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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
51/59

変わりゆくもの、思い返して。


 俺は休息日の演説を終えて、私室へと戻ってきた。

 演説用に着ていた法衣を脱ぎ捨てて、ラフな部屋着へと着替えてから、足早に寝室へと向かった。

 寝室に着いた俺は、天蓋付きキングサイズベッドへと身を投げ出し、布団も被らず枕も使わず、そのまま眠りに就いた。




 ―・―・―・―




 どうもお早うございます。

 今日も元気に、執務室で偉そうに椅子に座ってます。

 ファントムです。




 昨日は演説を終えてから、今日の朝まで死んだように寝てました。

 一昨日から続いた色んな出来事のせいで精神的疲労が重なって、俺はダウンしてしまったわけです。


 いやぁ、この二日間は本当に、思い出したくないぐらい大変でした。


 朝一でナルキアのストーキング風景を目撃してしまい。

 バイト先で店長と奥さんのイチャイチャを見てしまい。

 突然店にエーリッヒがやってきて。

 エーリッヒの好感度イベントに介入してしまって焦り。

 夜から歓迎会があったことを忘れてて急いで神殿に戻り。

 エルが遅刻してるという報告に頭を悩ませ。

 歓迎会でティトラ君に猛アタックするナルキアを白い目で見ながら。

 歓迎会の途中で帰ってきたエルに対応するべく、楽しかった歓迎会を抜け出し。

 エルのフォローのために頭をフル回転させて。

 その結果、深夜遅くまで演説の原稿加筆作業に見舞われ。

 翌朝の演説前に必死で追加原稿を暗記して練習し。

 礼拝堂での演説と奇跡の行使を終えて、眠りに就きました。


 思い出したくなかったのに、思い返してしまったよ。

 一部、見て見ぬ振りをしてたかったものもあるけど、もういいよ。

 もう、見てなかったことにする方がしんどいよ。




 とにかく俺は、一昨日から続く精神的疲労を回復し、現在元気に執務室で椅子に座ってるわけだ。


 まぁ、まだ執務室には誰も来てないんだけどね。

 だって今、朝の七時だし。

 始業時間は八時で、秘書達が来るのは大体三十分前だから、まだ誰か来るまで三十分近く時間があることになる。


 いやさ。

 いつもなら、俺も七時半ぐらいに執務室に来るんだけどね?

 今日は、起きる時間が早すぎてね……。


 昨日はもう、礼拝堂での演説が終わってから、昼飯も食わずにそのまま寝てしまったんだ。

 俺としては夕方か夜ぐらいには起きるつもりだったんだけど、気付いたら翌朝の午前四時でしてね……。


 一応、昨日入れなかった風呂に入ったり、昨日の朝から何も食べてなかったから缶詰を出して食ったりと、色々時間を潰せたんだけどね?

 それでも相当時間が余って暇だったんだよ。

 だから、ずっと私室に居るのも気が滅入るので、今はこうして執務室の椅子に座って、秘書達が来るまでゆっくりしているわけだ。




 俺は椅子にもたれ掛かって、天井を仰ぎ見る。

 いつも座っている執務椅子は、私室のソファーほどではないが、座り心地の良い高級品だ。

 俺が身体を預けると、まるで安楽椅子に座っているように心地よく身体を包んでくれる。


 完全に眠りから覚めた頭で、俺は静かに最近あったことを思い返してみる。

 こうして時々昔のことを振り返っておかないと、何かを忘れてしまいそうな気分になるのだ。

 こちらに転移する前に会社で働いてた頃にはそんな気分にならなかったのだが、こちらに来て暫くしてから、不思議とそんな気持ちになるようになった。


 昔のことを思い返したいなら、毎日日記でも書けばいいのかも知れない。

 でも、俺は仮にも神様なのだ。

 日記を書いてて、何かの拍子にその日記を見られたりなんかしたら、赤っ恥どころの話じゃ済まない。

 だからこうして時間に余裕がある時には、昔のことを思い返すようにしている。


 まぁ、結構実利もあるしな。

 不本意ながら上達してしまった言い訳スキルを活かすためには、過去を振り返って、定期的に思い出しておくのは便利なのだ。




 取り敢えず、いつのことから思い返してみようか。

 前回思い返したのは、確か神様ネットワーク運営から神様同盟設立の打診が来た時だったよな?

 ちょうど昼休憩中に振り返ってて、突然運営からメッセージが来たせいで昼飯食いそびれたんだっけな。

 あれが確か……三週間前のことだったかな?

