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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
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長い一日が終わる。


 マジ焦った。

 こんなに焦ったのは久しぶり……。


 でもないな。

 ジョンの好感度イベントでイベント画面が消えた時にも焦ったし、お忍び姿をジョンに見られた時も焦ってた。

 あとバイト先の食堂にエルが来た時も焦ってたよな。

 他には思い出せないけど、結構頻繁に焦ってた気がする。

 何で俺は、こうも頻繁に焦るような生活を送ってるんだろうか……。


 ……それは置いといて。

 今回は本気で焦って危なかった。

 だって、俺が知らない神様ネットワークの機能っぽいのが、急に発動したんだから。




 俺は今、エルとの対談を終えて、ソファーに寝っ転がりながらヘルプ本を読んでいる。

 このヘルプ本は、文字通り神様ネットワークの取扱説明書で、神様ネットワークの機能についてのことが全て書かれている本らしい。

 見た目は辞書ぐらいの厚さの普通の本なのだが、その中身は普通の本じゃない。

 この本には不思議な力が働いているのか、見た目以上のページ数が存在しているのだ。


 数えていないので分からないが、恐らくは数万ページ以上のページ数が存在するだろう。

 一度ページ数を数えてみようと思ったが、五桁を数えた辺りで諦めたのだから。

 それだけのページ数を誇るこの本は、文字通り神様ネットワークの全てが載っている本なのだろう。


 ぶっちゃけ、そんなページ数が多い本を、一々全て読んでなんていられない。

 なので何かを調べたい時に俺は、この本に備えられた索引機能を使って検索して調べている。

 この索引機能は、調べたい項目に関わる単語を頭の中で思い浮かべると、その単語に関わる項目の一覧が書かれたページが開かれて、そこから選んだ項目のページを勝手に開いてくれるのだ。


 まるでインターネットの検索エンジンで検索するようだと思う。

 というかそのまんまネット検索と同じやり方だ。

 これも、神様ネットワークのシステムをソシャゲの『神様の箱庭』から丸パクリしたみたいに、ネット検索のやり方をパクったのだろうか?


 まぁ、何はともあれ。

 この索引機能があるお陰で、神様ネットワークに関して調べたいことがあれば、ヘルプ本を使って自由に調べることが出来るのだ。




 そして俺はその機能を利用して、『英雄 結婚』という単語で検索してみた。

 すると検索結果の項目一覧ページが表示され、すぐに俺が知りたいことだろう項目が見つかる。

 その項目を選択しようと念じると、本は自動的にページが捲れていき、あるページでピタリと止まる。


 そしてそのページを読んでいくと、俺が調べたかったことと同じ物だろう項目が見つかった。




【英雄の結婚】

 英雄は他の英雄やその世界の住民と結婚することが出来る。

 結婚には条件があり、結婚相手と英雄本人が同意した上で、管理神が許可を出すことで結婚が承認され、英雄は英雄としての力を失って人に生まれ変わる必要がある。


 この際、英雄が英雄として積み重ねた経験や力は、力の大きさに応じた『英雄の遺産』という特殊なアイテムとして具現化される。

 そのアイテムは英雄に使用することによって、結婚した英雄が持っていた経験と力を他の英雄へと引き継ぐことが出来る。


 英雄でなくなった者は完全に一人の人間となり、伴侶との間に子を残すことが可能となる。但し、産まれた子供に英雄側の遺伝子は殆ど影響を及ぼさない。

 英雄同士の結婚の場合には、結婚を認める際に第三者の人間を一人指定することで、その人間の遺伝子を基礎とした子を成せるようになる。

 そうしない場合は、英雄同士の間に子を残すことは出来ない。


 このシステムは、管理神が管理する世界は基本的に人口が極端に少ないため、人口を増やす為の方法として用意されたものである。

 管理神は世界平定の一貫として、英雄と人間の結婚を積極的に斡旋することを推奨される。




 これだと思った項目を読んでいくと、このような内容が書いてあった。


 この項目を見るに、英雄は人間と結婚出来るけど、その代わりに英雄じゃなくなって普通の人間になってしまうらしい。

 そんなことして量産英雄が結婚しまくったら、遺伝子的にどうなのよ?

