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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第三部:強さが全てではないんです。
54/59

俺がおかしいのか、俺以外がおかしいのか。


 食堂では、ウエイターの双子君が俺を出迎えてくれた。

 同じ顔繋がりで一瞬頭痛が再発しかけたが、俺は頭を振って痛みを振り払う。


 双子君の片方に案内されて席に座った俺は、前々から食べてみたかった料理を注文してみた。

 そして、注文の品をわざわざ持ってきてくれた店長と軽く世間話をしてから、届けられた料理を口にする。


 俺が注文した料理は、無銭飲食した時に一口しか食べれなかった料理だ。

 あの時はすぐに無銭飲食に気が付いて頭が真っ白になったから、この料理の味を覚えてなかったんだよな。

 あんまりいい思い出がない料理ではあるが、かと言って一度も食べないというのは、理由的になんか悔しい。

 そう思い、俺はこの料理を注文したのだ。


 そしてその味は……。


 ……うん。

 まぁ、普通かな?


 いや、不味くはないし、どっちかって言うと美味しいんだけどね?

 厨房でバイト中に横目に見てた限り、店長も奥さんも料理の腕はいいと思うんだけど。

 材料の質が悪いからか、素材の味が良くないんだよねぇ。


 神殿の食堂に勤めてるコックさんなんかは、この世界でも貴重な有数の料理人らしく、いつも食堂で出してくれる昼食は微妙な味だけど、歓迎会の時なんかに俺が出した缶詰を使うと、びっくりするぐらい美味しい料理を作ってくれるしね。

 きっと店長も店長の奥さんも、ウチのコックさんには劣ってもかなりの料理上手なんだろうけどさ。

 根本的にこの世界は食材は、質が悪いんだよなぁ……。


 とは思っても、それを顔に出したりはしない。

 俺は無言で完食したあと、会計役の双子君の片割れに笑顔で美味しかったと伝えてから、バイトで得た給金で支払いをして店を出ていった。


 ……なんか、癒されないな。

 いや、別にこの店が悪いわけじゃないんだけどさ。

 でも、美味しい料理を食べて癒やされたかった身としては、なんか釈然としない気持ちになる。




 店を出たあと俺は、神殿へと向けて歩き出した。

 時刻はまだ十二時を少し過ぎたところだ。

 移動時間を抜くと、店には十分ぐらいしか逗まっていなかったことになる。


 たった十分しか店に居なかったのは、別に料理が不味かったからではない。

 いや、美味しくはなかったけど。

 そういう理由ではなく、ただ単純に店に居座ってゆっくり出来るような空気じゃなかったというだけなんだ。


 あの食堂は、近所の労働者達が集まっていてかなり盛況な様子だった。

 俺は少し早めに来ていたのですぐ席に座れたのだが、もしも少し遅れて入店していたら待ち時間があったかもしれないぐらいだ。

 俺としては疲れた心を癒やすためにゆっくりして居たかったのだが、混雑している店の状況を見ていると、若干気持ちに焦りが出てくる。


 何せ俺が席を占拠していると、待っている他の客が店に入れないのだ。

 その結果、店の売上が減ってしまうだけではなく、俺自身が席を占拠する迷惑な客として店長や他の客から顰蹙を買ってしまいかねない。

 この店でバイトをしている身としては、そんなことで不興を買うのは勘弁してほしいし、いち従業員としても店の回転率を上げた方がいいかなって気持ちになる。


 だから俺は店に居座らず、パパっと飯を早食いして店から出ていったのだ。


 いやぁ、昼飯時だと客が多いってのを忘れてたんだよなぁ。

 流石に、席が空いてるファミレスみたいに、あの場で長々と居座ってダラダラ出来るような度胸は俺にはないよ。


 あと、あのまま居座ってたら店長が怒鳴ってきてただろうし。

 あの店長に怒鳴られるのは、ダメダメだったバイト初日を思い出して辛くなるから嫌なんだよ。

 若干トラウマになってるんだよ、アレ。




 ―・―・―・―




 店を出た俺は、神殿へと向かって歩きだした。


 本来なら俺は、昼飯を食ったあとそのまま街の探索を続ける予定だった。

 だが、なんというか……。

 あの同じ顔英雄達との連続遭遇が、思ってた以上に俺の心をガリガリ削ってたみたいで、なんか疲れてるんだよな。

 だから一旦休憩というか、ゆっくりしたいんだ。


 当初の予定より自分が疲れてることに気が付いて、疲れを癒やすために食堂で食事でもしながらまったりするつもりだったんだけど、昼飯時には人が結構多いってことを忘れてたんだよなぁ。