 確かあの日も今日と同じく休息日明けの月曜日で、二日前の土曜日にはシュナとジョンの歓迎会があったんだったな。


 それから、運営の勧めるがままに神様救済同盟を設立して。

 運営が過剰な宣伝をしたせいで、デスマーチが始まったんだったよな。

 あの爺さん神様め……名前忘れたけど、あいつのしたことは絶対忘れんぞ。

 なんか俺、ハゲ天使と言い最初に会った爺さん神様といい、運営関係者にいい思い出がないな。

 まぁ、説明不足ハゲと話し聞かない長話爺さんだしな。

 これが女神とか女性天使だったら話は別だったんだろうけど。


 あーっと、それから……。

 そうだ、デスマ中にストレスが貯まりすぎて、ガチャを回したんだっけ。

 それで出てきたのがティトラ君だったな。

 あの時も相当疲れてて、間違えて女性限定じゃないガチャを引いてしまったんだっけか。

 まぁ、そのお陰で癒やし枠のティトラ君と出会えたんだから良かったのかもしれないな。


 それに、毎回ガチャで女性英雄ばっかり出してたら怪しまれそうだし。

 女性限定ってオプションが付くと、ガチャの値段が上がるからなぁ。

 バレたら女性限定は引くなって言われそうだし、バレないための予防線としても、あの時ティトラ君を引いたのは悪くなかったかもしれない。


 それと、ティトラ君が出てきた日に、ナルキアの好感度イベントがあったな。

 ナルキアは結構古参なのに好感度イベントが来ないから、嫌われてるんじゃないかって結構冷や冷やしてたんだっけ。

 それでナルキアのイベントの内容は……。

 まぁ、重い過去だったなぁ。

 基本的に英雄達の過去って、重い話が多いんだよなぁ。

 一人でも、軽めの過去を持ってる英雄は居ないもんかね?


 そしてデスマが終わって。

 やっぱり女性英雄じゃなかったからストレスが解消されなかった俺は、勝手にお忍びで神殿の外に行ったんだったっけ。

 あの時は、神殿の外に出たら色々見て回って遊ぼうって思ってたんだっけ。

 でも、最初に入った食堂で無銭飲食したせいで、その目論見は完全に潰えたんだけどな……。

 次辺りお忍びに行く時は、バイトじゃなくてちゃんと遊び……視察に行こうか。


 その日は思いっきり店長に怒鳴られまくったんだっけ。

 それが悔しくって、いつも私室の掃除に来てくれるおばちゃんメイドさんに皿洗いや家事を教わったんだったな。

 そうそう、おばちゃんに家事を教わる時の建前として、シュナに家事を教えるって行ったんだった。

 一応建前を通すためにも、ちゃんと一度はシュナに家事を教えとかないとだな。


 あとは……そうそう。

 最初のお忍びは完全に秘密のお忍びだったけど、今度は秘書達に伝えて半分公的なお忍びに行ったんだったな。

 そして食堂に行って頼み込んでバイトさせてもらって……。

 今思い返しても、あの時は本当にスッキリした。

 まだ色々と拙い感じだったけど、あの店長を完全に見返してやって、今後もバイトに来いって言わせてみせたんだった。


 あの時に、毎週土曜は勝手にお忍びして食堂でバイトして、毎週水曜の公的お忍びの日は遊ぼうって決めたんだっけ。

 よく考えたら俺って、まだ神殿の外のことは神殿から食堂までの道しか知らないんだよな。

 もっと色んな場所に行って、色々と見て回りたいもんだ。

 なんか、異国情緒溢れる街並みで、観光に来てる気分で楽しいしな。


 それから……。


 ああ、あとはアレか。

 思い返せるぐらい濃い出来事って言ったら、昨日と一昨日のアレだけか。

 アレはさっき思い返したからもういいや。

 やっぱりアレを思い返すのはちょっと疲れるし。




 ―・―・―・―




 俺は執務椅子の背もたれから背を離し、身体を起こす。

 ずっと天井を見上げながら考え込んでいたせいか、少し首が凝ってしまったみたいだ。

 首を左右に傾けると、ゴキリといい音を立てて、首に心地よい痛みが走った。


 執務机に置かれた時計を確認する。

 まだ時刻は七時十分。

 秘書達が来るにはまだ早い時間だ。


 とは言っても、もう何もすることがないんだよなぁ。

 目も覚めてるからうたた寝も出来ないし、神様ネットワークでチャットを見て暇を潰すのは、執務時間中のために取っておきたいし。

 残り時間はどうするかなぁ。




 結局、やることが何もないので、俺はそのままボーッとして時間を潰した。

 執務時間中もボーッとしてることの多い俺だが、周りに誰か居る中でボーッとするのと誰も居ない場所でボーッとするのでは、姿勢やら表情やらを整えなくていいので気分が大分違う。


