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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
41/59

ツンデレ親父は誰得なのか。


 何はともあれ、俺は約束してた時間までに食堂に辿り着き、早速店主の指示の下バイトに励み始めた。


 通勤途中で何か見たような気もするが、きっと気のせいだ。

 店に来た客が、なんか朝に子どもの英雄様がトラブルを解決したとか噂してたけど、初耳だ。

 俺は何も見ていない。




 先週から俺が勤め始めたこの食堂は、四人家族で経営している食堂だ。

 生え際が後ろに前進している店主と何故か美人な奥さんが厨房で料理を作り、その息子である双子君がウエイターをしている。


 息子さん達は十五歳前後で、俺からすると学校はどうしたんだ?と聞きたくなるんだが、きっとこの世界のこのご時世だと、学校に通ってる余裕とかがないから家の仕事を手伝っているのだろう。

 いつか、彼らのような子ども達が、安心して学校に通えるような世界になって欲しいと思う。


 まぁ、そのために俺が積極的に出来ることって何もないんだけどね。

 俺がやってるのは信仰集めとドロップした英雄の魂から英雄創造するぐらいだし。


 そんな双子のウエイター達は口の悪い店主と違って礼儀正しく、見た目も爽やかで人当たりがよく、俺に対しても優しく接してくれる。

 ダメダメで仕事の邪魔にしかならなかった初日ですら、帰り際に「気を落とさないで下さいね」と言ってくれたし、それでも懲りずに水曜日にやってきた俺にも、「今日は頑張ってください」と声をかけてくれた。


 本当に、あの親父の遺伝子を引いてるのか疑問に思うぐらいいい子たちだ。

 きっと二人は母親に似たのか、先祖返りでも起こしたんだろう。


 最初は、そう思っていた。




 ―・―・―・―




「テメェ!そっちの注文は俺が行くって言っただろうが!」


「うっせぇこの蛆虫!てめーがテリトリー決めてんじゃねぇよ!行けるヤツが行くのが基本だろうが!変なもんに拘ってる暇があったらさっさと働きやがれ!」


「んだとこのドブネズミ野郎!俺が蛆虫ならテメーも蛆虫だろうが!」


「てめーと一緒にすんな!ボリスさんを見習ってもっと効率よく動けよウジウジもがくだけの蛆虫がっ!」



 バイトを開始して暫く経って、時刻はもう昼飯時だ。

 俺が厨房で皿洗いをしていると、ホールの方で罵声が飛び交うのが聞こえてきた。


 この罵声の出処は、あの双子君達だ。


 ……基本的には人当たりが良くて良い子達なんだけどね。

 兄弟仲は、メチャクチャ悪いんだよ。


 二人とも顔も服装も髪型も一緒なので区別がつかないんだけど、お兄さんの方がルールやマニュアル大好きタイプで、弟さんの方が効率絶対主義者なんだよ。

 だから、ルールに忠実に働こうとするお兄さんが効率の悪いことをやってると、弟さんがそれに噛み付いたりルールを無視して動いたりして、今みたいに喧嘩が勃発するんだ。


 バイト初日は喧嘩しなかったんだけど、前回のバイトの時にはちょっとした理由で喧嘩を始めてね。

 それまで凄く良い子達だと思ってたから、物凄く驚いたよ。



「あー……またか。おいボリス、ちょっとウエイター行ってこい。」



 店長が呆れた顔をしながら、皿洗いをしてる俺に仕事変更の指示を出してくる。

 まぁ、表で罵声が止まないのを聞く限り、双子君は喧嘩に夢中でお客さんの注文とか取りに行ってないだろうからな。



「はい、了解です。……止めなくて良いんですか?」


「止まんねぇよ、あのバカ息子ども。ったく、誰に似たんだか。」



 少なくとも口の悪さは貴方譲りでしょうね。

 ……いえ、そんなことは思ってても口に出しませんけど。


 俺は手早く準備を整えてから、ホールへと向かう。

 昼飯時なだけあって満席に近い食堂ホールの中央で、同じ顔の双子が向かい合って罵声を浴びせ合っていた。


 周囲のお客さんはそれに慣れているのか、我関せずと食事を続けてたり、野次を飛ばして煽っていたり、人によっては双子に当てられたのか、マニュアル論と効率論とで議論や口論をしているテーブルもあった。


