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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
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働け!神様!


 俺の名は、光林 真也。

 今ではファントムと呼ばれている。


 しかし、今の俺はどちらの名でもない。

 今の俺の名前は、『ボリス・バール』だ。


 いま俺は、彫りの深い白人顔に、この世界で一般的な服を着て、神殿のある首都を練り歩いている。


 そう。

 いま俺は、久々に神殿の外に出て、街の視察をしているのだ。




 思えば、俺は長いこと神殿に引き籠もる生活を送っていた。


 人前だと、どうしても神様として振る舞わないといけないし、演説などの行事以外で安々と外に出ると獲得出来る信仰の量に影響が出るので、今までは外出を控えていたのだ。

 しかし、軍人英雄が急に俺に優しくしてくれた時。

 俺はエーリッヒに連れられて、この世界に来てから初めて、神殿以外の場所を訪れることとなった。


 それから俺は、考えていた。

 いつかは、お忍びで街を見て回る必要があるんじゃないかと。


 何せ俺は、この世界のことを何も知らないのだ。

 銃器や戦車がある近代的な世界だと聞いてはいたが、そこに暮らす人々がどんな生活をしているのかを全く知らないのだ。


 まぁ、知らなくても問題なかっただけなんだけどね。

 ほら、そういう知識が必要になりそうな、都市管理の仕事は秘書に丸投げだし。


 だがしかし。

 いつまでも知らないままでは居られないのだ。

 いつかこの世界の知識が必要になった時。

 その時になって初めて調べるのでは遅いのだ。


 全ては今後のために。

 今後知識が必要となった時のためにも、俺はこの世界のことを知っておかなければならないのだ。




 と、言うのは建前である。

 なにせこのお忍びは、本気で本気のお忍び視察なのだから。

 実はこのお忍びのことは秘書の誰にも伝えていない。

 誰にも外出を告げずに、俺が勝手に一人で出歩いているのだ。


 要するに、おてんば王族が無断で抜け出て街で遊ぶのと一緒である。

 社会勉強ってのは名目で、実際は勉強なんて二の次だ。

 つまりはアレだ。


 俺だって、遊びたいのだっ!!


 最近は神様救済同盟の依頼やら休息日の演説練習やらで忙しくって、安らぐ暇が全くない。

 唯一の安らぎであるガチャも、こないだティトラ君を出したばかりで、ガチャを引く理由というか言い訳が思いつかない。


 別に何も理由もなくガチャしても良い気はするんだけど、一応は市民の皆様が捧げてくれてる信仰を使うからなぁ。

 無闇矢鱈に、俺がガチャをしたいがためにガチャしてると、なんか陰で反感とか買いそうだし。

 なのでガチャをする時には、せめてはと思って言い訳を用意することにしているのだ。


息抜きらしい息抜きと言えば、今までデスマが忙しくて出来なかったティトラ君の歓迎会がちょうど一週間後に開かれる予定なんだが、ぶっちゃけそれまで息抜きなしというのは辛いのだ。

 軍人英雄達との飲み会を開いたりとか、ジョンに愚痴を聞いてもらったりとかもしてるけど、もっと別のストレス解消法を、新しく用意しておきたい。

 そう思っての、独断お忍びである。




 因みにお忍び用のいまの俺の姿は一般的な白人男性の姿なんだが、これは特別な力で変装した姿だ。

 神様ネットワークの『権能貸与』にある奇跡の一つで、人の姿形を一時的に変える効果がある奇跡があったので、それを使ってあるのだ。


 この世界の住人は、基本的に多国籍な人種が揃っている。

 なにせ、邪神勢力に追い込まれた最後の土地だからな。

 遠く離れた土地出身の人も含めて、全ての人類がこの土地に住んでいるのだ。

 なので、高柳君みたいなアジア系の人種も居るから無理に白人男性に化ける必要はない。

 いやまぁ、高柳君はちょっと白人系の血も入ってるのか、ハーフっぽい顔立ちなんだけど。


 でも、アレだよ。

 できるだけ俺とは遠いイメージを選んだ方が、俺が変装してるってバレにくくなるし。

 なので、アジア系の姿じゃなくて白人系の姿にしておいた。

 決して、普段の俺と違うのが新鮮で楽しいって理由じゃない。


 因みに顔はフツメンだ。

 イケメンに化けて街の女の子から言い寄られるのも良いかなって思ったけど、流石に偽の顔で騙すのは気が引けるのでやめておいた。


 というか、好感度イベントで高柳君が追い回されてたのを見てたからな。

 この街の女性は肉食系なんだと、俺は知っているんだ。

 遊びに……視察に来たのに一日中逃げて過ごすなんて、そんなの嫌だもんな。

 あと、イケメンって目立ちそうで恥ずかしいし。




 ―・―・―・―




「おい、ボリス!次の皿はまだか!」


「はいっ!出来ました!」


「洗うの遅えよ!そんなんじゃ英雄様に突き出すぞ!?」


「すみません、英雄様は勘弁して下さい!」



 俺は今、ふらりと立ち寄った食堂で皿洗いをしている。

 俺の手際の悪い皿洗いに、店長が怒鳴り散らす。

 だが俺は、それに反抗することも出来ない。

 ただ謝って、なんとか遅れを取り戻そうと、必死で皿を洗うのみだ。


 ……何故こうなったのかは簡単だ。




 俺、金を持ってないのに、飲食しちゃったんだ。




 ……仕方ないんだよ。

 弁明させてくれ!


