メッキの内側の欲望。
申し訳有りません、第三部に入ったはずなのに目次に第三部の章タイトルを追加するのを忘れていました。
多分この章タイトル通りの話の流れになると思いますが、まだ書いてない部分もあり、もしかすると今後章タイトルが変更となるかも知れません。
かなり雑な対応となってしまい申し訳ないのですが、もしも章タイトルが変更となった場合には、変更前の今のタイトルで元々はどんな話にしようと思っていたのか、それを何故変更したのか、等を考察するという微妙な楽しみ方でもして頂けると幸いです。
俺は、名案を思いついた。
この案を思いついた俺を、誰かに褒めて欲しいレベルの名案である。
現在の場所は執務室。
秘書達はいつものように書類と格闘しており、俺は神様同盟宛に届いた依頼を片付け終えて少し暇になった状態だ。
昨日は朝から神殿の外に出て、街の様子を色々と見て回っていた。
だがその視察によって、俺は一つ分かったことがある。
この世界に俺がやってきてから。
この世界は何処かが歪んでいる。
その歪みに耐えきれなかった俺は、昨日は視察を早めに終わらせて神殿へと戻ってきた。
視察を中断した理由を秘書に聞かれたが、それについては明日話すと伝えて、俺は中断した理由をどう説明しようか、昨日から考えたわけだ。
そして、名案を思いついた。
この世界に出来てしまった歪みを直しながら、俺も得するという名案だ。
これから俺は、秘書達にその名案について話そうと思う。
だがその前に、途中で混乱しないように一度頭の中で話を整理した方がいいな。
―・―・―・―
俺がこの世界に神として降り立ってから、この世界には大きな変化が訪れた。
神様ネットワーク運営からこの世界に管理神として派遣された俺は、邪神の手先に奪われた人類領土を取り戻すべく、多くの英雄を創造してきた。
創造した英雄達の多くは、邪神の手先が居る前線へと送られたが、邪神の手先は後方の都市内にも出現するため、英雄達は既存の都市の巡回任務にも就いている。
その巡回任務に就いている英雄達は、この世界の邪神の手先を倒して得た英雄の魂を使って創造したもので、この世界出身の英雄が殆どだ。
そのため、殆どの英雄が同種……つまり、同じ顔の英雄達となってしまった。
この世には、同じ顔の人間が最低三人は居るという話がある。
だがこの量産英雄達は、三人どころじゃなく数十人も同じ顔が存在するのだ。
そんな英雄達が街中を闊歩しているとなると、街中には同じ顔の人間が溢れかえるという、世にも奇妙な光景が多々見受けられることになる。
市民達は例えそれらが味方であると分かっていても、不気味に思い気味悪がってしまうだろう。
という問題は、実はかなり初期の段階で露見していた。
のだが、俺は実際にその様子を見たことがなかったので、その事実を重く受け止めていなかったのだ。
そして昨日、街を視察して見た光景。
同じ顔の人間が街に溢れかえっている様子。
それは、俺の心をガリガリと削るような光景だった。
一応彼ら同じ顔英雄達は、軍務中は軍服と帽子の模様で区別が付くようにしてあるのだが、同じ体格で同じ顔、更には同じ声で同じ過去を持った人間が多数存在しているのだ。
俺は実際に街を視察することでそのおぞましさを体感し、初めて気がついた。
これは、由々しき事態であると。
しかも問題はこれだけじゃない。
他にも大きな歪みは存在していたのだ。
それに気付いたのは、視察終盤に広場で見たシュナの演説風景だ。
この世界は元居た世界でいう近代に近い時代の世界であり、銃や戦車が存在し、市民の服装も現代ほどではないがかなり機能的で洗練されたスタイルである。
それに対して女性英雄のシュナは、銀の甲冑を身に纏い、細身のランスと剣で武装している、どう見ても物語の中でしか見ないような戦乙女の様相だ。
しかも、その戦乙女が宙に浮かんで天に掲げた槍を光らせているというのだから、その姿は神話の世界から飛び出してきたと言っても過言じゃない様相である。
そんなシュナの演説に、近代服装の民衆が集まっている光景。
俺がそれに感じたギャップは、俺の感覚からするともの凄い違和感を感じられ、正に歪んでいるとしか思えない光景であった。
そして、一番大事な問題は。
そんな同じ顔英雄達と、神話的の姿なシュナに。
民衆達が全く違和感を感じていないという事実である。
街中では、量産軍人英雄達は驚くほど街の人々と馴染んでいた。
道路を渡るのに英雄に手を引いてもらう老婆に、英雄に道を尋ねる女性。
英雄を追い回す女性に、英雄と遊ぶ孤児院の子ども達。
英雄にナンパされる女性に、英雄とデートする女性。
そしてシュナは、演説で多くの市民を沸かせていた。
市民達はシュナの言葉に真剣に聞き入り、シュナと共に熱狂して声を上げる。
その誰もが、シュナの装備にも、シュナが浮いていることにも、槍が光っていることにも、違和感を感じていない様子だった。
そう。
この世界の人々は、驚くほどに英雄達を受け入れているのである。
確かに英雄達は、頼りになる存在だ。
高柳君もエーリッヒもクロードもシュナも、みんな人当たりが良くて基本的に善人だと言える英雄だ。
そんな彼らが街の人達に受け入れられるのも、分からないでもないと思える。
だが。
英雄達は、万夫不当の力を持った存在でもある。
言ってしまえば、明確に人間とは違う存在なのだ。
突然現れた、大きな力を持った存在達。
例えそれらが味方であり、自分達を助けてくれるのだと分かっていたとしても。
人間はそう簡単に彼らを受け入れることが出来るのだろうか?
