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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
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お楽しみはこれまでだ。


「それでは!最後に我らエーリッヒによる、華麗な芸術の世界をお楽しみ下さい!」



 司会のエーリッヒ=Fがそう告げて、舞台の幕が上がる。




 舞台の上には四人のエーリッヒが立っていて、エーリッヒの足元には一枚の巨大な緑の絨毯が敷かれていた。

 正方形の絨毯で、一辺が五メートル近くもある。


 四人のエーリッヒが礼をすると軽快な音楽が鳴り始め、それぞれが絨毯の四方の角へと移動して、絨毯の角を捲っていく。

 そして絨毯を折り曲げて折り目を付けて、絨毯を使って何かをやり始めた。


 ……あれ?

 もしかしてあの足元の絨毯、絨毯じゃなくて紙じゃないか?

 折り目が綺麗に残ってるし、なんか薄っぺらいし。


 左奥と右手前の角に行ったエーリッヒは凄いスピードでチマチマと折り目を付けていき、右奥と左手前のエーリッヒは紙の角を持って紙の真ん中辺りまで移動して、それぞれ角を起点に紙を折って形を作っていっている。


 うん、この時点でエーリッヒが何をしてるのか、俺は分かったぞ。

 これはきっと、巨大な折り紙だな。




 エーリッヒが紙を折っていくと、徐々に巨大な紙が形を変えていく。

 右手前のエーリッヒは長い尻尾を。

 右奥と左手前のエーリッヒは翼と手を。

 左奥のエーリッヒは竜の頭を作っていく。


 恐らく完成するのは、最初の演劇でナルキアが出したドラゴンなのだろう。

 結果は予想出来てしまったが、それでも見入ってしまうぐらいエーリッヒ達は驚くような速さで手を動かして、紙の形を変えていく。

 まだ五分も経っていないのに既に紙は大きく形を変えて、既に殆どドラゴンの造形が出来上がっていた。


 凄いな、おい。

 この世界に折り紙の文化が存在したことも驚きなんだが、四人も居るとは言えこの短時間であっという間に複雑な折り紙を作るとは。


 なんかもう、エーリッヒは本当に凄いな。

 氷の彫像にしても砂絵にしても、芸術肌バリバリじゃないか。

 なんで軍人なんてやってたんだ?

 ……いやまぁ、芸術家なんてやってられる世界じゃなかったからなんだろうが。


 エーリッヒの折り紙作業は、軽快な音楽と共にドンドン進んでいく。

 ただ紙を折っているだけの作業なのに、一時も目を離すことが出来ない。

 細かく折って細部を作っているかと思うと、大胆に紙を折って大きく形を変えていく。

 ただ単調に地味な作業を続けるのでなく、音楽に会わせてテンポ良く部分部分を完成させていくので、見ていて飽きがこない。


 四人のエーリッヒは、最初はそれぞれ別の作業をしていたが、中盤からは互いに協力し合って紙を二人で一緒に大きく折り曲げていったりと、言葉を交わさないのに以心伝心し合って作業を続けていく。

 ただでさえ音楽に合わせて時間通りに作業するのも大変なのに、更には互いの連携を取って作業するとは。


 こいつら一体、いつ練習してたんだ?

 こんなの、ティトラ君の歓迎会が決まって数週間で出来る芸当とは思えんぞ。

 軍人英雄が仕事をサボってるとは思えないし、休みを合わせて練習してたのか?


 それでも普通に考えて、短期間でこんな出し物は出来ないだろ。

 エーリッヒは、本当に人間なのか?


 そうこう思っている内に、作業も大詰めに差し掛かってきた。

 既にドラゴンの姿は殆ど出来上がっていて、尻尾と両足で器用に立っている折り紙ドラゴンを相手に、背中のヒレやお腹部分を折って細かい仕上げを行っている。

 エーリッヒも四人の内二人は舞台の奥で待機していて、残る二人で作業している状態だ。


 そして、軽快な音楽が最後のメロディーを奏でる辺りでドラゴン折り紙が完成し、四人のエーリッヒがドラゴンの両脇に立って両手を開いて一礼した。

 たった五分程度の作業時間で、あっという間に一体のドラゴンを作り上げたエーリッヒ達に、会場から拍手の渦が巻き起こる。


 短い出し物だったが、これはトリに相応しいだけの出し物だった。

 主賓のティトラ君も大喜びで拍手してるし、この歓迎会は大成功だったと言えるだろう。


 最初は、なんで高柳君の演劇がトリじゃないんだと思っていたが、この出し物がトリを務めるのなら納得だ。

 先に演劇を披露しているからこそ、その演劇で出てきたドラゴンの完成に感動出来るのだから。




 と、思っていたら。

 拍手を遮るように、急に勇壮な音楽が鳴り始める。

 そして舞台両脇から新たに二人のエーリッヒが出てきた。

 二人は、一メートル四方の紙の束を持っていて、その紙を舞台上に居た四人のエーリッヒ達に配り始めた。


 まだ続くのかよ!


