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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第一部:世界の管理、始めました。
27/59

歓迎の気持ち。


 今日は、休息日の前日。

 シュナの歓迎会が開かれる日である。


 シュナが創造されてから二週間が経っての歓迎会だ。

 本来なら先週の内に歓迎会を開く予定だったのだが、先週はシュナの仕事のローテーションの都合で休み合わなかったので、今週の開催となった。


 前回は初期ガチャ軍人英雄の三人が素晴らしい出し物を披露してくれたし、俺もビンゴ大会を開き、図らずともナルキアを喜ばせる催しを企画出来た。

 今回もまた、英雄達は張り切って歓迎会の出し物を企画したと聞いているので、きっと今回の歓迎会は、前回よりも豪勢なパーティーになることだろう。




 まぁ俺は、どんな内容なのか知らないんだけどね。


 だって、今回は俺はノータッチだし。

 今後も英雄が増えていくことを考えたら、俺が毎回企画に参加するのはちと問題があるらしい。

 何せ、ガチャで何人の英雄を増やしていくのか分からないのだから。


 数十人、数百人と非量産型の英雄をガチャで出してしまうと、その人数分に近い回数の歓迎会を開かなければならない。


 俺以外の英雄なら、全員が毎回企画に参加しなくてもいいんだ。

 歓迎会自体の時間も限られてるのだから、企画に参加出来る英雄の数も限られてくるのだから。

 だがもしも、俺が企画に参加する方針を取るのなら、俺は全ての歓迎会の企画に参加しなければならないらしい。


 だって、神様だもん。

 神様に祝われるって、普通に考えて特別なことだろう?

