新たな英雄は、神の信徒。
今回引くガチャは、今までとは違う選び方をしたガチャだ。
なんと、事前に神様ネットワークのチャットで質問をして、他の神々から勧められたガチャを選んだのだ。
ただ、全体チャット等の不特定多数の意見を聞くと、イタズラなんかでフザけたの返答がないとも限らないので、今回は俺が盟主をしている神様救済同盟の同盟員限定チャットで質問をしてみた。
俺としては、ガチャの選定は自分でやりたいとは思っている。
どのガチャを引くのか悩むのもまた、ガチャの楽しみ方の一つだと思っているからだ。
なので実際に、今までは俺が自分で選んだガチャを引いてきた。
だが、今回は事情が違う。
これから引くガチャは、十回連続で引く予定のガチャなのだ。
もしも適当にガチャを選んで変な英雄が出るガチャを選んでしまうと、取り返しのつかない事態になりかねない。
何せ十人も引かなければならないのだから。
今までは一人ずつしか引かなかったので、ナルキアみたいな残念なキャラが出ても被害は最低限に収まっていた。
だが、十人も残念なキャラが増えてしまった場合、俺はそいつらを制御出来る自信がないのだ。
なので俺は、涙を飲む思いでガチャの選定に、同盟員の意見を参考にすることにしたのだ。
出来得る限り、安牌なガチャを選ぶために。
……というか、よく考えたら今までのガチャの結果って微妙な結果ばかりだったからなぁ。
ナルキアは性能的に大当たりだけど、人格的に大外れだったし。
シュナは美人で性能も高いけど、残念美人だったし。
ティトラ君は唯一の性格面での大当たりではあるけど、男だしな……。
これらの結果は、俺が自分の意志でガチャを選んだ結果である。
つまり、今までのガチャの結果が微妙なのは、俺のガチャ選定能力が微妙だという可能性が高いのだ。
よって俺は、充実した華のある神様ライフを送るためにも、今回は他の神様の意見を聞くことにしたのだ。
……まぁ、他の神様の英雄評価って、微妙に宛にならないんだけどな。
だって大分前にナルキアの評価を聞いた時に、ナルキアのことを知ってる神様は随分な高評価をしてたし。
執務中も人目も憚らずに鏡を見ながらポーズを決めるレベルのナルシストで、会話の節々に自賛の言葉を態とらしく織り交ぜてくるナルキアを、あのぐらいなら他の神族でも良く居るレベルだと言って、特に問題視していなかったのだ。
だが、それは英雄評価が頼りないという話だ。
今回聞いたのは英雄個人の評価ではなく、英雄を出すガチャの評価である。
個別の評価じゃなく、全体の評価ならば。
きっと、あの若干感性がズレてる神様連中でも、まともなガチャを勧めてくれるに違いない。
……そう信じたい。
因みに、今回相談した結果選んだガチャは、軍人英雄限定+男女英雄排出率通常の半々+神の信徒限定+レアリティ☆4以上確定のガチャである。
同盟の神様に相談した結果、外れを引きたくないなら神の信徒限定ガチャを引いた方が良いという話だったので、この設定が含まれたガチャを選ぶこととなった。
まぁ確かに、シュナとかは信仰心があって俺への敬意があるけど、ナルキアとか信心深くないっぽいから俺に対してガンガン意見言ってくるしな。
俺は本物の神様じゃないので気づかなかったが、信仰心ってのは意外と重要な要素なのかも知れない。
今回はガチャを引く理由的に軍人英雄が出るガチャを回すのだが、次回辺りはシスター系統の英雄が出るガチャとか回すのも良いかもしれないな。
修道服って良いよね。
個人的には巫女服の方が好きだけど、巫女服は流石に世界観が合わないし。
うん、この次はシスターが出そうなガチャにしよう。
清楚なシスター秘書が居たら、このゴチャゴチャした執務室の空気も浄化されそうだし。
「それでは改めて、ガチャを回そうか。」
ティトラ君の失言からの流れで、若干微妙な空気になっていた秘書達にそう告げる。
俺の言葉に反応して、秘書達が席を立って俺の席の近くで整列した。
ガチャを回す際に出て来る抽選機は結構な大きさなのだが、執務室の中央はガチャを出す時のために空間を空けてあるので机などを移動する必要はない。
