表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第一部:世界の管理、始めました。
26/59

英雄サイド ー ジョン:私の勘に……間違いは、ない。


 私の名前はジョン。現在、神殿警備を主任務としている英雄である。




 若い頃の私は、平凡な人間だった。

 ランクを付けるのなら、中の上。

 人並み以上ではあるが、人並みの域を出ない。

 そんな平凡な私でも、邪神の侵攻で人材不足だったのが幸いして、運良く士官になることが出来た。

 もっと古い時代なら、私みたいに平凡な人材は士官になれなかっただろう。


 そして戦場で、大きな怪我をした。

 魔物に頭を殴られ、頭蓋骨に穴が開いてしまったのだ。

 生きていたのが奇跡に等しい。そう医者に言われるぐらいの大怪我だった。


 だが、それが私の転機だったらしい。

 普通なら、そのまま障害を負って傷病兵として軍人を辞めていたのだろうが、なぜか私は後遺症が全くなかった。

 それだけでなく、私は一つの才能に目覚めてしまったのだ。


 『天性の勘』


 英雄となってスキルになったそれは、その怪我で手に入れた不思議な能力が元になっている。

 あの怪我以来私は、不思議なほどに勘が鋭くなったのだ。


 分かるのだ。

 誰が、何処に居るのかが。

 良いこと悪いことが、起こりそうなのが。


 何故そうなるのかが分からなくっても、何故か私にはそれが分かるのだ。




 その能力を活かして、私は戦場で活躍した。

 その結果、私は軍に見出されて昇級を重ね、少佐まで登りつめたのだ。


 そして、頭の怪我が原因の病気で死ぬまで、火力のある戦車部隊を率いて戦い続けたのだ。




 ―・―・―・―




 神殿の廊下を、私は歩き続ける。

 周囲を警戒するでもなく、ただ散歩しているように歩く。

 それが、いまの私の仕事だ。


 神殿の警備は少数の軍人英雄と、多数の人間の軍人が行っている。

 そもそも神殿内部まで邪神の手先が入り込むなんてほぼ無いのだが、それでも神殿には厳重な警備体制が敷かれている。

 少なくとも、ファントム様がやってきてから神殿内に邪神の手先が神殿に来たことなんて一度もないらしいが、それでも警備の手を緩めることは出来ないので、多くの人員を投入して警備を行っているとか。


