大事な決定の前に確認しましょう。
ティトラ・フーファルズ 男性 魔道士
レア度:☆☆☆☆☆ ☆☆(7)
戦闘力:A- 智謀:SS- 特殊能力:S- 成長性:A+ (39)
スキル:『無限無尽の魔力生成』
……。
ん?
あれ?疲れてんのかな、俺。
もしかしたら眼精疲労が溜まっているのかもしれない。
最近寝不足だったからなぁ……。
こりゃ、一回寝た方が良いのかもな
起きたらこれが夢になってるかもしれないし。
「……? ファントム様、どうされましたか?」
目を擦る俺を見て、エーリッヒが声を掛ける。
ああ、イカンな。
今から寝ようとすると、秘書達に心配をかけてしまう。
でも、目がおかしいんだよなぁ。
だって、どう見たって、『男性英雄』にしか見えないし。
……。
女性英雄限定ガチャじゃなかった……。
そうだよ、智謀型の☆5以上限定ではあったけど、女性英雄限定じゃなかったよ。
女性英雄限定かどうかなんて一番最初に確認するところなのに、ガチャと言えば女性限定が当たり前だと思いすぎて、確認してなかったよ。
どうすんだよ、これ。
智謀も高いし☆7だし、これ以上ないほど秘書に相応しいと思える英雄だぞ?
神様ネットワークで評判聞いてからってことにして、評判悪かったって嘘吐いて売り払うか?
いや、一度でもそれをすると、今後もガチャで出す度に評判を確認しないと怪しまれるな。
俺は、ガチャから出たキャラはすぐに創造したいタイプなんだ。
まぁ、それは女性英雄に限るんだが……。
「ああいや、すまない。少し疲れが溜まって呆けてしまった。望んでいた通りの智謀型で、名前はティトラ・ファーフルズという、ナルキアと同じ魔道士で男性だ。『無限無尽の魔力生成』というスキルを持っているらしい。」
「『無限無尽の魔力生成』ですって?」
俺の言葉に、ナルキアが反応する。
その顔には驚きの色が浮かんでいるが、取り乱した様子はない。
いつもの整った顔で、お手本のような驚きの表情をしている。
「ナルキアは知っているのか?」
「ええ……もしもその方が私の世界の英雄で、そのスキルが私が知ってる体質と同じものでしたら、とんでもない体質ですわ。」
体質なのか?
いやまぁ、英雄のスキルって生前の際立った才能とかが発現するみたいだしなぁ。
なんだっけ?ジョンが『天性の勘』でシュナが『高速飛行』と『光の槍』。
エーリッヒが確か、『逃走補助』?あとナルキアは……なんだっけ。
そういえば高柳君も何かスキル持ってた気がするけど、覚えてないな。
スキルなんて、魂の状態で『開示』しないと見れないもんなぁ。
ゲームみたいにステータス画面が自由に見れるわけじゃないんだし。
っていうか、英雄達のスキルって基本的に資材消費しなくても使えるんだよね。
だって、生きてた頃には普通に持ってた才能なんだし。
でも一応、資材を消費した状態だと生前よりかなり強い力が使えるんだとか。
と言っても、俺からすると何がどう変わって強くなってるのか分からんが。
「その体質は文字通り、無限に魔力を生み出し続ける体質ですわ。魔導を用いるには魔力が必要なんですけど、無限に魔力があるということは、いつまでも戦い続けることが出来るってことですの。」
ああ、なんか文字通りのスキルらしい。
それなら普通に『無限の魔力』でも良い気がするが、なんで態々『無限無尽の魔力生成』なんて長い名前になってんだ?
この名前考えたヤツは、短い言葉の機能美を知らんのか。
というか、長くって毎回スキル名呼ぶのが面倒くさいわ。
「私も生きてた頃には、全てに愛される美しさに相応しいだけの魔力持ってましたし、同じ魔道士相手に負けるつもりは有りませんでしたけど……それでも、無限無尽の魔力生成を持つ方とは戦いたくないですわね。何せ、身体の欠損や疲労も魔導で癒やしながら、本当に無限に戦えるんですもの。」
なんだそれ。
チートじゃん。
いやまぁ、英雄になったら資材消費だと三時間しか本気で戦えないからアレだけども。
それでも、資材消費なしでも戦えるぐらいに成長したら、二十四時間延々と資材も使わず戦ってられるんじゃないか?