ガチャは俺のライフワークだからな。
俺が多くの時間を過ごす執務室も、そのライフワークに合わせてレイアウトしてあるのだ。
まぁ、ガチャを引く機会なんてあんまりないから、普段は殆ど意味ないんだけどね。
俺は神様ネットワーク管理画面を開き、ガチャ選択画面に移動する。
そして予め決めてあったガチャを選択した。
神様ネットワークのガチャでは、ソシャゲのように一回のみのガチャと十回連続ガチャという二つの項目が並んでいるのではなく、一度のガチャで回す回数を自分で決めることが出来る。
ソシャゲなんかだと十回分のガチャ料金で十一回分ガチャが引けるなんてサービスもあるのだが、自分で回数を入力するタイプのこれでは、そういうサービスは残念ながら無さそうだ。
「では行くぞ。」
「「「ハッ。」」」
「はい。」「はいっ!」
俺の声に合わせて、秘書の皆が元気よく返事を返す。
その声を聞いて、俺はガチャの回数設定項目に十回と入力し、確定ボタンを選択した。
「……レッツ、ガチャゴー!」
っと、危ない危ない。
危うく掛け声を忘れるところだったな。
今となっては若気の至りというか深夜並のテンションというかが原因で始まった、恥でしかないこの掛け声だが、今まで毎回言ってきたのだから今更言わないわけにはいかないからな。
何とか理由を付けてこの掛け声を廃止したいんだけど、俺が恥をかかないで廃止する方法が考えつかないんだよな。
当時の俺よ、なんでこんな恥ずかしい掛け声を付けたんだ。
レッツ、ガチャゴーって、文法的に合ってんのかもよく分からんし。
「「「「「レッツ・ガチャゴー!」」」」」
そして俺の掛け声の後に、秘書達が声を揃えて掛け声を復唱する。
十代二十代三十代の大人軍人三人とロリショタという統一性のないメンバーで、ガチャ抽選機出現予定地点を指差しながら妙ちくりんな掛け声を真顔で言う光景は、控えめに言ってシュールだ。
ティトラ君辺りは子どもなので似合ってるんだが、その他は全員大人だからなぁ。
この掛け声に意味が全くないってバレたら、なんて思われるんだろうか。
最悪、俺がただの変人だと思われるぐらいなら良いんだが、「意味もなくあんな恥ずかしい掛け声言わせるなんて!」と恨まれたら怖いな。
うん、この掛け声の真意が特に意味なんてないってことは、絶対に教えないでおこう。
因みにティトラ君は創造して初のガチャなのでこの掛け声を言うのも初めてだ。
だが教育係のナルキアが手を抜いているはずもなく、この掛け声についても事前に教えてあったので付いてこれている。
……何か、申し訳なくなってくるな。
純朴な少年に、俺はなんて変なことを教えてしまったのだろうか。
彼が五年後にこのことを思い出して、のたうち回らないことを祈る。
俺は今すでにのたうち回りたい気分だが。
掛け声に合わせるように、それは執務室の中央に現れた。
カプセルが詰め込まれた、巨大なガチャ抽選機。
蜃気楼のように空間を歪めながら現れたそれは、先程までそこになかったのが嘘のように強い存在感を放っていた。
そして誰も触れていないのに、取出口の上にあるハンドルが回る。
カチカチと音を鳴らしながらハンドルが一回転すると、取出口からカプセルが一つ飛び出した。
だが、更にハンドルは回り続ける。
カチカチと音を鳴らし続けてハンドルは回転し、一回転する毎にカプセルが一つずつ吐き出されていく。
そして十個のカプセルを吐き出し終えたあと。
ガチャ抽選機は再び蜃気楼のように空間ごと歪みながら、その姿を消していく。
その場に残ったのは、丸いカプセルが十個だけ。
英雄の魂である石が入ったカプセルだけだ。
うおぉぉぉ……。
いま、ゾクッと来た。
ゾクッと来たよ!?
やっぱり良いな、おい。
ガチャを連続で回すのは本当に最高だぜ。
一つずつ吐き出されるカプセルには、夢と希望が詰まっている。
外からは中身が見えないカプセルは、パカリと蓋を開けるまで何が入っているのか分からない。
そんなシュレディンガーなカプセル達。
そのカプセルの中身はシュレディンガーの猫のように、開ける時に中身が決まるのか?
