表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
37/59

表の忍びに裏の忍び。


「お忍び、ですか?」



 俺の提案を聞いて、高柳君が聞き返してきた。


 休息日の前日。

 土曜日に当たる日に勝手にお忍びに出てから四日が経った。

 今日は、元居た世界で言えば水曜日に当たる日だ。


 こちらの世界では元居た世界と同じく、七日で一週間という数え方が存在する。

 だが、何故か休息日以外は月火水木金土といった呼称が存在していない。

 なので、口に出すことはないが、俺の中では元居た世界の一週間と照らし合わせて、心の中で今日は月曜だの今日は水曜だのと勝手に呼んでいる。


 そんな、一週間の中日である水曜日。

 いつものように執務室で、秘書達は絶賛仕事中だ。

 俺も俺で、同盟に来た困ってる神様の依頼を処理したり、チャットで情報収集しているのだが、実は結構暇が出来始めている。

 というのも、俺が盟主をしている『神様救済同盟』に、新たな同盟員が加入し始めたからだ。




 デスマーチを始めて最初は方だと加入したいという神様も居なかったの。

 しかし、途中から俺が直接依頼を解決するんじゃなく依頼を仲介するようになってから、俺が協力をお願いした神様から同盟加入を希望する神が現れだしたのだ。


 どうも、俺に協力をお願いされた神様は、具体的にどういう流れで神様救済を行っているのかが分かりやすかったらしく、これなら自分でも出来るんじゃないか?と思い始めたらしい。