 祝われた英雄と祝われなかった英雄とで、変なしこりとか妙な格差とかが出来たら困るわけだ。


 そういう理由で、今回から俺は歓迎会の企画に参加しなくてよくなったわけだ。

 ナルキアの時に俺が直々に祝ったのは、企画する英雄の人数が足りなかったので参加したって名目になるとか。


 ちなみにこれは全部、ナルキアに説明された理由付けだ。

 なんか、ナルキアって普段の言動がアレだから天然っぽく思えるが、こういった人間関係の機微っぽいのにも妙に精通してるんだよな。

 それなのになんで、あの言動を止めないのだか。疑問が深まる。




 まぁ、何はともあれ今日は歓迎会だ。

 元居た世界だと土曜日に当たる、休息日の前日である今日は、秘書組と俺は仕事が休みなのだ。

 戦争と巡回に参加している英雄はローテーションで休みを取ることになっているが、今日ならシュナもジョンも休みになっている。

 シュナの歓迎会ではあるのだけれど、ジョンは量産英雄でもまだ一人しか居ない英雄なので、歓迎される側の気分で参加して貰いたいものだ。


 そして午後六時。

 神殿の舞台付き会場にて、シュナの歓迎会が始まった。




 ―・―・―・―




「ファントム様、どうでしたか?私達の催しは。」


「ん?ああ、前回以上に素晴らしい出来だったな。」



 俺の右手側から問いかけてくるのはクロードだ。

 クロードの催しは、前回同様に音楽に合わせてアクションを披露していた。




 の、だが。

 そのクォリティが上がってた。


 どこで調達したのか、ワイヤーで身体を吊ってワイヤーアクションとかやっていたのだ。

 危険極まりないアクロバティックなアクションは、見てるだけで冷や冷やした。

 しかし、そこは流石に英雄と言ったところか。

 総勢十名以上のクロードが繰り広げるアクション激は、壇上全てをフルに使った素晴らしい物だった。


 英雄だから、身体能力が人とは桁違いなんだろうけどさ。

 やっぱり、動きがちょいちょい人間業じゃないんだよね。

 もしかしてCGでも使ってんじゃないか?と疑うレベルだったよ。



「ふふっ、クロード中尉も中々に素晴らしい演目でしたが、私達の方が素晴らしかったと思いますよ?」



 そう言うエーリッヒは、俺の左手側でドヤ顔だ。

 まぁ、ドヤ顔するだけの代物ではあったのだが、真横でイケメンにドヤ顔されるとイラッとくる。




 エーリッヒが披露したのは、まさかの砂絵だった。

 舞台の真ん中に立てかけられた、巨大なキャンパス。

 その表面には粘着質の何かが塗ってあり、そこに砂を掛けてキャンパスに砂が張り付かせることで絵を描くのだ。

 しかも、ただ砂を撒いて描くのではない。

 舞台の上でやるだけあって、エーリッヒ自身が舞うように動きながら、叩きつけたり空に撒いたりして絵を完成させるのだ。


 そのクォリティがまた、頭がおかしかった。

 静かな音楽と共に、キャンパスに薄っすらと空色の砂を撒いて、雲が多く靄の掛かった空を描いたかと思えば。

 今度は勇猛な音楽が鳴り始め、キャンパスの下半分に雄大な山脈を描き始めた。

 そして最後はまた静かなメロディに戻り、薄っすら水色だった空を黒く染めていき、夜空と山脈という構図に切り替わる。

 最初に撒いた空色が、ちょうどミルキーウェイの星々のように僅かに残っていて、それがまた神秘的だった。

 そして最後の最後に白い砂を夜空にたたきつけて、白い満月を作って終了だ。

 満月から白い光が零れているようで、この世の物とは思えない美しい風景画がそこに出来上がっていた。


 ……エーリッヒは、芸術方面での才能が凄いな、おい。

 前回の氷像といい、なんか隠し芸のレベルを超えてるんだが。

 あと、クロードと違って軍人らしくねぇな。

 まぁ、前に見た好感度イベントでも、本人は軍人になりたくなかったって言ってたけども。



「クロード中尉、エーリッヒ中尉。私の演劇がお二人の後だったのが申し訳ないです。私の演劇の前では、二人の催しも霞んでしまったでしょうから。」



 そう言ったのは高柳君だ。

 普段と違った挑発的な口調で、クロードの隣である俺の右側に居る高柳君は、その言葉通りに他の演目を霞ませるような演技を見せてくれた。




 高柳君は前回同様、オール高柳君プレゼンツによる演劇を見せてくれたのだ。

 しかし、前回は普通に演劇だったのに、今回はまさかのオペラである。


 変幻自在の声色で、老若男女を問わずセリフを歌い上げる。

 ストーリーもまた悲恋なのだが、今回は中世の貴族を題材にしたものだった。


 何より素晴らしいのが、舞台効果だったと思う。

 俺の元居た世界のような、派手なスポットライトやら映像投影機なんてないのに、大道具と小道具、それに巧みなスポットライトや音楽演出が、見ている者を舞台の世界へと没頭させるのだ。


 俺は映像作品とかに見慣れてるから多少余裕があったのだが、テレビやらなんやらの技術が発展していないこの世界では、これだけの演出を見せられたら思わず見入ってしまうだろう。


