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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
42/59

どいつもこいつも。


 見苦しいツンデレ親父から逃げてだし、俺は食堂ホールへと向かう。

 ホールの客席はまだ空いているが、そろそろ夕方で客足も伸びてくる時間帯だ。


 さっきまで俺は、このホールの掃除をしていた。

 その掃除が終わったので、次の仕事は何かと店長に報告に行っていたのだ。


 そして皿洗いをしろと言われたんだが、話の流れでいつの間にか指示が変わり、気付けば俺への指示は、皿洗いからホールのウエイターに変わっていた。

 なので、こうしてホールへと来たわけなんだが……。


 ホールの人手、余ってるぐらいなんだけど。

 これって、俺要るのかね?


 客がちょいちょい店内に入ってきてはいるが、そっちの対応は双子の片方がやってるし、ウエイターとして注文聞くのも、もう一人の方がやっている。

 店内もそんなに広いわけじゃないから、俺がここに加わる必要はない気がするんだが、俺はどうすればいいんだ?


 ……ってか、この双子って見た目が全く一緒だから区別つかないんだよな。

 量産英雄達だったら服や帽子の模様と色を変えて区別がつくようにしてるんだけど、この店の双子は服装も制服で統一されてるし。


 せめて、アレだ。

 区別がつくように、髪型ぐらい変えといてほしい。


 ってか、本当に俺がホールに居る意味あんのか?

 やっぱり今からでも厨房に戻って、皿洗いでもしてた方がいいんじゃないか?

 あのツンデレ親父には蹴られそうだけど、ホールで立ち尽くしてるよりはマシだろうし。


 俺はそう思い、店長の怒りが収まるのを軽くテーブルを拭いたりして少し待ってから、皿洗いに行けないかと厨房を覗いてみた。




 店長の背中に、店長の奥さんが抱きついてた。




 ……。


 そうですか。

 そういうことでしたか。




 いえ、別にアレですよ?

 俺は嫉妬なんてものは見苦しいって思うタイプですから。

 別に、嫉妬なんかしてませんよ?


 例え、ハゲ店長には勿体無いぐらい美人の奥さんだからといって、俺は羨ましいからと歯ぎしりなんかしませんとも。

 あれ、もしかして後妻かな?って思うぐらい若い奥さんだったとしても。

 それでも俺は、嫉妬したりしませんよ?




 けど、働けよ店長。


 これは嫉妬心からの言葉じゃなく、純粋な勤め人としてのお言葉だ。

 お前店長なんだから、サボってないで働けよクソハゲ。

 店長は店員の模範となるべく、真面目に働くのが普通だろ?

