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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
45/59

幸せに向けた尻拭い。

 今回の話は長いです。

 1万字を少しオーバーしています。

 でも、どうしても途中で話をぶった切れませんでした。

 申し訳ありませんが、時間に余裕を持ってお読み下さい。


 バイト先を早退して神殿へと戻ってきた俺は、なんとか歓迎会が始まる前に会場へと辿り着くことが出来た。

 会場内には既に多くの参加者の英雄達が集まっていて、会場の準備も殆ど完了している。

 立食方式の歓迎会では、綺麗なテーブルクロスが敷かれた円形テーブルが大量に配置され、そのテーブル上には俺が事前に交換所で入手しておいた既製品の料理が用意してあった。


 因みにこの料理は、一週間前に俺が交換所で買って、先に用意してあった物だ。

 なので、俺が歓迎会の時間ギリギリに会場にやってきても、「料理を出すファントム様が居ないから準備が出来ない!」なんてことにはならないのだ。


 一週間前の品と聞くと、傷んでないのかと心配になるかもしれない。

 だが俺が出す既製品の料理は、一応保存食カテゴリの食品だ。

 なので、一週間やそこらで腐ったり傷んだりする心配はないのだ。




 ……というか、ぶっちゃけ俺が出す既製品の料理って、缶詰だし。


 歓迎会の料理は俺が用意することになっているのだが、正確に言うと俺が用意してるのは交換所で買った缶詰を提供するところまでだ。

 俺が出した缶詰は神殿の食堂に勤めるコック達に渡されて、缶詰の中身を歓迎会向けにそれっぽく調理や配膳をしてもらってテーブルに並べているのだ。 


 異世界産の缶詰なんて、味はどうなんだ?

 と最初は思っていたのだが、実際に食べてみると普通に元居た世界の缶詰並に美味かった。

 普通に美味いし、信仰の値段も他の食料資材と比べると少し割高だがリーズナブルだし、更には保存が利くので、この缶詰に俺はよくお世話になっている。


 この世界の飯は味が微妙……というかぶっちゃけるとちょっと不味いので、俺は昼飯を神殿の食堂で食べる以外にも、自室でこの缶詰を食ったりしているのだ。

 元居た世界の味に慣れてる俺としては、こっちの世界の食事が毎日ってのは、流石に耐えられないからな。


 だが、俺だけが美味い飯を食っているわけじゃない。

 こうして歓迎会などの祝いの席では提供しているし、たまにだが前線で戦う英雄達にも補給物資として送ったりしている。

 戦場で戦う英雄達にも、たまには美味いものを食って欲しいしな。


 ……というか、俺だけ美味い飯を食ってると知られて変に妬まれると怖いし。

 こういう細かい気遣いを忘れると、人間関係はあっさり罅が入るからなぁ。


 皆に幸せを分けてあげれば、皆笑顔でハッピー。

 しかも俺は恨み妬みを受けずに済んで、俺の胃腸もハッピー。

 なので戦場へとお裾分けは、誰もがハッピーになれる素晴らしいことなのだ。


 まぁ、信仰は減ってしまうのだが。

 でも一応、資材として大量に使うんじゃなくって普通に食う分にはそこまで大量に信仰使わないから、そんなに問題はないだろう。


 とは言え。

 流石に歓迎会でも缶詰料理を使うのは、正直どうなの?