 ただボケっとして時間を過ごすのは時間の無駄だと思っていたが、こうして実際にやってみると、リラックス出来ていい感じだな。

 最近は色々あって精神的に疲れてたからな。

 こういったリラクゼーションタイムは結構大事だ。

 ガチャでマッサージ師の女性英雄とか出てこないかな。




 俺がボーッとしていると、廊下から執務室へと通じる扉からガチャリとノブを捻る音がした。

 そちらに目を向けると、誰かが扉を開けて中に入ってくるのが見えた。


 部屋に入ってきたのは、いつもの五人の秘書達だった。

 筋骨隆々のクロードに、好青年の高柳君。

 優男風のエーリッヒに、見た目は美少女のナルキア。

 そして一昨日歓迎会を開いたばかりの、新参秘書のティトラ君。


 いつも見慣れてる五人が部屋に入ってきて、入ってきた順に俺に挨拶する。

 俺もそれぞれに挨拶を返し、部屋に入った秘書達が席に着くのを見守った。


 秘書達は皆、朝は揃って執務室に入ってくるんだよな。

 多分食堂で一緒に朝食を摂って、そのままここに来てるからなんだろうけど。



「ああ、そうだ。一つ報告することがあるんだ。」



 秘書達がそれぞれ仕事の準備をしている中で、一人だけ何の準備も必要ない俺はそう言って秘書達の注目を集める。

 本当は執務時間が始まってから報告しようと思っていたのだが、なんか待ってるだけなのも暇だったので、今から言うことにした報告だ。



「一昨日の歓迎会で遅刻したエーリッヒ=Lのことだが、実は私はちょうど奇跡の力で彼を監視していて、彼が遅れることを事前に知っていてな。なので彼の遅刻に関しては不問にすることにした。」



 俺が報告したことは、エルに纏わる遅刻騒動についてだ。

 エルと対談した時、エルには「監視してたので不問にする。」という話を広めて欲しいと伝えてあったので、昨日の内にそれなりの数の英雄達に話が伝わっているはずなのだ。


 エルは土曜の夜から日曜の朝まで朝帰りする予定だったと言ってたので、エルのシフトでは土曜と日曜が続けて休みだったはずだ。

 なので、同じく日曜が休みな秘書達にも、エルは話をしてあって、秘書達はエルの処遇について知っているはずだろう。


 だが、だからと言って俺が何も報告しないのもおかしい話だ。

 なので今、改めて俺の口から報告したというわけだ。


 とは言っても、秘書の一部はこれが嘘だってすぐに分かるんだけどな。

 だって、秘書のエーリッヒは遅刻の報告をしてきた本人だし、ティトラ君は主賓だから歓迎会開始前に俺の傍に居たし。

 ナルキアはまぁ……ティトラ君の居るところに居るから、俺の近くに居たしな。

 クロードと高柳君だけはエーリッヒと同じく今回は企画側だったので、遅刻の報告があった現場には居合わせていなかったはずだ。


 だから、今からナルキア、ティトラ君、エーリッヒの誰かが、俺の報告の矛盾点を指摘するはずなのである。

 遅刻の報告をしてる時に、何で監視して知っていたのだと言わなかったのか?と。


 そしてそこで俺が口を濁し、とにかく罰は無しだと強行すればいいのだ。

 そうすれば、俺が監視していたという話は、エルを庇う方便だと分かってくれるだろうし、強行したのも照れ隠しか何かだと思ってもらえるだろう。

 これで、好感度イベントという監視システムは誰にも信じられずに終わり、俺の評判が下がることもなくなるのだ。


 もしも矛盾を指摘されなかったら、まぁ、俺の方から若干仄めかす感じで言えばいいだろう。

 そんなことしなくっても、頭が良くて俺に当たりが強めのナルキア辺りが指摘してくれると思うけどな。


 というかそんな苦労をしなくっても、エルから話を聞いた時点で、遅刻の報告を受けた俺の態度から、俺が庇ってるってことに気付いてるかも知れないんだけど。

 それなら演技の必要もないから、俺は楽でいいな。



「ええ、そのことでしたらエーリッヒから聞いてあります。」



 おお、流石エルだな。

 しっかり秘書達にも話を伝えてあったみたいだ。

 これなら、事前に考えてた通りの方法で……。



「エーリッヒ=Lさん……いえ、今はもうエルさんでしたわね。そのエルさんからも、全部話を聞きましたから、その話が嘘でエルさんを庇うためのものだってのも分かってますわ。」



 クロードとナルキアが、俺をニコニコ顔で見ながらそう答えた。


 ああ、なんだ。

 俺が庇ってるってことが分かってるのか。

 

 ……って、え?