 って疑問も、一応システム的にクリアしてあるとか。


 確かに、邪神に追い詰められていた管理世界の人口は基本的に少なく、特に軍人として戦っていた男性の数は非常に少ない。

 なので、人口増加のために英雄と人間の結婚を推奨するのは、確かにと納得出来る道理だと思えた。




 これを見て、俺は思った。


 あのチュートリアルハゲ天使は、なぜこれを説明しなかったのかと。


 ……いや、大体理由は分かるよ?

 どうせアレでしょ?

 どうせあのムキムキハゲは、俺を智の神様だと勘違いしてたから、こんなこと説明する必要もないとか思ってたんでしょ?

 チュートリアルの時には早々にヘルプ本を渡してきて、チャットの説明する時にも「調べてるだろうから詳しい説明は必要ないよね?」って感じの態度だったし。


 いや、確かに俺はあの時、普通にすぐチャットが出来たけどね。

 だって、ゲームだった頃にもチャットはあったから、やり方は知ってたし。


 でも、結婚機能なんてゲームにはなかったんだよ。

 知ってるわけねーじゃねぇか、クソハゲ。


 つか、ソシャゲに出てくるキャラなんて他のキャラとのカップリングとか、一般人と結婚させるとか、そんなキャラ設定にしてあるわけないだろ。

 大体のキャラはプレイヤーを好きになるとか、そういう設定にしてあるはずだ。


 じゃないと、好きになったキャラが実は既婚だったり、他のキャラに恋慕してたりするなんて、特殊な趣味でもない限りガッカリするじゃないか。

 だからソシャゲなんて、ハーレムが基本だろ。

 なんでこんな、ノットハーレム向けのシステムがあるんだよ。


 だから俺はこの機能に気付けなかった。

 よって俺は悪くない。

 全ては、説明を放棄したあのクソハゲ天使コスプレオッサンが悪いのだ。

 あいつ、今度会ったら一発殴ってやろうか。


 ……いや、殴ったら俺が手首とか痛めそうだから、殴らないけど。

 だってあの天使、クロード並にゴツかったし。




 まぁとにかく。

 これで、あの時エルから出てきた石が何だったのかは理解出来た。

 あれは、英雄が結婚しても戦力が減らないように、力を引き継がせるための継承アイテムだったってわけだな。


 アレがそんな大事なもんだなんて思わなかったから、エルにあげちゃったんだけどねぇー。


 ……だって、知らなかったんだからしょうがないだろ!?

 なんか良く分からないけど綺麗な石だったし、結婚祝いとか何も用意してなかったから、取り敢えずエルから出たもんだしあげようって思ったんだよ。


 どうしよう……。

 戦力ダウンを防ぐアイテムだったのに、エルにあげちゃったよ……。

 いや、別に今は戦力が不足してないから問題ないんだけどさ。

 でも、誰か一人に結婚祝いでアレをあげちゃったらさ、今後結婚する英雄にも、アレをあげないとダメっぽいよね。


 最初の一人だから特別だってわけにもいかないだろうし。

 今更返してなんて、絶対言えないしなぁ……。




 俺はソファーに寝転がったまま本を閉じ、大きく息を吐く。

 どんより淀んだ空気が、肺の奥底から漏れ出ているような気がした。

 それだけ俺は今、とても疲れているのだ。


 何せあの白い石が出たあと。

 色々とあったせいで、俺の疲労はピークに達してしまったのだから。




 ―・―・―・―




 俺がエルと対面したあと。

 エルに休憩を持ちかけて時間を稼ぎ、その時間を利用して、今回の問題の解決策を考えついた。


 俺はあの場でエルや他の英雄達に好感度イベントのことをバラしてしまい、あの場はそれで凌いで時間稼ぎをするつもりだった。

 好感度イベントの存在がバレるのは相当マズいんだが、最終的には好感度イベントはエルを庇うために吐いた嘘だって形に収まる予定だったし、それで何も問題はないはずだった。


