運営からの通達。
突然の運営からのメッセージ。
それに戸惑い、ドアノブから手を離す。
今から食堂で昼食を食べる予定だったのだが、その前にこのメッセージは確認しておかなければ。
最悪の場合、メッセージの内容次第では、秘書を急遽呼び戻して昼休み返上で仕事をする必要があるかもしれないのだから。
運営メッセージについては、以前ヘルプ本で調べたことがある。
邪神大侵攻の発生が運営メッセージで通達されると聞いて、今はまだ関係ないが今後のためにと調べてあったのだ。
戦場画面で結界解放間近のアイコンに気付かなかった例もある。こういった細かいことでも、疑問に思ったことは逐一ヘルプ本をチェックして調べるようにしていた。
そして、運営のメッセージとは、余程の緊急事態でなければ来ることがない。
それこそ邪神の大侵攻でも起きない限り、運営からメッセージが来ることなんてあり得ないのだ。
では、邪神大侵攻に関するメッセージではないか?
しかしそれは有り得ない。
そもそも前回の邪神大侵攻が起きてから、まだ半月ぐらいしか経っていない。
大侵攻で送られてくる援軍はかなりムラがあるらしいので、大量の援軍が来た世界だと未だに邪神の援軍に四苦八苦してるという話もチャットで見るぐらいだ。
とはいえ、邪神大侵攻は邪神側の都合で起きるもの。
ほとんど間を置かずに連続で侵攻してくるのも、あり得ないわけではない。
だが仮に邪神の大侵攻が連続で起きたとしても、俺の管理する世界にはまだ結界が残っている。
結界が張られている世界には邪神は援軍を送れないので、大侵攻の対象から外れるはずだ。
だからこのメッセージは、邪神大侵攻に関わるものではないだろう。
なら、何のメッセージだ?
俺が何か問題行動を起こして、警告メッセージでも来たのか?
ソシャゲの運営から直接メッセージが来るとか、警告とかアカウント規制とかぐらいしか理由が思い当たらない。
そもそもが仮に問題行動に対する警告だったとしても、俺は悪いことなんてした覚えはないぞ?
……もしかして、アレか?
俺が人間だってことが、今更バレたとか?
それで俺を、世界管理から外そうって話なのか?
ヤバイな。
それが一番有り得る。
というか他に心当たりがないから、これ一択じゃないか?
せめて。
せめて、女性英雄に囲まれた生活を、一ヶ月だけでも体験したかった。
あと、もっとガチャを引いておけば良かった。
どうせ管理の座から降ろされるなら、今からでも残りの信仰でガチャ引いてしまうか?
それが良いかも知れない。
いま残ってる信仰でなら、シュナを出した時のガチャぐらいなら、もう一回引ける量はあるし……。
いや、待て。
その前に、取り敢えずはメッセージ確認だ。
早まってはいけない。
もしも全く関係ない内容だったら、後で困ることになるんだから。
こういう時に、念じるだけで画面を操作出来るってのは助かるな。
もしこれがスマホと同じく手で操作するんだったら、手が震えてて上手く操作出来なかっただろう。
というか、スマホだったら手から落としてるかも知れん。
それぐらい、手が震えてる。
だって、神様じゃないってのがバレたら、何されるか分かんないし。
最悪、神の名を騙ったとか言われて極刑とか。
チャットとかで神様連中の言動を見る限り、なんかここの神様ってプライド高そうだから、実際にそんな流れが有り得そうで怖い。
あと、英雄達からは騙してたのかと侮蔑の目を向けられそうでもある。
二ヶ月半も一緒に居た英雄達に見限られるとか、精神的に相当キツイ。
意を決して、吹き出しが出ているメッセージボックスアイコンを選択する。
空っぽだったメッセージボックスに、一通だけ運営からのメッセージが入っていた。
タイトルは、『ご無沙汰じゃのう』だった。
……なんだこれ。
運営メッセージのくせに、タイトルが馴れ馴れしすぎないか?
というか、ご無沙汰って。
俺は運営関係者に知り合いなんて居ないぞ?
若干毒気を抜かれながらも、俺はメッセージを開封した。
------------------------------------
From:神様ネットワーク運営機関 to:記憶の無い幻影
ご無沙汰じゃのう、元気にしとったか?儂は、神域でお主を見つけた神じゃ。
あの時はまさか、神域にまだ神が残っとるとは思っとらんかったから、焦って自己紹介もしとらんかったの。
儂は神様ネットワーク運営機関に所属しとるアラファリクという神じゃ。
------------------------------------
……あ、ああ。
こっちの世界に来た時に、最初に会った白ひげ爺さんの神様か。
もう二ヶ月半も前のことだったから、半分忘れてた。
そう言えば、俺を神様ネットワークの管理神にしたのはあの爺さん神様だったんだっけ?