 やっぱり、適当に計画立てるとミスが多いな。

 かと言って事前にガチガチに予定を決めてると、今回みたいに予想外に疲れた時とか困るし。

 こういった予想外の事態にも迅速に対応出来る能力があるのが一番良いんだろうけど、それも難しいしなぁ。

 まぁ、そもそも予想外の事態がないってのが一番良いんだけども。


 それは置いといて。

 妙に疲れてしまったので、一旦休憩がしたいのだ。

 だから俺は一旦神殿前の広場に戻って、広場のベンチに座ってまったり休憩することにした。




 俺は道中でまた高柳君とクロードを見かけながらも、目的地である神殿前広場へと戻ってきた。

 この広場は、俺が住んでいる神殿を建てる際に、一緒に造られたものらしい。

 かなりの広さがある広場で、この広場を建てるためにどれだけの土地に立ち退きを要求したのかとか考えると頭が痛くなってくる。


 ……いや、俺は休みに来たんだ。

 疲れるようなことを考えるのはやめよう。


 この広場は公園とは違って、子ども用の遊具や運動場みたいなスペースはない。

 だが、一般の広場のイメージ通りに噴水や水路や池があったり、植樹でもしたのか芝生に木々が生い茂っていたりと、自然公園のような創りとなっている。


 今は昼飯時だからなのか、朝に神殿から出た時より多くの人が広場に集まっていて、中々ゆっくり座れそうなベンチは見つからない。

 きっと敬虔な信徒の皆さんが、昼休みを利用して礼拝堂で信仰を捧げてくれて、その帰りに広場でまったり休憩でもしているのだろう。


 そう思うと、広場で座れるベンチを探しててもイライラしないな。

 だって彼らは、俺のために信仰を捧げてくれてるんだから。

 疲れたからさっさと座りたいけども。


 今は神様救済同盟で神様を救済した報酬……いや、救済に対する寸志として受け取った信仰が大量に余ってるから問題ないんだけど、信仰ポイントってのは幾らあっても困らないしな。

 ガチャ以外にも俺の飯とか飲み会の酒とか、色々使い道はあるし。


 ……いやいや、大丈夫ですよ?

 しっかりこの世界を守るために、緊急事態があった時には英雄活動用資材の費用としても使うつもりですから。

 アレですよ?英雄との飲み会は交際費で、経費で落ちるタイプだと思いますし、歓迎会での缶詰提供も同じく交際費ですから。


 俺がこっそり食ってる昼飯の缶詰は……。

 まぁ、それぐらいの私的利用は見逃してほしい。

 神様なんて重責負ってるんだから、少しぐらい役得があっても良いと思うんだ。




 俺は座れそうなベンチを探して広場を彷徨っていると、奇妙な人集りが出来ているのを見つけた。

 神殿の入り口にほど近い位置で、普段は炊き出しなどを行っている沢山の人が集まれる空きスペースに、老若男女を問わず多くの人が集まっていた。


 なんだ?炊き出しか何かやってるのか?

 と思ったが、集まっている人達の服装は貧民のそれではなく、ごく一般的な服装の人達だ。

 一部には、富裕層らしき服装の人も見かけられる。


 なんだなんだ?

 一体何があったっていうんだ?


 そう疑問に思っていると。

 人集りの向こう側で、誰かが宙に浮かんでいるのが見えた。

 その人物は集まった民衆を見下ろしながら、手に持った細身の槍を天に掲げる。


 この世界で空を飛べるだろう人物は、俺が知っている限り数人しか存在しない。

 そして、民衆越しに見える特徴的な装いをした、槍を持った人物。

 そんな人物は、俺の記憶には一人しか居ない。


 銀の甲冑を身に纏い。

 青みがかった銀色の長髪を風に靡かせながら。

 手に持った細身のランスを天に掲げるその姿。


 そう。

 ズボラ乙女こと、戦乙女のシュナである。




 そういえば、最近シュナって見てなかったな。

 いや、シュナは各地の巡回任務や前線勤務をしてるんだけど、高速飛行スキルがあるお陰で前線にも巡回予定の都市にも神殿から通ってるから、神殿内でもちょくちょく見かけはするんだけどさ。

