寝ぼけ眼の潜入作戦
現在時刻は地球でいうところの午前二時。
謂わば、草木も眠る丑三つ時である。
そんなド深夜に行われる、王城跡地への潜入作戦。
眠たくなるのは、何も草木のみではない様で──。
「──う〜……」
「……ミコ様?」
「へ? あぁうん、だいじょうぶ、ねむくないよ……」
「え? いえ、まだ何も言って……」
「日を改めるという訳にもいかぬゆえ、今少し我慢を」
「うん……」
漸く夜が訪れ、まさに今これから潜入しようというタイミングで眠そうに目を擦る望子の姿に一抹の不安を抱く二人。
半神半人とはいえ未だ幼女、眠気には勝てぬ様だ。
しかし、状況と時間は三人を待ってはくれない。
「おっと、そうこうしている間に辿り着いた様であるぞ」
「……らしいな。 ミコ様、こちらへ」
「う、うん」
レプターが立案した作戦の起点となる場所へ到着した三人は今、王城の近くとは言えない距離にある空き家へと入り。
誰の手も加わっていないのだろう埃塗れの室内をレプターが羽ばたきで換気した後、窓から見える王城へ目を向けて。
「あの城は既に数年以内の取り壊しが決定していて、ここの長も別の場所に居を構えているそうだ。 だが、それでもなお城の外周や内部には警備の者たちが数多く配置されている」
「何故?」
「未だ宝物庫に眠っているかもしれない金銀財宝や魔導具などを狙って侵入する不届き者が後を絶たないんだそうだ」
「脆弱でありながら強欲な人族らしい愚行であるな」
「……魔族に同調したくはないが、その通りだな」
安易に潜入出来ない理由と、警備が厳重な理由を門兵から聞いたまま語り、それに皮肉めいた返しをするローアだったが、これといった反論のない様子のレプターが溜息をつく。
基本的に亜人族は欲しいものがあるなら真正面から挑む事の方が多く、コソ泥の様な行いはまさに人族しかしないという事を駐屯兵長の頃から嫌と言う程に知っていたからだ。
「……ね、ねぇとかげさん。 そんなにひとがいっぱいいるならどこからはいってもみつかっちゃうんじゃないの……?」
「えぇ、そうですね。 普通であれば、ですが」
「?」
そんな二人の間に流れる空気が澱んでしまっている気がした望子が話を戻すべく、クイッとレプターの袖を軽く引っ張りながら抱いて当然の疑問を呈したところ、レプターは徐に足で床板を調べる様に叩き始め、その行為の意図が掴めず疑問符を浮かべていた望子が首をかしげていた、その時──。
「──え? こ、これって……」
「成程。 王族専用の隠し通路、その入口であるな?」
「そう、ごく限られた者しか知らない特別な道だ」
ガコン、という音と共に床板が外れたかと思えば、そこには年季が入った様子の梯子と下へ下へと続く深い穴があり。
それを一目で王族専用の避難経路だと看破したローアの言を、『流石だな』とばかりにレプターが認めたのも束の間。
ここでふと、望子に一つの疑問が湧いた。
「とかげさん。 どうしてそんなみちをしってるの?」
「確かに、長であったとはいえ駐屯兵風情がな」
「……あまり思い出したくもないんだが──」
そう、何故これをレプターが知っているのかという事を。
王族どころか貴族ですらなく、どこの国にも居るいち駐屯兵が、王族が血を絶やさぬ為の避難経路を知っている理由ともなれば、さしものローアも気になっている様子だったが。
結論から言うと、彼女にそれを教えたのは王位継承者。
つまり、ウルたちが殺した国王の息子たる王子だった。
数年前、駐屯兵として勤務していた頃のレプターが王子の目に留まり、『僕の愛妾になれ』と言い寄ってきたという。
当然レプターは断ったが、王子は王族専用の隠し通路という絶対的な秘密を明かす事で、彼女を縛り付けようとした。
しかし、それを知った国王が激怒。
その様な口の軽さで王が務まるとでも思っているのかと。
やはり冷酷ではあるが、ある程度は有能だったのだろう。
その後、完全に被害者とはいえレプターにもお咎めなしという訳にはいかず、駐屯兵長という立場にありながら部下と同じ様に外回りを強いられる様になってしまったのだとか。
ちなみに、その王子は既に亡くなっている。
魔王軍が攻めてきた際、有象無象の魔族に殺されたのだ。
……まぁ、それはそれとして──。
「──つまるところ、お主が未来の国王候補に惚れられた事が原因であったと。 美しいというのも罪であるな、レプ嬢」
「……まぁ、そういう事だ。 気分が悪いどころの話ではなかったが、こうしてミコ様のお役に立てたなら幸いだったよ」
「たいへんだったんだね……ありがとう、とかげさん」
「いえ、どうという事もありません。 さぁ参りましょう」
ローアからの揶揄と望子からの感謝を受けたレプターは過去の出来事を吹っ切る様に頬を両手で軽く叩い後、自身が先頭を歩き、殿をローアに任せる形で隠し通路を進んでいく。




