デスマは終わり、日常は変わる。
ティトラ君を創造した日の夜。
ナルキアとエーリッヒとティトラ君が、高柳君とクロードと交代した後に、ナルキアの好感度イベントが始まった。
俺はまだ、デスマーチ中で仕事してるのにも関わらずだ。
やっときたナルキアの好感度イベントなので、よく分からないナルキアの内心が分かるのは嬉しい。
それに、ナルキアが俺を嫌ってはいなかったと分かったのも嬉しい。
でも、だな。
デスマーチ中に出てくるのは、勘弁してほしい。
俺は今、神様ネットワークを開いて神様同士の間を取り持つ仲介交渉に励んでいる。
その傍らに、ナルキアが私室で悶ている様子が映った画面が出ているのだ。
更には、頭の中に直接ナルキアの声で独白のモノローグが流れ込んでくる。
本当に、うざったるい。
普段の言動がウザイので、ナルキアの声を聞くとウザイというイメージが植え付けられているのだ。
そんなナルキアの声が、睡眠不足で仕事中の頭の中に響く。
とんでもなく、うざったるい。
とは言え、仕事の手は止めるわけにはいかない。
既に急ぐ必要がある緊急の依頼は終わらせてあるのだが、それでもまだ依頼は大量に残っているのだ。
出来れば好感度イベントが出ている間は休憩したい。
だが、この好感度イベントは何時間掛かるのか分からないので、迂闊に休憩も出来ないのだ。
クロードの時なんて、子どもと遊んでおやつを食ってと全部の場面を見させられて、終わるまでに数時間は掛かったからな。
延々と子どもと遊び続けるクロードを眺め続けるとか、結構辛かった。
それでも何とか、これ以上ないほどの集中力を発揮して、好感度イベントを見終わった。
好感度イベントは盗撮盗聴みたいでちょっと嫌なのだが、それでも結構重要なことを言ってたりするので、スルーは出来ないのだ。
仕事のスピードを少し緩めることになってしまったが、なんとかナルキアの好感度イベントを全て見届けることが出来た。
……ナルキアよ。
お前のナルシストは、根っからのものだったんだな。
途中までは、ナルキアが自分を可愛いと言うのは自分を愛してくれた両親を忘れないためかと思っていた。
両親が亡くなってからも、両親が愛してくれたということを忘れないためにも、自分を愛し続ける、とか。
あと、魅了の魔導で人を惹き付けてしまうから、必要以上に人を惹き付けないためにも、英雄となってからは嫌われるようにわざと自賛の言葉を口にしてるのかとか思ってた。
でも、そんなことはなかった。
あいつは、アレが素だったんだな。
いやまぁ、両親の溺愛がちょっとは影響を及ぼしてそうではあるけども。
それと、俺が初めて会った時にナルキアに惹かれたのは、魅了の効果が残ってたせいなのか。
おかしいとは思ってたんだよ。
だって、俺はロリコンじゃないし。
出来ればアレだ、スタイルが大人の方が俺は嬉しいし。
そう考えると、魅了の魔導ってのは怖いもんなんだな。
これこそ、禁術指定されるべき魔導なんじゃねぇか?