俺はそんなブラックなことはさせないけどな。
「それなら☆7英雄であるのも納得できるな。」
「ですけど……その体質は、欠陥がありますの。先天的にしか目覚めない体質で、しかも多すぎる魔力が身体を蝕んでしまって、十歳も生きられないはずですわ。」
あー……美味い話はないってことか。
チートだチートだと思ってたけど、十歳も生きられないんじゃなあ。
魔導がどんなものなのか知らんが、多分十歳未満の子どもで使いこなせるもんじゃないだろうし、となると体質を活かす前に死んでしまうのか。
「ですのでこのティトラさんは、十歳までに魔導を扱えるようになって、邪神と戦った方ということになりますわね。とは言っても私の知識ですから、後の時代にはこの体質でも長生き出来るように魔導技術が発展してたのかも知れませんけど。」
そういう可能性もあるのか。
それなら、十歳未満のショタが出て来るのが確定ってわけじゃないんだな。
流石にショタを秘書にするのは、絵面がちょっと酷すぎる……。
ナルキア?いや、あいつ十九歳だし。
あと、ナルキアはギリギリ中学生ぐらいに見えないでもないけど、十歳未満って小学生低学年か中学年だろ?
そんな子どもを働かすのは、俺の倫理観的にちょっと……。
「まぁ、とにかく創造するか。」
これ以上話を聞いたって、テンション上がらないしね。
ぶっちゃけ、男性英雄って時点で俺のテンションはだだ下がりなんだよ。
「では、『創造』。」
テンション下がってても、一応創造と口に出しておく。
開示も言ったのに創造を言わないとか、なんか態度が露骨過ぎるしな。
手元から床へ落ちた赤い石が、強い光を放つ。
そして赤い石を中心にして、真っ赤な光の柱が立ち上がった。
まるで炎の柱のようで、熱くないはずなのに熱いんじゃないかと錯覚してしまいそうだ。
☆7以上専用の登場シーンだから感動するにはするんだが、やっぱり出来れば女性英雄でこのシーンを見たかった。
赤い光が収まると、そこには一人の少年が立っていた。
若草色のマントを羽織り、手に持った銀のステッキを、胸の前で抱えている。
グレーのダボッとしたズボンに、白いシャツと茶色いチョッキ。
ゲームキャラが着てそうな魔法使いルックの出で立ちだ。
その髪は金糸のように光り輝き、肩で切り揃えられていて女の子のようにも見える。
瞳は神秘的な碧色で、大きなクリクリとした瞳が更に女の子らしさを醸し出す。
そしてその顔立ちは……。
あれ?
この顔って、なんか見たことあるぞ?
いや、っていうか。
ナルキアそっくりじゃね?
「お、お……お……。」
俺の隣から、なんか不気味な声が漏れてきてる。
声といい聞こえる方向といい、どう考えたってその声の主はナルキアだ。
俺は一瞬で悟った。
この後に起きるであろう惨事を。
「我らが神よ、声掛けに応じて参りました、ティトラ・フー……」
「お兄さまと呼んで宜しいですかああぁぁぁ!!!」
「ふぁあっ!?」
自己紹介を始めたティトラに飛びつくナルキア。
ティトラに抱きついたナルキアは、戸惑うティトラの胸に頬ずりしまくっている。
うん、まぁ。
予想出来てた。
自分の美しさが好きなナルキアが、自分そっくりの人を見たらこうなるわな。
ならない可能性も考えたけど、ナルキアから変な声が出てた時点で大体予想できてたよ。
まぁ逆に、「お前っ!私の姿を真似るとは不届きな!」的なパターンも有り得たかもしれないが……結果はまぁ、この通りだ。
「えっ、なっ、ええっ!?」
「お兄さまっ!私のことはナルキアちゃんって呼んでくださいまし!」
「えええっ!?」
真顔で何言ってんだこの十九歳。
ティトラ君は見た目はナルキアと同じく十二歳前後だぞ?
