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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
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楽しい楽しい歓迎会。


 俺とエーリッヒとのやり取りのあと、ティトラ君の歓迎会は約十五分遅れで開始された。

 すっかり司会役が板に付いたエーリッヒ=Fが俺とティトラ君を壇上に呼び出し、ティトラ君が会場の英雄達に自己紹介の挨拶をする。

 その後は俺が軽く挨拶と開会宣言をして、ややトラブルに見舞われつつも、歓迎会は無事開催された。




 ―・―・―・―




 基本的に、俺が歓迎会でやるべきことは何もない。

 事前に既製品の料理……というか缶詰を用意して開会の挨拶をしたら、あとは適当に飲み食いしたり英雄と話したりしながら英雄の催し物を眺めているだけだ。


 俺の席であるテーブルは、会場の中央に配置されている。

 会場の舞台が正面に見える、一番良い位置だ。


 これだと俺が歓迎されてる感じになってしまうように見えるが、俺の居るテーブルには、俺だけではなく主賓であるティトラ君も配置されているので、その辺は問題ない。

 むしろ英雄達が言うには、俺が歓迎される英雄の傍に居ることが、主賓の英雄に対して歓迎の意を伝えることになるのだとか。


 要するに、俺も歓迎のための道具の一つってわけだな。

 一応俺って神様という偉いポジションだから、そのネームバリュー的に傍に突っ立ってるだけで喜んでもらえるという、とてもお手軽なアイテムというわけだ。


 いや、別にいいんだけどね。

 俺も主賓と一緒に、演劇とかを特等席で見れるんだし。


 だが、歓迎会は立食形式のパーティーなのだ。

 最初は誰もが決められたテーブルに配置されているが、歓迎会が始まって暫くすると、皆が自由に席を移動して他の英雄と話し始める。

 そして主賓であるティトラ君も、暫くすると英雄達に挨拶するために他の席に移動して行くことになるのだ。


 唯一の例外として、俺は移動出来ないんだがな……。

 だって、俺から出向くと贔屓になったりするし、俺の権威が落ちたりするし。

 って、秘書に言われてるから。


 それは置いといて。

 前回のシュナとジョンの歓迎会でも、ナルキアの出し物の時には二人共俺のテーブルには居なかった。

 主賓はもてなされる立場ではあるんだが、同時に新参でもあるので、古参である他の英雄のところに挨拶回りに行かないといけないのだ。


 このように、この歓迎会は新しく来た英雄を持て成すだけではなく、新参英雄と古参英雄との顔合わせや交流の役割も担っているということになる。




 ……のだが。



「ティトラお兄さまっ。こちらのソテーはいかがです?」


「えっと、いただきます。」


「はいっ!それじゃ、あ~ん。」


「え?……えっ!?」


「ほら、お口を開いて下さいな。あ~ん。」


「あ、あーん。」


「はい。どうです?」


「……お、美味しいです。」


「それは良かったですわ!それじゃあ今度は口移しで……。」


「ええっ!?いや、ナルキアさん!?」



 ナルキアがティトラ君の傍を離れず、歓迎会が始まって暫く経っているのに、ティトラ君は他のテーブルに挨拶に行けないでいる。


 ティトラ君も挨拶回りに行くことは事前に知らされてたようで、ナルキアの歓待を受けながらも、チラチラと他のテーブルの様子を伺って落ち着かない様子だ。

 なんとかナルキアとの会話の隙を縫って他のテーブルに行こうとするのだが、その度にナルキアが別の話題を出してきて移動できないでいる。


 ナルキアは一体、何をやってるんだ……。

 ティトラ君も構われすぎて困惑してるじゃないか。


 というか、あーんは百歩譲ってまだ許せるが、口移しはお前がやると犯罪だろ。

 パッと見ナルキアもティトラ君も十二歳前後だから、普通に初々しいカップルに見えなくもないんだが、ナルキアの実年齢は十九歳だからな。

 十九歳の女性が十二歳の少年に口移しとか、どう考えてもアウトだからな。


 というか、ティトラ君には秘書として執務室に勤めてもらう予定なんだぞ?