まぁ、細かいことは置いといて。
ナルキアの好感度イベントのお陰で、ナルキアのティトラに対する態度の急変については分かった。
何考えてるかよく分からないナルキアだったが、取り敢えず人並みの感性が残ってはいたようで一安心だ。
ギャグ漫画のキャラみたいに、理性が吹っ飛んでるキャラじゃなかったんだな。
天才は何とかと紙一重って言うし、ナルキアも紙一重なタイプかと思ってたんだが、意外と結構しっかり考えて行動してたらしい。
いや、性格が紙一重なことには変わりないか……。
取り敢えずあの様子なら、ティトラ君が襲われることも……多分、ないと思う。
最後の方で本能と理性がせめぎ合ってたけど、多分大丈夫だ。
……大丈夫だよな?ナルキアの理性よ。
取り敢えず、ナルキアの好感度イベントについての考察はもう止めておこう。
それより先にアレだ。
デスマーチの続き、早く処理しないと……。
―・―・―・―
「これで……これで、終わった……。」
ナルキアの好感度イベントから、一週間と少しが経った。
現在時刻は午前一時半。
神様救済同盟に持ち込まれた依頼が、全て片付いた瞬間である。
「お疲れ様でした、ファントム様。」
「ああ、有難う。」
俺は椅子に背を預けて脱力しながらも、クロードのねぎらいの言葉に応える。
デスマーチが開催されてから、俺は毎日朝六時から深夜二時まで働いていた。
最後の依頼の処理があと三十分遅れていれば、デスマの最終日は明日に持ち越しになっていただろう。
でも、そんなの俺は耐えられない。
なので、何がなんでも今日中に仕事を終わらせるために、最後はラストスパートをかけて一気に依頼を処理したのだ。
まぁ、俺は仲介交渉役だから、スパートかけるって言ってもそこまで早くはならないんだが。
相手の神様の事情もあるからね。
その、相手の事情に合わせるってのがまた、大変だったんだが……。
神様に夜行性とかあるのか知らないけど、夜にしか返事がない神様とかも居て、協力をお願いするのに神様の活動時間も合わせる必要があった。
最初はそれに気付かなくて、協力を頼んでた神様から急に連絡が取れなくなって、急いで助けが必要な神様に平謝りしたりもあったしなぁ。
今回のデスマで、大分神様事情に詳しくなってしまったのが悲しい。
あの神様は女神相手だと仲介なしでも積極的に手助けしてくれるだとか。
あの神様は戦争大好きだから、ゴリ押しが必要な神様への協力を頼むのにちょうどいいとか。
あの神様は最初に会った爺さん神様並に話が長いけど、最後の方に本題があるからそれ以前は適度にスルーしても問題ないとか。
なんで俺が、こんなに神様の事情通にならにゃならんのだ……。
それもこれも、自重しない宣伝をかました運営のせいだ。
「あー……明日は休みとする。エーリッヒとナルキアとティトラにも、そう伝えといてくれ。」
「「はっ。了解しました。」」
「それじゃあ、俺は休む。君らももう、休んでいいぞ。」
そう言ってから、俺は執務室から繋がる私室へと引きこもっていった。
もう、眠くて怠くて堪らないのだ。
デスマーチなんて懲り懲りだ。
ただでさえストレスが溜まる神様同士の交渉の仲介なんて、こんな極限状態の体調でやるべきことじゃないんだよ。
俺は寝る。
惰眠を貪る。
明日は朝も昼も飯なんていらん。
もう、夕方近くまで無理矢理にでも寝てやる。
―・―・―・―
グッモーニン!
ああ、今日はなんて清々しい朝なんだろう!
いやぁ、なんだか頭がガンガンするけど、これほど気持ちのいい朝はないな。
今日からは仕事も平常運転だ。
怠い身体に鞭打って、張り切っていこうか!
……デスマーチが終わりを告げたのが、一昨日の深夜一時半。
日付で言えば、昨日の午前一時半だ。
それから風呂に入って歯を磨いて、俺はすぐに寝た。
翌日は休みにしたから、夕方まで惰眠を貪る気まんまんだった。
それがまさか、今日の朝まで寝ることになるとは……。
人間って、本当に疲れてたらこんなに寝れるもんなんだなぁ。
会社がノットブラックでクリーンだったから、こんなデスマを経験したことがなくって知らなかったよ。
確か、起きたのが朝の七時だったから、一昨日は深夜二時ぐらいに寝たとしても、連続で二十九時間も寝てたことになるぞ。
これじゃあ、シュナのことを笑えんな。
いや、シュナは毎日十数時間寝てるんだから話は別か。
あいつは毎日寝すぎだ。
もうちょっと有意義に時間を使いたまえ。
「皆、おはよう。」
「「「お早うございます、ファントム様。」」」
「あら、お早うございますファントム様。」
「お早うございます、ファントム様!」
