人で倒す? 冗談にしては真剣な表情のギルに思わずゴクリと唾を飲む。
「おい……ギル、本気か? そりゃ先生も見回りしてるだろけど下手すりゃ命だって落としかねないのはお前も知ってるだろ?」
そう言いながらも普段からギルと一緒にいるイチカは違和感を覚えていた。一人教室を出ようするギルの背中から感じるのは昨日までとは明らかに違うオーラ。自信……そう言い換えて差し支えのないものだった。
「そうだな。でも俺は大丈夫だから。それよりイチカの方こそ気を付けろよ」
「えっ? あ。お、おう」
ギルは足早に教室を出るとくるりとイチカの方へと振り返る。
「あ、そうそう。リザードマンの弱点は脳天だ。それに目も悪い、木とかに登って死角から攻撃すりゃ効率よく倒せるぜ」