 そして明日の……日付的にはもう今日か。

 今日の午前中にやる礼拝堂の演説で、英雄達の結婚を推奨してみせて、好感度イベントが嘘だと思われるまでに、英雄達の結婚に対する意識を肯定的なものにしてしまうつもりだったのだ。

 そうすれば、エルの行動を聞いたエーリッヒ達が、結婚に否定的な意見を持つ可能性も限りなく低くなるのだから。




 だが、俺はエルが言った一言のせいで、大いに焦らされることになる。


 実はエルの野郎。

 エーリッヒ達の一部に、今日デートに行くってことを伝えてたんだってよ。

 しかもその一部の中には、俺にエルの遅刻を告げてきた秘書のエーリッヒも入ってたんだとか。


 ……まぁ。

 そりゃ、有り得る話だよな。


 エルはエーリッヒ達の中でも希少な……下手したら、唯一の彼女持ちなのだ。

 自慢なのだか周囲の意識を変える努力なのだか知らないが、エルがエーリッヒ達に恋人関連の話をしてあるなんてことは、簡単に予想出来る話だったのだ。


 そして恋人関連の話をしてるなら、今日……昨日はデートに行くことも、エーリッヒ達に伝えている可能性が高かったのだ。

 そして、デートに行っていたのを知っているエーリッヒ達は、遅刻の理由にも簡単に辿り着くことが出来ていただろう。




 ぶっちゃけ、俺は相当焦った。

 だって、エーリッヒ達がエルが遅刻した理由を知っているなら、それまで考えてた策略は全く意味を成さないのだから。

 わざわざ好感度イベントの存在をバラしたのは、エーリッヒ達が遅刻の理由を知るのを遅れさせる、時間稼ぎの策だったのだから。


 それでも、すでに言ってしまった言葉は戻すことは出来ない。

 だから俺は、そんな最悪の状況でも、もっと別の言い訳を探そうと考えることにしたのだ。


 だが、その時目の前にはエルが居た。

 唐突に俺が黙って熟考し始めたら不審に思われてしまう。


 なので俺は、エルから情報を引き出す会話を続けながら、別の方策を思いつくべく頭をフル回転させていった。




 すると、だ。

 エルは、デートのことを伝えていたエーリッヒ達は多分、このことをまだ周りに黙っていてくれてるだろうと言った。


 そもそもエルがフィアナと付き合ってることは、結婚に前向きでエルに対して好意的なエーリッヒにしか伝えてないのだとか。

 他の、まだ結婚を考えられないエーリッヒ達には、反発を生んでしまいそうなので告げていないのだとか。


 ……なら、問題ないじゃん。

 遅刻のことを知ってるエーリッヒは元々肯定的なんだし、知らないエーリッヒ達にはそもそも恋人が居ることすら話してないってことは、だ。

 普通に、俺が考えてた方策でイケルじゃん。




 その話を聞いた時。

 俺は全身にドッと疲れが押し寄せてきた。


 これはマズいと思ったら、実は大丈夫だったとか。

 俺の気分の落差が大きすぎて、とんでもなく精神的に疲れたぞ。

 煮詰まって沸騰しそうだった脳が一気に冷やされて、溜まっていた疲れが倍加したような感じだ。


 もう、寝たい。

 寝てしまいたい。

 明日の演説もブッチして、夕方ぐらいまで寝ていたい。

 頭が痛いし熱いし、なんか全身怠いし。

 ホントもう、何も考えたくない。


 でも、この場で寝るわけにはいかない。

 今寝たら、今までの全てが無駄になるのだから。

 俺は、自分にそう言い聞かせながらも、なんとか心を奮い立たせる。

 そしてなんとか気力を振り絞り、エルに俺が考えていた作戦を全て話した。




 本当なら、エルに作戦の全部を話すつもりはなかったんだけどね。

 だってなんか、俺は皆に気を遣ってますってアピールしてるみたいで嫌だし。