 ホント、高柳君ってどこでも生きてけそうなぐらい多才だな。

 多才って言葉で済ませられない段階な気もするが。



「まぁ、我々は競い合ってるわけじゃないからな。ファントム様に楽しんで頂ければそれが最良だ。」


「そうですね。私もファントム様の癒やしになればと、今日まで砂絵の技術を磨きましたので。」


「確かにそうでしたね、失礼しました。それでファントム様、いかがだったでしょうか?」



 クロード、エーリッヒ、高柳君がそう言って、俺の方を見てくる。


 確かに、この世界に来てから娯楽らしい娯楽が少なかったので、今日の催し物は楽しめた。


 だがなぁ、お前ら……。



「確かに俺も楽しませてもらった。だが、今回はシュナとジョンの歓迎会だろう?感想を聞くなら、俺より先にその二人だろう?」



 呆れたようにそう言うと、三人は忘れてたと言わんばかりに驚いて、顔を見合わせていた。


 最近俺に優しくしてくれるのは嬉しいんだが、俺ばかり構われても困るんだよなぁ。

 ゲームだった頃ならキャラである英雄同士の掛け合いなんかはなかったが、現実では英雄同士の人間関係もあるんだから。

 俺はまぁ、ほどほどで良いから。

 出来れば英雄同士で仲が拗れるようなことは、勘弁して欲しい。





「ファントム様。お邪魔しても宜しいですかな?」



 俺と軍人秘書三人が立つテーブルに、ジョンがシュナを連れてやってきた。

 この歓迎パーティーは立食形式なので、あるていど人がテーブル間の行き来することが出来るようになっている。

 と言ってもまぁ、俺とナルキアとシュナとジョン以外は全部クロードとエーリッヒと高柳君なので、端から見てたら誰がどこに移動したのかなんて全く分からんのだが。


 因みにジョンとシュナは歓迎会が始まってすぐ俺のテーブルに挨拶に来ている。

 それ以降は、主賓二人のためのテーブルで演目を楽しんでいたはずだ。


 ジョンは正装ということで軍服を身に纏い、シュナは特注で作った青いドレスを身にまとっている。

 パッと見た感じ、二人が並んでると"美女と野獣"という言葉が似合いそうな絵面だ。

 だって、ジョンのライオンヘアーとゴツイ体格が、どう見たって野獣だし。



「ジョンとシュナか、良いところに来た。今ちょうど、二人の感想を聞きたいと話してたところだったんだ。」


「素晴らしい、としか言いようがないですな。今後は私も披露する側に回るのだと考えると、どうしようか困ってしまうぐらいです。」



 ジョンが苦笑いしながらそう応える。

 そうか、ジョンは今後は量産英雄として歓迎側に回るんだっけか。

 それはそれは、大変だなぁ。

 俺はもう、この三人の催し物と並べられる何かを用意出来る気がしない。


 ってか、前回と比較しても相当レベルが上がってるのだ。

 回数を重ねていったら、どこまでレベルが上がるのだか。


 俺が参加しないで済むというのは本気で有り難いな、うん。

 参加しないで。と言ってくれた、ナルキア様々である。



「ははは。それは大変だな、ジョン。まぁ、ジョンには勘が良いという特技があるんだ。それを活かせば、三人に見劣りしない何かが出来るはずさ。」


「勘、ですか……ええ、まぁ。何か考えておきます。」



 急に反応が鈍くなった。

 ジョンらしくないな。どうしたんだろうか?


 それはともかく、シュナはどうなんだろうか。

 さっきからシュナは、どこか虚ろな感じで、目の焦点が合ってない気がする。



「それで、シュナの方はどうだ?楽しめたか?」


「……。」


「……シュナ?」


「え?あ、はい。なんでしょう?」



 俺の声が聞こえてなかったみたいな反応だな。

 一体どうしたんだ?



「体調でも悪いのか?それなら、少し休んでもらっても構わないが……。」


「あ、いえ。大丈夫です。」


「そうか?なら良いんだが……無理はするなよ?」



 なんか、変だな。


 心ここにあらずというか。

 何か別のことを考えてるような。

 だが、シュナがそうなるようなことって何かあったっけか?