さっきの『無限無尽の魔力生成』の説明通りだったら、お前みたいな見た目詐欺とは違って正真正銘のショタだろうが。
十九歳の女性が十歳そこらの少年に抱きつきながら、お兄さまと呼んでいいかなんて……。
普通に考えて、犯罪だろ。
「ナルキア、自重しろ。」
「あああ!待って下さいな!せめてこの勢いで、言質だけでも!」
なんだコイツ、意外と冷静だぞ。
相手の混乱につけこんで言質取ろうとか、詐欺師の手法じゃねぇか。
俺はナルキアの襟首を摘んで、ティトラ君から引き剥がす。
最初は引っ張ってもビクともしなかったが、俺が引っ張ってると気付いた瞬間に力を緩めてティトラ君から離れてくれた。
「あー……ティトラ・フーファルズだったか?すまないな、ウチの秘書が発狂して。」
「え?あ、いえ。大丈夫です。」
「ファントム様、お兄さまもそう言ってますし、お手を離して頂けませんか?」
「話が進まん。」
いつもの優雅さはどうした、ナルキアよ。
ウザイ自賛の言葉が口癖で、舞台役者みたいな完璧な動作をしてるお前らしくないぞ。
というか、キャラ崩壊し過ぎだろ。
ティトラ君も戸惑ってるだろうが。
俺も戸惑ってるわ。
「それで、ティトラか。場が乱れてしまったが、これから宜しく頼む。俺のことはファントムと呼ぶように。」
「はい、宜しくお願いします、ファントム様。」
「ティトラには、私の秘書として都市管理や物資、前線の管理をしてもらおうと思ってたのだが……。」
「もちろん、ティトラお兄さまも秘書になられますわよね!?ならないなんて言いませんよね!?」
このナルキアと同じ職場に置いていいのか?
どう見ても子どもな英雄を前線に送るのは心苦しいと思ってたんだが、このナルキアを見る限り、前線の方が安全じゃないか?
主に貞操的な意味で。
「ひ、秘書ですか?」
「無理そうか?それなら、戦場に……。」
「私がっ!私が手取り足取りお教えしますから!後生ですから、お願いですから!」
さっきからナルキアが見苦しい。
そんなに自分と同じ顔のティトラ君が好きかよ。
まぁ、好きなんだろうけど、もうちょっと押しを抑えてほしい。
見てるだけで疲れる。
「え、えっと……気になってたんですけど、もしかしてこちらの方は……ナルキア・リッソールさん、ですか?」
……うん?
俺、ナルキアのファミリーネームまで言ったっけ?
いや、言ってないよな。
なんでナルキアの家名がリッソールだって知ってるんだ?
「確かに、ナルキア・リッソールだが……。」
「本当ですか!?ボク、ナルキアさんのお姉さんの子孫なんです!ナルキアさんが邪神勢力と死ぬまで戦ったって偉業は小さい頃から何度も聞いてて、ボクが『無限無尽の魔力生成』って体質だって分かったときも、ナルキアさんの血縁だってことで国から直接お声がかかったんですよ!」
あ、ああ。
ナルキアの遠い親戚だったのね。
そりゃあ、顔が瓜二つのそっくりな訳だ。
というか、同じ世界出身だったのかよ。
まだガチャは、最初の間違えたガチャも含めて四回しか引いてないんだぞ?
高柳君、ナルキア、シュナ、ティトラ君と来て、同じ世界出身の英雄が二人出てくるなんて、どんな確率だよ。
「……そうか。まぁ、ティトラがそれで良いのなら、ティトラも秘書に任命して、教育はナルキアに任せるとしようか。」
「はいっ!是非、お願いします!」
ティトラ君が目をキラキラと輝かせながら言ってくる。
無邪気な笑顔が凄く眩しい。
こんな良い子を、狡猾なナルシストのナルキアなんかに任せて大丈夫なんだろうか。
ん?
そう言えば、さっきからナルキアが大人しいな。
ナルキアの方を見てみると、いつもの優雅な姿でティトラ君の顔を見ていた。
さっきまでの狂乱ぶりが嘘のように、お人形のように姿勢正しく佇んでいる。
なんだ?一体どうしたんだ?