管理神に任命出来るぐらいなんだから、よくよく考えればあの爺さん神様は運営側の神様ってことになるのか。
……にしても、運営メッセージなのに文章が砕けすぎじゃないか?
もっとこう、運営なら運営で堅苦しい感じがの文章にしとけよ。
というか、名前がアラファトってなんだよ。
人の話を聞かない爺さん神様のくせに、名前が微妙にカッコイイのがイラッとくるな。
------------------------------------
お主が管理神になった後のことはガシュエルから色々聞いたんじゃが、お主は智の神かも知れんらしいのぅ?
智の神なら神様ネットワークの管理神なんぞ退屈しのぎにもならんかも知れんから、どうせじゃったら運営側に来てもらえば良かったかも知れんの。
どうじゃ、なんなら運営側に来て儂と一緒に働かんか?世界管理と比べてこっちはやりごたえがある仕事じゃぞ?
まぁそれも、記憶が戻ってからの話じゃな。考えておいてくれたら助かるわい。
------------------------------------
ガシュエルって誰だっけ?
と思ったが、智の神の下りで思い出した。
チュートリアル担当だった、あのハゲ天使か。
今にして思えば、あのハゲ天使も懐かしく思えてくる。
出来ればもう一度会いたいものだ。
なに誤解を広めてくれてんだボケぇ!!
と、一言いっておきたいしな。
俺を智の神とかよく分からん神様だと言いふらしてるみたいだし。
あと、都市管理は全部官僚任せって嘘をついてたことも忘れてないぞ?
このハゲが。
------------------------------------
それはそうと、色々と調べてみたら面白いことをしとったようじゃな。
特に最初の戦争の勢いは凄いもんじゃったの。
資材を買ってアイテムを売っての繰り返しで一気に前線を押し上げるとは、初めて世界を管理するとは思えん手腕じゃったわ。
------------------------------------
あー……あの、序盤ブーストね。
運営から資材を信仰で買って、資材を使って戦争して、戦争のドロップ品を売って信仰を手に入れて……のループで信仰を稼いだっけ。
ガチャがしたいのに信仰がないから、必死で計算したんだよなぁ。
まぁそれが出来たのは、元の世界のソシャゲ知識のお陰なんだけども。
……ってか、前置き長いな。
運営メッセージってことは何か用件があるはずなのに、ここまででまだ世間話しかしてないぞ?
もしかして、世間話をするために運営メッセージを送ってきたんじゃないだろうな?
……。
有り得そうで怖いな。
初めてあの神域って場所で会った時も、あの爺さん神様は俺の話を聞かずに一方的に喋ってたし。
話し好きの爺ちゃんかよ。
運営仕事しろよ。
―・―・―・―
その後も続きを読んでみるが、本題らしい本題は出てこず、延々と爺さん神様の世間話が続いていった。
ぶっちゃけもうメッセージを閉じてしまいたのだが、大事なお知らせがサラリと間に挟んであったりしたら堪ったもんじゃない。
なので、仕方なく律儀に続きを読んでいく。
そして三十分が経った。
しかし、三十分も読み進めても、まだメッセージの終わりが見えない。
おい、もう昼飯食う時間がないぞ、おい。
あとで執務時間中なのに私室に行って美味い飯を食わなきゃならんじゃないか。
それはそれで美味い飯食う言い訳が出来るからちょっと嬉しいんだが。
……もしかして。
本当に世間話をするのために、メッセージを送ったんじゃないだろうな?
そう思い始めた頃に、メッセージにやっと大事そうな話が出てきた。
------------------------------------
おお、そうじゃったそうじゃった。
交換所で契約を司っとる神から聞いたんじゃが、お主は本当に初めて世界管理をしとるとは思えんことをしとるのぅ。
他の管理神が困っとるところを、何度も救っておったと聞いとるぞ?
これで莫大な見返りを求めとるようじゃったら警告を飛ばすところじゃったんじゃが、相場より少し多め程度しか求めとらんとは、なんとも感心なことじゃ。
他の神々にも見習わせてやりたいもんじゃが、アクが強い神が多いから神同士の間を取り持って交渉が出来る神は少ないからのぅ。
そこでお主に、一つ提案があるんじゃ。
お主、今後もその救済を続けていくつもりはないかの?
------------------------------------
やっと重要そうな話が見つかった。
前置きというか世間話の部分が長すぎて、もう頭が茹だってきてたところだ。
くっそ長くて意味のない文章の中から大事そうな部分を探すのって、相当疲れるな。
話は簡潔にまとめろよ。
あー……で、なんだって?