 そんな警備組織の中でも、私の立ち位置はちょっと変わったものだ。

 特定の巡回ルートを設定されていないし、警備時間も朝でも夜でも自分で好きに決めていい。

 普通では有り得ないことなのだが、それが私となるとちょっと事情が変わってくる。

 私は、大体いつどこで問題が起きるのかが、分かるのだから。


 夜に何か起きそうな気がしたら、昼は寝て夜に巡回する。

 すると、ちょうど不埒な泥棒を見つけて取り押さえることが出来た。

 どこかで何かが起きそうな気がしたら、食事中だろうとその現場に駆けつける。

 すると、巡回の人間軍人が病気で倒れる瞬間に立ち会った。


 そういったことを何度か繰り返していたら、こんな特殊な配置に就くことになっていたのだ。


 本当は、何かが起きそうなら勘で大体分かるので、こうして歩いて警備しなくても、待機しているだけでもいい。

 だけど、何もしていないように見えるのも困るので、こうして意味もなく歩いて巡回するフリをしている。




 いつも通りフラフラと歩いていると、急に首筋に違和感を感じた。


 これは、何かが起きる時の予兆だ。

 良くないことが起きる時には、決まって首筋がゾクッとするのだ。


 私は周囲を見回す。

 そこは神殿の廊下で、一般人の立入が禁止されている区画だ。

 礼拝堂などは一般人にも開放されているが、神殿の奥には行政機関や神様の住まいなどの重要施設があるので、立入禁止区画が存在している。


 見慣れた神殿の廊下を見る。

 別に、廊下自体を見るのが目的じゃない。

 悪い予感がどの方角で起きそうなのかを、探っているのだ。


 そして、今歩いてきた道の先。一般開放区画と立入禁止区画の間の方で何かを感じた。

 どうやら、許可のない誰かが立入禁止区画に入ろうとしているらしい。


 区画の境目には警備の人間軍人が居るので、強行突破を試みない限り入ってくることはないはずなのだが……。

 私の勘が悪い予感を示したのなら、それでもきっと、何かが起きるのだろう。


 私は急いで来た道を戻り、現場へと駆けつけた。




 驚いた。

 警備の兵が突破された気がしたので、侵入者と出くわすような道を通ってきたのだが。

 そこに居た侵入者が、予想と違う人物だったので驚いてしまった。


 女の子だ。

 まだ小さい女の子が、立入禁止区画に入って来ていたのだ。


 まだ幼い女の子が、私の姿を見て恐怖の顔を浮かべる。

 私の横を通り抜けたいみたいだが、私は見た目が恐いので及び腰になっているのだろう。



「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」



 私は微笑んで、女の子に声をかける。

 私だって、自分の見た目が恐いことぐらいはよく知っている。

 だから、子どもに恐がられないような喋り方だって身につけてある。



「……。」



 それでも女の子は、私に怯えているようだ。

 私はしゃがんで目線の高さを合わせ、できるだけ体が小さく見えるように、足を閉じて手を内側に収めながら、笑顔で言葉を続けた。



「こんなところに来たら、お母さんが心配するよ?」



 優しい声のまま、私は女の子に話しかける。



「大丈夫、ライオンのおじちゃんは怒らないから。だって、おじちゃんは神様に仕える良い英雄だからね。」


「……えいゆう?うそっ!おじさんなんて見たことないよ!」



 そうか。市民にとって英雄と言えば、街を巡回している英雄達だ。

 それは高柳君、エーリッヒ君、クロード君の三人であって、まだ一人しか創造されていなくて、街の巡回にも出たことのない私は、市民に知られていない英雄なのだ。

 だから、英雄だと言っても信じてもらえないのだろう。



「本当だよ?おじちゃんはまだ一人しか居ないから街には出てないけど、これからはおじちゃんも街を守る英雄の一人になるんだ。」


「……ほんと?」


「ほんとうさ。だって、おじちゃんはファントム様とお話しをしたことだってあるんだからね。」



 少しずつ警戒を解いていってる間に、女の子の向こう側から慌ただしい足音が響いてきた。

 きっと、何かの事情で出遅れた警備の軍人がやってきたのだろう。



「……居たっ、居たぞ!」


「本当か!……って、ジョン少佐!?」



 新たに現れた警備軍人二人が、私の姿を見て驚く。

 女の子も軍人二人に気付いたようで、挟まれた状態でどちらに逃げるか迷っているようだ。



「警備の二人はそこで待機ね。この子が怖がるから。」


「は、はい。ジョン少佐。」



 そう告げると二人は戸惑っていたが、こちらから少し離れて様子を伺い始めた。



「それで、どうしてここに入ってきたんだい?」



 まだ少し怖がってるみたいだけど、少しは安心したようだ。

 警備軍人の二人が私に敬礼するのを見て、私が英雄だということも信じてくれたのだろう。

 女の子は、立入禁止区画に入ってきた理由を教えてくれた。



「おじさん!あの、わたし、神様とお話しがしたいの!」


「ファントム様と?」



 どうやら女の子は、ファントム様と話がしてくてここまで入ってきたらしい。


 ファントム様に、暮らしが良くなったお礼を言いたいのか?