 と思ってる俺を尻目に、エーリッヒ達は手早く紙を折り始める。

 今度はさっきまでと違い、一人が一枚の紙を使っての折り紙だ。

 一体何を作るつもりなんだ?



「……ファントム様。」



 急に俺の横から、エーリッヒが小声で話しかけてきた。

 舞台に集中していたので気付かなかったが、いつの間にか俺の隣に秘書のエーリッヒが寄って来ていたみたいだ。



「どうした?」



 俺も小声でエーリッヒに問い返す。

 舞台上ではまだ出し物が続いてるのに、一体何の用なのだろうか?




 ……もしかして、アレか?

 ちょっとしたサプライズで、俺もこれから舞台に上がるとか、そんな感じの用事なのか?

 もしかすると今エーリッヒ達が折っているのは俺が着る装備で、俺が舞台上でドラゴンと対峙する英雄の役になるとか、そんな感じか?


 いやいや、それをやるならその役はティトラ君にしてやれよ。

 ティトラ君が主賓なんだし、子どもだからきっとそういうサプライズを喜んでくれると思うぞ?

 実際、俺も舞台に上がれるとなると、恥ずかしいけど少し嬉しいし。

 俺なんかよりティトラ君に協力してもらった方がいいって!



「……エーリッヒ=Lが、来ました。」



 ……。

 ああ、うん。

 そっちか。


 まぁ、俺が舞台に上がるとか、ちょっと都合の良い妄想だとは思ってたよ?

 でもさ、最近は皆が俺に気を遣ってくれたりするしさ。

 俺が企画に参加出来ない歓迎会でも俺の見せ場を用意してくれたのかな?とか思ったのよ。


 そんなことなかったみたいですけどね。

 まぁ、サプライズを用意するなら、主賓相手にサプライズするよな普通。


 というか、エーリッヒ=Lが来たのか。

 あの、場末の食堂で逆プロポーズされたエーリッヒ=Lが。

 そのまま結婚祝賀会が開かれて歓迎会に来れなかっただろうエーリッヒ=Lが。

 あのまま朝帰りするだろうと思っていた、エーリッヒ=Lが。

 まだ出し物の途中だったのに、来ちゃったかぁ……。



「エーリッヒ=Lは待たせてあります。歓迎会が終わったあとで……」


「いや、すぐ行こう。」



 俺はエーリッヒの言葉を遮って、すぐにエーリッヒ=L……エルと会うと告げる。


 本音を言うと、明日の朝じゃなくてもいいから、せめて歓迎会が終わってから面会がしたかった。

 ぶっちゃけ今日はもう、色々有りすぎて疲れてるんだよ。

 だから少しでも、出し物とかで心を癒やしておきたかったんだ。


 だけどエルが来たのなら、すぐに会わなければならないだろう。

 もしもエルと会うのを後回しにしたら。

 エルが他のエーリッヒ達と話してしまう時間を与えてしまいかねないのだから。


 その結果、どうなるか?