 あれ?

 なんで、俺が庇ってるってことを、エルから聞いてるの?

 自分達で推測して気付いたんじゃないの?


 えっ、だって、俺ってエルにはそこまで詳細を話しては……。




 あっ。

 そういえば。


 俺、エルに詳細全部話してたわ。


 あの時の俺はとにかく怠くて頭痛くて眠かったから、さっさと話を終わらせて寝ようと思って、監視してたって建前を用意する理由から何から全て言ってしまってたんだった。

 あの後すぐに演説での結婚報告とか書いてたから、すっかり忘れてた。

 そしてエルは、俺にその話を広めて欲しいと言われて、バカ正直に洗いざらい全てを話してしまったというわけだ。




 って、エルよ。

 何で、裏事情を全部話しちゃってるんだよ。


 元々俺は、エルには神様の力で監視していたってことだけを話すつもりだった。

 そしてそれを広めて欲しいと言われたエルは、「俺が監視してたので無罪。」という、俺に悪評が付くパターンで周りに言ってくれる予定だったのだ。

 だから俺も、それに合わせて俺の悪評を解消出来るような対処法を考えて、用意していた。


 だが、俺はエルに全部の事情を話してしまった。

 「俺が監視してたので無罪。」の「俺が監視してた」の部分は嘘で、エルを庇うためのフォローであること。

 そしてそんな迂遠なフォローをする理由は、エルの行状を聞いたエーリッヒ達が結婚に対して否定的になってしまうのを防ぐため、対処をする時間を稼ぐためであること。

 稼いだ時間で演説の時に英雄の結婚願望を刺激してやること。

 そんな事情の全てを話してしまってたのだ。


 だが、それだけなら問題はないはずだった。

 何せ俺がエルに言ったのは、裏事情でしかないのだから。

 裏事情なので、エルも他の英雄達に言わないでいてくれると思っていたからだ。

 一応最初にも、意図は違うけど秘密にしてくれって言ってたしな。


 なのに、何でか知らないが、エルは事情の全てを他の英雄に話してしまっているらしい。


 その結果。

 俺がエーリッヒ達の結婚願望に配慮してたこととか。

 俺がエルをこっそり庇ってたことによる、俺の評価の逆転上昇とか。

 それを狙ってたってことがバレての評価下落とか。

 全てが英雄達にバレてしまったということだ。


 ……なんだよこれ。

 エル、お前、秘密にするって言ってたじゃん。



「……そのことは、エルには内密にするように言ってあったんだがな。」


「申し訳有りません、ファントム様。エルからそのことに関して私が話を聞いて有りまして。秘密にするように言われたのは、ただの建前だと思っていたらしく、後になって全ての事情を秘密にしろと言われてたのではないかと気付いたらしいのです。」



 そう謝ったのはエーリッヒだ。


 ……そんな話の流れだったっけ?

 ちょっと、当時は頭が茹だってたからあんまり思い出せないぞ?

 少し落ち着いて、当時のことを思い返してみようか。




 先ず、俺がエルと対面してすぐに、長い休憩時間を取って色々と考える時間を作った。

 そして先に事情を話してもらって、俺が知らなかった食堂に来た理由とか俺が食堂を去った後のことも聞いたんだよな。


 それから俺は、エルに秘密を守れと言ってから、好感度イベントで監視していたと話した。

 そして結婚を認めたら、急にエルが光って白い石が出てきて、ちょっと呆然としてしまった。


 そのあと、エルがデートに行ってたことをエーリッヒ達にも知られてるって聞いたんだよな。

 エーリッヒ達にデートに行ってたことがバレてると、俺が考えてた時間稼ぎが役に立たないから、あの時は相当焦った。


 でも、伝えてあるのは一部のエーリッヒだけで、そのエーリッヒ達は結婚に肯定的な面子だったんだよな。

 だから、時間稼ぎは時間稼ぎで必要であったと。


 それを聞いて疲労がピークに達した俺は、そのあと何も考えずに全部の事情を話して、最後にその話を広めるように伝えたわけだ。

 そして少しだけ世間話をして、エルに退室してもらったと。




 ……最初に秘密にしろって言っといて。

 最後には広めろって言うとか。

 エルからしたら、どっちを守ればいいのか分からん状態だったんじゃないか?


