大森林の新たな主
蜘蛛人より主の座を継いだ、と女王は言った。
奪ったでも勝手に名乗っているでもなく、継いだ──と。
「継いだ、と申したな。 という事は、よもや……」
「ウェバリエが、主の座を譲ったのか?」
つまりそれは、ウェバリエが自らの意思で森の主の座を目の前に居る蜂型の魔蟲に譲り渡した、という事に他ならず。
『如何ニモ、カノ蜘蛛人ガ森ヲ離レル前ニ譲リ受ケタノダ』
「あらかじめ後任を決めていたか、こうなる事を予期して」
そんな二人の疑念を裏付ける様に首肯した──首肯したのだろう、多分──女王の発言で推測が確信へと変わった事によりローアが満足げに頷く中、女王は会話の矛先を変えて。
『貴様ラハ、彼奴ノ何ダ?』
「なん、だろう……おともだち、かな……?』
『……マァ良イ、目的ハ? 通行ダケナラバ構ワヌガ』
何だ、と聞かれて返答に困った望子の『おともだち』という解答に納得したのかしていないのかは定かでないものの。
はぁ、と溜息の様な羽音を響かせつつ女王は話を変える。
曰く、『先代の知己とはいえ無法は許さん』──と。
それを受けたレプターは、望子を護る様に前へ出て。
「彼女の、墓を作りたい。 魔王との戦で落命した彼女の」
『……死ンダノカ? 彼奴ガ?』
「……うん」
『ソウ、カ……』
この森を墓標としたい、という望子の願いを口下手な望子に代わって説明した途端、女王の羽音のトーンが底冷えし。
否定してほしいのか、そうでないのかまでは表情の読み取りようがないせいで分からないが、おそらくはショックを受けているのだろう事は望子でさえ何となく察せられており。
『……墓トイウカラニハ、アルノダロウナ? 亡骸ガ』
「ろーちゃん、おねがい」
「うむ」
証拠を見せてほしい、と暗に疑る様な羽音を響かせた女王に対し、これといって不審がる事もせず望子はローアに声をかけ、それを受けたローアが【虚数倉庫】を開けたところ。
トサッ、と生い茂った芝生の上に大きな亡骸が転がった。
無論、ウェバリエの亡骸である。
『……成程、確カニ死ンデイル。 絶対的ナ支配者トシテ君臨シ続ケテイタ彼奴ガ唐突ニ主ノ座ヲ譲ッテミセタノハ……』
「落命する可能性を踏まえての事であったのだろうよ」
『実ニ彼奴ラシイ周到サヨ』
そんな蜘蛛人の亡骸の確認を、じっくりとまではいかない短時間で終えた女王がウェバリエから主の座を譲り受けた際の様子を『唐突に』と語り、あの戦いで死ぬかもしれないと考えたからこそ、ウェバリエは己に代わって森を任せられる者を選定しておく必要があったのだろうと推測するローア。
事実、その推測は正しかった。
かつて主の座を巡って争った事があり、この広大な森で唯一ウェバリエに匹敵する力を持った女王ならば後任として相応しいと考えた結果、彼女は主の座を譲り渡していたのだ。
「ねぇ、じょおうさま。 いいばしょ、しらない?」
『……ツイテ来イ』
翻って、そろそろ本題にと子供ながらに思った望子からの問いかけに、『ふむ』と羽音で唸った女王は静かに浮上し。
くるりと方向転換しつつ、三人へ同行を促し始める。
そして数分後、望子たち三人が連れられた先には──。
『彼奴ノ墓標ヲ刻ムノデアレバ、コノ池傍シカアルマイ』
「きれい……」
「この深い森の中に、こんな清水の池があったとは……」
「して、この池を選定した理由は?」
『簡単ナ話ダ、コノ池ハ──』
御伽話に出てきそうな程に美しく、それなりの面積を誇る池が広がっており、その景観に望子とレプターが素直に感動する一方、感動どころか無感情な様子のローアがこの池を選んだ理由を問うたところ女王は一呼吸置いて、こう告げる。
『──彼奴ノ母ガ、彼奴ヲ産ミ落トシタ場所ナノダ』




