研究中毒者の推論
この世界にも、〝暗所を照らす為の道具〟は存在する。
松明、角灯、瑠璃燈──最も原始的だとも言える松明を除き、その殆どは魔力の消費を前提とした使用者を選ぶ光源。
とはいえ魔獣や魔物が所狭しと蔓延っている以上、地球よりも重要視され、そして広く使われている事は間違いなく。
それを思えばこの魔導具も違和感なく馴染んでいる様にも見えるが、ただ一つ違うのは他と一線を画す〝利便性〟。
望子が購入したこの懐中電灯の様な魔導具は、嵌め込まれた魔石を押し込むだけで魔力が少ない者でも、もっと言えば魔力が空になった者でも暗所を照らす事が出来るらしく。
指向性かつ直線状の光を放つ関係上、無駄に広範囲を照らしてしまう様な事もない為、魔物や魔獣といった息を殺す様に他種を殺す生物が存在するこの世界において、『光源を悟られにくい』というのはそれだけで優位性を産むのだとか。
首都の内部、或いは外部に潜む悪人や危険生物を発見して対処する兵士たちには打ってつけの装備というのも頷ける話ではあるが、そんな事情など望子にとってはどうでもいい。
「ろーちゃん、どういうことかわかったりしない……?」
「ふむ……推論──あくまで我輩の意見なのだが……」
望子にとって重要なのは、とにかく『あちらの世界の道具がこちらにある事実の原因』の究明というただその一点であり、最も聡明な友である研究中毒者に助けを求めたところ。
「ミコ嬢を異世界へ招く為に聖女カナタが展開した勇者召喚の魔方陣が何らかの影響で再展開され、そこからミコ嬢が居た世界の知識や情報が流出しているのではなかろうか?」
「ちしきや、じょうほう……」
「道具そのものは流出していない、と?」
「もしそうならば原動力もこちらとは違う筈である」
「成程……」
何らかの影響──十中八九コアノルが倒された事なのだろうが──によって意図せず開いた地球へ繋がる魔方陣から溢れ出た知識や情報が、こちらの世界の人々でも理解出来る様に〝魔力ありきの魔導具〟へ改変された上でそれぞれの脳内へと流れ込んだ結果なのではないかと推測するローア。
当然ながら最初は道具そのものも流出していたが、そのままでは原動力がすぐに切れてしまうと判明した為、技術者が魔石で補ったのでは? という可能性も否定は出来ぬものの。
それ程の技術を有しているなら、もっと大きな発展をしている筈だからそれはない、というのがローアの見解だった。
……閑話休題。
「じゃあ、そのまほーじん? をとおったら、わたし……!」
「……ん? あぁ、叶うやもしれぬな。 元の世界への帰還」
「ほんと!? やったぁ!」
「良かったですね! ミコ様!」
「うん!」
もしも本当に知識や情報があちらから流れ込んできているのだとしたら、そこを通って地球へ帰る事も出来るのではという子供ながらの疑問を、ローアが否定する事はなかった。
これ以上、望子の不安を煽る訳にはいかなかったし。
「……」
それどころではない、というのもあったのだろうが。
「では、そろそろ王城跡地の方へ向かいましょうか。 侵入経路は考えねばなりませんが、それは私にお任せくだされば」
「ありがとう、とかげさん。 よろしくね」
そして今、間もなく夕暮れ時となろうかという時間に差し掛かっていた事もあり、そもそもの目的である王城跡地への侵入を遂行すべく、いよいよ三人は最後の作戦に移行する。
(……さて、これを如何様に伝えるべきか……そして──)
(──レプ嬢は、如何様な選択をするのであろうな)