 しかもどっちかというと、最後に言われた広めろって話の方が印象に残りやすいだろうし、最初に言った秘密にしろって言葉も、建前を成立させるために必要な演出の一つだったって思われても仕方ないんじゃないか?




 アカン。

 これ、俺のミスだよ。

 エルは悪くないじゃん。


 むしろ、言ってしまったあとだとしても、最初の秘密にしろってのが、全ての事情を秘密にしろってことだと感づいただけ、エルは優秀な方だよ。

 俺だったらその意図に気付けないで、指摘されるまで分からなかっただろう自信がある。


 つまりは。

 最後に話を広める範囲を指定せず。

 秘密にしろと再度念押しして釘を刺さなかった俺が悪い、と。



「……まぁ、少し分かりづらく話してしまった俺も悪かったか。」



 俺が悪いなら仕方ないな。

 自分の非は素直に認めなければ。



「……ああ、そういう事情だったんですのね。まぁ、ついでに自分の評判を良くしようとか少し狡いところもありますけど、ファントム様が英雄のことを大切に思ってくれてるのが分かって、私達は嬉しかったですわよ?まるで宝石のような私とティトラお兄さまを大切にするだけなら当然と思ってしまいますけど、他の方々にも気を向けて下さってる、優しい神様だと分かりましたから。」


「は、はは……まぁ、ナルキア殿が言うことは置いておいて。我らをただの戦力だと思っていないことは以前から知っていましたが、まさか結婚の許可だけでなく、戦力維持に必要な『結婚の証』まで祝いの品として受け取れるとは思ってませんでしたからね。ですから、このことを知った英雄達もきっと、これからもファントム様のために尽くそうって気持ちになっていると思いますよ。」


「私も、結婚については余り考えていなかったんですが、今回の件で少し結婚に前向きになってみようと思えました。」


「ファントム様は凄い方ですね!ボクは魔導に関しては自信がありますけど、こういった配慮がしっかり出来る方って尊敬します!」



 ……うっせぇ。

 なんだこの、褒め殺しは。

 ちょっと、マジでなんなんだよ。

 ちょっと……いや、かなり恥ずかしくなってきたんだが。


 ナルキアもクロードも高柳君もティトラ君も、揃って俺を褒めやがる。

 まぁ、ナルキアにはちょっと俺の黒い一面も指摘されてるけど、それでもナルキアも他の秘書達と同じくニコニコ顔だから、褒めてる一面が大きいだろう。


 ってか、こうなるから俺は、事情を全部話したくなかったんだよ。

 ナルキアは置いといて、軍人英雄三人は妙に俺に優しくって好意的だし、ティトラ君は純真爛漫で素直で良い子だから悪いこと言わないだろうし。


 好意的になってくれるのは良いんだよ。

 ただ、陰でこっそり好意的になってくれ。

 面と向かって言われると、なんか恥ずかしいだろうが。


 ダメだ。

 ちょっと恥ずかしすぎて、蕁麻疹出てきた。



「ファントム様。」



 ニコニコ顔で俺を褒めちぎる秘書達の中で、唯一真顔で黙っていたエーリッヒが口を開いた。



「この度は、我らエーリッヒのために骨を折って頂き、誠に申し訳有りません。私達を庇ってくれるだけでなく、自らの評判を貶めかねない方法を取らせてしまったことを謝らせて頂きます。」



 なんか真面目なこと言ってるよ。

 まぁ、エーリッヒも軍人だから、お堅い性格なのはいつものことなんだが。


 もう、ここまで来たらアレだな。

 下手に言い訳とか取り繕うとかやめて、開き直った方が楽だな。


 というかアレだ。

 昨日一昨日の騒動で疲れたから、俺はもう当分際どい言い訳とかしたくない。

 やっぱり、言い訳は事前に用意しておいて、計画通りにやるのが一番だよ。

 その場凌ぎの言い訳なんて、絶対どこかでボロが出るんだし。



「エーリッヒ。そこは、ありがとう。だろう?」


「……えっ?」


「別に感謝されたくてやったわけじゃないが、謝られるよりは感謝されたほうが、私も嬉しいし、君も気が楽になれるはずだ。そうだろう?」


「っ……はい、有難うございます!エーリッヒ一同に代わり、ファントム様に感謝致します!」



 堅い雰囲気を和ませようと、ちょっとフランクで小粋な対応をしたつもりだったんだが。

 なんか、エーリッヒが真に受けてしまって、逆に雰囲気が固くなったぞ?