 と、思わないでもない。


 だがこれにも、一応理由が存在する。

 俺は基本的に、あの交換所にある資材を信用出来ないのだ。




 今となっては懐かしいぐらい昔の話だが、ナルキアの歓迎会で余興に使った例のビンゴ抽選機。

 俺はあのビンゴの正体を知った時の恐怖を、決して忘れたりしない。


 俺が歓迎会の余興に使おうと交換所で買った、何の変哲もないビンゴ抽選機は、『希望と絶望のビンゴ』という名前の魔法の道具だったのだ。

 何とこのビンゴとビンゴシートは、それを使って勝負をすると、勝った者の願いが叶ったり、逆に呪われて願いが叶わなくなったりする、ある意味呪われた品だったのだ。

 当時の俺はそんな物だと知らずにビンゴを使ってしまい、あとでそのことを知って相当焦った記憶がある。

 俺はもう、あんな怖い思いは二度としたくない。


 そんな感じであの交換所の資材には、見た目は普通な物であっても実は危険な性質を持っている品が存在している。

 なので俺は、あの交換所にある資材は基本的に信用しないと決めたのだ。

 下手すると爆発する食料とか、猛毒の食料とかが出てきそうだし。


 だが、この缶詰シリーズなら大丈夫。

 なにせこの缶詰は、あのビンゴ事件より前に食べたことがある物なのだから。

 俺はこっちの世界に来た当初、美味しくない食事に耐え切れなくて、交換所の資材一覧からこっそり缶詰を買って一人で食べたことがあったのだ。


 だからこの缶詰シリーズの安全性は確認済みであり、今では交換所で安心して買える唯一の美味い食料となっている。

 なので歓迎会でも、美味しい食事を提供するために、この缶詰シリーズを使うようにしているのだ。


 ……というか、この缶詰以外は怖いから買いたくないし。




 最初の歓迎会であるナルキアの歓迎会の時には、缶詰料理は珍しいだろうって理由で出してたんだけどなぁ……。

 本当なら、缶詰はその一回だけ出す予定だったのに、交換所の資材の危険性に気付いてからは、毎回恒例の食材として使うことになってるんだよなぁ。


 いやまぁ、缶詰も普通に美味いし、一応コックさんがそれなりに調理してるので飽きがこなくって良いんだけどね。


 ……まぁ、アレだな。

 全てはこの世界の食事が美味くないのが悪い。

 そして飯が不味いのは、邪神勢力に追い詰められてたせいだ。

 つまり、邪神が全て悪いのだ。

 早く、邪神勢力を滅ぼさないと。


 アレだぞ?

 俺が交換所の資材にビビってるのが問題なんじゃないんだぞ?

 全て邪神が悪いんだよ。

 まったく、邪神は碌でもない存在だよ、本当に。




 ―・―・―・―




 少し物思いに耽っていると、会場が少しざわつき始めた。

 何事かと、耳を澄ませて騒いでいる理由を確認する。


 微かに聞こえる英雄達のざわめきを聞き取ってみると、どうも本当なら既に歓迎会が始まる時間なのに、なんで歓迎会が始まらないのだ?と言っているようだった。


 俺は神様ネットワークの画面を開いて時間を確認する。

 時刻は十八時八分。

 歓迎会の開始は十八時ピッタリの予定で、今までの歓迎会もキッチリ十八時には始まっていた。

 しかし今は、予定時刻から八分も経っているのに開始が告げられていない。

 これは、異常な事態である。


 なにせ、歓迎会の企画と運営をしている英雄達の殆どは、時間遵守がモットーの軍人英雄なのだ。

 秘書の軍人英雄達も朝は時間遵守で、大抵始業前には執務室で準備をしているし、昼休みの時も少し早く休憩に入って食堂に行ったりせずに、時間ピッタリに昼休憩に入ってから食堂に行っている。

 俺がサラリーマンだった頃には、五分ぐらいなら早めに休憩に入っても怒られなかったんだけどなぁ……。


 そんな融通が利かない真面目な軍人英雄達が、歓迎会の開始時刻を守れていないとは。

 これはもしかして、何か問題が起きてるのか?



「ファントム様、申し訳ありません。少々問題が起きたようで、少し歓迎会の開始が遅れてしまっています。」



 俺のテーブルに秘書のエーリッヒがやってきて、謝罪の言葉を告げる。

 確か秘書のエーリッヒは、今回は歓迎会の企画側に回ってたはずだな。

 今も、企画関係者が集まってた舞台袖からこっちに走ってきたし。


 いやまぁ、別に歓迎会開始が遅れてても、俺はそんなに気にしていないんだけどね。

 むしろ急いでバイトから帰ってきたから、ちょっと長めの休憩が欲しいと思ってたところだったし。


 だが、俺に謝るエーリッヒは、悲痛な表情をしていた。

 そんなに俺に不手際を告げるのが怖いのかね?

