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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第二部:神様、働きます。
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英雄サイド ー ナルキア:後悔、懺悔、罪と罰。


 私が産まれた国は、邪神勢力の前線から遠く離れた大国でした。

 多くの魔道士を抱えて、魔導技術も他国とは一線を画した強大な王国です。

 そんな王国で、代々優秀な魔道士を輩出してきた名のある家で、私は産声をあげたのです。


 それは幸運だったのか、それとも不幸の始まりだったのか。

 ……いえ、結局は私が全て悪いんですわよね。




 私の家族は、両親と姉と私の四人家族でした。

 姉とは歳が十歳も離れていて、歳を取ってからの子どもだった私は、両親に大層可愛がられて育ちました。

 幼い頃から可愛い可愛いと言われ続け、小さい姿のまま居てくれたらいいのにと、両親は口癖のように言っていましたわ。

 姉もすでに分別がつく歳でしたので、両親の愛情が私に向いても嫉妬したりもせず、むしろ両親と一緒に私を可愛がって下さいました。


 とても幸せな毎日でしたけど、そんな幸せも長くは続きませんでした。


 私が六歳の頃。お父様とお母様が、屋敷に忍び込んできた邪神の手先に殺されてしまったのです。

 すでに嫁いでいたため、姉は家に居ませんでしたが、幼い私は当然まだ屋敷で暮らしていました。

 そんな幼い私を護るために、お父様とお母様は邪神の手先と刺し違えて死んでしまったのです。


 私は悲しみました。

 幸せだった日常が、一日で崩壊してしまったのですから。


 今思えば、あの時から歯車は狂い始めていたのでしょう。




 お父様とお母様が亡くなってからも、私は家人と共に屋敷で暮らし続けました。

 幼かった私を心配した姉が私を引き取ると言って下さったんですが、私はお父様とお母様との思い出が詰まった家を離れたくないと言って、それを断りました。


 でもそれは、建前に過ぎません。

 私の目的は別の所にありました。


 私の家は優秀な魔道士を輩出する家だったので、書庫には古今東西の魔導書が収められていました。

 両親が死んだあと、私は毎日書庫に籠もり、魔導についての勉強を始めたのです。


 私も名家の血筋を濃く引き継いでいたおかげか、六歳でも魔導書を理解できるほど頭の出来が良かったので、勉強は捗りました。

 家人達も、両親を殺した邪神の手先に復讐するために魔導を学んでると思い、私の行動を止めようとはしませんでした。


 ですが、私は思い出に浸るために、邪神の手先に復讐するために、屋敷に残って魔導を学んでるのではなかったのです。


 全ては、両親が愛してくれた、幼い自分の姿を保つ方法を求めてだったのです。




 禁術。


 この世界には、人が使うには分際を超えているとされる魔導が幾つか存在します。

 その中の一つとして過去に実在したのが、『不老の魔導』です。

 この禁術さえあれば、私は小さい姿を保つことができるのです。

 両親が愛してくれた幼い姿を、この世界に留めることができるのです。




 結果として私は、禁術の再現に成功しました。

 魔導について学び始めてから六年。私は十二歳になってしまっていましたが、それでもギリギリ間に合ったと見ていいでしょう。

 妄執に取り憑かれていた当時の私は、早速その禁術を自らにかけました。


 先のことなんて、何も考えずに。




 私が禁術を使ったことは、使ってから七年経って周りにバレてしまいました。


 当然ですわよね。

 何年経っても幼い姿のまま変わらないんですから。


 出来るだけ屋敷に籠もって外に出ないようにしていましたが、それでも永遠に隠し続けられるものではありません。

 私の姿を見て気付いてしまえば、色々な要因を探っていくと、私が何をしたのかなんてすぐに分かってしまったでしょう。


 そして私は、裁判にかけられました。