 エルの行状に激怒したエーリッヒ達が、エルを責めてしまいかねない。

 それだけは避けないといけないのだ。


 だから俺は、例えお楽しみ中であったとしても。

 それを中断して、エルに会いに行かなければならない。



「すまない皆。急用が出来たので、少し席を外す。」



 俺は近くに居た他の英雄達に一言かけてから、エーリッヒに連れられて会場をあとにした。

 最後に、舞台のエーリッヒ達が何を作ってるのかをチラリと振り返って確認する。


 一メートル四方の正方形の紙は、エーリッヒ達の手で小さな人間の形に形を変えていた。


 きっと、最初の演劇でドラゴンと戦った村人達を作っているのだろうな。

 ああ、あれを最後まで見れたら、最初の演劇と合わせて凄く感動出来ただろうに……。


 俺は後ろ髪を引かれる思いを振り切って、正面に向き直す。

 俺を先導するエーリッヒの背中を見ながら、会場の外へ向けて歩いていく。


 背後で徐々に遠くなっていく勇壮な音楽が、少し寂しい音色に聞こえた気がした。




 ―・―・―・―




 見慣れた神様用の私室で俺は、ソファーに座ってエルと対面していた。

 机を挟んで向こう側のソファーに座っているエルは、顔を青ざめながら俯いて机を見つめている。


 俺は会場を去った後。

 俺はエーリッヒにエルを私室に連れてくるように告げ、私室へと帰っていった。

 一足先に私室に戻った俺は、二つのコップに水を入れてテーブルに並べ、ソファーに座ってエルの到着を待つ。

 そしてノックをして部屋に入ってきたエルに、向かい側の席へと座るように指示をして、この状況になったわけだ。




 本当なら、私室じゃなくて執務室でエルと対面する予定だった。

 でも俺は、咄嗟の思いつきでエルを私室へと招くことにしたのだ。


 ぶっちゃけると、俺の心はもうズタズタのボロボロなのだ。

 多分エルとの話は重苦しい雰囲気になるだろうし、少しでもリラックス出来る空間で話がしたいのだ。


 それにこの私室は無駄に広くて、誰かを招いてパーティーを開くのにピッタリな部屋である。

 いつかは英雄を招きたいと思っていたので、少しでも自分が楽しい気分になるためにも、俺はエルを自室に招いたのだ。



「……エーリッヒ=L・ヴァイツェル。」


「ハッ。」



 沈黙を破って、俺がエルのフルネームを呼ぶ。

 エルは一瞬ビクっと反応し、短く返事を返す。


 ……そこまで怖がらなくてもいいのに。

 いやまぁ、エルとしては自分の身勝手を責められると思ってるんだから、怖がるのも当然なんだろうけど。



「楽にしていいぞ。」


「ハッ。……?」



 そう言って俺は、ソファーの背もたれに深く背を預ける。


 やっぱりこのソファーは良いな。

 高級品なだけあって、体を預けると沈み込んで体にフィットしてくれる。

 今まで何度もこのソファーに座ってきたが、何度座ってもこの心地よさは薄れることがない。


 うん、いつ座ってもそのまま寝てしまいそうな心地よさだ。



「このソファーはかなり良いソファーでな。俺しかそれを楽しめないのは常々悲しいと思っていたのだ。この際だから、エーリッヒ=Lも背を預けて楽しんでみるといい。」


「……し、失礼します。」



 俺の言葉に困惑していたエルも、俺の指示に従ってソファーの背もたれに背を預ける。

 恐る恐るといった風ではあったが、徐々に沈む背もたれが背中とフィットし始めると力が抜け、そのまま背もたれに身を預けきった。



「固くなっていたら、上手く話も出来ないだろう?どうせこの場には俺と君しか居ないんだ。少しゆっくり休んでから、話を始めようじゃないか。ただの水だが、喉が乾いたなら飲んでもいいぞ?」


「あ……はい。有難うございます。」



 そう言ってから俺は、背もたれに思いっきり背中を倒して、両腕を背もたれの上に乗せる。

 ついでに首も後ろに倒して天井を見上げる形になって、大きく息を吐いた。

 その状態のまま、暫く無言で休憩する。




 よっし、考える時間が出来た。

 この時間を利用して、エルをどうするのかを考えなければ。


 実は言うと、俺はエルと対面したあと何を話してどんな結果にするかとか、何も考えてなかったのだ。

 だって、エルは朝帰りすると思ってたからあとで考えようって思ってたし。


 歓迎会が終わってからエルへの対応をじっくり考えるつもりだったのに、エルが歓迎会の途中に戻ってきたせいで、エルとどう話すかを考える時間もなく対面することになってしまったのだ。


 しかも、最初にある程度考えていた対策に致命的な欠陥が見つかったのだ。

 なので、その欠陥を補えるような別の解決策を、俺は新たに見つけ出さないといけない。


 だから俺は、今から考える。

 エルと何を話すのかを。

 エルをどう処遇するのかを。




 取り敢えず、状況確認から。

 エルは、歓迎会に遅刻した罪で俺に呼び出されている。

 俺はエーリッヒに、エルには罰を与えると約束したので罰しなければならない。

 だが俺は、エルの結婚祝いということで罰を軽くしようと考えいている。


 事前に考えてたのはこんなところか?