えっと、こないだの神様との取引のことか。
邪神大侵攻で困ってそうな神様をチャットで見つけて、ちょっと割高料金でお助けしたってヤツだな。
この爺さん神様は交換所の契約担当から聞いたみたいだから知らないっぽいが、アレは契約が終わったあとに寸志って形で信仰を貰ってたんだよな。
だから俺としても、相当儲けさせてもらったんだが。
いや、俺が寸志を求めたわけじゃないんだけどね?
寸志って、心ばかりのお礼ってやつだから。
えっと、それで、その救済を続けるつもりがないかだって?
そりゃまぁ、今は信仰に余裕もあるからやってないけど、折を見てまたやる気まんまんだったけど。
でもわざわざ運営メッセージで言ってくるってのは、どういうことなんだ?
------------------------------------
もしも続けるつもりがあるなら、神々の救済を目的とした同盟を創ったらどうかと思っとるんじゃ。
当然、ただでとは言わんぞ?今回の救済は運営側でも高く評価しとるから、いままでの件だけでも褒賞として信仰宝珠をこのメッセージに添えて送っとるし、今後も同盟を創って救済を続けるんじゃったら、救済の結果次第で追加で信仰宝珠を送る用意もしてあるぞ?
もしも同盟を創ろうと思ったら、このメッセージに返信しとくれ。
同盟は最低でも二柱以上の神が所属せんといかんから、同盟に入ってくれそうな神も忘れずに誘っておくようにな?
当然、同盟に入って救済に参加した神全員に信仰宝珠を送るつもりじゃから、安心するがええ。
それじゃあ、良い返事を期待しとるぞ。
神様ネットワーク運営機関 アラファリク
------------------------------------
やっと、メッセージが終わったか。
長すぎて読んでるだけで疲れた。
なんで休憩時間にこんなに疲れにゃならんのだ。
いやまぁ、仕事時間中もほとんど休憩みたいなもんなのだが。
にしても、結構重要な内容だったな。
最後まで目を通しておいて正解だった。
なんか、俺が困ってる神様の弱みにつけこんで商売してたのが、妙に評価されてるっぽいな。
メッセージにも本当に信仰宝珠が添付してあったし。
使う予定が無さすぎて存在を忘れてたけど、そういえば信仰宝珠なんてアイテムもあったんだっけか。
信仰宝珠はアレだ。
交換所に信仰宝珠専用のショップがあって、信仰宝珠を払うことで強力な強化アイテムを買えるってヤツだ。
信仰宝珠自体は、基本的に信仰が一定以上溜まったら定期的に手に入るってアイテムで、俺はまだ手に入れてないが時間が経てばいつかは手に入るアイテムだ。
でも、いま居る英雄はレアリティが低いもんなぁ。
強化アイテムの類は邪神からのドロップでも手に入るんだけど、こういうのって低レアのキャラに使うのは勿体ないから、基本的に全部交換所で売っちゃってるんだよな。
通常の強化アイテムですら売ってるのに、特別な強化アイテムとか、使うわけがないという。
一応、戦場にも出てる☆6のシュナ辺りになら使っても良さそうだけど、強化アイテム使わなきゃ辛いほど戦況も切羽詰まってないしなぁ。
でも、シュナのレベルがマックスになって成長しなくなったら使ってもいいかも知れない。
……まぁ、レベルなんて確認出来ないんだけどね。
っと、信仰宝珠については今はいいんだ。
いつか、☆7以上の戦闘用キャラが出たら使えば良いし。
それより先に、同盟の話だな。
要するに、俺がやってた困った神様の救済ってのを、運営は高く評価してくれていると。
そしてそれを今後も続けるのなら、新しく同盟を組んでからやって欲しいって話らしい。
因みに同盟というのは、ゲームで言うところのギルドやらユニオンやらみたいなプレイヤー同士のチームとかコミュニティとかだ。
ソシャゲだった『神様の箱庭』にもあったシステムで、同盟員同士で英雄の相互派遣やら完全に邪神に支配された世界を共同攻略したりやら、色々と出来るシステムだった。
まぁ、現実となった今だと同盟に加入してるのが本物の神様だから、恐れ多すぎて同盟に入るつもりなんて全くなかったんだが。
まさか、俺が同盟を創るかって話が出てくるとはなぁ。
でも、信仰宝珠も別にそんなに要らないしなぁ……。
かと言って同盟を創らずに神様救済やっちゃうと、運営を無視したみたいでなんか気まずいよな。
これは、どうしたもんだろうかなぁ……。
「あら、ファントム様?食堂では姿を見ませんでしたけど、結局私室で食べてらしたんですの?」
執務室の扉が開いて、ナルキアが部屋に入ってきた。