「さぁ、お待たせいたしました!これより、ナルキア嬢による演目を始めたいと思います!」



 そう思っていたら、司会進行のエーリッヒの大声が会場に響き渡る。


 そうだ。今回は初期ガチャ量産英雄三人衆だけではなく、ナルキアも演目を披露してくれるのだ。

 妙にノリノリな司会のエーリッヒの声を聞きながら、俺達は初めて見るナルキアの催しに、注目することになった。




 ―・―・―・―




 舞台の幕が上がると、舞台上には異様な光景が広がっていた。


 舞台中央に立つナルキアは、普段のドレス姿だ。

 それはまだいい。


 そのナルキアの周囲に、淡い光が漂っているのだ。

 赤、青、黄色、緑、紫、白。

 色とりどりの光が、まるで虹色のように、ナルキアの周囲を彩っている。



「皆様。これよりお見せするのは、『英雄』としての私の姿です。今回はファントム様のご協力を得て、このために資材の用意をして頂きました。」



 『英雄』としての姿。

 それは、英雄が本来の力を発揮するために、資材を消費した時の状態ということだ。


 英雄は資材の消費がなくても、普通の人間とは比べ物にならない力を持っている。

 だが、英雄とは本来、資材を消費することで力を大きく向上させて戦う存在だ。


 ナルキアは秘書なので、今まで前線で英雄として戦うことがなかった。

 レアリティが☆6の英雄なので資材消費の桁が他の英雄とは違い、そう安々と前線で戦わせられないという事情もある。


 にしても、俺の協力を得て資材を用意した、だって?