 禁術は存在すら秘されなければならないものでしたから、極秘裏の裁判です。

 国家の重鎮と関係者が集まる裁判の場には、嫁いでいった姉の姿もありました。

 久しぶりに見た姉の姿はもう母親のものでしたけど、それでも私とよく似た顔で、美しさがまだ残っていました。


 きっと姉も、私の罪の連帯責任を取らされてしまうのでしょう。

 禁術を用いるということは、それほど重い罪なのですから。

 そんなことにも気付けなかった当時の私は、なんて幼く馬鹿だったのでしょう。


 裁判の場で、私を咎めるのではなく、悲しげな目で見つめる姉。

 連帯責任で罪に問われかねないというのに、姉は私に怒りを向けず、ただ悲しみを籠めた目を向けていました。


 その目を見た時、私は気付きました。

 私を愛してくれたのは両親だけじゃなくて、姉もその一人だったのだと。

 昔から変わらず、姉も私に愛情を注いでくれていたのだと。


 お父様とお母様の死が衝撃的すぎて、私はそれを忘れてしまっていたのでしょう。

 もしもあの時。私が姉の家に移り住んでいたのなら、こんな悲劇は起きなかったのでしょうに。


 ですが、後悔しても私が罪人であることは変わりません。

 私は既に、罪を犯してしまっているのですから。




 裁判の結果は、当然死刑。

 ただし、姉は重鎮の家に嫁いでいたので、政治的な影響に配慮した結果、私には姉のために名誉挽回する機会を頂けました。


 その機会とは。私が邪神勢力の前線へと単身で乗り込んで、多くの邪神の手先を討ち取り、名誉の戦死を遂げること。

 倒した邪神の手先が多ければ多いほど、姉の罪は軽くなるとのことでした。


 姉への罰は、私がもしも英雄的な討伐を成したなら、殆ど何も課せられることはないそうです。

 ですがそれでも、将来に国の危機が迫った時には、例え何代先であっても優秀な子を一人国に差し出し、国を護るために尽力させること。

 それだけは、私が幾ら活躍しても動かない罰として課せられました。


 本当に。

 本当に、甘い罰です。


 私が用いた禁術が、誰かの害にならなかったこと。

 私が強大な魔導を使える魔道士だったこと。

 姉が重鎮に嫁いでいて、政治的配慮が必要だったこと。

 その姉も私と同じ血筋を引いてるので、子孫に期待ができること。


 幾つもの要因が重なった上での、奇跡的な判決でした。




 私はその身に呪いを受けて、戦場へと向かいました。

 死ぬまで戦うために、多くの邪神の手先を惹き付けるために、私は『魅了』の魔導をかけられたまま戦場へと向かったのです。


 邪神の手勢は、まるで私しか見えないかのように私へと向かってきました。

 この魅了は、特別強力な魔導です。

 どんな相手にも好意を向けさせるほど強力な魔導なのですから、邪神の手先であったとしても、私を無視はできません。


 私は、姉の罰を軽くするために、必死で戦い続けました。

 一睡もせずに二日戦ったのは覚えてますけど、それ以降のことは覚えていません。


 気が付けば、いつの間にか魔力が枯渇して意識を失い、そのまま私は戦場の塵となっていました。




 ―・―・―・―




 ティトラお兄さまがやってきた日の夜。

 私は女性用宿舎の私室で一人、生きていた頃のことを思い出していました。

 とても愚かで幼くて、間違いだらけだったあの頃のことを。


 こちらの世界に英雄として呼ばれてから少しの間も、私の罰の残り香は残っていました。

 まだ効果の残ってた『魅了』で、周りを少し魅了してしまってましたもの。

 でもまさか、神様であるはずのファントム様まで魅了が掛かってしまうとは思ってませんでしたわ。

 まぁ、あれだけ力を失っている神様ですものね。

 私の美しさも相まって、つい油断なされてしまったのでしょうね。


 ああ、本当に私の美しさは罪ですわ。

 幼い頃から家族を虜にし、生きていた頃も会う人全てに振り向かれてしまうほどの美しさですもの。

 そんな美しさに見合う殿方なんて、私とよく似た姿をした人しか居ません。

 そう、幼い頃からずっと思ってきてましたわ。




 ……そう、ですわよね。