ぶっちゃけ、俺なら出来る自信がない。
だって、英雄達ってもの凄く強いんだぞ?
資材を使って戦場で戦ってる姿とか、これって本当にリアルなの?漫画かアニメの世界じゃないの?って聞きたくなるぐらい激しい戦い方だし。
普通の自動小銃で撃ってるはずなのに、着弾した木々や岩に大穴開けて吹き飛ばすんだよ?
しかもそれが出来る兵士達を、英雄一人で五十人ぐらい召喚するんだよ?
ぶっちゃけ傍目で見てたら、アレもう歩兵の集団じゃなくて戦車の集団だよ。
いや、連射が利いて小回りが良い分戦車より酷かったよ。
兵士を呼び出さない単体戦力のクロードに至っては、銃弾が着弾した地点で爆発が起きてたからね。
地面に直径三メートルぐらいの穴が開くんだよ?銃弾一発で。
しかも格闘で邪神の手先と戦う時には腕やら足やらもぎ取ったり、殴って腹に大穴空けたりするんだよ?
シュナに至っては一人戦闘機である。
いや、遠距離攻撃じゃなくて近接攻撃がメインだから、戦闘機並の速度で獲物に突撃する鷹みたいな感じだ。
持ってる槍で邪神の手先を貫くというか、邪神の手先を水風船を壁に叩きつけたみたいに弾けさせてたからね。
あれが一番人間じゃない。
本当に、なんなんだよアイツら。
木とか岩とか地面とか敵とか、穴開けすぎだろ。
人間掘削機かよ。
……と、そんな俺の感想は置いといて。
市民達はまぁ、そんな戦場での英雄の活躍を実際に見てはいないんだ。
だからそこまで怖がることがないってのにも、多少は理解出来なくもない。
だけど、英雄達は資材を使わなくとも、普通の人間の比じゃないぐらい強い。
どれぐらい強いかと言うと、街中に沸いて出た邪神の手先に銃弾を当てると、人間の軍人だと弾が皮膚にめり込む程度らしいけど、英雄だと弾が貫通出来るぐらいに強い。
そんな英雄達の強さを、街中に邪神の手先が出現した時に市民達も見ているはずなんだよ。
だから、幾ら自分達を護ってくれる存在だからといって、一切怖がられないなんてのはおかしいと思うんだ。
それに、シュナだよシュナ。
そりゃさ、英雄の中には他の世界出身の英雄も居るんだってことは皆知ってるのかも知れないけどさ。
人が空飛んでるんだぞ?
しかも槍が光ってるんだぞ?
いやそれ以前に、銀色の甲冑着込んで槍と剣持ってる女性とか、普通に考えてちょっと受け入れられないだろ。
そんなの、サブカルチャーが溢れてる現代からやってきた俺でも、リアルに見たらちょっと引くぞ?
なのに何であいつら市民はそれを簡単に受け入れてんだよ。
しかもそんなシュナの演説聞いて、何であそこまで熱狂的に支持できるんだよ。
いやまぁ、量産軍人英雄にしてもシュナにしても、受け入れられてるのは悪いことじゃないし、そのこと自体は何も問題はないんだけどさ。
普通じゃないことが、普通と認識出来るようになる。
それには、本来ならば相当な時間が必要になるはずなんだ。
俺だって、元居た世界で地元が再開発されて大きく変わった風景を写真で見た時、その変化を受け入れるのにそれなりに辛かったしな。
自分の記憶にあった景色が無くなり、見慣れてた畑も、よく通った道路も消えて、思い出の中にしか残っていないという事実。
俺はそんな地元の変化に、未だに違和感を覚えてたりするんだぞ?