 俺としては仕事量が減るので大歓迎だったのだが、意外にも断罪の斧さんがそれに若干の難色を示した。

 どうにも、同盟に入ってくる神様に悪いヤツが居ないかが心配なのだとか。


 それならばと、俺は断罪の斧さんに新規加入メンバーの選定を丸投げすることにした。

 依頼の仲介を色々やってきて神様事情にも大分詳しくなってきたけど、流石に本物の神様と比べたら知らないことも多いしね。

 こういうことは、本職に任せるに限る。


 とはいえ流石に丸投げはダメかな?と思っていたら、断罪の斧さんが意外と乗り気だったのでそのまま丸投げした。

 その結果、依頼仲介に向きそうな、温厚な感じでトラブルを起こしそうにない、いい感じ神様達が同盟に加入することになる。


 うん、最高の状況だ。

 面倒そうな人事権も丸投げ出来たし、断罪の斧さんが選んだ神様も、仲介に向いてそうで即戦力になりそうな神々だ。

 お陰で俺も、大分楽が出来るようになった。




 まぁ、そのお陰で暇な時間も増えてしまったんだが。

 いやー、暇ってのも困るよなー。

 何すれば良いんだろうなー。

 暇だ暇だ。


 ということで、俺は暇を潰す……いや、時間を効率的に使うために、新たな仕事としてお忍び視察を秘書に提案したわけだ。



「ああ。今までは色々と忙しかったから提案しなかったが、そろそろ街の様子も見ておこうと思ってな。」



 俺の提案したお忍びの内容は、週に一度水曜日に、俺がお忍びで都市内の視察に出かけるという案だ。


 土曜日にも勝手にお忍び視察に行ってるんだが、それは秘書にも誰にも何も告げていない、完全なお忍びだ。

 それとは別に、秘書達も公認の、バレても問題がないお忍びに出れないかと思っているのだ。




 色々と落ち着いてきて暇な時間が増えてきたのは嬉しいんだけどね。

 執務時間中の暇な時間ってのは、実はそんなに喜ばしくはないんだよな。

 何せ、秘書連中が仕事してる傍で出来る暇潰しなんて、神様ネットワークのチャットを眺めるぐらいしかないし。


 かと言って、新規参入した同盟員の教育のためにも、依頼は殆ど新人神様に流さないといけないしなぁ。

 新人教育の方も、同盟員だけが見れる掲示板機能で、デスマで体験したことをまとめたマニュアルが書いてあるから教えることも殆どないし。

 たまに相談が同盟チャットで飛んでくるけど、大体は断罪の斧さんがノリノリで俺より先に答えちゃうしなぁ。

 なんか、断罪の斧さんって、この同盟に対するモチベーションが異様に高い気がする。


 まぁ、同盟の方はそんな感じで、俺は絶賛暇状態ってわけだ。

 これが元居た世界の自分の部屋で暇だっていうなら、ソシャゲをやったりテレビを見たり漫画を読んだりと、色々と暇潰しの手段が豊富だった。

 しかし、この世界だとそういった娯楽がない上に、例え娯楽があったとしても執務時間中なので遊ぶことも出来ない。

 そんな中での暇というのは、思っていた以上に苦しいものなのだ。




 だから俺は、執務時間中であっても堂々と暇潰しが出来る方法を考えた。

 そして思いついたのが、このあいだ勝手に行ったお忍びを、平日でも行けるように出来ないかということである。


 因みにこれ、俺が勝手に出かけたお忍びのフォロー的な意味合いも含んである。

 秘書に内緒でお忍びに行くのはいいんだが、本来神殿から外に出ていないはずの俺が神殿の外の事情に詳しかったりすると、不審に思われてしまうのだ。


 一応隠すつもりではあるが、つい何かの拍子にポロッと口に出してしまう時があるかも知れない。

 そんな時の保険として、公的なお忍びもやっておいて、お忍び関係のことを言ってしまった時には公的なお忍びの時に見聞きしたという言い訳を使えるようにしたいのだ。


 今提案してる公的なお忍びは週に一回だけで水曜日のみの予定だが、実際には今後も土曜日にこっそりお忍びに出かける予定である。


 俺の、食堂店主に対するリベンジがまだ出来ていないのだ。

 あのオッサンに俺を認めさせるまで、俺はあの店にバイトに通わなければならないのだ。



「報告を見る限り、以前に比べて大分復興も進んでいるようだしな。出来ればその様子を直接目にしておきたいからな。」



 この世界は、邪神勢力の侵略によってギリギリの所まで追い詰められていた。

 それが俺が来て英雄が増えてから、大分治安が良くなっているはずだ。

 俺自身は特に何かやったってわけじゃないんだけど、お神輿でも一応神様やってるわけだし、その復興の様子も一応見ておきたい。


 という建前。



「なるほど……確かにそうですね。ファントム様がお越しになられてから三ヶ月近い月日が経ってますし、一度はその目で現状を見て頂くのは悪くないかと思います。」



 俺の意見に賛同してくれる高柳君。

 そうだろうそうだろう。

 うん、俺は外に出て遊びたいってわけじゃないんだ。

 俺って神様だし、やっぱり自分の成果はこの目で見ておきたいじゃない?

 別に遊びたいからお忍びに行きたいってわけじゃないんだ。


 ……。

 なんか、騙してるみたいで気が引けてくるな。

 いや、実際に視察したいって気持ちはあるし、その必要性も感じての提案ではあるんだけど。

 勝手に出かけてる土曜日のカモフラージュって裏がある分、なんか負い目を感じるっていうか……。



「ですけど、お忍びなんて出来ますの?ファントム様は毎週演説されてますから、その姿は知られてますし。変装したとしても、バレてしまったら大変ですわよ?この際ですし、変装せずに公式の行幸をなされてみてはいかがですの?」



 ナルキアが否定的な意見を出してきた。

 肯定されると負い目を感じるけど、否定されても困る。


 というか、行幸って何だ?

 よく分からんが、言ってる内容的にアレか?変装なしで公的行事として外出した方が良いってことか?


 それじゃあ遊べ……いや、市民の実情が見れないじゃないか!

 俺が来るって事前に聞いてたら、見せたくない汚い部分は事前に隠すだろう?