 ティトラお兄さま。

 私の理想の人が、私と同じ英雄として来て下さったんですのよね。


 でも、素直に喜べない自分が居ますの。

 だってティトラお兄さまは、私のせいで戦場へと送られたんですもの。


 私の姉の血を受け継ぎ、『無限無尽の魔力生成』体質にも関わらず国に招集されて、英雄となった。


 それを聞いた時に気が付きましたわ。

 きっとティトラお兄さまは、私の罪のせいで戦場に送られてしまったのだと。




 禁術を再現するために魔導の深淵を覗き見た私は、『無限無尽の魔力生成』というとても珍しい体質についても知っていましたわ。

 この体質はとても強力な体質である反面、不治の病でもありますの。

 無限に湧き出る魔力のお陰で無限に魔導を使えるかわりに、常に生成される魔力が身体を蝕み続けるのです。

 そのせいで、誰もが十歳に満たずに死んでしまう。

 治療法も延命方法も見つかっていない、不治の病ですの。


 そんな体質に産まれた人は、残された短い余生を幸せに暮らすか、不治の病に抗うために研究機関にその身を委ねるかの二択です。

 その体質に産まれた人とその両親は、その二択を選ぶ権利を与えられますの。

 それが、昔からの不文律でしたもの。


 でもティトラお兄さまは、国に引き取られたあとに英雄的偉業を成して、英雄となってこの場に来ています。

 きっとティトラお兄さまは、あって当たり前の二択を与えられずに強制的に戦場へと送られてしまったのでしょう。


 全ては、私が罪を犯してしまったばかりに。




 ああ。

 それでも。

 それでも私は、ティトラお兄さまが好きなのです。


 一目見た時から、私の運命の人だと感じたのです。

 胸に走った電流が、この人を愛せと言っていたのです。

 他の全てを投げ打ってでも、この世に二人と居ないだろう、私と瓜二つの異性を必ず捕まえろと私の本能が叫ぶのです。


 でも、私の罪は投げ打つことが出来ません。

 私はこんなにティトラお兄さまを愛しているのに。

 ティトラお兄さまのためだったら、私自身を愛することすら止めてしまってもいいというのに。

 二度と鏡が見れなくなっても、私の美しさを再確認する言葉を吐けなくなっても、構わないというのに。

 それでも、ティトラお兄さまに不幸な人生を送らせてしまった罪は、どうあっても消せないのです。


 叶うことなら、今すぐにでも告白してしまいたい。

 むしろ結婚して、英雄なんて退職してしまいたい。

 ティトラお兄さまのために全てを尽くしたい。

 それが私の運命だったのだと、感じてしまうのですから。




 でも、その運命もまた、私の罪が発端となったもの。


 私は罪を犯したせいで、邪神の手先を屠って英雄となりました。

 ティトラお兄さまもまた、私の罪の延長で邪神の手先と戦うことになった結果、功績を残して英雄となられたのでしょう。

 その事実が、私に二の足を踏ませてしまいます。


 私はどうしたらいいのですか?

 この想いを胸に秘め、罪を贖い続けなければならないのですか?


 でも、私はお兄さまを諦めたくなんてない。

 本当に、私はどうすればいいんですの?




 ……今は、深く考えないようにしましょう。

 私の気持ちも大切ですが、一番大事なのはティトラお兄さまの気持ちです。


 今はティトラお兄さまのために、全てを尽くしましょう。

 私のせいで、短い余生を戦場で暮らすことになってしまったティトラお兄さまのために、ティトラお兄さまが楽しく暮らせるために。


 そうすればきっと、いつかはティトラお兄さまも私のことが……。


 ああっ!ダメですわ、そんなふしだらな気持ちでは!

 これは贖罪なんですの。私に好意を抱かせるなんて卑劣な考えは持ってはいけないんです。


 でも、自然と好かれてしまう分には……。

 でも、罪があるから私の欲を満たすのは……。

 でも、ティトラお兄さまには私の手で幸せになって欲しいし……。

 でも、やっぱり原因は私ですし……。

 でも―――



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