 別に俺、今まで怒ったことないと思うんだけど。


 ああいや、何か問題が起きてるかもしれないのか。

 そして俺に言い辛い問題って可能性があると。

 でも大丈夫だから安心してほしい。


 俺は、確実に自分より偉いだろう英雄相手に、怒るような度胸はない。



「どんな問題が起きたのだ?」


「……一名、歓迎会参加予定の英雄が来ていないようなのです。」



 あー……。

 なるほど、遅刻してる英雄が居るのか。


 俺は別に、一人ぐらい誰かが遅刻してても始めてていいと思うんだけどなぁ。

 まぁ、この歓迎会って会社なんかの歓迎会と違って神様が来賓してる会だから、その辺もキッチリ対応する必要があるのかね?

 俺は別に気にしないんだけどね。

 だって俺、人間だし。


 それにしても、遅刻したのは誰なんだ?

 軍人英雄達が遅刻すると思えないから、クロード、高柳君、エーリッヒ、ジョンはないだろうな。

 ナルキアもアレで真面目な方だし、ティトラ君は主賓だから居なかったら先に誰かが迎えに行ってるだろうし。


 となると、遅刻してるのはアイツか……。



「もしかして、シュナが来てないのか?」



 心当たりと言えばコイツしか居ない。

 戦乙女にしてズボラの代名詞、シュナだ。


 銀の鎧を身に纏い、整った顔立ちと綺麗な青みがかった銀髪も合わせて、まるで女神のような姿をした女性英雄のシュナ。

 戦場では光り輝く細身のランスを構え、目にも留まらぬ速さで宙を舞って敵を仕留める、戦乙女の名に相応しい働きを見せてくれる。


 だがそんなシュナは、私生活が非常にだらしない。

 流石に実際に見たことはないんだが、自己申告によると私室はゴミだらけで、外にまで臭いが漏れるほどなんだとか。

 更には毎日十数時間も寝る上に、食堂が開いてる時間に間に合わなかったりするぐらい時間にもルーズだ。


 仕事だとかなり真面目らしいんだけど、それ以外は本当にダメダメでズボラな英雄だからなぁ……。

 きっと今回も、シュナが遅れてしまって歓迎会が始められないのだろう。



「いえ、シュナ嬢でしたらナルキア嬢が連れてきて下さったので、既に到着しています。」



 って、違うのかよ。

 てっきりシュナが遅刻してるもんだと、心の中で完全に決めつけてたよ。


 でもまぁ、アレだよ。

 こうやって無駄に疑われるのは、日頃の行いが悪いせいだから仕方ないな。

 普段からしっかりしていれば、周囲から変に疑われたりなんてしないのだ。


 そういえば、おばちゃんメイドさんに皿洗いを習った時に、シュナに教育するために習うって感じの説明をしてしまってたし、この際だから本当に家事だけでも俺がシュナに仕込んでみるか?

 シュナはズボラじゃなかったら、美人で俺のストライクゾーンにバッチリ入る女性英雄なんだし。

 その欠点さえ無くってしまえば、職場にも少し華が咲くかもしれないしな。


 ついでに俺が手取り足取り教えることで、好感度アップも……。

 いや、あんまり下心見せると嫌われそうだな。

 それに、ズボラじゃなくなってあのタンクトップ姿が見れなくなるのも惜しい。

 どうしたものか……。



「……まだ来ていないのは、エーリッヒ=Lです。」



 思考が逸れて、シュナに下心を悟られないように家事を伝授する方法を考えていた俺は。

 エーリッヒの一言で、一瞬だけ頬が引きつってしまった。




 完全に忘れてた。

 エーリッヒ=Lがこの場に来ないと、少し前に聞いていたことを。


 エーリッヒ=Lとは、俺がお忍びで働いてる食堂に来たエーリッヒの一人だ。

 フィアナという恋人と共に俺がバイトしてる食堂にやってきて、色々あった結果、この歓迎会よりも恋人を優先したあの色男である。


 その一連の流れは三十分ほど前に見ていたのだが、色々あったせいで急いだり焦ったりしてたせいで思い出せなかった。


 実は俺は、歓迎会が今日であることを忘れていて、エーリッヒ=Lの好感度イベントを見て歓迎会の存在を思い出したのだ。

 それからすぐにバイトを早退して急いで神殿に戻ってきたので、焦り過ぎてたせいで、エーリッヒ=Lが歓迎会に来ないと言ってたのを忘れてしまっていた。


 ……どうしよう。

 この場は、あの色男を抜きで歓迎会を始めても、別に問題はない。

 だが、そのあとが問題だ。




 俺的にはエーリッヒ=L……エルには幸せになってほしい。

 だから今日は、歓迎会よりも恋人を優先してほしいと思っている。

 だが、歓迎会をブッチして周りに迷惑掛けてるエルに対して、何のお咎めもなしというわけにはいかないのだ。


 となると俺は、エルに何か罰を与えないと駄目なのか?