 ってか、休息日の演説ですら未だに胃が痛いのに、これ以上俺を公的な場に出すような行事を増やさないで欲しい。

 外歩いてる途中でトイレ行きたくなったらどうすんだよ。

 偶像なのにトイレに行っちゃうことがバレたら、気まずいじゃないか。



「それなら、心配は要らない。」



 俺はそう言って神様ネットワークの画面を出し、交換所を開く。

 そこにある『権能貸与』機能から『偽りの形』という奇跡を選んで実行した。


 さっきまで平凡な黒髪黒目の日本人顔だった俺の姿が一瞬で変化し、俺の姿は茶髪茶色目の西洋人な容姿に変化する。



「神様ネットワークで使える奇跡に、姿と声を変えるものがある。この容姿にこの声なら、私が神だとバレることは早々にないだろう。」



 この奇跡は、自分の思った通りに姿形を変えることが出来るという奇跡だ。

 幻覚を見せるタイプとかではなく、実際に身体そのものを一時的に変化させ、本当に別人の姿にしてしまうことが出来る。

 見た目だけじゃなく声も変化するので、これを使えば外に出ても誰も俺だと気付けないだろう。

 というか、実際誰も気付かなかったし。


 ちなみに今の姿は、元居た世界で有名だった海外俳優の姿にしてある。

 こないだのお忍びで使った『ボリス・バール』とは別の姿だ。

 あっちの姿は、世界的に有名な大昔のコメディアンの姿だ。

 あんまりイケメン過ぎると、目立ってバレそうだしな。



「すっ、凄いですね、ファントム様!」



 ティトラ君が目をキラキラさせてこちらを見てくる。


 なんか、こうやって褒められると嬉しいな。

 今までは冷静な軍人秘書とアレしか居なかったから、純粋な目で見てくるティトラ君が居るとかなり新鮮な気持ちになる。


 調子に乗って子供向けヒーローの姿とかに変身してあげたくなってくるが、俺が知っているのは元居た世界の創作ヒーローだしなぁ。

 というかそれ以前に、ティトラ君は国家機関で育てられて戦場で生きてきたわけだし、そういった子ども向けヒーローとか知らないのかも知れない。

 いや、そもそもが異世界だからヒーローって概念があるかすら怪しいな。


 でもなんか、ティトラ君が戦場で生きてきたってのを思い出すと、アレだな。

 ティトラ君がはしゃいでる姿が、凄く悲しく思えてくる。



「この姿は流石に目立ちそうなので、本番では別の姿にする予定だ。それでもまぁ、これだけ姿形を変えられるのなら、問題なくお忍びに行くことも出来るだろう?」



 ナルキアの懸念も、この奇跡があれば払拭出来るだろう。

 これ以外に懸念は思いつかないし、あとはナルキアの反対さえ抑えることが出来れば……。


 そう思い、俺はナルキアの方を見る。




 ナルキアは、俺の姿を見たまま、微動だにもしない。

 容姿も合わさって、その姿はまるで人形のようだ。

 本性を知らない者からすれば思わず見惚れてしまう姿だろう。



「ファントム様っ!」



 ナルキアが急に席から立ち上がり、大きな声をあげる。

 ちょっとビビって後ろにたじろいでしまった。

 クロード、エーリッヒ、高柳君の三人も、ナルキアの気迫に押されて若干ビクっとしてた。

 ティトラ君だけが、どうしたのだろう?という表情でナルキアの方を見ている。



「な、なんだ?ナルキア。」


「それっ、その奇跡、私の姿にも化けられますの!?」



 そう言って興奮した様子で俺に迫ってくるナルキア。


 顔が近い。

 鼻息荒い。

 ちょっ、面倒臭い。

 さっさと離れてくれ。


 普段の俺なら、女性にこれだけ近寄られれば嬉しいんだが、今回は別だ。

 だって、ナルキアが考えていることが、手に取るように分かるのだから。



「ファントム様っ!是非、今度私の姿に変装して、一緒にポージングしませんこと!?ファントム様はご存知ないかも知れませんが、私は景色を保存する魔導も使えるんですの。それで、私とファントム様と、ティトラお兄さまの三人でっ……はぁ、はぁっ。」



 だと思った。

 やっぱりこのナルシストは、普通の人とは着眼点が違う。


 他人の姿を真似れる力を女性が見たら、自分の姿になられて勝手にふしだらなことをされないか?とか、そういった方向で嫌な気分になるだろうと思ってた。

 そうなる可能性も考えてあったので、その時の言い訳として「俺が大事な信仰を使ってそんなことをすると思うか?」とか「神である俺がそんなことをするとでも?」とか言う予定だったのだ。


