精霊と神剣
「それでルピルさん。具体的には神剣ゼミって何をやるんですか?』
ギルの疑問は当然だった。なにせ入会の際の封書には漫画の小冊子だけで受講内容など何一つ載ってはいなかったのだから。
「ギルさんは今回勇者講座を受講希望ということですのでまずは勇者になるための傾向と対策を私なりにまとめて来ました」
ルピルはそう言ってボンッと右手に分厚い本を召喚する。その精霊ならではの芸当にギルは、おぉー、と感嘆の声をあげる。
「読んでもいいんですか?」
「はい、勿論です」
ギルは『ルピルのマル秘・勇者への道』と書かれた本を期待に胸膨らませゆっくりと開く。
そこにはとても綺麗な字でデカデカとこう書かれていた。
勇者になる人の傾向……とっても強くてマジ頭良い。顔もカッコいい人多め。
勇者になる為の対策……頑張る!
ギルはそっと本を閉じた。そして丁寧な口調でルピルに話しかける。
「帰って……もらえませんか?」
「えぇ!? 急にどうしたんですか? お腹でも痛くなったんですか??」
「いやいや違いますよ! なんなんですかこの本の厚みに反比例した内容の薄さは! 対策も完全に根性論じゃないですか!」
「ギル君、世の中ってものはね。漫画みたいに簡単に上手く行くわけじゃないの。戦わなきゃ、現実と」
「み、身も蓋もねぇぇぇぇ!」
秒殺で期待を裏切られたギルは目に涙を浮かべながらグイグイとルピルの背中を押す。
「い、い、か、らぁ〜〜もう帰って下さいよ。俺勉強しなきゃいけないんです、それに屋根も壊れちゃったから片付けもしないといけないんですからぁ」
ルピルを部屋の隅に追いやりながら涙声で自らの思いを吐露するギル。
「片付け? 何を片付けるの?」
「だから今ぶち抜かれた天井の残骸をですね……って、あれ?」
ギルは部屋の中の違和感に気づく。先ほど見事に射抜かれたはずの天井は何事もなかったように見上げた視線の先にあったのだ。
「あれ……なんで……」
不思議な事はもう一つあった。ゼミの宅配は側からみれば流星の直撃にしか見えない惨事だったはずなのに、近隣の住民はおろか一階で寝ているはずの両親さえ起きて来ない。そんな事があり得るのか? ギルの頭にはそんな疑念がよぎる。
「ふふ、不思議だな〜〜って顔をしていますねぇ」
解を得ないギルに対してルピルが得意げな笑みを浮かべ話し掛けて来る。
「……これもルピルさんの仕業ですか?」
「仕業とは人聞き、いやいや精霊聞きが悪いですね〜。それに正確には私がやったんじゃありません。そこに刺さっている神剣レッドペンサーの力ですよ」
ルピルはそう言って枕元に刺さる神剣を指刺す。
「神剣……レッド……ペンサー……」
「そう、この神剣は時を司る剣。この剣に触れている間は時間移動なんて思うがまま」
「じ、時間移動!?」
「そうです。未来への予習は1日先まで、過去への復習は1分前までと制限はありますが」
「……マジですか」
「マジです。予習の場合はまあ疑似体験みたいなものですね。1日経ったら経験だけを持ち帰って『今』に戻って来ます。復習の場合はガチ戻りですが、これも経験値は得た状態で戻れます。ただし死なない限り、ですけれどね」
ルピルの口から飛び出したにわかには信じ難い神剣のスキル。しかしギルの心の中は驚きよりも歓喜が勝っていた。
「お、おおおおお!! すっげぇぇぇぇ!』
「さて、じゃあ早速明日の予習からやっちゃいましょうか」