 貴重な外回り英雄と話す機会を潰してんじゃねぇよ。


 外回り英雄とは殆ど会わないのかも知れないけど、一応食堂とかで会うことはあるんだからさ。

 ここで挨拶しとかないと、他の英雄から顰蹙を買って後で困るのはティトラ君なんだぞ?


 ってかもう、今日はイチャラブとか腹いっぱいなんだよ。

 店長とナンシーさんのラブラブに、エーリッヒとフィアナのプロポーズを見てきてるんだ。


 俺の心はもう、ギリギリなんだよ。

 頼むから、これ以上見せつけるのは勘弁してくれ。



「ナルキア殿、そろそろティトラ君も挨拶に……」


「あら、そうですわね。では私が案内して差し上げますわ。さぁティトラお兄さま、他の英雄方に挨拶に行きましょう?」


「えっ?あ、はい……。」



 流石に見かねたのか、近くに居たクロードがティトラ君に挨拶に行くよう促す。

 が、それに食い気味にナルキアが反応して、何故かティトラ君の挨拶回りにナルキアも着いて行くことになってしまった。


 まぁ、ティトラ君もまだ若いしね。

 誰か付き添いで一緒に挨拶に行く人が居た方がいいかな?とは思ってたけども。

 ナルキアが付き添いで大丈夫なんだろうか……。

 アイツのことだから、この際自分とティトラ君は付き合ってますとかでっち上げて、既成事実を周知して外堀を埋めようとか考えてそうで怖い。


 ってか、ナルキアは好感度イベントで自重するとか言ってなかったか?

 ティトラ君が生前苦労したのは自分のせいだから、好きという気持ちを表に出すのは良くないとか言ってた気がするぞ?

 その時の葛藤は一体、どこに行ったんだ……。


 あっ。

 もしかして、アレか?

 今朝ティトラ君が女の子にチヤホヤされてたのを見て、嫉妬したのか?


 あ、いや。

 何でもないな。

 俺は、何も見ていないんだった。


 うん。

 何でナルキアがティトラ君を構うのか不思議だなー。




 俺と軍人秘書英雄三人は、ナルキアに手を引かれてテーブルから離れていくティトラ君を、馬車に積まれた子牛を見る気分で見送った。


 ティトラ君よ、強く生きてくれ。




 ―・―・―・―




 その後も歓迎会は順調に進み、英雄達の出し物も残すところ一つとなった。


 挨拶回りに行ったティトラ君が気になって、時々ティトラ君の方をチラチラ見てチェックしていたのだが、何だかんだでティトラ君も笑顔だったので楽しめていたみたいだ。

 結局ナルキアは、自分が参加する出し物以外ではティトラ君の傍を離れなかったんだが、ナルキアも徐々に落ち着いてきたのか少しずつティトラ君に構う頻度も控えめになっていってたしな。


 にしても、歓迎会の出し物のレベルが回数を重ねるごとに上がっていっている。

 前回や前々回の出し物も十分以上に凄かったのだが、今回はこれまで以上の驚嘆する出し物だった。


 最初の出し物は、高柳君とナルキアによる演劇だった。

 すっかり定番となったオール高柳君プロデュースの演劇は、今までの歓迎会でも他の出し物より頭一つ抜けてクオリティーが高かった。

 そんな高柳君達の演劇はてっきり出し物のトリを飾ると思っていたんだが。

 なんで一番最初の出し物に持ってきたんだ?