それは違う。
カプセルの中身が決まるのは、ガチャ抽選機からカプセルが吐き出された時なのだ。
そう、夢と希望の中身は、吐き出された瞬間に未来が確定しているのである。
……まぁ、シュレディンガーの猫だと認識の確定とかそんな話だから正確には少し意味が違うんだけど。
それはいいや。
とにかくガチャってのは、カプセルが吐き出される時に全てが決まるのだ。
つまり、カプセルが吐き出される瞬間は、非常に楽しい瞬間なのだ。
俺はカプセルの元へ歩いていき、一つのカプセルを手に持った。
両手でカプセルを持ち、力を込めてカプセルの蓋を取り外す。
蓋が開けられたカプセルの中には、青く光を放つ石が一つ入っていた。
俺は静かにその石を手に取る。
「先ずは一つ目の『開示』といこうか。」
俺はそう呟いて、頭の中で『開示』と念じた。
『開示』と念じた瞬間、俺の目の前に半透明の画面が現れる。
そこには、今手に持っている石から創造出来る英雄のステータスが記されていた。
レイチェル・バレンタイン 女性 軍人
レア度:☆☆☆☆☆(5)
戦闘力:B+ 智謀:B+ 特殊能力:A 成長性:B
スキル:『幸運の加護』
お。
おおお。
おおおおおおおお!!!
女性英雄だっ!!!
女性英雄が出たぞ!!!
今回のガチャは予算の関係で女性英雄限定じゃなかったのにだぞ?
それなのに、一発目で女性英雄が出たぞ!?
しかも☆4以上限定で、☆5のキャラだと?
何だよこれ! 俺って運が良すぎだろ!!
「……レイチェル・バレンタイン。女性軍人で、☆5の英雄だな。スキルは『幸運の加護』で、性能は全体的にバランスが良いタイプだ。」
「おお、最初から☆5英雄とは幸先がいいですな。」
「☆5のバランス型とは、運用しやすそうな英雄ですね。」
「『幸運の加護』ということは、運が良いということですかね?戦場での武運は勝敗を分ける重要な要素ですから、頼もしいですね。」
クロード、エーリッヒ、高柳君がそれぞれに感想をこぼす。
……のは良いんだが。
女性軍人ってところには反応しないのかね?
もうちょっとはしゃいだりとか、男性らしい反応をしろよ。
俺だけが女性を求めてるみたいで何か恥ずかしいじゃないか。
「この調子で他の英雄も強い英雄が出るといいですね!」
「……ファントム様がガチャを引くと、毎回最低保証よりレア度の高い英雄が出てる気がしますわね。」
ティトラ君がほっこりする感想を漏らすのと同時に、ナルキアは微妙に冷静なコメントをしていた。
……なんだよ、ナルキア。
俺が不正でもしてるみたいなこと言うなよ。
いつも言い訳だったり嘘吐いてたり隠し事をしてたり、色々と褒められたところがない俺だが。
ガチャに関してだけは常に誠実に対応してるんだぞ?
だって、ガチャで不正しても楽しくないし。
というか、不正のやり方とか知らないし。
「取り敢えず、一人目を創造してみようか。」
最初は全部の英雄を『開示』して情報を確認してから創造しようと思っていた。
だが、まさかの一人目から☆5英雄だったのだ。
ここは場の空気を勢いづけるためにも、予定を変更して一人ずつ創造していった方がいいだろう。
まぁ、俺が待ちきれないだけなんですけどね。
だって一人目から予定よりレア度高めの女性英雄だぞ?
女性英雄だぞ?
これで全部情報開示してからじゃないと創造出来ないとか、生殺しにも程があるだろ。
なんか名前も可愛い感じだし、これはきっと見目麗しい女性英雄が出てくるはずだ。
……アレだな。
今回のガチャで出た英雄は基本的に巡回と前線勤務の予定だったけど。
一人ぐらいなら、秘書の増員に当てても許されるよね?
「では……『創造』!」
俺は口に出すと同時に、頭の中でも『創造』と念じる。
すると俺の手元から青く光る石が離れていき、未だカプセルが転がる床へと落ちていった。
青い石が放つ光は強さを増し、石を中心として青い光の柱が立ち上る。
暫くして光の柱が止んだあと。
そこには、軍服を身に纏った一人の女性が立っていた。
前髪をアシンメトリーに左右に分けられたボブカットの髪は、少し白に近い金色の輝きを放っている。
帽子の鍔の陰から覗く瞳は血のように紅く、まるで作り物のガラス玉みたいに綺麗だった。
少し鋭い目つきだが、目が大きく顔に幼さが残るからか、恐いという雰囲気は感じない。
整った目鼻立ちは彼女が美人であることを示しており、まるで外国人モデルのような顔立ちだ。
……少し胸は残念だが。
いや、貧乳じゃなくて微乳だから。
まな板じゃなくてちゃんと盛り上がってるから。
ちょっと控えめなだけだから。
アレだよ、流石にジロジロ見るのは良くないから、ちゃんと見てないからちょっと貧乳かな?って思っちゃっただけだから。
……子ども体型なのに微妙に胸があるナルキアよりも小さいとか、ないはずだから。
「君が、レイチェルか。」
「ハッ、レイチェル・バレンタインと申します。階級は少佐。我らが神よ、私を呼び出して頂き有難うございます。この身命、神に尽くすことを誓います。」
お、おう。
やっぱりというか何というか。
軍人だから反応が堅いな。
背筋をピンと伸ばして綺麗な敬礼してるよ。
最近は他の軍人英雄達とは結構フレンドリーに接してたから、この反応は懐かしい反応だな。
量産英雄三人もジョンも、一番最初は結構堅い反応してたしな。
にしても美人だな。
ちょっと背が低めで可愛らしい印象もあるけど、顔立ちが凛々しいから美人って言葉の方が似合う感じだ。
うん、これは良い。
なんか前線や巡回に出すのが勿体無いぐらい可愛い子だ。
能力的にはちょっと秘書向きの智謀があるのかは微妙だけど、秘書が出来るか聞いてみるか?