 だって俺って、こっちの世界に来てからずっと、金なんて使って来なかったんだよ!

 衣食住は保証されてるし、欲しい物とか娯楽が少ないこの世界だと特にないし、金を使う必要が全くなかったんだ。

 だから、外だと普通に金が要るってことを忘れてたんだよ!


 神殿の食堂で普段食べてる時は無料だったから、そのノリでこの食堂に入った時も、普通に飯を注文しちゃったんだ。

 んで、注文した品が届いて、一口だけ口にした瞬間に気付いて、顔が青ざめた。

 そこで店員に事情を説明して、あとはこの通りの姿ということだ。



「ボリスおっせぇよ!お前もう、注文取りに行け!」


「すいません、分かりました!」



 また怒られてしまった。

 俺の皿洗いはどうも思ってた以上に遅いらしく、さっきから怒られっぱなしだ。

 そして、俺の皿洗い技術に見切りをつけて、次はウエイターか。


 ……ってか、仕方ないだろ!

 バイトで皿洗いとか、したことないんだからよ!


 高校生の時にバイトはしてたけど、コンビニ店員だったし。

 検品と品出しとレジ打ちは出来るけど、検品機械なんて無いしレジスターはなんか古めかしくて使い方わかんねぇ上に信用ないから金関係に関わらせてもらえないし、品出しも何もここ食堂だし。

 経験がないことは出来ないに決まってんだろ!!


 と、思ったところで。

 無銭飲食してしまった俺が、強いことを言えるはずがない。


 俺は、初の皿洗い経験を惨敗で終え、次は初のウエイター経験に移るのだった。




 ―・―・―・―




「おう、お疲れ。これが今日の給金だ。」


「はい、有難うございます。」



 夜になり客足も途絶えた頃に、店長に呼ばれた俺は今日の給金を受け取った。


 元々、俺が無一文で無銭飲食をしたと知った店長が、俺を一日だけ雇ってくれるという話だったのだ。

 その時に給金も貰えると聞いていたので、金を渡されることに戸惑いはない。



「えーっと……これが一日分、ですか?」


「ああん?文句あんのか?」


「いえ……文句以前に、相場を知らないので。」



 そもそも相場以前に、この世界の金銭価値が分からないけど。

 なんか偉そうなオッサンが書かれた紙幣が数枚と、また別のオッサンが書かれた硬貨を渡されたのだが、これがどのくらいの価値なのかが全く分からん。


 でも、流石にそれを聞くわけにもいかないので、取り敢えず相場かどうかだけ聞いてみる。



「問題ねぇよ。こりゃ神殿のお触れで決められてる金額だから、ちょろまかしたりはしねぇよ。」


「神殿のお触れ?」



 なんで神殿のお触れがここで出て来るんだ?

 こういうのって、神殿じゃなくて官僚の仕事で、普通だったら官僚のお触れって言うべきじゃないのか?


 いやまぁ、官僚は神殿に務めてるから、政府からの発表をまとめて神殿のお触れって言ってるのかも知れないけども。



「なんだお前、知らないのか?もしかして最近この街に来たのか?」


「ええ、そうなんです。それで、神殿のお触れですか?」



 実際には三ヶ月前からこの街に居るけど、ここはサラリと嘘を吐いておく。

 どうもこっちの世界に来てから、嘘やら本音を隠すことに慣れてしまってるなぁ。

 なんで俺は、こんなに嘘やら言い訳に塗れた生活を送ってるんだろうか。


 アレか。

 そもそもが、神様だってこと自体が嘘だから、それを隠すために色々嘘や言い訳を重ねた結果か。


 つまり、全ては最初に出会った爺さん神様が悪い。



「お前でもファントム様ぐらいは知ってんだろう?今は、ファントム様が政策を一手に担っててな。こういった労働条件なんかも、ファントム様と英雄様達が色々と考えて決めてらっしゃるんだよ。」