「ティトラお兄さま、先程は失礼致しましたわ。私のお姉さまの子孫なのでしたら、私の子孫も同然ですし、手取り足取りしっかりお仕事を教えて差し上げますわ。」
「はいっ!よろしくお願いします!」
いつもの様子でティトラ君に対応するナルキア。
それに応じて、ナルキアに深く礼をするティトラ君。
ってか、ティトラ君もナルキアの豹変ぶりに反応しろよ。
どう見ても態度が変わりすぎだろう。
あー……これはアレか?
態度が急変したのは、自分の親戚だったからってのが関係してるのか?
実質ティトラ君から見たら大大大……大叔母さん的な立ち位置だから、自重したのか?
それとも、親戚だったら恋愛対象にならないのか?
もしかすると、ナルキアは姉が苦手で、姉の子孫だから遠慮してるとかか?
……。
まぁ、大人しくしてくれるなら別にどうでもいいか。
というか、親戚だって分かっても、お兄さま呼びはやめないんだな。
ティトラ君も何だかんだでオッケーみたいだし。
本当にそれでいいのか?ティトラ君。
―・―・―・―
「ティトラお兄さまは飲み込みが早いですわね。生きてた頃も、これだけ賢かったんですの?」
「あっ、はい!ボクは一応、魔導は上級までなら基本的に全部扱えます!」
「……その歳でそれだけ扱えるなんて、素晴らしいですわね。」
「いえっ、ナルキアさんはもっと凄い偉業を残したって聞いてます。ボクなんてとても……。」
神様ネットワーク画面で同盟に舞い込む依頼を片付けながら、ナルキアとティトラ君の様子をチラチラとチェックする。
今のところ、ナルキアが強攻に出る様子は無さそうだな。
これなら、ティトラ君をナルキアに任せても問題なさそうだ。
「ファントム様。一時はどうなるかと思いましたが、大丈夫そうですね。」
書類を持って俺の元へやってきたエーリッヒが、二人には聞こえない小さな声でそう言った。
そういや、ナルキアの変貌っぷりがヤバ過ぎてエーリッヒの紹介をしてなかったな。
エーリッヒもエーリッヒで呆然としてたのか、あのやり取りの間はずっと黙ってたし。
「そう言えば、ティトラにまだエーリッヒの紹介を出来てなかったな。」
「いえ、構いません。クロード中尉と高柳中尉が交代に来た時に、三人で一緒に自己紹介致しますので。」
うん、なんかその方が俺もしっくりくるな。
やっぱり初期ガチャで出た三人の軍人英雄は、三人セットの方がピッタリだな。
好感度イベントの時も、三人とも同じ日に来たし。
なんかアレだ。RPGでレベルを揃えて育ててあげたい系のキャラって感じだ。
「ナルキアに教育を任せると仕事が滞るかと思ったが、むしろ仕事の効率上がったしな……。」
「……今まで、本気じゃなかったんですかね……。」
ティトラ君の教育の傍らで、ナルキアは自分の仕事もこなしている。
口ではティトラ君に説明してるのに、書類に書き込む手は止まらないのだ。
書類を見てないのに書類に書き込んでるその光景は、なんかシュールだ。
きっと、大好きなティトラ君には良いところを見せたいんだろうな。
ティトラ君も、ナルキアには憧れに近い感情を持ってるみたいだし。
でも、出来れば今までもそれぐらいやる気を出して欲しかったよ。
まぁ何にしても、これなら秘書の戦力増強は問題なさそうだ。
ティトラ君も頭が良いみたいだし、教育が終われば秘書団の仕事効率は段違いに上がるだろう。
結局、執務室の空気は黄土色が濃厚なままか。
ティトラ君は癒し系っちゃ癒し系だけど、マントの色と同じ若草色なイメージなんだよなぁ。
観葉植物カラーじゃなくて、色とりどりの綺麗な花が欲しいんだが。
とはいえ、今回は俺のガチャ選択ミスが起こした結果だ。
甘んじて受け入れて、次のガチャチャンスに期待するとしよう。