十人も英雄を創造するんだし、一人ぐらい秘書に追加してもいいでしょ。
「そう堅くなる必要はない。楽にしていいぞ?それと、私のことはファントムと呼んでくれ。」
「ハッ、ファントム様。この身は生前から神に捧げた身。何なりとご命令を。」
レイチェルは姿勢も敬礼も崩さずそう言った。
……いや、楽にして良いって言ったんだけどね?
そっちが楽にしてくれないと、俺も楽に出来ないんだけども。
これから俺は、どうやって君を秘書に任命するか考えないといけないんだから、もっとリラックスさせてほしいんだけど。
「レイチェルさん、ファントム様もそう仰ってますから、楽にしても構いませんわよ?ファントム様は堅いのを好まない神様らしくない神様ですから、多少乱暴なことを言っても怒ったりしませんわ。」
ハッハッハ。
おいおい、ナルキアよ。
なんでお前が俺を神様らしくないだなんて言ってんだよ。
言ってることは間違ってないんだが、それはお前じゃなくて俺のセリフだろ。
いや、実際に神様じゃないからその通りなんだけどさ。
まぁ、ナルキアだから言える言葉なんだけどな。
だってナルキアはこの世界に居る英雄の中でもトップクラスに優秀で、俺に対して遠慮してない英雄だし。
何せ、俺は『せめて』程度の神様だもんな。
相当昔に言われたことだが、ちゃんと俺は覚えてるからな?
「……そちらの方、お名前は?」
「あら、私としたことが自己紹介を忘れてましたわ。私はナルキア・リッソールと申しますの。ファントム様の秘書を務める英雄の一人ですわ。これから宜しくお願いしますね?」
そう言ってナルキアは、スカートの端をつまみ上げながら綺麗な礼をしてみせる。
こういう一々芝居がかった動きって、普通に見ると痛々しく感じるもんなんだが、ナルキアがやると堂に入ってるから違和感があんまりないんだよな。
少なくとも、俺のレッツ、ガチャゴーよりは痛々しくない。
……うん、自虐は止めよう、死にたくなる。
「……宜しく。」
……うん?
なんだなんだ?
なんか、レイチェルのナルキアに対する反応が刺々しくないか?
「ナルキアさん、一言宜しいでしょうか?」
「あら、なんですの?」
レイチェルがそう言いながら、俺の目の前からナルキアの前へと移動した。
そしてレイチェルとナルキアは向かい合って視線を交える形になる。
……なんだ。
嫌な予感しかしないぞ。
ってか、このパターンは前にも見たことある気がするぞ。
具体的に言うとナルキアとシュナを創造した時に、過去二回ほど。
「我らが神に対して神様らしくないとは何を仰ってるのか、理解しておられるのですか?我らを英雄として創造し、我らに再び命を与えてくれたのは神なのですよ?その神に対して何ですかその態度は!貴方には、神に対する信仰心がないのですか!?」
……。
やっぱりか。
やっぱり、俺が呼び出す女性英雄は、どこかオカシイのか。
レイチェルが、急にナルキアに対して説教し始めたよ。
途中から徐々に語調が強くなってるし、もう殆ど喧嘩売ってる感じだろこれ。
ちょっと、勘弁してくれよ。
これ、どう見ても敬虔な神の信徒っていうか、ちょっと狂信に入ってるだろ。
ちょっと「神様らしくない」って言っただけで、突然喧嘩を始めるとか。
……俺の元には、まともな女性英雄は来ないんだろうが。