 これって奇跡だから、一応信仰を消費するしね。

 今までの俺の行動的に、俺はガチャが最優先って感じに思われてるだろうから、こう言っておけばなんとかなったはずだ。


 ……まぁ、たまに呑みすぎた酒の補充に使ったりもするけど。



「ナ……ナルキア、落ち着いてくれ。これは信仰を使うんだぞ?私利私欲のために早々使うわけにはいかないだろう。」



 そう言うと、ナルキアの我に返ったのか俺から離れてくれた。

 だが、その顔にはまだ興奮が残っていて、若干息が荒い。

 どんだけ自分の容姿が好きなんだよ、お前。


 ってか、信仰を私利私欲に使うなって俺が言えたことじゃないんだよね。

 ガチャは戦力向上の役に立つけど結局は俺の趣味だし。

 歓迎会でのビンゴやら食事の用意なんかは必要経費って言えるけど、俺が美味いもの食いたいってとこもあるし。

 節約のために食堂でも食ってるけど、偶に私室で信仰で買った美味い飯食ってるし。

 あと、さっき言った飲み会で飲んだ酒の補充にも使ってるし。


 ……なんか、信仰を捧げてくれてる市民に申し訳なく思えてきたな。

 いやまぁ、自重する気はあんまりないけど。



「取り乱してしまいましたわ、申し訳ありません、ファントム様。」


「でも、ナルキアさんが驚く気持ちは分かりますよ!だって、どんな人にもなれるんですもんね!ファントム様って凄いです!」



 うん。

 ティトラ君もナルキアと同じく興奮してるから、ナルキアに共感の意を示しているんだね。


 でもね、そこの腐れナルシストはね。

 君とは違った意味で興奮してるんだよ。


 どういう意味かって?

 ティトラ君は、それを知るにはまだ早いかな……。


 本当に教育に悪いな、このナルシス偽装ロリめ。

 これでティトラ君の教育係だってんだから、始末に終えない。



「まぁ、ナルキアの要望も、また今度叶えてやるから落ち着け。……とにかく、これなら俺のお忍びも問題ないだろう?どうだ、週に一度お忍びで外出するという案は。」



 取り敢えず、ナルキアには票集めの餌を撒いておく。

 若干気持ち悪くて嫌だが、一度ナルキアの撮影会に参加するだけで毎週のお忍び権利を得られるのなら安いもんだ。



「本当ですの!?流石ファントム様ですわ!それと、その奇跡があるのでしたら私はお忍びに反対はしませんわ。バレたら問題ですけど、ファントム様がそのようなミスを犯すとは思いませんもの。」


「ナルキア殿が言うのでしたら、まぁ問題ないのでしょうな。私も賛成しましょうか。」



 うんうん。

 思ってた通り、ナルキアの票はゲット出来たな。


 ナルキアは妙なところで暴走するけど、逆に妙なところで冷静になったりするから、反対されないかと若干不安だったんだ。

 クロードもナルキアが言うならってことで賛成みたいだし、これで多数決で言ったら五票中二票は集まったな。



「ファントム様が考えてらっしゃる視察も大切ですが、この際ですからお忍びのついでに息抜きをしてもらうのも良いかも知れませんね。」


「そうですね。このところ同盟設立から忙しかったみたいですし、今は忙しい時期ではないですから、視察ついでに楽しんで頂ければいいですね。」



 おおっ?

 ついでに息抜きしちゃえばってエーリッヒが言って、高柳君までそれに賛同しちゃったぞ?

 俺が見落としてた問題点があって、それで反対されるんじゃないかってちょっとビクついてたんだが、まさか逆にここまで肯定的な意見が貰えるとは。


 そういえば最近、軍人秘書三人は俺に優しいしなぁ。

 これもその優しさの延長ってヤツなんだろうか。

 まぁ、俺からしたら嬉しい限りなんだけど。


 これなら、事前に理論武装ガッチガチに固めて、言い訳を用意してなくても良かったかも知れないな。




 ―・―・―・―




 こうして、俺のお忍び視察の提案は、満場一致の賛成によって可決されることになる。

 そして善は急げということで、俺はその日の午後からお忍びで神殿の外に出ることが決まった。


 お忍びに関する細々としたことは、この前の土曜日に実際にお忍びに行った時の経験を踏まえて事前に考えてあった案を言えば、簡単に許可してもらえた。


 これで俺は、公的なお忍びに出かける権利を得たのである。

 しかも、ちょっとぐらいなら遊んでもいいという許可付きで。


 ここまでスイスイと話が進むのも逆に不安であるが、これもまた、俺の日頃の行いが良かったからだろう。




 さぁ……。

 これからあの店主に、リベンジに行こうか!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