 常連客も慣れるぐらいに、毎回喧嘩してんのか。

 というか逆に、この喧嘩目当てで来店してる客も居るんじゃねぇかってぐらい客が双子君の喧嘩に馴染んでるな。


 まぁ、同じ顔で同じ声の二人が喧嘩してるのって、見ててちょっと面白くはあるから気持ちは分かるけど。

 俺は量産英雄との飲み会とかで見慣れてるから大丈夫だけど、慣れてない人からするとこの光景は良い余興になるんだろうな。


 取り敢えず、仕事をしないとだ。

 俺は喧嘩する二人を無視して、注文を聞くためにテーブルを回っていった。




 ―・―・―・―




「おう、ボリス。お疲れさん。そろそろ皿洗い頼むわ。」



 昼飯時のウエイター業務をなんとか乗り切り、客足が途絶え始めたところで俺は店内の掃除を始めた。

 そして夕方近くになって掃除が終わり、次の指示を仰ぐために俺は厨房へと戻ってきていた。



「はい、了解です。」


「ん、頼むな……そういやおめぇ、今日は何時まで働くつもりだ?夜まで居てくれんのか?」



 皿洗いのためにエプロンを着ていると、店長が俺にそう問いかけてきた。


 そういえば、朝は何時から働くかってのは話してあったけど、夜は何時まで働くのかは決めてなかったな。

 初日は無銭飲食の罰分働かないとだったので夜のギリギリまで働いてたけど。

 水曜日も何だかんだで夜のギリギリまで働いたけど、これまで働いた二日は両方ともお試し雇用だったわけだしな。

 今後は正規にバイトとして雇われたわけだし、毎週決まった時間に働くんだから、何時まで働くのか決めておく必要があるのか。



「えっと、特に希望はないので、夜のギリギリまででも。」


「おっ、いいのか?二十二時過ぎたら電灯も消えるから帰り道が暗いぞ?」



 この世界は、鉄と硝煙の臭いが立ち込める、軍人英雄が居る近代世界だ。

 銃と戦車と砲弾が戦場の主役であり、当然通信機なんかも存在する。


 なので当然、街中には車が走っているし、建物内の明かりは電気が主流だ。

 今は邪神勢力に破壊されたのでもうないらしいが、昔は都市間輸送に鉄道なんかも使われていたらしい。

 そんな世界なので、普通に街角には街頭も存在しているのだ。


 だが、伊達に邪神勢力に追い詰められた世界だったわけじゃない。

 燃料の問題なのか他の問題なのかは知らないが、都市内での電気利用が可能な時間は限られているらしい。


 具体的には、夜二十二時から朝七時までの間は、電気が使えないらしいのだ。

 その結果、二十二時を過ぎると街灯やら建物の明かりやらが消え去り、街は月と星の明かりだけが頼りの真っ暗闇に包まれてしまう。


 店長はそのことを気にして、俺に早めに帰ってもいいんだぞ?と言ってくれてるらしい。

 なんだ?ツンデレか?

 髪が前頭葉を守れてないオッサンにツンデレされても、俺は嬉しくないぞ?



「ウチはアレだ。バカ息子二人が喧嘩しなけりゃ、四人でも普通に店が回るからな。あとお前は掃除が上手いから、夕方まで居てくれるだけでもありがてぇから遅くまで残らねーでも問題ねぇぞ?」



 まだこの店で働き始めて三日目だが、俺の仕事内容やタイムスケジュールみたいなものが結構出来つつある。


 昼前に店にやってきて、最初は皿洗いや厨房の手伝いをする。

 そして昼の忙しい時間帯には、大量に出る使用済み食器を洗いながらも、手が足りなければウエイターのヘルプに入る。

 時間が経って客足が引いてきたら、軽く賄い飯を食ってから店内の清掃だ。

 それから夕方になって、また客足が増えてきたら昼と同じく厨房かウエイターになって働き、帰る時間になるまでそのまま働き続ける。

 と、そんな感じのパターンである。


 しかし、なんだな。

 俺が必死になって覚えた皿洗い技術やウエイター技術より、オマケで教えてもらった掃除技能が買われてるのか。

 いやまぁ、掃除スキルもおばちゃんメイドさんから色々教えてもらったし、この世界だと掃除機とかないから勝手が違うんだけど、掃き掃除や拭き掃除なんかは学校に通ってた頃に真面目にやってたから経験はあるしな。