ふと気付いて時計を見てみると、時間は既に十二時五十分を回っている。
あんの爺さんの長話に付き合ったせいで、昼食を食いそびれてしまった。
メッセージは後回しにして執務時間中にチェックしといても良かったんだが、緊急の内容だったら大変だから先にチェックしたのが仇となったか。
というか、もっと簡潔に書けよな。
運営メッセージなのに世間話してくんなよ。
「いや、少し急な用件があったので、まだ食べていない。」
「急な用件?」
「ああ、神様ネットワークの運営からメッセージが来てな。この間の神様救済を高
く評価してくれたらしく、褒賞として信仰宝珠を送ってくれたんだ。」
「ああ、あの時のことですわね。おめでとうございます。」
「有難う。……それで、今後も救済をしないかという打診と、救済をするなら同盟を創って組織ぐるみでやらないかという話が出たんだ。」
神様ネットワーク関連のことは、基本的に俺が一人で処理しているので、普通なら秘書にその内容を伝えたりはしない。
だって基本的にチャット読んでるだけだから、報告する内容がないし。
情報収集と称してサボってることがバレないためにも、英雄達に神様ネットワークの内容は秘密にしてるのだ。
だが、今回の件は伝えておく必要がある。
もしも今後は同盟を組んで救済を続けるのなら、秘書にも資材計算やらなんやらで手伝ってもらうことがあるかも知れないのだから。
それなら、同盟を創るかを決める前に、秘書達の意見も聞いておきたい。
ほら、アレだよ。
何か問題が起きた時には責任の分担も出来るし。
「同盟って、神様同盟のことです?」
「そうだ。同盟を組んで救済を続けるなら、また信仰宝珠が貰えるかもしれないらしい。まぁ、同盟に誘う神に心当たりはあるから、創ること自体はそう難しくない。だが、創ってしまうと気が向いた時に救済を行うのではなく、常に救済を行うことになりそうだからな。仕事量も増えるだろうし、出来れば秘書達の意見も聞いておきたい。」
同盟を組んで行動するということは、「いつでも救済を受け付けます。」という看板を背負って行動するようなものだ。
つまりは、これまで俺の方から困ってそうな神様を探して話を持ちかけていたのが、困ってる神様の方から話を持ちかけてくるのを待つ形になる。
……なんかそうやって考えると、新しく会社を起こすみたいに思えてきたな。
神様同盟システムの使い方が、神様同士のコミュニティって感じじゃなくて事業のために拠点を設立するって感じになってるし。
そう考えたらなんか、責任が重そう。
胃が痛くなりそうだから止めるか?
でも、今後も手助けついでに小遣い稼ぎはしたいし……。
「そうですわね……私は同盟を創っても問題ないと思いますわよ?ですけど、一応皆さんに聞いてみませんとね。」
「ああ、そうだな。俺は今から私室で昼食を摂るから、他の三人にも伝えて意見を聞いておいてくれ。」
「はい、承りましたわ。」
取り敢えず通達も丸投げしたので、俺は執務室から繋がる私室へと向かう。
あの爺さんの長話のせいで頭も疲れたし、食事ついでにちょっと休憩もしておこうか。
どうせ俺が執務室に居ても、やることと言えば神様ネットワークのチャットをチェックするぐらいだしな。
それも最近ちょっと飽きてきたところだし、こういった形で執務室に居る時間を減らせるのは結構有難くもある。
……そうか。
同盟創って困ってる神様を助けるってことになったなら。
それ自体が、暇潰しになるのか。
それはいいな。
それなら俺も、ちゃんと仕事してることになるし。
今後は働いてる英雄を尻目に、申し訳ない気持ちにならなくっても済むのか。
うん、いいなそれ。
秘書達の意見次第だけど、出来るだけ同盟を立ち上げる方針でいこう。
それに神様を助けてたら、信仰も貯まるしな。
高レアの女性英雄をもっと手に入れるためにも。
黄土色に奇妙な華が混じってる空気をなんとかするためにも。
こういう機会は最大限に利用しないと、だ。
活動報告にてお知らせしましたが、過去の話の一部を修正しました。
話の内容には一切手を加えていないので、既にここまでの話を読んでいる方には特に関わりないかと思います。
第20話と第21話にて、チャット部分の上下囲いを―・―・―・―から------に変更しました。
前の状態だと、場面切り替わりとの区別がつきにくいと思っての修正です。
今後の話でもチャットの場面が出た場合、修正後の------の囲いを使いますのでご了承下さい。