 この流れに則っていけば、まぁ基本的に上手く事を運べるだろう。


 ただ、一つ問題がある。

 それは、エルが遅刻した理由をエーリッヒ達に知られると不味いという点だ。




 エルは、歓迎会が始まる前に恋人とデートしていた。

 それ自体はそこまで問題はない。

 デートの時間も早めに切り上げれば歓迎会に間に合う時間だったし、食堂で頼んでた注文の量から察するに、エルも歓迎会に参加するつもりだったはずなのだから。


 だが、デートが思わぬ方向に進んで、恋人からプロポーズされてしまった。

 しかもそのプロポーズを周りに聞かれてしまい、更には恋人のフィアナと店主の妻のナンシーの関係から、その後食堂で祝賀パーティーなりなんなりが開かれてしまったのだろう。

 その結果、エルは歓迎会に行くことが出来ず、大きく遅刻してしまった。


 という、遅刻の理由が問題なのだ。

 何せこの理由は、完全に私的な理由なのだから。




 この歓迎会は、元居た世界の職場歓迎会のようなフランクな催しではない。

 何せ、この世界の最高権力者っぽい俺が参加しているのだから。

 言うならば、国家元首が来賓する会に近い体質を持った、公的な会なのだ。


 その歓迎会に連絡もなく私的な理由で遅刻するのは、許されるものではない。

 一応結婚祝いということで罰を軽減することは出来ても、公的行事に私的な理由で遅れたという悪評は消えることがない。


 そしてその悪評は、エーリッヒ全体の評価に直結してしまう。

 何しろエーリッヒもエルも同じ顔なのだ。

 一人が悪いことをすれば、他のエーリッヒも同じ目で見られてしまう可能性が高いのだ。


 問題なのはそれだけじゃない。

 今回の件でエルは、結婚を機に英雄を辞めようとまで思っているのだ。

 公的行事に遅刻した上に、そのあとすぐに英雄を辞めて結婚する。

 そう聞くと、他の英雄の中には絶対に嫌な気持ちになる英雄が出て来るだろう。


 そんな嫌な気持ちになった英雄達が、エルの結婚を素直に祝福出来るのか?

 当然、出来ない英雄が出て来るだろう。

 そして祝福出来ない英雄達の中から、結婚に対して悪いイメージを持つ者が出てくるかも知れないのだ。




 実際の話の流れ的には、エルが悪いだけで結婚自体が悪いって話じゃない。

 だけど人間ってのは、一度嫌悪感を抱いた物に対して良いイメージを持つのは難しいのだ。


 俺も昔、小さい頃にチョコレートを食べたら鼻血が出て、その鼻血が鼻からじゃなくて口から出たせいで親に心配されて病院に連れてかれて、それ以来チョコレートは苦手で食べれないし。


 いや、チョコが悪いんじゃないってのは分かってるんだけど、どうしても口から血を吐いて怖かった記憶がよみがえるんだよ。

 だから俺にとってバレンタインデーは、チョコを貰えても微妙に嬉しくないというとても悲しいイベントになってしまった。

 ……まぁ、チョコを貰ったことなんて一度もないけど。


 話がズレた。

 とにかくだ。

 俺はエーリッヒ達に結婚に対して悪いイメージを持ってほしくないのだ。

 そのためには、エルが遅刻した理由を上手く誤魔化さなければならない。


 だから俺はエルと口裏を合わせて、歓迎会に遅刻したのは大事な理由があったんだってことにしないといけないわけだ。




 って言っても。

 欠陥が見つかった今となっては、それも難しいんだよなぁ……。


 その欠陥というのは、エーリッヒ達にエルの行動を隠しきれないという点だ。

 エルは多分、好感度イベントの後に祝賀パーティー開いていたと思われる。

 その祝賀パーティーになっただろう理由は、エルの逆プロポーズシーンを周りに聞かれていたのが原因なのだ。


 つまり、エルが逆プロポーズをされたことも、そのあと歓迎会を無視して祝賀パーティーに参加していたことも、全て一般人に知られているのだ。

 人の口に戸は立てられないと言うし、その事実はあっという間に周り噂として伝わってしまうだろう。

 そしていつかは、エーリッヒ達の耳に届いてしまうはずだ。


 そうなると、この場で俺がエルと口裏を合わせたとしても、必ずそれが嘘だということがバレてしまうのだ。

 つまり歓迎会の場で考えていた、エルがエーリッヒと話す前にエルと会って口裏を合わせるという作戦は、この欠陥のせいで不可能になってしまったのだ。


 それじゃあ、どうすればいいのだ?

 噂という形で遅刻の理由がエーリッヒ達に伝わってしまうと、エーリッヒ達の結婚願望が……。


 何とか、上手い言い訳を考えつかなければ。

 この世界に来てから無駄に鍛えられた、言い訳スキルをフル活用して。




 俺はリラックスした体勢のまま、熟考を続ける。

 意識を集中し、思考の海へと沈んでいく。

 エルが近くに居ることすらも忘れ去り、全ての意識を思考に没頭させる。


 誰もが幸せになれる、素敵な言い訳を探して。



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