 へぇ。

 そうなんだ。

 俺、その神様なんだけど、そんな話全然知らない。


 いつの間に、秘書達はそんな所にまで手を出してたんだ。

 元々は、英雄に関わる資材とか、英雄関係の都市管理だけ担当してたはずだろ。

 それがなんで、市民の労働条件……労働基準法的な部分にまで口出ししてるんだ。


 一応書類の決済は俺がしてるけど、内容とかは殆ど理解してないからなぁ。

 だって、秘書達の仕事スピードが早すぎて、持ち込まれる書類の量が膨大だから、一々内容を読んでられないんだもん。


 なんか、俺が知らない所で話が大きくなってる感じがして、凄く怖い。



「んでよぉ、お前みたいな一文無しが盗みとか働かないために、俺らみたいな飯屋をやってる奴らは、金がないって奴らを雇って給金出してやらねぇといけねぇんだよ。まぁ、その給金は神殿から補助金が出てるから問題ねぇんだけどな。」



 あー……なるほどね。

 そりゃまぁ、三ヶ月前までは邪神に滅ぼされそうになってた世界なんだし、金も仕事もない奴らがたくさん居たんだろうな。

 そういった人達の救済のために、日雇い制度みたいなのも用意してあるのか。



「優秀だったらもう暫く雇ってみて他の店に推薦したり、そのままウチで雇ったりするんだけどな。お前はダメだ、別の仕事探しな。」



 ……いや、まぁね。

 確かに皿洗うのは遅いし、注文取るのもメモ書きしながらで手間取ってたし、俺が逆の立場でも要らないって言うだろうけどさ。

 でも、実際に面と向かって言われると、かなり傷つくね……。



「まぁ、気を落とすな。他の店でも一日や二日ぐらいなら大抵どこでも雇って貰えるからよ、自分に合った仕事を探せばいいだろ?どうせ、どこも人手が足りなくて困ってんだからよ。」



 そう言って俺の肩をバシバシと叩く店主。

 慰めてくれてるのは嬉しいんだが、叩くのが強くて頭が揺れてグワングワンする。


 でもまぁ、そうやって色んな店で雇ってもらって、自分に合った仕事を探すことも出来るのか。

 これも、邪神に追い詰められて、人手が足りなくなってたからこそ出来る政策なのかもしれない。


 ……というか、そこまで人が少ないのか?

 まだそんなに街を見て回ってないからよく分からないけど、前線から遠くて安全な首都なのに、なんでそんなに人手が足りないんだ?


 気になるけど、このオッサンに聞くわけにはいかないよなぁ。

 今度お忍びがバレない程度で、上手いこと秘書に聞いてみるか。



「お前、今日は泊まる場所あんのか?」


「あ、それは大丈夫です。」


「なんだ?親戚の家にでも厄介になってんのか?」


「まぁ……そんな感じですかね。」


「なら良いけどよ。一応、やっすいホテルなら紹介出来るから、家から追い出されたら俺に聞きに来いよ。」



 路上生活者を増やさないために、ホテルを紹介するよう言われてるんだろうか。

 でも、わざわざ俺に聞きに来いって言うってことは、このオッサンも紹介料とか貰ってそうだな。



「はは、追い出されたら聞きに来ます。」


「おう、そうしろ。まぁ、追い出される前に仕事を探すのが先だがな。……っと、もうこんな時間じゃねぇか。明日の仕込みがあっからお前はもう帰れ。金盗られんなよ?」


「はい、気をつけます。」



 こっそり神様ネットワークの画面を開き、トップ画面の時計をチェックする。


 って、もう二十一時半じゃねぇか!

 明日は休息日だから仕事は休みだけど、朝から演説があるんだよ。

 俺もさっさと帰らないと。




 ―・―・―・―




 神殿に戻ってきた俺は、一般解放区画にあるトイレで高柳君に姿を変える。

 そして何喰わぬ顔で立入禁止区画へと入り、またトイレで変装を解いて元の姿に戻り、執務室を経由して自室に帰ってきた。




 ……なんか、視察ついでに遊ぶつもりだったんだが。

 結局働くだけで一日が潰れてしまったな。


 まぁ、これはこれで楽しかったからいいか。


 うん。

 また今度、休息日前日の休みの日にはこっそり視察に出かけよう。


 俺は店主のオッサンから貰った紙幣と貨幣を眺めながら、来週は何をするかを考える。

 最近は神様救済同盟が忙しくってイライラしていたが、よく考えてみれば、俺は元々社会人で会社に勤めていたのだ。


 ほんの二、三ヶ月働いていなかっただけで、仕事があることにイラついてしまうとは。

 機嫌が悪い姿を見せてしまい、秘書達には嫌な思いをさせてしまったな。


 やっぱり、アレだな。

 適度な労働と、適度な息抜きが大事なんだ。

 そう考えると、明後日からも働く気力が沸いてくる。

 このことに気が付けただけでも、お忍びで視察に出た甲斐はあったのかもしれないな。




 ……明日の演説は、ちょっと気力が沸かないが。

 本当に、あの演説だけは嫌なんだよなぁ。

 大分慣れてきたけど、それでもあの雰囲気は辛い。


 明日、礼拝堂が爆発しねぇかなぁ……。



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