 なんで俺が男性客しか居ないホールで、ショタっ気が仄かに残る双子君達と一緒に仕事してんのに、お前は厨房で奥さんと二人でイチャラブしてんだよ。


 駄目だ。

 嫉妬してはいけない。

 嫉妬は、醜い大罪の一つなんだ。

 こういう時はアレだ。


 ……仕事に逃げよう。




 俺は何も見なかったことにして、ホールへと戻っていく。

 先に注文聞きをしてた双子と話して、現在の注文状況を確認する。

 そして、俺は店に来た客の案内を担当することに決まり、店の入口付近で待機することとなった。


 しかし、店の入り口でただ立ち尽くしているのも暇だ。

 周りが働いてるのに一人だけ暇してるとか、なんか執務時間中を思い出してちょっと辛い。

 なので俺は掃除用具を持ってきて、入り口辺りを掃除しながら、客が来るまで時間を潰しすことにした。


 ……掃除は良いよね。

 何も考えずに、集中出来るから。

 今日だけで、二回も何かを見なかったことにしたから、精神的に色々辛いんだ。


 もうこのまま、客が来なければいいのに。

 そうすれば俺は、掃除に没頭していられるんだから。




 ―・―・―・―




 時計の針は、望む望まないに関わらず残酷に進んでいく。

 俺が望もうが望むまいが、夜に近づくにつれて客足は増えていくのだ。


 もう少し掃除に没頭していたかったのだが、残念ながらそうもいかないらしい。

 どんどんと新しい客がやってきて、俺はそれらの客をテーブルへと案内していく。

 そして気が付けば、掃除をする暇がなくなるぐらいホールは忙しくなっていた。




 俺は店長夫妻のイチャイチャを目撃してから、ウエイターとして働き続けていた。

 あれから客も増えてきて、今では客席も殆どが埋まっている。

 双子君達も忙しなく働いてるし、俺も案内以外にも注文を聞いたり料理を運んだり食器を片付けたりと大忙しだ。


 ただ、会計の仕事だけは俺には任せて貰えていない。

 流石に氏素性の知れない者に金銭関係を任せるのはアレだしな。

 防犯意識がないというわけではなさそうだ。

 いやまぁ、こっちの世界の金銭価値とか知らないから、会計やれって言われても無理なんだが。


 というか、この日雇い政策って大丈夫なのかね?

 雇う前に身分証明書とか確認してないし。

 いや、そもそも身分証明書とか、この世界にあるのか?


 特に俺は、無銭飲食しそうになった奴だぞ?

 そんな、半分犯罪者な輩を雇ったりして、犯罪とか起きないのかね?

 今日も店に来る道中でひったくりとかあったし、治安は良くなさそうな感じなんだが。


 ああ、いや。

 俺は何も見てないんだったな。


 うん。

 ひったくりなんて見てませんとも。

 この街はとてもクリーンで、素晴らしいところですよ、はい。




 入り口の扉が開き、扉に付けられたベルが鳴る。


 っと、新しいお客さんが来たか。

 ええっと、双子君は……手が空いてないのか。

 じゃあ、俺が案内役をした方がいいな。


 ただ、俺は空いた席の食器を片付けてるとこだったんだよな。

 他の席は空いてないから、新しいお客さんに入ってもらうためにはこの席片付けておかないといけない。

 取り敢えずお客さんに、ちょっと待って下さいって一言言っておこうか。



「いらっしゃいませー!」



 俺は元気の良い声でお客さんを出迎える。

 ドアを開けて入ってきたお客さんは、なんと若い男女のカップルだった。


 基本的に男しか来ないこの店に、女性連れのお客さんが来るとは珍しい。

 いやまぁ、俺は勤め始めてまだ三日目だから、本当ならたまには女性客も来てるのかも知れないが。


 ……もし、普段は女性客が居るのなら、俺が居る時だけは女性客が来てないってことになるな。

 ガチャでもろくな女性出ないし、俺が偶然勤めることになった食堂も、女性が店長の奥さんのみとか。

 もしかして、俺って呪われてるんじゃ……。


 ……いや、元々この店は男性客ばっかりが基本なんだよな。

 いやー、食堂なのに砂埃舞ってそうな黄土色の空気で辛いわー。

 俺のせいとか関係なくって、この食堂の客層が男性客ばっかりなのが悪いわー。




 入ってきたカップル客は、金髪の美男と茶髪の美女だった。

 金髪の男は如何にも優男って感じで、フォーマルで場違いな服装をしている。

 女性の方はワインのように赤いドレスを着ていて、ウェーブのかかったロングヘアーのモデルみたいな美人さんだ。


 こんな目に毒な客は、さっさと案内して双子に任せるに限るな。

 ただでさえ店長のイチャラブを見た後なのに、こんなカップルのイチャついてるところとか見たくないし。


 そうだ、そろそろ食器も溜まってるだろうし、俺はこの客の案内が終わったら厨房に戻らせてもらおう。

 俺の精神は朝からガリガリ削られて、もう限界近いんだ。



「二人なんだけど、席は空いてるかな?」


「すみません、今一つだけ席が空いてるんですが、片付け中なので少々お待ちいただけますか?」


「あ、そうかい?それなら待たせてもらうよ。」


「ごめんね、エルさん。こんなに混んでるとは思わなかったの。」


「ははは、構わないさフィアナ。君が来たいって言った店なんだから、混雑するぐらい美味しい店なのは当然だよ。」



 なんか、凄くイライラする。


 お前らどう考えてもこんな場末の店に来るような客じゃないだろ。

 何だ?隠れた名店でも探して来たのか?