 でも、普段から見ている秘書達や常時神殿内勤務のジョンと違って、殆どは神殿の外で活動してるシュナだから見かける機会が少なかったんだよなぁ。


 一応、戦場画面を通してシュナを見ることは出来るんだけど、戦場画面は神様ネットワークの操作画面や好感度イベントの画面と違って他の英雄にも見えるから、戦場画面で何を見てるのか周りにバレバレなんだよな。

 シュナが映ってる画面を食い入るように見てるとか、なんか変態っぽくて恥ずかしいし。


 そもそも戦場画面で英雄達を見るのって、なんか盗撮してるみたいで凄く嫌なんだよな。

 なんか罪悪感が込み上げてくるというか……。

 ただでさえ俺は自分を神様だって偽ってたり、好感度イベントで強制的に覗き見させられてたりするんだから、あんまり負い目がある行動はしたくないんだよ。


 だから俺は、普段はシュナの姿をあんまり見ることがなかった。

 一応、ズボラな性格を除いたら英雄の中では貴重な見目麗しい女性英雄で、年齢といいスタイルといい結構理想的な女性なんだけどなぁ。

 ズボラで生活力皆無なのがなぁ……。




 それで。

 そんなシュナが神殿前で人を集めて、何をしようとしてるんだ?


 俺はシュナの仕事のシフトとかを把握してないから、シュナが今日は仕事日なのか休日なのかも分からん。

 だからシュナが今からやろうとしてることが、公的なものなのか私的なものなのかすら分からんぞ?


 俺が戸惑っている間に、シュナは口を開いて話を始めた。

 シュナの透き通った声が周囲に響くと同時にざわついていた民衆は静かになり、シュナの言葉に耳を傾ける。


 シュナはどうやら、民衆に向けて演説を始めたみたいだった。

 この世界の状況。

 英雄達の戦力状況。

 前線の解放進展状況。

 等々、色々な情報を民衆へと開示しながら、勇ましく演説している。


 そして、今言った全ての状況に問題は発生しておらず、この世界は順調に平和を取り戻してていっていると宣言し、民衆を煽っていた。

 それに応えて民衆達も大きな歓声をあげ、広場の一角が熱狂の渦に包まれていく。




 そんな光景を、少し離れた場所でベンチに座りながら見守る俺。

 ちょうど演説が始まる直前にベンチを離れていった人が居たので、そこに座って演説風景を眺めていたのだが。


 ……なんか、この光景が凄く怖い。


 いやまぁ、俺が元居た世界でも、アイドルなんかのコンサートだとこれぐらい熱狂することもあったと思うんだ。

 だからこの光景も、シュナをアイドルに、民衆をファンに置き換えると、結構納得がいく光景ではあるんだよ。


 でも、なんだろう。

 何か見ていて違和感があって怖いんだよな。

 この違和感は何なんだ?


 俺は僅かに感じる恐怖の理由、違和感の根源を探すため、一人静かに考える。

 目の前では、演説開始時から更に人数を増やして民衆から群衆と化した集団が、熱狂に任せてシュナの煽りに乗って神様万歳、ファントム様万歳の言葉を繰り返し続けていた。


 なんだよこれ。

 いや、俺はお神輿だから、崇められるのはある程度仕方ないとは思うんだが。

 これは流石に、恥ずかしすぎるぞ。

 ちょっと、考え事に集中出来ないから止めて頂きたい。

 まぁ無理だとは思うけど。




 とにかくだ。

 この光景は確かに熱狂し過ぎてて、普通に怖いとは思うのだが。

 それ以外にも怖いと感じる違和感があったのだ。

 その違和感とは何だ?

 一体何がおかしいんだ?