 うん……アレだな。

 冗談が通じにくい連中にジョークを言うのは、かなり危険ってことだな。

 この空気、どうするんだよ、おい。



「まぁ……あれだ。私の意図が伝わっていて、それに反感がないのなら、何も問題はない。他の英雄達にも、上手いこと話を伝えておいてくれ。」


「「「ハッ!」」」

「はい、分かりましたわ。」

「はいっ!了解です!」



 英雄達が元気の良い返事をして、それぞれが仕事の準備へと戻っていった。

 これで、この話は一旦一区切りがついたことになるだろう。




 ぶっちゃけもう、この話は蒸し返してほしくないんだよ。

 俺のミスを思い出して恥ずかしいし。

 英雄達は俺を褒めるから恥ずかしいし。

 もう、これ以上俺の羞恥心を刺激してほしくない。




 俺は仕事の準備を進める英雄達を傍目に、神様ネットワークの画面を開く。

 昨日は昼から寝ていたので、神様ネットワークのメッセージボックスには、神様同盟に向けた依頼のメッセージが幾つか貯まっていた。

 俺はそれらの内容を確認し、神様同盟のメンバーに振り分ける作業に入っていく。


 本当なら執務時間中にやりたい作業だったんだがな。

 だって、先にコレをやってしまうと、執務時間中に暇になっちゃうし。


 だが、俺は敢えて始業前から神様ネットワークで仕事をしていく。


 ……だって、まだちょっと恥ずかしいんだよ!

 ああそうさ。

 これは照れ隠しだよ!

 もう、ボーッとしてるとさっきのやり取りを思い出して、また恥ずかしくなりそうなんだよ!!


 こういう時はもう、仕事に逃げるのが一番だな。

 何かをしていたら、余計なことを考えなくて済んで、気が楽だし。




 ―・―・―・―




 その後も時間は流れていく。

 始業時間となり、英雄達は各々が抱える案件を処理していき。

 俺は神様ネットワークのチャットや神様同盟宛ての依頼を見て時間を潰し、時折持ち込まれる決済を求める書類に印を押す。


 いつもの執務室。

 いつもの仕事風景。


 普段と変わらない日常が、そこにはあった。


 だが、昔と変わったこともある。

 神様同盟の依頼は、昔にはやっていなかったことだし。

 ティトラ君も以前は居なかった。

 それに、お忍びと称して神殿の外に出て、食堂でバイトもしている。

 徐々にだが、変わっていったものもあるのだ。


 そして、これから変わっていくこともあるだろう。

 英雄の中から結婚する者が出て、英雄達の意識の端には、英雄の引退という言葉が浮かんでいるだろう。

 俺も次の水曜日には、お忍びでバイトするだけじゃなくって、街をゆっくりと見て回るつもりだ。

 そして何より、今後もガチャを引いて新たな女性英雄が増えていくのだ。


 変わらない日常も。

 少しずつ、変わっていっている。


 変化には不安が伴うが、それと同時に期待も生まれる。

 神様同盟設立によってデスマーチとなった時は、この先どうなるのかと不安な気持ちになった。

 初めて一人で神殿の外に出た時には、期待を胸にワクワクしながら出ていったものだ。


 きっとこの先も、色々なことが変わっていくだろう。

 そこには、期待も不安も、良いことも悪いこともあると思う。

 でも俺は、それらを全て納得した上で、俺は変化を受け入れなければならない。


 何せ俺は……。




 まだ、女性英雄による花園を、諦めていないのだから。


 今はまだ、道のりは果てしなく遠いが。


 俺はいつか必ず、理想の花園に辿り着いてみせる。




 その想いを胸に秘め。

 俺は黙々と、今日も変わらぬ日常を送っていく。



 これにて第二部は終了となります。ここまでご覧頂き、本当に有難うございます。


 ここで少し残念なお知らせがあります。

 書き溜めのストックが完全に尽きてしまったので、一旦毎日更新を停止しようと思います。

 ある程度書き溜めが貯まってから、再度毎日投稿していこうと思いますので、書き溜めが溜まるまで暫くお待ち下さい。


 一応新章の導入から数話分は構想を用意済みなのでそこまでお待たせすることはないと思いますが、何があるか分かりませんので、気長に待っていただければ幸いです。


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