 でも、エルには幸せに寿退社してほしいし。

 本当にどうしようか。


 というかエルよ。

 あの状況で「歓迎会があるので失礼します。」って言えないのは分かるけども。

 それ以前に、歓迎会がある日にデートするんじゃねぇよ。

 ……いや、歓迎会の存在を忘れてた俺は人のことを言えないが。


 いやまぁ、俺のことは置いといて。

 でもよく考えると、一応エルも元々デートの後に歓迎会に参加する気があったからなのか、食堂での注文は大分控えめであんまり頼んではいなかったな。

 多分話がプロポーズの流れにならなかったなら、時間的にデートが終わってから歓迎会に行っても間に合っていただろう。

 つまりは、一応時間配分を考えた上でデートしていたわけだ。


 ……って、プロポーズの流れになったのって、俺のせいじゃなかったっけ?

 俺が水のことを指摘してナンシーさんをエル達に会わせなければ、プロポーズからのパーティーって流れにはならなかったんじゃないのか?


 ……うん。

 俺は何も知らない。

 今日俺は、神殿から外に出てないんだし。

 全部ボリスってヤツが悪いんです。


 いや、アレだ。

 例え俺が原因に関わってたとしても、もしかしたら遅れるかもしれないってことを、事前に誰かに伝言しておけば良かったんじゃないか?

 そうすれば例えエルが来なくっても、歓迎会の開始が遅れることもなかったんだろうし。


 でもまぁ、歓迎会を一回ブッチする程度だったら、周りにちゃんと事情を説明すれば納得してくれるとは思うけどさぁ……。



「……私の同朋の一人が、この様な醜態を晒してしまい、大変申し訳有りません、ファントム様。」



 そう言って、エーリッヒが俺に頭を下げる。

 その表情は重苦しく、どう考えてもエルの行動を重く受け止めてるとしか考えられない。


 ……これは、ヤバイんじゃないか?

 もしもエルが皆にブッチの理由を説明しても、エーリッヒ達は許してくれないんじゃないか?

 これって適当に対応したらマズくないか?

 俺にどう対応しろっていうんだよ。


 そもそも俺は、エルがこの場に来れない事情を知っている。

 だから別に、俺がエルやエーリッヒに対して怒る気なんてないのだが……。


 でもその知っているってのは、本来俺が知らないはずの情報なんだよなぁ。

 だって、お忍びで現地に居て、更には好感度イベントで見てたから詳細を把握してるんだし……。


 好感度イベントのことは隠して、お忍び中にたまたまその場に居合わせてたことにするか?

 いや、駄目だな。

 今日は土曜日で内緒のお忍びだったんだから、その言い訳は使えないな。


 つまり俺は……何も事情は知らない振りをしながらも、遅刻しているエーリッヒ=Lをどうフォローするか考えて対応をしないといけないわけか。


 なんか、考えるのが面倒臭いなこれ。

 ただでさえ今日は、見なかったことにしたい物やら他人のイチャラブシーンやらに遭遇していて、かなり精神がガリガリ削られてるっていうのに。

 企画と運営が完全に英雄任せで気楽に楽しめると思ってた歓迎会で、なんでこんな苦労を背負い込まないといけないんだ。



「同朋のミスは我らエーリッヒの恥です。エーリッヒ=Lには私達から強く注意しておきますので、どうかお許し下さい。」



 頭を下げたまま、エーリッヒは俺への謝罪の言葉を続ける。


 ……なんか、凄く嫌な予感がするな。

 今の言葉を聞く限り、この場で適当に返事をすると、かなりマズいことになる気がするぞ?