なのにこの世界の住人達は、俺の地元どころじゃない変化を、いとも容易く受け入れて馴染んでいる。
俺にはその事実が、歪んでいるとしか思えなかった。
だから俺は、一つの解決策を用意した。
歪んでしまった民衆達の常識を、僅かでも軌道修正するための策だ。
今回の策では大きな効果は見られないかもしれないが、それでも小なりとも効果があるだろうと俺は踏んでいる。
俺は、この世界を守りたい。
そして、この世界の常識も守りたい。
この世界が健全な世界として存在するために。
俺はそんな思いで、この策を用意したのだ。
―・―・―・―
「また、新しい英雄をガチャで呼ぶのですか?」
俺の言葉を聞いたクロードがそう言った。
「ああ、少し考えがあってな。信仰も大分余っていることだし、戦力の向上も兼ねて、今度は軍人英雄のガチャを引こうと思っている。」
「少し前にティトラお兄さまの歓迎会をしたばかりですのよ?戦力は今でも過剰なぐらいですし、必要ないのではありません?」
「戦力に関しては問題ないのかも知れないが、先日の視察で気になる点があってな。それを解消するために、新たに軍人英雄が必要ではないかと思ったんだ。」
ナルキアの正論に、俺は予め用意していた言い訳を持ち出して返事をする。
確かに戦力は現状でもほぼ過剰戦力であり、ティトラ君を呼び出してからそんなに時間が経っていないので反発がくるだろうとは思っていた。
だが、それを跳ね返せるだけの言い訳を、俺は用意してあるのだ。
そう、これは。
世界の常識を守るために必要なことなのだ。
決して、俺がガチャを引きたいわけではない。
前回間違えてしまって女性英雄が出てこなかったから、今度こそ新しく女性英雄が欲しいわけではない。
最近かなりストレス溜まってるから、それを解消したいというわけでもない。
これは、この世界のために必要なことなのだ。
決して、私利私欲に走ったものではないのだ。
そのあと俺は、視察で気付いた市民の常識に生じた歪みと、その歪みを解消する方法を秘書達に伝えた。
俺が考えた歪みの解消方法とはこうである。
この世界が歪んでしまっている原因は、大きく分けて三つある。
一つが、同じ顔の英雄が大量に存在すること。
もう一つが、時代に合わない英雄が存在すること。
そしてもう一つが、明らかに世界観が違う、魔法系英雄が存在すること。
これらの問題点のせいで、市民達は常識が歪み、違和感を違和感と感じれなくなってしまっているのだ。
その結果、彼らが脈々と受け継いできた価値観や文化に、大きな影響を及ぼすかもしれない。
そのような事態を、この世界を管理する神としては見過ごしておけないのだ。
しかしこの問題点は、根本的な部分を解決するのが難しい問題だ。
何せ完全に解決したいのならば、原因を取り除かなければならないのだから。
それはつまり、量産軍人英雄やシュナを巡回に出さないようにする必要があるということだ。
だが、確実に都市の安全を確保するためには、彼ら彼女らを巡回から外すことなど到底出来ない。
それに英雄達には結婚してほしいと言ったばかりなのに、彼ら彼女らの結婚相手候補でもある、貴重な市民達と触れ合いの時間を削ってしまうわけにもいかない。
だから俺は、逆の発想で考えた。
減らせないのなら、増やしてしまえばいいじゃない。
そう、増やす方向で問題を解決しようと考えたのだ。
かと言って、闇雲に英雄を増やすだけでは逆効果だ。
同じ顔英雄も時代や世界観が違う英雄も、増やしてしまえば歪みを助長するだけで、世界常識の歪みを更に歪めてしまう結果になるだろう。
だから俺は、軍人英雄を増やすのだ。
同じ顔でもなく、時代設定に齟齬がなく、世界観も違わない。
そんな英雄を増やすことによって、市民達から失われようとしている常識を、少しでも正常な方向に戻そうと考えているのだ。
分かりやすく言ってしまえば、非常識の塊である現在の巡回部隊の中に、真っ当で常識を正せる方向の英雄を混ぜることで、街に蔓延る違和感を薄めて中和しようという話である。
俺が執務室に広がる黄土色の空気を中和しようとしてるのと同じ感じだな。
変な空気を排除出来ないのなら、香水のようないい香りを追加して誤魔化すしかないのだ。
実は言うとこの方法は、今まで取ってきた方針とは真逆の方針なのだ。