 金持ちの道楽なのか?それともラブラブっぷりを見せつけに来たのか?


 ってか、TPOを考えろよ。

 お前らみたいなカップルはこんな大衆食堂じゃなくって、もっと良い雰囲気のお店にでも行ってろよ。

 来るならせめて、もっとカジュアルな服装で来いよ。


 なんで、雰囲気が良い高級なお店が存在するのか知ってるか?

 お前らみたいなヤツらを、隔離するためだよ。

 上には上の、下には下の住処が存在するんだよ。


 住み分けを理解しろよ。

 小市民な俺の前に、いかにも成功者側って感じのカップルが来るんじゃねぇよ。




 ……っと、いかんいかん。

 嫉妬は大罪だ。

 営業スマイルで、この場はスルーしなければ。



「それでは少々お待ち下さい。」



 そう告げて俺はその場を離れ、食器が残っている空きテーブルの片付けに移る。


 アレだな。

 何か嫌がらせ出来ねぇかな。

 椅子の足の先端部分にガムでも付けて、座るとガタつくように細工するとか。

 いや、ガムなんて無いんだが。


 むしろガムが有るなら、背もたれ部分にくっつけとくと効果的だな。

 いやいや、そもそも店の評判が落ちるようなことはしちゃ駄目か。



「おい、あの人……。」


「もしかして、本物か?」



 急に店内がざわめき始める。

 男だらけの食堂なので普段から店内はワッハハガハハとうるさいのだが、何故か店内は急に静まり、皆してヒソヒソ声で話し始めた。


 なんだ?

 いま来た客って、もしかして有名人だったりするのか?

 でもこの世界って、テレビもラジオもないよな。

 それなのに有名人なんて居るのか?

 もしかして俺が知らないだけで、映画とかは有ったりするのかね?


 あっ、そうか。

 新聞があるんだし、雑誌とかはあるのかも知れないな。

 アレかな?あの女性客は実は、雑誌に載ってるモデルさんだったりするとか?


 俺は気になって、食器を厨房へと運びながら店に来たカップルをしっかり見てみる。


 女性の方は、赤いドレス越しに見える胸も腰も尻も整ってて、モデルだとしてもおかしくないぐらいスタイルが良い。

 顔も相当な美人だし、ウェーブしてる茶髪のロングヘアーが、美人さの中に可愛らしさも醸し出している。

 この女性は、本当に有名なモデルやセレブなのかも知れないな。

 俺は神殿に引き籠もってるから知らないけど。


 そんな女性と付き合ってる男はどうなんだ?

 もしかして、モデルに交際相手が居るこの状況は、スキャンダルな場面なんじゃないか?


 男の方はスラッとした細身の体型だけど、腕とか太ももとかをちゃんと見るとしっかり筋肉が付いているのが分かる。

 店内の照明を反射して輝いている金髪は、肩で綺麗に切り揃えられていて、非常に清潔感がある。


 服装はフォーマル寄りな黒のチョッキに白いシャツとネクタイ。

 下はグレースラックスに、靴は高級感がある黒の革靴だ。

 そして顔立ちは、細身に似合った優男って感じで……。




 あ。


 え?




 ……こいつ、エーリッヒじゃね?



「マジかよ、英雄様が女連れて歩いてるとこなんて、初めて見たぜ。」


「英雄様の私服姿は見たことあるけどよ、今日のエーリッヒ様の私服は一段とカッコイイな。」


「女の方も美人で羨ましいけど、エーリッヒ様じゃあ、納得するしかないか。」



 男性客の会話が耳に入る。


 うん。

 どうやらアレは、本当に英雄のエーリッヒらしい。

 いつも軍服姿のエーリッヒしか見てなかったから、全然気付かなかった。


 ってか、女性はエーリッヒって呼んでなかったぞ?

 何だ?偽名でも使ってんのか?


 いや待てよ。

 なんか引っかかるな。

 女性はエーリッヒをなんて呼んでたっけか?