 このエーリッヒが言ってることから考えるに、エーリッヒ達にとって同じ顔の誰かのミスは、エーリッヒ全体のミスだと考えているみたいだ。

 ぶっちゃけ今まで、英雄達がミスをしたことなんてなかったので知らなかったのだが、彼ら量産型英雄の中ではそういう考えになっているらしい。


 いやまぁ、親兄弟より血の繋がりが濃いというか、ほぼ同一な存在なんだし、身内だって意識が強いのは分かる。

 それに顔が一緒なんだから、一人が悪いことをすると他の同じ顔英雄の評判にも関わるんだろうし、悪いことをしたヤツには同朋内でもペナルティを課そうってことも分かる。


 だけど、このままいくと。

 エルの結婚が、エーリッヒ達に認められなかったりするんじゃないか?


 ただでさえ基本的にエーリッヒ達は、自身が結婚することに対して否定的な想いを持っているのだ。

 英雄として産まれてから時間が経つにつれて、エルのようにエーリッヒ達の中でも結婚に前向きになってきたエーリッヒも居るのだが、最近増員されたエーリッヒなどの殆どのエーリッヒは、まだ結婚に否定的なエーリッヒだと思われる。


 そんなエーリッヒ達に対してエルは、結婚の報告と英雄を辞めるという報告をしないといけない。

 その上で、神である俺に許可を取り、それでやっと結婚が認められるのだ。

 好感度イベントを見てた時には、「エルは幸せになれて良かったなぁ。」と単純に考えていたけど、実際にはまだまだ様々な障害が残っているのだ。


 そんな中で、このブッチは痛い。

 下手をすると、エルはエーリッヒ達から反感を買ってしまう。


 たとえ俺がそれを宥めて結婚を許可したとしても、エーリッヒ達はエルに対して悪感情を抱いきかねない。

 英雄を辞めるからと言って他の英雄達と不仲なままで別れてしまうのは、エルの幸せな人生に影を落としてしまうかもしれないのだ。


 それだけじゃない。

 まだ結婚に否定的なエーリッヒ達の一部が、今回のエルのブッチやら英雄辞めるやらの話を聞いて、結婚に対して嫌悪感を抱いたり、更に否定的になってしまうかもしれないのだ。


 例えば、無責任な行動をしたエルに怒って、「英雄としての責任感が足りない!結婚する前に英雄の責務を果たすべきだ!」と言い、その言葉が自分を縛って英雄の責任を果たすために結婚をしなくなるとか。


 これはただの想像だけど、十分有り得そうな話だ。

 軍人英雄って責任感強いっぽいし、特にエーリッヒの場合、最初の好感度イベントを見た感じだと昔のことが関わるとちょっと感情的になっちゃうっぽいし。


 好感度イベントでエーリッヒの過去を知っている俺としては、出来るだけ多くのエーリッヒに幸せになってほしいと思っている。

 なので、今回のことが原因でで結婚出来ないエーリッヒが出そうな事態は困るのだ。


 ぶっちゃけ原因の一つは俺だし。

 何もなかったことにしたいけど、流石にこれはなかったことに出来ないな。




 それでは、どうするのか?


 考えるのだ。

 どうすればエルが、エーリッヒ達から反感を買うことなく、スムーズに結婚出来るのかを。

 そしてどうすれば、エーリッヒ達が結婚に対して嫌悪や否定的な気持ちを抱かずに済むのかを。

 これはエルだけではなく、エーリッヒ全体に関わる問題なのだ。


 考えるのだ、俺。



「……」


「ファ、ファントム様?」



 無言の俺に対してエーリッヒが声を掛けてくるが、そんなことを気にしてる場合じゃない。

 いま俺は脳をフル回転させて、全てが上手くいくような言い訳を考えているのだから。




 エルがブッチしたのは事実だ。

 だがそれは、結婚関係の外せない理由があった。

 でもエーリッヒ達は、その理由を聞いて許せるのか?


 いや、そもそもだ。

 エルは素直に、全ての事情をエーリッヒ達に喋るのか?


 好感度イベントを見てた感じだと、多分エルは素直に話すだろうとは思う。

 だが、今回歓迎会をブッチしたことに対してエーリッヒ達は、きっとエルを責めるだろう。

 そんな時にエルは、正直に全てを暴露出来るんだろうか?