 そう疑問に思っていながらも、俺は出し物を見ていった。




 今回は、前回のように奇をてらったオペラとかじゃなく、普通の演劇だった。

 とは言え、内容まで普通というわけではない。


 なんと今回の演劇では、舞台上で雨が降ったり風が吹いたり、月や太陽が空に浮かんだり、挙げ句の果てには本物そっくりのドラゴンまで登場したのだ。

 今までの演劇も高柳君による演出効果や舞台道具で、背景に綺麗な月を浮かべたり風を起こしたりはしていたのだが、流石に本物と見紛うほど綺麗な月や、排水の問題がある雨といった効果は当然として、本物じゃないかと疑ってしまうレベルのドラゴンまで使われることはなかった。


 だが今回は、まるで本物そっくりの月や太陽にドラゴン。

 そして舞台外に影響を及ぼさない、特殊な強風や豪雨が使われていたのだ。


 普通ではない、現実では有り得ない舞台効果の数々。

 それを可能にしたのは、ナルキアの魔法だ。

 今回は高柳君だけじゃなく、ナルキアが舞台演出として参加しているのだ。

 ナルキアの魔法のお陰で通常では有り得ない演出が可能となり、舞台で披露される物語はよりリアリティの高いものとなっていた。


 そして気になる演劇の内容は、生まれ故郷の村を守るため、村を襲ってきた竜を倒そうと奮闘する一人の男の物語だった。

 ただ、普通に竜と戦って勝ってお終いという話ではない。

 なんとこの主人公は、最初は竜に負けて殺されてしまうのだ。

 だが、主人公が死んだと思うと、次の瞬間には竜が村に襲ってくる三日前に時間が戻っているのだ。

 そう、これはループ物の物語だったのだ。


 一度目は竜の尻尾で薙ぎ払われ、二度目は尻尾を避けて続く爪も避けたが、最後には噛みつかれてしまう。

 三度目は弓を用意するが、炎で焼かれて死んでしまい、四度目は恋人を連れて逃げようとするが、竜に追いかけられて殺されてしまう。

 そして五度目で、自分一人で戦うのではなく誰かと共に戦うべきだと悟り、村人を率いて竜討伐に向かい、見事竜の撃退に成功した。

 この物語は、そんな英雄譚だったのだ。


 前々回は恋愛物で、前回は貴族恋愛物だった。

 なのに今回は、ストレートに英雄譚といった感じで、分かりやすくてとても面白い出し物だった。


 多分、主賓が少年のティトラ君なので、ティトラ君にも分かりやすいものを題材に選んだのだろう。

 まぁ、思春期に入ったばかりぐらいのティトラ君に恋物語を見せても、分かってくれるかどうか微妙だしな。

 というか戦闘アクションがメインの劇だったから、ナルキアの魔法を使った演出がド派手で、それを見てるだけでも楽しかったし。




 そして続いての出し物は、シュナとクロードによる演舞だ。

 前回、前々回と、クロードはアクロバティックなアクションを披露してくれたので、今回も同じく見応えのあるアクションを見せてくれるかと楽しみだった。


 と言っても、流石に高柳君達の演劇の次というのは宜しくない。

 なにせ高柳君とナルキアの演劇は、現実外れの大アクション劇でもあったのだ。

 流石にナルキアの魔法で再現されたドラゴンとの戦いを見たあとでは、見劣りしてしまうんじゃないか?

 そう思っていた。


 だが、それは無用な心配に終わる。

 シュナとクロードは予想通り舞台上でアクロバティックな演舞を見せてくれたのだが、動きの派手さ加減が前回や前々回とは比にならないレベルだったのだ。


 なにせ今回から参加しているシュナは、自由自在に空を舞うことが出来る。

 そんなシュナの空中機動を上手く使って、クロードの集団対シュナ一人という構図で、まるで本当に踊っているかのように舞台を縦横無尽に駆けたり飛んだりしながら剣を交えていたのだ。