 確か……エルさん、だったかな?


 ……。

 エーリッヒ=Lか。

 そういうことか。

 紛らわしい。


 エーリッヒ=Lって、なんかどっかで聞いたことある名前な気がするな。

 うん?いや、あれはエーリッヒ=Fだったか?

 エルとエフで紛らわしいな。

 いや、どっちがどっちだろうが、どこで聞いたのかを思い出せないから意味がないんだが。



「ボリスさん、ボリスさん!」



 食器を運び終わってホールに戻って来た俺に、双子の片割れが声をかけてきた。


 こいつは……双子のどっちだっけ?

 まぁ、いいか。

 どうせ俺、双子の名前知らないし。


 ってか、よく考えたら店長の名前すら知らないな。

 なんで俺は、店員どころか店長の名前も知らない状態でバイトしてんだ?



「どうしたんだ?」


「あの、エーリッヒさんを席に案内する役目、俺に変わってくれませんか?」



 双子の片割れ君が、キラキラした目でこちらに訴えかけてくる。

 なんかこの目を見ていると、ティトラ君を思い出すな。

 ティトラ君も素直な良い子で、よく目を輝かせてるもんな。



「おい待てよ!俺がエーリッヒさんを案内するよ!」



 それに割り込むように、双子のもう片方が小走りでやってきた。



「あん?俺が先にボリスさんに頼んでんだぞ?」


「あとも先も関係ねぇだろ。俺の方が接客は上手く出来るんだから、俺が英雄様を迎えるんだよ。」


「んだとてめぇ!俺もおめぇも接客の上手さは変わんねぇだろうが!」


「ざっけんなテメェ!大体テメェはいつもルールルールってうるせぇ癖に、こういう時だけ抜け駆けしてんじゃねぇよ!」


「あんだとゴラ!てめぇだって効率だの何だの言っといて、こんな場所で油売ってんじゃねぇよ!」


「あぁん!?先に油売ってんのはテメーじゃねぇか!」



 ああ、また喧嘩が始まった。


 喧嘩が始まると、どっちがどっちなのかが分かりやすいな。

 効率云々言うのが効率君で、ルール云々言うのがルール君だ。

 まぁ、区別がついたところで名前を知らないから意味はないけど。


 というか、こいつらが口論してる間にもエーリッヒは待たされてるんだけど。

 その辺の配慮とかは……まぁ、子どもに求めるのは酷な話か。



「るっせぇぞガキども!忙しいんだから口動かさずに手ぇ動かせ!」



 厨房の近くで騒いでたので、店長が扉を開けて双子君達を怒鳴りつける。

 それを聞いた双子は、背筋を正して「「ハイッ!」」と元気の良い返事を返すと、各々の仕事に戻って……。


 行かず、店長が厨房に戻るのを見届けてから、静かにジャンケンしていた。

 多分、どっちがエーリッヒを案内するのか、ジャンケンで決めているのだろう。


 ……別に良いんだけどさ。

 俺に変わって欲しいって言ってきてたのに、いつの間にか変わることが前提になってるみたいなんだけど。


 いや、別に良いんだけどね?

 エーリッヒとか、神殿で嫌というほど見てるし。

 ナイスバディなお姉さんには興味あるけど、エーリッヒの恋人だと思ったら萎えるから、別に構わないし。

 浮気とか不倫とか、興味ないし。



「……あー、それじゃあエーリッヒ、様の案内は二人に任せるわ。俺は皿洗いに行くから。」



 双子にそう告げて、俺は厨房への入っていく。

 二人は俺の声も聞こえてない様子で、何度目かの相子を出して合っていた。


 まぁ、聞いてなくってもエーリッヒの案内には行くだろうし、放っといても大丈夫か。




 にしても、まさかエーリッヒが店に来るとはなぁ。

 しかも女連れで。


 エーリッヒも隅に置けないな。

 いつの間にか彼女を作ってるだなんて。




 ……もう、俺の精神はギリギリだよ。

 これも見なかったことにしてもいいかね?



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