 まぁ、英雄を辞める覚悟まで決めたエルが、そこで気圧されるとは思わない。

 だがしかし、何かが作用してエルの心情が変わるかも知れないのだ。

 ここは、エルがエーリッヒ達に対して何と言うのかは分からないと思っていた方がいいのかも知れない。


 それにそもそも俺は、エルが結婚して英雄を辞めようと思ってるとは知らないことになっている。

 ここに来れない理由が、歓迎会よりも恋人を取ったということもだ。

 となると、それを知らない前提の言い訳が必要になるわけだ。




 それらを前提として、俺がエルを擁護する方法、か。


 ……俺が泥を被るか?

 エルは俺の指示で内密に何かをやってもらってたことにして、全て俺のせいってことにするか?


 でもそれでエルが救われたとしても、今度は俺の評価が落ちるな。

 それは嫌だ。

 大体、内密の指示なんて内容が思いつかないし。


 そもそも、もしも逆にエルが俺を庇おうとして全てを暴露してしまったら、結局俺が庇った意味がなくなってしまう。

 しかもそうなった場合、なんで俺がエルを庇ったのか?ってことで、エーリッヒ達に要らぬ疑念を抱かせることになりかねない。




 ……駄目だ、上手い言い訳が思いつかない。

 一体俺はどう言えばいいんだ?

 どう言えば、エルがエーリッヒ達に責められずに済んで、エルとエーリッヒ達との間に溝が出来ずに、エーリッヒ達に結婚に対する否定的な想いを持たせずに済むんだ?


 なんとか、エーリッヒ達がエルを責めないように持っていくには……。




 って、そうか。

 エルがブッチした理由を、エーリッヒ達に知られなきゃいいじゃん。


 だってそもそも今回の件での問題点って、全部エルがエーリッヒ達と話すことで発生するものなんだし。

 エルがエーリッヒ達と話す前に俺がエルと直接会って、色々と上手いこと話をつけて口裏を合わせればいいんだよ。

 どうすれば上手く話がつけれるのかとかは考えてないけど、どうせエルは朝帰りするだろうからそれは先送りってことでいいや。


 となると、俺はなんとかしてエルとエーリッヒ達を会わせずに、俺が直接エルと話せる状態にもっていく必要があるのか。


 ……それなら、なんとか出来るかも知れない。



「……エーリッヒ。」


「はっ。」



 長い沈黙を破り、俺は声を発した。

 俺が沈黙してる間立ち尽くしていたエーリッヒは、俺の声に反応して短い返事と共に敬礼する。


 そんなにビビるなよ。

 なんか壁を感じて、ちょっと悲しくなるだろうが。



「お前はエーリッヒ=Lに対し、今回の件でどの程度の罰則が必要だと思う?」


「……ばっ、罰則ですか?」



 エーリッヒが動揺し、言葉が一瞬詰まった。


 別に俺は、本当にエルに罰を与えようとは思っていない。

 だが、遅刻……というか、ブッチしたエルに対して何もしないというのは、エーリッヒ達としては気に食わないだろうと思われる。

 なので敢えて、エルに対してどんな罰を与えるのが良いのか聞いてみたのだ。



「歓迎会に遅刻し、その結果多くの者を待たせる結果となったのだ。遅れるのならば事前に誰かに言付けておけばいいのに、それもしていない。エーリッヒ=Lの過失は明らかで、何かしらの罰は必要となるだろう。」


「……それは、その通りです。」



 エーリッヒが暗い顔をする。

 きっとエーリッヒとしても、同朋を罰することになるのは気が引けるのだろう。

 もしかしたらエーリッヒ=Lは、どうしようもない事情で遅れたのかも知れないのだから。


 だからこそ俺は、エルとエーリッヒ達を会わせるわけにはいかないのだ。

 エルが歓迎会に来れなかった理由は、完全に私的な理由なのだから。


 それを聞かされたエーリッヒ達はきっと、エルに対して怒りの感情が沸くことになる。

 その結果、エーリッヒ達が結婚に対して否定的な想いを持ってしまう可能性が非常に高いのだ。


 そして、遅刻の理由が私的なものだと分かっている以上、それを前提とした話の持って行き方をする必要がある。

 だから俺は、いきなり罰というキツい言葉を使った。



「邪神の手先と遭遇した等のどうしようもない事情があるならば問題ない。だがもしも、私的な理由での遅刻だったのならば罰を与える必要がある。その際には、どのような罰が良いと思う?」


「それは……。」



 ……うん?