 さっき見た非現実的な竜との戦いも凄かったが、今回はストーリーが無い分純粋に戦闘の動きに意識が集中出来て、演劇とは違った意味で見入ってしまう。

 特にシュナの動きなんかは、空を飛べる分完全に人間離れした動きになっていて、ただ見てるだけでも本当に面白かった。


 ……鎧を着ていたから、胸が揺れなかったのは不満だが。

 あと、いつものズボンも履いてたし。


 いやいやいや。

 これはティトラ君の歓迎会なのだ。

 少年にそんな破廉恥なものを見せるわけにはいかないよな。

 そう、下品な考えは捨てるべきである。




 そして現在。

 クロードとシュナの演舞が終わって、あとはエーリッヒの出し物を残すのみだ。

 出し物は合間に長い休憩を挟みつつ行われたので、歓迎会が始まってから時間も大分経っている。



「ファントム様っ、さっきの舞台凄かったです!」



 挨拶回りを終えたのか、ティトラ君が他のテーブルからこちらに駆けて戻ってきた。

 子どもらしくはしゃぐティトラ君の姿は、とても微笑ましい。

 ただ、その後ろでデレデレの顔でティトラ君を見てるナルキアが、そんな気持ちを吹き飛ばすレベルで気持ち悪いのが難点だ。



「ああ、凄かったな。演劇も、シュナとクロードの演舞も、素晴らしい出来だった。」


「本当に凄かったですね!ボク、あの演劇のストーリーには感激しました!」



 あれ?

 ティトラ君はまだ子どもなんだから、あのド派手なドラゴンとの戦いとか喜びそうなイメージだったんだが、ストーリーの方に着目するの?

 なんか意外だな。

 いやまぁ、玄人っぽくてそんなティトラ君も可愛いけども。



「えっと、ティトラお兄さま?竜との戦いはいかがでしたかしら?」



 ナルキアがティトラ君に問いかける。

 そういえばあのドラゴンは、ナルキアが魔法で作ってたんだったか。

 ナルキアとしては、ティトラ君に自分の担当したものを褒めて貰いたいんだろうな。



「あっ、ナルキアさんのドラゴンも凄かったですね!全部幻術系の魔導を使ってるかと思ったんですが、ドラゴンの動きで生じる風とかは別の魔導を使ってたところとか、流石ナルキアさんだなって思いました!」



 ……ああ、そういえばそうか。

 ティトラ君って、ナルキアと同じ世界出身の魔導師なんだったっけ。


 だから、ド派手な魔法を使った演出とか、幻術ってヤツで出したドラゴンとか、そこまで驚きがないのか。

 ティトラ君は☆7の英雄なんだし、やろうと思えば自分でも出来るんだろうし。



「そ、そうですわね。私も舞台演出に魔導を使うのは初めてでしたし、色々と考えて工夫したんですのよ?」



 ナルキアが若干動揺してるな。

 笑顔で対応しつつも内心で落ち込んでるんだろうな。

 きっとティトラ君が魔導師ってことを忘れてて、思ってたより褒めて貰えなかったからだろう。

 まぁ、俺もさっきまでティトラ君が魔導師だってことを忘れてたんですけどね。



「流石ですね!次の歓迎会からはボクも歓迎する側になりますし、一緒に演出を考えましょう!」


「っ!……はい、その時は宜しくお願いしますわ!」



 多分天然なんだろうけど、落ち込んでるナルキアに対して的確なフォローをするティトラ君。


 あんまりナルキアに優しくしすぎると、ナルキアの猛攻が更に激しくなってしまうぞ?

 とは思うんだが、まだ十二歳のティトラ君にその辺の機微を求めるのはアレか。

 なんかティトラ君って鈍感っぽいしな。

 ナルキアの好意にも気付いてない感じだし。



「そういえばファントム様も、ドラゴンの登場に驚いていませんでしたね。」



 俺の隣に立っていたクロードがそう聞いてくる。

 秘書達も歓迎会の中盤では他のテーブルに移動していたのだが、一通り挨拶や交流を終えると、彼らはいつも俺の居るテーブルへと戻ってくるのだ。


 きっと神様である俺が一人にならないように気を遣ってるんだろうけど、別にそんなに気にしなくっていいのに。

 秘書達は他の英雄と違ってずっと神殿勤めだから、歓迎会は他の英雄と交流を深める折角の機会でもあるんだしな。



「ああ……確かに驚きはしなかったな。」



 確かに、舞台上で暴れるドラゴンは物凄く臨場感があった。

 けど俺は、元居た世界のCGを知ってるからなぁ……。

 テレビとか映画とかで、リアルな怪物が暴れる系のものも何度か見ていたし、一度だけ映画館で3Dメガネを着けて飛び出るタイプの怪獣映画も見たことがあったので、そこまで驚くことはなかったな。