 こういうのは陰でコソコソフォローするのが乙なんだよ。


 だから俺は、最初はエルには好感度イベントで見てたってことを話して終わらせようと思っていた。

 エルはどうせ英雄辞めるから好感度イベントがバレたって問題ないし、後になって他の英雄からアレは嘘だって聞いて、エルが庇ってもらってたことに気付いても、その場に俺は居ないから別に恥ずかしくないし。


 でも、もう。

 そういったことに配慮するのも面倒臭い。

 だから俺は、考えていた流れをそのままエルに説明した。


 エーリッヒ達が結婚に否定的になってしまうかもしれないこと。

 それを防ぐために、明日の演説で結婚を推奨してると伝えるつもりであること。

 それまでの時間を稼ぐために、俺がエルを見ていたことにすること。


 正直言って、エルに全部話してしまって大丈夫なのか分からない。

 もしかしたら、この些細な計画変更があとで問題を起こしてしまうのかもしれない。

 だが、それに気付いていても、俺は何も考えなかった。

 だってもう、俺の頭は疲労で限界ギリギリなんだもん。




 俺の言葉を聞いたエルは、俯いたまま固まって動かなくなってしまった。

 だが俺は、エルの様子を気にすることなく、そのまま説明を続ける。

 エルが何を考え込んでるのかなんて知らん。

 ぶっちゃけもう、さっさと終わらせて寝たい。


 そして全ての説明を終えた俺は、エルと幾らか話しをしてから退室を促す。

 途中で恩返しだの何だの言ってたけど、そんなことはどうでも良いんだよ。

 俺はさっさと寝た……いや、エーリッヒ達に幸せになってもらいたいだけなのだから。

 エルは俺の言葉に従って、部屋を退室した。

 そして俺は、私室で一人になった。


 緊張の糸が切れた俺はそのままソファーに寝っ転がり、ちょっと休憩したあとであの白い石について調べるために執務室からヘルプ本を持ってきて、今こうして白い石について調べていたのだ。




 ―・―・―・―




 俺はヘルプ本を閉じて、ソファーの傍にあるテーブルに放り投げる。

 寝っ転がったまま手足を伸ばして伸びをすると、緊張で凝り固まった筋肉がほぐれて、そのまま寝てしまいそうなぐらい気持ちが良かった。


 今日はもう、疲れたよ。

 今だけは、何も考えたくない気分だ。

 このまま最高級のソファーで寝てしまいたい。


 ……だが、そうはいかない。


 俺は悲鳴を上げる身体を無理矢理動かし、ソファーから起き上がった。

 そして近くにあるサイドテーブルの引き出しから白紙の紙を取り出し、テーブルの上に置く。


 俺はまだ、寝るわけにはいかない。

 ……だって、明日の演説で。

 エルが結婚することを発表しないといけないのだから。


 そのために、今のうちに追加の原稿を書いておかないといけない。

 明日の朝は、今から書いた追加原稿を暗記して読む練習をする時間に回したいのだから。

 だから俺は、まだ寝れないのだ。




 俺は眠い目をショボショボと震わせながらも、太ももを抓って眠気を覚ましながら、結婚発表の言葉を考える。

 碌に回らない頭では上手く言葉が出てこないが、それでも気力を絞り出しながらセリフを考え続けた。


 考えて。

 書いて。

 消して。

 また考えて。


 俺しか居ない私室の居間で。

 時折ペンを走らせる音だけが、空気を震わせる。


 俺はまるで幽鬼のように項垂れながらも、黙々と原稿を作っていった。



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