 そう思ったが、勘がそれを否定する。

 それに女の子の様子を見た感じからすると、もっと何か急いでいる気がする。



「アンリ!」



 警備軍人二人の背後から、軍人に連れられて一人の女性がやってきた。

 女性は女の子の元に駆け寄って抱き上げると、私に向けて頭を下げる。



「どうもすみません!娘が失礼なことをして。どうか、娘を許してやってください。」



 必死の形相で謝罪する女性。

 多分、この女の子の母親なんだろう。



「いえ、大事には至ってませんから。それより、場所を変えて詳しい話をお聞かせ願えませんか?」



 私の勘が囁く。

 彼女達の話を聞いた方がいいと。


 普通なら、こういったことに深く首を突っ込むのは避けるべきだ。

 だけど、私の勘がそういうのなら。

 きっと今は、そうするだけの価値があるのだろう。


 私は親子を連れて礼拝堂へと戻り、そこで少し話をすることにした。




 ―・―・―・―




「娘さんの、病状が思わしくないと……。」


「ええ。それでこの子は、ファントム様に姉を治してもらおうと思ったみたいなんです。」



 母親である彼女には、二人の娘が居るらしい。

 一人は立入禁止区画に入ってきた女の子。

 もう一人が、歳の離れたお姉さんだ。

 そのお姉さんが病に臥せってしまい、どうやら先が長くないらしいのだ。



「休息日の奇跡治療には、申請したんですか?」



 ファントム様は、毎週休息日に奇跡の実演を行っている。

 礼拝堂に病人を集め、病人を奇跡にて治療して下さるのだ。



「その、申請はしてあるんですが、それまでもつかどうか……。」



 次の休息日まではあと四日もある。

 その四日の間に死んでしまうかも知れない。

 そういうことなのだろう。



「だからその子は、ファントム様に直接お願いしようとしておたのですね。」


「本当にすみません。きっと、そうなんだと思います。」



 女の子が立入禁止区画に入ってきたのは、ファントム様に直接治療をお願いするためだったみたいだ。

 その子からすれば、病気のお姉さんを治すためには、そうするしかないと思ったのだろう。


 ここでまた、私の勘が告げてきた。

 彼女たちの家に行って……。



「ファントム様!?」



 突然あがった声に驚き、そちらを見る。

 すると、普段は礼拝堂にいらっしゃるはずがない、ファントム様の姿がそこにはあった。




 ―・―・―・―




 やべぇ、どうしよう。

 いま俺は、これ以上なく心臓がドキドキしている。


 立入禁止区画内からこっそりジョンの様子を伺おうかと思ったら、近寄っただけで警備の軍人達に名前を呼ばれてしまったのだ。

 そのせいで、ジョンがこっちに注目してる。


 いやね。

 好感度イベントを見てたらですね。

 どうにも、俺が呼ばれそうな展開だなーって思ったわけですよ。


 でね?

 なんだったら、呼びに来たジョンのすぐ傍で急に登場したら、驚かせることが出来るかなーとか思ってね。

 それで、直接様子を見ようかと、ここまで来てたってわけですよ。


 でもさ。

 俺の名前が呼ばれてジョンがこっちを見る直前に、なんか俺を呼ばずに病気の女性の家にジョンが行くって展開になりそうな感じだったね。


 なのに俺が登場って。


 もしかして、イベントの進行が狂っちゃったんじゃないかなー?


 ……だって。

 俺にジョンが気づいた瞬間に、イベントの画面が消えちゃったし。

 さっきまで頭の中に聞こえてた、モノローグ風の声も聞こえなくなったし。


 これってもしかして……。

 俺が介入したせいで、イベントが終わっちゃった?


 やべぇよこれ。

 どうすればいいんだよ。



「ファ、ファントム様?どうしてここに……。」



 バレたものは仕方ないと、礼拝堂から見えるように姿を現したら、礼拝堂に居た人全員が一斉に跪いて頭を垂れる。

 ジョンも、驚愕の顔でこちらを見ながら問いかけてくる。


 どうしてって、好感度イベントでジョンの様子を見てたから……。


 なんて言えるか!

 好感度イベントってどう考えても覗き見システムだぞ!?

 「ジョンの日常を覗いてました。」なんて言ったら好感度爆下げ確定じゃねぇか!

 ジョンは話し上手で話してて楽しいから、嫌われたくないんだよ!