 そう言えば、何かに使うから食料資材を追加してほしいって言われて、普通に倉庫で資材を出した気がするが……。

 まさか、歓迎会で使うための資材だったとは、思いもしなかった。



「それでは。麗しき私による、この世界には存在しない、魔導を用いた催しを披露いたします。」



 そう言ってナルキアが、ドレスの端を摘みながら優雅に礼をする。

 すると、ナルキアの身体が徐々に舞台の上空へと浮かび上がり始めた。



「それでは、炎と水のコンチェルトを。」



 ナルキアの周囲の光から、赤と青の色が消える。

 そして舞台上が炎に包まれ、炎が蛇のようにうねりながら、舞台の上を踊り狂い始めた。

 続いて炎の動きが止んだところに、舞台上に燃え広がった炎を鎮めるように雨が降り注ぐ。

 そこで曲が流れだし、ナルキアは宙に浮かびながらも踊りを舞い始めた。


 炎は、ナルキアを飲み込むように舞台上で暴れる。

 それに合わせるように、激しく踊りを舞うナルキア。


 雨は重力に逆らって自在に動き、渦のような流れを作る。

 その流れに身を投じつつ、ナルキアは渦の流れに沿うように舞い続ける。


 炎の動きと水の動きが、交互に織り成される。

 激しい音楽と共に、猛る炎がナルキアと共に舞台を駆け巡り、一転して穏やかな音楽と共に渦巻く雨粒が、ナルキアと共に静かに舞い踊る。


 そして、ラストスパートに近づいたのか、炎と水が同時に激しく動きだす。


 炎がナルキアを追い、水がナルキアを包む。

 ナルキアの動きを追っていた炎は、ナルキアを取り巻く水の渦へと徐々に飲み込まれていった。

 そして雨の流れは渦から竜巻へと変わり、炎を巻き込むことで水と炎の竜巻という不思議な現象に変わっていった。


 気が付けば、渦の流れに沿うのを止めて、竜巻の中央で舞うナルキア。

 ナルキアはいつの間にか、火と水の中心で、それらを魅了する踊り子のように舞っていた。


 そして最後に、火と水の竜巻が弾ける。

 一気に水蒸気が舞台上を覆い隠し、ナルキアの姿が見えなくなった。


 その水蒸気がまた渦となり、舞台の中央に吸い寄せられていく。

 徐々に霧の中からナルキアの姿が現れ、ナルキアに全ての水蒸気が吸い込まれたとき、ナルキアの周りに輝いていた光の中に、赤と青の二色が戻っていた。



「これが、私の世界の魔導でございます。皆様、幻想の世界をお楽しみ頂けましたでしょうか?」



 音楽が止み、ナルキアが終わりの言葉を告げる。

 微笑みながらこちらに問いかける彼女は、活発そうな少女の姿なのに、慎ましやかな淑女にしか見えない。



「これにて、私の演目は終わりです。短い催しでしたが、楽しんで頂けたなら幸いです。」



 最後にまた、ドレスを摘んで一礼するナルキア。

 壇上を幕が完全に覆い隠すまで、ナルキアは一礼したまま動かなかった。


 気付けば、会場に拍手が鳴り響いていた。

 俺もそれに合わせ、拍手を送る。

 誰も声は上げない。

 ただ盛大な拍手を持って、彼女の演目に賞賛を送り続ける。


 舞台の幕が完全に降りきってからも、暫くの間拍手が止まることはなかった。




 ―・―・―・―




「あれが、魔法……いや、魔導か。」



 拍手が終わり、誰もが余韻に浸っている中で、俺は呟いた。


 今まで見たことがなかった、ナルキアの魔導。

 英雄の魂を『開示』した時に、職が魔道士だったので魔法のような力が使えるのは知っていた。

 俺が元居た世界でも、CGやアニメーションで魔法のエフェクトなんかは何度も見てきていた。

 ナルキアの魔法も、きっとそんな感じだろうと思っていた。




 だが、あれは格が違った。


 炎と水が混じり合う。

 普通ならありえない現象に、その中央で舞うナルキア。

 最後に弾けて水蒸気となったが、それが全てナルキアの身体へと吸い込まれていった。

 まさに本物の炎と水を、完全に操ってみせていたのだ。


 あれがナルキアの世界では、どの程度のレベルの技術なのかは分からない。

 だが、魔導の力は俺の想像の範疇外の力だった。

 神様ネットワークでも、自分の知らない力を理解出来ないと言っていた神々が居たが、俺も正に今、その通りだと思った。


 あれは、俺には理解ができない。



「綺麗でしたが……同時に、恐ろしくも感じますね。」


 

 そう溢したのはジョンだ。

 その目には、いつもの穏やかさはない。

 軍人の顔で、閉じられた舞台を見つめていた。



「まぁ、ナルキアは☆6英雄だしな。味方なのだから怖がることはないさ。」



 ジョンは☆4レアの英雄だ。

 戦場でのジョンの戦い振りも見たことがあるが、その姿もかなり衝撃を受けた。


 戦車大隊を具現化して、一斉に火砲を放つのだ。

 英雄の力で強化された火砲は、あっと言う間に魔物を吹き飛ばしていく。

 姿が見えない森の奥に居る魔物が居ても、その勘によって正確に砲撃を命中させていくのだ。

 その姿も、俺からすれば十分以上に恐ろしい。


 そんなジョンでも、ナルキアの魔導に恐ろしさを感じたのだ。

 壇上という限られた空間ですら、恐怖を感じるような魔導。

 それが戦場で遺憾なく発揮されたならば。

 一体、どれほどの威力を見せてくれるのだろうか。




 まぁ、ナルキアを戦場に出せる資材がないんですけどね。



「☆6英雄といえば、シュナもそうだな。」



 そう。

 シュナも、☆6レアの英雄なのだ。

 ナルキアのように魔導は使わないのだが、高速移動による高機動戦闘と、槍に光を纏わせる光の槍は、考えてみれば恐ろしい力だ。

 本気を出せば戦闘機並の速度で、精密な空中機動を行えるのだから。

 的の小さい人間大の英雄が高速で空を舞う姿は、戦う相手からすれば恐怖の対象にしか見えないだろう。


 そんなシュナは、ナルキアの魔導を見て、どんな感想を抱いたのだろうか?