 ……なんかやっぱり、複雑な気分だ。

 出来れば俺は、皿洗いとウエイター技術で褒められたいんだが。

 そもそもが、その二つで見返してやりたいから働きに来たんだし。

 これはもう、じっくりと勤め続けてスキルを磨いていくしかないか……。



「大丈夫です。夜遅くなっても、家までは普通に帰れますから。」


「遠慮すんなよ?ファントム様がいらっしゃってから治安も大分良くなったが、それでも夜は危ないんだからな?」


「二十一時半にここを出れば、暗くなるまでに家に着きますから、大丈夫ですよ。」



 まぁ、俺の家は神殿だしな。

 この店から徒歩十分ぐらいの距離だし。


 ってか、神殿は電気は使ってなくて、夜でもランプに火を灯してあるから周囲が明るいんだよな。

 あと、神殿周りを警邏してる軍人や英雄も多いから犯罪者なんて基本的に寄ってこないし。



「そうか?なら良いが、何か用事があったりしたら遠慮せずに帰っていいからな?さっきも言ったが、昼に掃除してもらえるだけでも有り難いんだからよ。」



 なんか、この店主が優しいと気味が悪いな。

 普段から口が悪いし、初日に相当罵倒されまくった分、こう優しくされると違和感しか感じない。

 


「どうしたんです、店長。なんか急に優しくなって気味が悪いですよ?」


「なっ……!?うるせぇトンマ!てめぇさっさと注文聞いてきやがれ!!」



 ……うわ。

 この店長、本物のツンデレだよ。

 普段は口が悪くって頭が禿げ上がってるのに、時々優しくってしかも意地っ張りで優しいのを認めないとか。


 マジ勘弁してほしい。

 ぶっちゃけリアル女性のツンデレも面倒そうだなと思ってたけど、リアル男性のツンデレとか、女性と比較する以前に色々と通り越しておぞましい。




 俺は店長に怒鳴られながらも、蹴飛ばされないうちに厨房を出ていった。

 ……ってか、俺って皿洗いに呼ばれたんじゃないのかよ。




 ―・―・―・―




「……ったく、ボリスの野郎、なんつーこと言いやがる。」



 厨房から急いで出ていったボリスの背中を見ながら、俺は誰にともなくそう零した。



「あら。あなたってば、ボリスさんのことが気に入ったんですか?」



 嫁のナンシーがこちらの様子を見て、笑いながらそう聞いてきた。

 俺が、あのバカを気に入ってるだと?



「何言ってんだナンシーよぉ。そりゃあ、急に仕事が出来るヤツになってやがったから驚いたがよ、別に気に入ってなんざいねぇっての。」


「でも、口元が笑ってますよ?」



 そう言われて、慌てて口元を手で抑えてしまう。

 俺が笑ってた?

 そんなことはないはずだ。

 なんであのバカ野朗と話してて、笑わにゃなんねぇってんだ。



「でも、ボリスさんが来てくれて本当に良かったですね。」



 そんな俺を見て笑いながらも、ナンシーは言葉を続ける。


 ボリスが来て良かっただと?

 別にこの店は、人手不足でもなんでもなかったのにか?


 この店は元々、ナンシーが親父さんから受け継いだ店だ。

 入婿の俺は、料理の腕と用心棒としての腕っ節を見込まれて、親父さんからナンシーとの結婚を申し込まれた。

 元々この近所に住んでてナンシーとも顔見知りだったし、ナンシーは美人で有名だったから多少気恥ずかしくはあったが、俺はナンシーと結婚してこの店の店主になることに決めた。