いつもの秘書室の、いつもの朝の挨拶。
そしてこれから、いつもの仕事が始まる。
しかしそこには、今まで居なかった一人の英雄が加わっていた。
そう、ティトラ君である。
一週間前、ストレス解消のために引いたガチャで出た英雄。
頭が上手く働いてなかったので、間違えて女性限定じゃないガチャを引いてしまった結果の男性英雄だ。
見た目はナルキアが男装した感じで、顔は双子かと見紛うほどにナルキアと似ている。
当然、ナルシストであるナルキアからするとお気に入りの英雄であり、ちょっと事情があるので強引なアピールはしてないようだが、ちょいちょいアプローチを仕掛けている相手だ。
「ティトラ。今日からは平時の職務体制に入るが、何か問題がありそうか?」
「いえ、大丈夫です。ナルキアさんが色々と教えて下さいましたので。」
そう言ってティトラ君はナルキアの方を見る。
まぁ、デスマーチの時にナルキアはティトラに色々教え込んでたみたいだしな。
ぶっちゃけデスマの時より仕事は楽になるから、問題なんて起きるわけがないと思いつつ聞いてみた。
アレだ。
部下に気をかけてる上司アピールってヤツだ。
ティトラ君は新人さんなんだから、職場に馴染めるように注意してあげないとな。
「私が教授してるんですもの。お兄さまに恥をかかせないためにも、しっかり仕込んでありますわ。」
……あー。
ナルキアが居るから、俺が配慮しなくても馴染むのは簡単だったか。
まぁ、アレだな。
心配してるってポーズが大事なんだよ。
心配してないからって放置してしまうと、周りの心象が悪くなるからな。
「それじゃあ皆。一昨日まで大変だったろうが、今日からも気を抜くことなく仕事を頼むぞ。」
「「「はっ、了解です。」」」
「当然ですわ。」
「頑張ります!」
うん。
軍人英雄三人は、示し合わせてるんじゃないかってぐらい、声が揃ってるな。
上官にこう言われた時にはこう言う、ああ言われた時はああ言うって感じのマニュアルでもあるのかね?
まぁいいや。
とにかく今日からは、いつもの勤務体制に戻るのだ。
それはつまり。
俺は、基本的に暇になるということだ!
さ~て、と。
神様ネットワークのチャットでも見ながら、この二週間の疲れを癒やしていきましょうかねぇ。
―・―・―・―
「あの……ファントム様。」
「……どうした?」
「もう、昼休みの時間なのですが……。」
クロードに言われて、机の上の時計を確認する。
時刻は十二時二分。クロードの言うとおり、昼飯の時間だ。
「ああ、もう休憩に入っていいぞ。」
「ですが、ファントム様は……。」
「キリが良いところで勝手に休む。君らに手伝ってもらうことも無いからな。」
俺は神様ネットワークの画面を睨みつけながら、突き放すようにそう言った。
俺は今、絶賛機嫌が悪いのだ。
機嫌が悪いからと部下に当たるのは、最悪のことだと分かってはいる。
それでも機嫌が悪いのだから、どうしようもないのだ。
なぜ機嫌が悪いのかって?
神様救済同盟にね。
まだ依頼が来てるんですよ。
そりゃ、デスマの時に比べれば非常に少ない依頼数だよ。
あの頃は同時に十件以上処理してたし、多い時は一日で三桁近い依頼をこなしてたし。
でもね。
やっとデスマから解放されたと思った矢先に、依頼が来るとね。
俺だって、機嫌が悪くなるんですよ。
俺の快適だった、悠々自適の神様ライフはどこに消えてしまったのか……。
「ファントム様も、根を詰めずにゆっくりなさって下さいな。ではティトラお兄さま、お昼を食べに行きましょう?」
「えっ?いいんですか……?」
「構いませんわ。ファントム様も適当にお休みになられるでしょうから。」
言いたいこと言って、ナルキアはティトラ君を連れて執務室から出ていった。
それに続いてクロード、エーリッヒ、高柳君の初期ガチャ量産軍人三英雄も退室していく。
俺としても、機嫌が悪いからって彼らに八つ当たりするのは悪いと思っている。
なので、彼らが居なくなって一人になると、少しだけ心が楽になった気がする。
神様救済同盟。
それは、世界を管理する神様を助けるために組織された同盟。
運営から勧められて、軽い気持ちで手を出した同盟だったのだが、まさかこれがこんなにも尾を引くことになるだなんて……。
今後はきっと、この同盟が忘れられるか助けが必要な神様が居なくなるまで、神様達からの依頼が止むことはないだろう。
これも、暇だ暇だと言いながらも、もっと楽する方法を求めていた、怠惰な俺への罰なのだろうか。
とにかく。
今後は俺も秘書達と同じく、忙しい毎日を送ることになりそうだ。