 そう思い、オレはシュナの方を見た。




「……クー……。」



 ……。


 ……シュナ。




 お前、寝てんのか。




「……。」


「……。」



 寝ているシュナに、言葉が出ない。

 俺の言葉で一緒にシュナの方を見たジョンも、言葉を失ったようだ。


 そういえばと思い、会場に設置された時計を見てみる。

 時刻は二十二時半。

 シュナは夜に十一時間は寝ると言っていたので、この時間でもすでに夜更かしに近い状態だったのだろう。


 ナルキアの演目が始まる前に虚ろな感じだったのは、単に眠かっただけなのだ。


 なんだ、この。

 この……。



「……シュナ、起きろ。」


「んガッ……ぅー……。」



 立ったまま器用に寝てるシュナを小突くと、変な声を出した。

 もうダメだな、こいつ。


 とは言え、シュナは今回の歓迎会の主賓だ。

 あまり乱暴に扱うわけにもいかないだろう。

 もう出し物も全て終わったことだし、このまま部屋に送って眠らせてあげてもいいのかも知れない。


 ……のだが。

 女性用宿舎に送ってやりたい気持ちはあるのだが、流石に男の軍人連中にそれを任せるわけにはいかない。

 軍人英雄がシュナに何かするとは思えないが、男に部屋を見られたくないという気持ちが彼女にもあるのだろうから。

 ……あるよな?


 ……かと言って、女性であるナルキアに任せるのも問題がある。

 何せこのズボラ乙女は、ナルキアの演目中に寝てやがったのだ。

 ナルキアにそのことを知らせるのは、ちょっと勇気が要る。

 教えると、いつものようにナルキアがシュナに説教を始めそうだからだ。


 本当に、このズボラ乙女は……このっ。

 立ちながら寝るとか、流石にないだろ……このっ。



「……どうする?」


「どうする、と言われましても……。」



 いつもは頼りになる秘書のクロードに聞いてみても、この調子である。


 ジョンは、幕が降りた舞台の方を見つめたまま目をこちらに向けないし、エーリッヒはいつの間にか別の席で他の英雄と談笑してやがる。

 高柳君は……ちょっとオドオドしてるので、押し付けようと思えば押し付けられるだろうが、流石に高柳君に押し付けるのは気が引けるよなぁ。



「皆様、私の華麗な舞いは楽しんで頂けましたか?」



 どうしようか戸惑っていると、ナルキアが俺達のテーブルへとやってきた。



「……あら?シュナさんは……。」



 当然、シュナが寝ていることにも気付く。

 だって、頭が完全に船漕いでるし。



「……ナルキア。すまないが、シュナはこの時間まで起きてるのが辛かったようでな。その、なんだ。」


「まぁ、シュナさんのことですからそろそろ寝てるんじゃないかとは思っていましたわ。それより皆さん、私の演目はどうでしたかしら?火と水の精霊に囲まれる美麗な踊り子の姿に惑わされてしまった方は居ませんこと?駄目ですわよ?私に惚れてしまっても、私は私だけの物なのですから、気持ちに応えられませんわ。」



 ……って、気にしないのかよ!


 なんだよ。怒るのかと思って、物凄く微妙な空気が流れたのに。



「……あー、シュナには怒っていないのか?」


「あら?私はそんなに心が狭くありませんわよ?夜更かしはお肌に悪いですし、シュナさんが寝てしまう気持ちも分かりますもの。」



 肌の問題なのだろうか。

 とにかく、ナルキアは怒ってないようだな。



「それじゃあすまないが、歓迎会が終わったあとに、シュナを部屋まで送ってやってくれないか?」


「分かりましたわ。それより、私の演目はどうでしたの?」



 なんか、気を使ってたのが馬鹿らしくなるような反応だ。

 ナルキアは本当に、どういう思考ルーチンで動いてるのかが分からん。


 ナルキアを創造してから一ヶ月半が経って、未だにナルキアの好感度イベントは起きていない。

 ナルシストなのは分かっているのだが、だからと言って他の人を粗雑に扱うわけでもなく、美人な同性に対して嫌悪があるわけでもない。


 ナルキアは一体、何を考えているのか。

 俺にはそれが、さっぱり分からなくなっていた。



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