「いや、少し近くを通ってな。」



 俺はどう言い訳しようか悩んだ結果、無難に近くを通ったと言ってしまった。

 ぶっちゃけ礼拝堂の近くなんて、演説の時以外に来たことなんてないんだけど。

 我ながら下手くそな言い訳だ。


 って言っても、他にどう言えっつーんだよ!



「っ!……ファントム様、お願いしたいことが有ります。」



 突然、ジョンが膝を付いてお願いしてきた。


 あー、あれか。

 病気の子を治してくれって言うのかね?


 でも、即答でオッケー出すと怪しまれるよなぁ。

 なんで事情を知ってるの?って。

 好感度イベントで覗……状況を理解出来るのは、絶対に隠しておきたいし。



「どうした?」


「この女性の娘が、いま病に臥せっております。次の休息日には間に合わないようでして、誠に恐縮なのですが、ファントム様に治療をお願い出来ないかと。」



 やっぱり、治療のお願いか。

 それは予想出来てたし、わざと少し沈黙して考える様子を見せてからオッケーしようかな。




 と、思っていたら。

 急に辺りがざわめき始めた。


 俺が登場して静かだった礼拝堂では、ジョンの声はよく響いていた。

 それこそ、その場に居る全員に聞こえるぐらいに。


 ……これって、ヤバくないか?


 もしもここで安々とオッケーしたら、俺が出張治療もやるって話が広まって、俺が外に駆り出されることが増えたりするんじゃね?

 それだけならまだ良いんだけど、もしも最悪、間に合わなくて助からない人が増えたら、俺が恨まれたりしないか?


 いや、そもそもがだ。

 奇跡で治療をしてる時点で、この母娘みたいに間に合わずに死んだ人の家族は、俺のことを恨み始めてるかもしれない。

 そんな理不尽な!と思いはするが、まぁ俺が逆の立場だったとしたら、やっぱりちょっと恨みそうだし。


 これってシステム的な欠陥じゃね?

 特に、信仰を得ないといけない神様にとって、民衆の信頼が下がるのは大問題だし。



「……申し訳ありません、ファントム様。勝手なことを言ってしまいました。」



 俺が沈黙してたのを見て駄目だと思ったのか、ジョンが謝ってきた。


 いや、ちょっと待ってくれよ。

 考えがまとまらないだけなんだよ。



「ジョン、待て。」


「ハッ。」



 俺が待てと言うと、ジョンが頭を深く下げる。

 なんか、犬に待てって言ってるみたいだな。

 ジョンはライオンだからネコ科だけど。


 いや違う、そうじゃない。

 どうすればいいのかを考えるんだ。


 民衆に恨まれないようにしながら、この場でなんとか治療オッケーになるような言い訳を考えるんだ。


 ……あんまり俺を舐めんなよ?

 俺はこっちの世界に来てから仕事はろくにしてないが、こういう時の言い訳だけは上手くなってきてるんだ。

 この程度の修羅場なんざ、少し時間があれば乗り越えてみせるさ!


 ……褒められないし、逆に舐められそうな話だな、これ。


 とにかく考えよう。

 この場でオッケーをすぐに出すのは駄目だ。

 民衆に対して威厳を保つのに、奇跡は安売りするわけにはいかない。


 奇跡の行使には信仰を必要とするのだ。

 そんなに多く使うわけじゃないが、誰でも彼でも治していたら、信仰収入が減ってしまう。

 それに、たまに奇跡を使うから神秘性を演出出来るのだ。

 そう安々と使ってしまうと、奇跡を行使して得られる信仰が減ってしまいそうな気がする。


 つまりはアレだ。

 出来るだけ、奇跡は軽々使っていいものじゃないってイメージを付けないとだ。


 なら、何か条件を付けるか?