 いやまぁ、それでも映像じゃなくってリアルに舞台で暴れるドラゴンってのは凄かったけどな。

 吐き出される炎とか、会場全体が暗くなってたから赤い光が会場中を照らして眩しかったりと、映画じゃ味わえない臨場感があったし。



「流石ファントム様ですな。我らでも肝が冷える思いをしましたのに。」


「私も少し震えが走りました。あの竜が現実に居たら、どのように逃げるかと考えてしまうぐらいでしたよ。」


「私は演劇の準備で事前に何度か見てたんですが、それでも初めて見た時は怖かったですからね。本物じゃないと分かっていても、あそこまでリアルだとどうしても……。」



 クロード、エーリッヒ、高柳君が口々に、あのドラゴンが怖かったと言っている。

 ぶっちゃけ俺からすれば、君ら三人も十分以上に怖い存在なんだけどね……。


 運動神経抜群ってレベルじゃないクロードに、芸術肌バリバリのエーリッヒ。

 そして文字通り何でも出来る高柳君。


 英雄だから普通の人間より強い肉体を持ってるってのを別としても、それぞれが才能溢れる存在過ぎて、元サラリーマンで一般人の小市民的思考な俺としては、幻覚のドラゴンなんかよりよっぽど君らの方が恐ろしいわ。


 まぁ、思っていても口には絶対出さないけどな。

 だって俺が神様じゃないってバレたら、どうなるか分からないし。


 いや、彼らは皆気のいい奴らだし、俺も彼らに気を遣ってきてるからそんな酷いことにはならないと思うんだけど、それでもやっぱり怖いものは怖いんだよ。


 本当に、俺をこの境遇に追い込んだあのジジイ神様は地獄に落ちればいいのに。



「あっと、そろそろ最後の演目が始まるみたいですね。」



 高柳君がそう言って、舞台の方へと目を向ける。

 舞台の脇から現れた司会エーリッヒが、降りている幕の前へと移動しているのが見えた。

 きっと、次の演目が始まる合図をするつもりなのだろう。



「……うん?さっきシュナとクロードの出し物が終わったばかりだろう?次が始まるのが早くないか?」


「今回は始まりが少し遅れましたから、その分演目の間の休憩を短くしたらしいです。」



 あー……そう言えば、エーリッヒ=Lことエルが来てなくって、歓迎会の開始が遅れたんだっけ。

 あとでエーリッヒ=Lにどう対応するかも考えとかないとなぁ。


 全く、明日は午前中から礼拝堂での演説もあるってのに、今夜はエルへの対応も考えた上で朝一で上手いこと処理しないといけないとか……。

 今日は朝から色々有りすぎて、もう精神的に疲れ切ってるってのに。


 いやまぁ、朝からあった色々のうち、半分ぐらいは見なかったことにしてた気がするが……。



「あっ、もう次が始まるんですね!エーリッヒさんの出し物は凄いって聞いてるので楽しみです!」



 ティトラ君がそう言って、目を輝かせながら舞台を見つめる。


 本当に、ティトラ君は癒されるなぁ。

 最初は男英雄だからどうでも良いって思ってたけど、何と言うか歳の離れた弟が出来たような気分で新鮮な気持ちになれる。


 まぁ、ティトラ君は俺より頭が良いし運動出来るし将来性抜群で若いから、弟だと考えると出来が良すぎて辛くなってくるんだが。


 ……なんか、心が磨り減り過ぎてネガティブになってる気がする。


 もうアレだな。

 エーリッヒの芸術的な出し物を見て、心を癒やすしかないな。


 今だけは、全てを忘れよう。

 エルの問題も、演説があることも、全てを。

 今の俺には癒やしが必要なんだ。

 乾いて磨り減った俺の心を、癒やす必要があるのだ。


 癒やしと聞いて若干ガチャを引きたい気持ちになりながらも、俺はこれから始まるエーリッヒの出し物に癒やしを求めて、舞台へと視線を向けた。



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