 なんか、想定と違う反応の仕方だな。

 エーリッヒは軍人英雄だから、軍人だった頃の規律と照らし合わせて、すぐにどんな罰則が良いのかを言ってくれると思ってたんだけどなぁ。


 エーリッヒが何か罰則を提案したのなら、「それを参考にして俺が罰を決めるから、エルを直接俺に会わせて説明させろ。」って感じで、エーリッヒ達に事情を聞かせる前にエルと対談しようと思ってたんだけど。


 こうしてエーリッヒに罰の案を聞いておいて、俺はエルの対応を全部任せてもらう流れにもっていくつもりだった。

 エーリッヒがエルの罰に少しでも関われるから、エーリッヒも俺に下駄を預ける気になってくれるだろうし。

 そして下駄を預けて貰えたなら、エルとエーリッヒを会わせないって流れに持っていきやすくなるのだ。


 あと、俺って一応神様で最高責任者だから、ミスした部下を罰するのに問題はないはずだ。

 なのでこの流れなら、上手いことエルとエーリッヒを会わせずに俺がエルと口裏合わせをする時間を用意出来ると思ったんだけどなぁ……。




 まぁ、大丈夫か。

 別にエーリッヒが何も罰則を提案しなくっても、話の流れに問題はないしな。

 俺がエルの罰則を考えるってことで、エーリッヒ達に会わせずに俺と対談って流れに持っていっても問題無さそうだし。

 エーリッヒに罰の内容を聞くってのは、その流れに持ってきやすくするための保険だったんだし。

 だからエーリッヒから罰の助言を受けなくても、別に問題はないだろう。



「では、私がエーリッヒ=Lと直接話して罰するかを決めよう。エーリッヒ=Lが来たら、例え歓迎会が終わった深夜であっても、理由を聞く前に即座に私の元に来させるように。」



 実際にはエルは歓迎会中に来ることはなくって、朝帰りしそうなんだけどね。

 でも一応、いつ帰ってきても大丈夫なように一言付け加えておいた。

 ちゃんと理由を聞く前にって言ったので、これでエーリッヒ達がエルと話をする前に俺がエルと話すことが出来るだろう。



「……はっ、了解しました。」



 よし。

 これで何とか、エーリッヒ達がエルと話すってパターンは回避出来そうだな。


 ……というか、罰則なんてちょっと重い言葉を出したせいか、エーリッヒの反応が堅くなってしまってるな。


 でも大丈夫だ。

 実際に俺がエルと対談して、事情を聞いたあとに軽い罰でも与えてやれば、俺は優しい神様だってことをアピール出来るだろう。


 まぁ、今回は英雄初の結婚なんだしな。

 そのお祝いって名目にすれば、軽い罰でも皆納得してくれるだろうし。


 あとは、俺がエルと話す際にエルと口裏合わせしておいて、ブッチしたのは恋人の看病でもしてたからとか、なんか良い感じの言い訳でも用意しておけば問題ないはずだ。

 そうすればエーリッヒ達がエルに対して悪感情を抱くこともないだろうし、結婚に対して否定的なエーリッヒが出ることもないだろう。



「少し話が長くなったな。時間も押しているだろうし、そろそろ歓迎会を始めてくれ。」


「はっ。」



 短い返事と共に敬礼し、エーリッヒは舞台の方へと戻っていく。

 その背中は少し丸まっていて、何故か落ち込んでいるようにも見えた。




 ……流石に、罰則はちょっと言い方がキツかったかな?


 でも、何の罰も与えないとエーリッヒ達も納得しないだろうし……。

 だって軍人英雄って、こういう規律とかにうるさいじゃん。


 ……なんか、俺が悪者になってる気がする。

 だ、大丈夫さ。

 俺がエルと話したあとには、誤解が解けるはずなんだから。



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