かなり前の話だが、ナルキアがこの世界に創造された時に、街に同じ顔の英雄がいっぱい居て市民が混乱しているという話が持ちかけられたことがあった。
その時ナルキアは、逆に量産英雄の数を増やして慣れさせてしまえば良いと言い、実際に同じ顔の英雄を増やすことでその問題を解決してみせた。
だが、それが今回の問題へと繋がる第一歩だったのだ。
当時ナルキアが思いついて実行した策は、確かに慣れさせることで市民の動揺を解消することができた。
しかしそれと同時に、慣れてしまうことで市民達が持っていて当たり前だった常識を崩してしまったのだ。
今はまだ、常識が歪んでしまったことで大きな問題は起きていない。
だが今後、その歪みが原因でどんな問題が起きるのか分からないのだ。
この世界の歴史から来る価値観と、現在馴染んでしまっている新しい価値観。
それがどこでバッティングを起こして、どの様な問題を起こしてしまうのか。
それはもう、元々がこの世界出身ではない我々には、理解出来ない領域である。
問題とは、見えない問題が一番怖いのだ。
見えている問題は対策が取れる分、それほど怖くはないのだ。
そんな見えない問題の、原因と成り得るものが分かっていてそれを放置することなんて、最高権力者であり為政者である俺は座視出来ないのである。
という建前を熱弁してみせた。
途中で熱くなってかなり入れ込んだ説得になってしまってたが、まぁそれぐらい意気込んでた方が建前が建前だってことがバレないから良いんじゃないかな。
本音がバレるとマズいしね。
本音はこの建前を利用して、女性英雄を増やしたいだけなんだし。
世界を救うために捧げてもらった信仰を、俺の欲を満たすためのガチャで大量に消費してるとかバレたら、かなり批判されそうだしな。
いや、批判されるのはまだ良い。
バレてしまった結果、俺がガチャを引く回数を制限されてしまうかもしれないのが一番怖い。
理由を用意しないといけないが、ガチャ権行使に対するアドバンテージを握ってる現状を、出来るだけ崩したくない。
ガチャは俺のライフワークなのだ。
そのガチャが引けなくなるなんて、もう神様をやってる意味がないってレベルで大問題であると言える。
「……ファントム様の仰る通りですわね。常識が歪むことによる弊害ですか、それは考えたことがありませんでしたわ。」
ナルキアが俺の言葉を受けて、殊勝なことを言っている。
いや、ぶっちゃけ俺もそんな深いことは考えて言ってないんだけどね?
常識が歪んだら問題が起きそうな気がするだけで、どんな問題が起きるかとか全く考えてないし。
どうせこれ、建前なんだし。
「流石ファントム様ですね……神であられるからこその、高みからの視点というものですか。我々では気付くのが難しい点でした。」
高柳君よ、そんなに褒めるでない。
というか正直言って杞憂レベルの指摘なんだし、そんな褒められたような提案じゃないと思うよ?
いやまぁ、空が落っこちてくるよりは可能性が高そうだけど、もしも実際に問題が起きたとしてもその時に対処すればいい話だと思うし。
まぁ、問題が起きた時には秘書の君達に丸投げするつもりだけどね。
「皆、これで私がガチャを引く理由を理解して貰えたと思う。それで、今回は同じ顔の英雄でなく、時代が違う英雄でもなく、魔法等のこの世界に存在しない力を持たない、他の世界の軍人英雄が出るガチャを引こうと思っている。」
「なるほど、他の世界の軍人英雄であれば、他の世界の軍略を学ぶことにも繋がりますな。純粋な英雄増加による戦力向上以外にも、別方面からの戦力向上も見込めますか。」
おお、クロードってば良いこと言うじゃん。
それ考えてなかったけど、採用な。
「その通りだ。他の世界の技術体系を取り込むことも重要だ。民衆にとっては歪んだ常識や認識を正常に戻すために。そして英雄にとっては、固まってしまいがちな固定観念という常識を打ち破ってもらうために。私は他の世界の軍人英雄を呼びだそうというわけだ。」
「なるほど。それでしたら、出来るだけ早期に創造した方が宜しいですね。ティトラ君の創造からそれほど経っていないのに提案なされたこと、納得致しました。」
うん、なんかエーリッヒが上手いこと俺をフォローしてくれたな。
確かにそうだね、これを建前に追加するなら、ティトラ君の創造から間もないことの言い訳にも使えてたね。
いやぁ、俺の言い訳スキルもまだまだだなぁ。
もっと精進しなければ。