 取り敢えずはアレだな、この状況を客観的に俯瞰して考えてみようか。


 先ず、集まっている民衆達。

 民衆達はみんな、腕を天に突き出しながら大声を張り上げている。


 その年齢層は幅広く、成人男性や成人女性だけじゃなく、壮年や熟年を過ぎた男女も混じり、少しだが十代前半だろう少年少女も参加している。

 流石に腰が曲がった老人や十歳にも満たない子どもは参加してないみたいだが、広場を見渡すと少し離れたところでそういった年齢層の人達も演説を見聞きしているようだ。


 しかしこうして見てると、色んな人が集まってる光景ってのは面白いもんだな。

 スーツを着た男性やらブラウスにロングスカートの女性やら、少し古い感じではあるけど現代に近い服を着てる人がたくさん居るし。

 最初は異世界って聞いて、どうしても中世ファンタジーな異世界ってイメージがあったんだけど、この世界は元居た世界の近代に近い文明を持っている世界なんだよな。

 だからこの世界に住んでる人達は、少し古臭く感じるけど、結構洗練されたデザインの服を着てたりする。


 そしてその演説の先頭で、宙に浮かんでいるシュナ。

 銀色の甲冑を身に纏い、その手には細身の槍を持って腰に剣を差している。

 手に持ったランスを天に掲げ民衆を煽る姿は、まるで中世に民衆を煽って革命を促してる騎士って感じだな。

 いやまぁ、宙に浮かんでるし、少しだけ槍を光らせてたりするからちょっと現実離れしてるけど。




 ……ああ。

 そうか、違和感の元はこれか。


 現代にほど近い、洗練されて機能的なスーツやらタキシードを着た紳士や、ブラウスやワンピースみたいな服を着た淑女達。

 それに対して、中世感バリバリな銀の甲冑を着込んで帯剣し、槍を掲げている戦乙女。


 現代に近い近代の装いをした民衆達が、中世の騎士さながらの戦乙女に熱狂しているこの構図。

 俺はその、ミスマッチな部分に違和感を感じていたのか。




 ……いや、気付くとヤバイなこれ。

 本当に違和感が半端じゃないぞ、おい。


 軍服を着た軍人が自動小銃担いでる世界で、スーツやワンピースを着た近代的な服装の民衆相手にだぞ?

 銀の甲冑着込んで頭に羽飾り付き額当てをした戦乙女が、宙に浮かびながらランスを振り上げて煽ってるとか。

 なんだこの風景は。

 どう考えても普通じゃないぞ?


 いやまぁ、俺もサブカルチャー溢れる現代に産まれ育った現代人だ。

 社会人になってから疎遠になっていたが、青春時代にはゲームや漫画も良く見ていて、その中にはこういったミスマッチなキャラを組み合わせた話なんかも沢山あった。


 だが、これは現実だ。


 実際に騎士風に武装した女性が空に浮かんでいて。

 それに疑問も持たず、近代的服装の民衆が集まっている。

 その光景は余りにも異様で、違和感が半端ではない。

 そしてそれが、紛れもなく現実であるというこの事実。




 ……頭が痛くなってきた。


 なんでみんな、シュナをそんな簡単に受け入れられてるんだ?

 いやまぁ、同じ顔の英雄がそこら中に居るんだから、これぐらい大した問題じゃないのか?

 それはそれでどうなんだ?

 なんか、感覚が麻痺してないか?


 俺は少し脱力しながらベンチから立ち上がり、その場を離れる。

 これ以上この場に居ると、非現実的な現実に自分も呑まれ、俺の中の常識が狂わされそうな気がしたからだ。


 広場から大通りへと出て、次はどこに行こうかと考える。

 すると、私服姿の高柳君二人が、女性に追いかけられて逃げている姿が目に入った。

 それから目を背けると、今度はクロードとクロードが広場で遊ぶ子どもを眺めながら会話をしてるのが目に入る。

 更に目を背けると、道を渡ろうとする老婆を二人のエーリッヒが手伝っていて、その奥では私服のエーリッヒが女性をナンパしている姿が見えた。




 ……。

 ……なんか、疲れた。


 俺はその場で踵を返し、広場へと戻っていく。

 そしてそのまま広場を通り過ぎ、神殿の中へと入っていった。


 もうダメだ。

 頭が混乱して、疲れた。

 今日の視察は終わりにしよう。


 ……あー。

 秘書達には、視察を早めに終わらせた理由を説明しないとだなぁ。

 なんて言い訳しよう……。

 うん、言い訳考えるのも辛いから、疲れたから帰ったでいいや。




 変装の姿を変えるために、俺はトイレの個室へと入っていく。

 そんな俺の姿はきっと、疲れきった中年サラリーマンさながらの気落ち具合だっただろう。


 ……なんで俺が、こんなに疲れないといけないんだ。



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