 因みにナンシーは、俺より十歳も歳下だ。

 もう十四歳の息子が居るのに、まだ二十歳前後かと思えるぐらい若く見える。


 そんなナンシーは、幼い頃から親父さんの薫陶を受けて育っている。

 だから俺なんかよりも経営に詳しいし、店全体の運営に関しては比べる気にならないぐらい知識がある。


 そんなナンシーが、ボリスが来て良かったと言うんなら、きっとそれは店の経営に関わる理由があるんだろうな。



「ボリスが来ると、何が良いってんだ?」


「あら、嫉妬してます?私がボリスさんと仲良くなるんじゃないかって。」


「んなわけねーだろうが!あのボケボリスのどこが良いってんだ!」



 ナンシーが俺を茶化して笑う。


 こいつは昔っからこうだ。

 俺のことをからかっては、反応を見て楽しんでやがる。


 ……だが、性格が悪いと思うが、そこが可愛いとも思ってしまう俺も居る。

 そうう思っちまう時点で、俺の負けなんだろうな。

 店もナンシーのもんだし、俺も半分ナンシーのオモチャみてぇなもんだ。

 言っちまえば、ナンシーはこの食堂の女王様って感じだな。

 俺は一生、ナンシーに頭が上がらねぇんだろうよ。


 ……まぁ、別にそれでもいいがよ。



「だって、あなたもあの子達も掃除が苦手でしょう?いつもは私が掃除してますけど、ボリスさんって私より掃除がお上手じゃないですか。」


「確かに掃除は上手いけどよ、アイツは週に一回しか来ねえんだぜ?お前は一日掃除しなくて済んで楽になるかもしんねぇけどよ、一日だけじゃあんまり変わんねぇだろ?」


「あなた達がボリスさんから教わればいいじゃないですか。ボリスさんって努力家みたいですし、教えてほしいって聞いたら教えてくれると思いますよ?」



 確かに、ボリスは努力家なんだろうな。

 なにせ無銭飲食して雇ってやった初日には、殆ど何も出来なかったんだから。

 それが、たったの四日で注文聞きも皿洗いも一端に出来るようになってやがった。


 初日は夜までずっと駄目なまんまだったから、店で仕事してるうちに慣れてきたってわけじゃない。

 だからきっと、あのあと家に帰ってから何度も練習して来たんだろう。

 四日であんだけ上達するぐらい頑張れるってことは、これからの伸び代も多いということだ。

 そう思って俺は、週一回だけでもボリスを雇ってやったんだ。


 そんな努力家のボリスなら、掃除の上手いやり方も、聞けば教えてくれるかも知れねぇ。

 努力家だと他人の努力にも寛容ってことも有り得るからな。


 確かに、ナンシーに掃除を殆ど任せてるっていう今の状態は良くねぇ。

 来週にボリスが来た時には、客が少ない時間にでも掃除のやり方を聞いてみるのも良いかも知れねぇな。



「……まぁよ、確かにお前の負担も減るだろうし、それは考えといてやるよ。」


「そう言って、来週にはすぐに教わりに行くくせに。」


「うっせぇよ!バカ息子どもに見習わせるためだよ!おめーのためじゃねぇよ!」


「別に私のためなんて言ってませんよ?」


「うぐっ……。」



 俺だと、ナンシーには口じゃあ勝てねぇ。

 軽く丸め込まれた俺は、これ以上の追撃を受ける前に調理に戻る。



「……私、まだ若いんですよ?」


「あぁん?なんだ急に。」



 調理に戻って鍋の味見をしてる俺の背後で、ナンシーが呟く。

 俺のすぐ後ろからナンシーの声が聞こえた。

 調理の手を止めてまで俺んとこに来て、何言ってるんだ?


 そりゃ、おめーさんはまだ若いよ。

 俺は四十も近いオッサンだが、十歳歳下のナンシーはまだ二十代だ。

 見た目はもっと若くて、二十歳ぐらいにも見えるもんな。


 俺みてぇな無骨な男がナンシーみたいな美人と結婚出来たのも、もう亡くなっちまった親父さんの紹介のお陰だ。

 本当に親父さんには、感謝してもしきれねぇ恩がある。




 ……まぁ、礼を言う前に親父さんは逝っちまったんだがな。

 ナンシーの友達を庇って、邪神の手先に殺されちまったんだよな。


 俺とナンシーの結婚が決まってすぐのことだったか。

 当時のナンシーは混乱しちまってて、宥めるのが大変だったなぁ……。



「子ども、欲しいと思いません?」


「ぶふぉぁっ」



 急にナンシーが俺の背中に抱きついて、一言爆弾を投下した。

 俺は盛大に、味見していたスープを噴き出す。


 ああ、噴き出したもんが鍋に入っちまった。

 これはもう、捨てねぇと駄目だわ。


 って、そうじゃねぇ!



「てめぇ、急に何言ってやがんだ!!」


「だって、妊娠したらお掃除も辛くなりそうですし、ボリスさんからお掃除を教わったら、私も安心して子どもを産めると思いません?」


「いや、そうじゃねぇよ!なんで急に子どもとか……。」


「あなたも、ファントム様のお言葉は聞いてるでしょう?」



 ファントム様のお言葉だぁ?


 一応俺だって新聞ぐらいは読んでるし、毎週休息日にファントム様が礼拝堂で仰ってるお言葉もチェックはしてある。

 だが、子どもに関することなんて別に何も言ってなかったと思うんだが。



「ほら、英雄様から治療をお願いされた時のエピソードですよ。ファントム様も仰ってたでしょう?『人の数が少ない』んだって。」



 言われて思い出した。

 そういえば、礼拝堂で英雄様が病気の娘の治療をファントム様にお願いしたって話が、新聞に載ってたな。

 確かにあの時、ファントム様は人の数がーって言ってらしたとか書いてた気がするけどよぉ。



「……それに私、女の子もほしいんです。」



 ……ああ、くっそ。


 抱きついてくるナンシーを振り払えねぇし、恥ずかしくて後ろを振り返ることも出来ねぇ。

 これだから、この女は厄介なんだ。

 俺の弱点を熟知して攻めて来やがる。




 くそったれ。

 俺はきっと、この女王様に一生勝てないんだろうな。


 ……だがよぉ。

 それでも良いって思ってる、自分も居るんだよなぁ。



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