 とは言ってもなぁ……この母娘に何かしてもらうなんて、出来ないしなぁ……。

 もしかしたら金持ちの家で、条件次第で色々と何か貰えたりするのかもしれないけど、お金なんて神様になってから一度も見てないし。

 欲しいのは金じゃなくて、信仰なんだよなぁ……。


 あっ。

 そうだ。



「良いだろう、治療はしよう。ただし、条件がある。」



 俺の言葉に、誰も反応しない。

 礼拝堂の人々は跪いたままだし、ジョンも返事すらしないで、言葉の続きを待っている。


 うん。

 凄く喋りづらい。



「娘が治ったあと、その娘は毎日礼拝堂に来て祈るように。私にではなく、世界を救うためにだ。」


「……世界を救うため、ですか?」



 ジョンが問い返してくる。

 そうそう、やっぱり相槌がないと話しづらいよね。

 沈黙してる中喋ってると独り言っぽいし、場所が場所だけに演説の時を思い出して胃が痛くなるんだよ。



「そうだ。その娘はきっと、私に感謝するだろう。だが、私のために祈るのではない。世界を救うために祈るのだ。」


「それは……ファントム様に祈るのと何が違うのでしょうか?」



 うん、まぁ、結局俺に信仰を捧げてるんだしね。

 俺も言ってて半分ぐらい分かってないんだけど、なんとなく雰囲気で誤魔化していきたい。


 話の持って行き方的にはアレだ。

 奇跡の報酬として信仰を得られるようにしたい。

 でも、俺に祈らせるってのは恩着せがましい気がする。

 なので、だいぶ前に演説で言った言葉を思い出して、俺じゃなくて世界のために祈れって感じに話を持っていきたい。


 これなら条件も付けてるし、安売りにはならないかな?

 しかも俺のためじゃないってのが何か良い人っぽいし、評価上がりそうな感じ。


 それは良いんだけど、なんで俺に祈っちゃいけないかって理由を言わないと、ちゃんと納得してもらえないよなぁ。


 そんなん、なんて言えばいいんだよ。

 もうアレだな、アドリブで頑張るしかないな。



「私は、私に祈って欲しくて治療をしているわけではない。……全ては、この世界に住む全ての人々のために治療しているのだ。私が居る限り、世界には必ず平和が齎されるだろう。しかし、その後は人の手で、その先を歩んでいかねばならん。」



 言っててなんかよく分からなくなってきた。

 取り敢えず、思いつく限りでアドリブで喋ってるんだけど、別に変なことは言ってないよな?



「この世界は広い。そして、人の数は少ない。邪神の手先を駆逐したあとには、人はまた、人の手で立ち上がらねばならない。」



 ……あれ?

 なんか話がズレてね?


 えっと……ああ、アレだ。

 俺の為に祈るんじゃなくって、世界の為に祈るって条件を付ける理由だったな。

 どうやって話を繋げようか。


 よし、こうしよう。



「……私を信じ、祈ってくれることは嬉しい。だが、私に頼り切ってはならない。人は自らの手で先へ進まなければならない。だからこそ、世界を救う為に祈ることで、自らが祈ることで世界に貢献しているのだという自覚を持って欲しいのだ。」



 よし、繋がった。


 いい感じだな、うん。

 これって、演説で言っても良かったんじゃね?

 むしろ、演説のネタが一つ減った気がする。

 なんか損した気分だ。


 いや、待て待て待て!

 これは俺に祈るんじゃないって説明にしかなってないぞ!?

 そうじゃなくて、今回治療するのは特別で、いつもはそうじゃないって部分も説明しとかないと!



「だから、その娘には模範となってもらう。私の治療を受けながらも、私にではなく世界の為に祈る。それを実行してみせる模範とな。」



 これでどうだ?

 これなら、今回はモデルケースなので、誰でも治すわけじゃないですよーってなるかな?


 というか、ならないと困る。

 これ以上の言い訳とか、流石にアドリブで思いつかん。

 もうこれで勘弁して下さい、お願いします。



「……浅はかな私をお許し下さい。ファントム様。」



 なんかジョンが謝ってるけど、話聞かずに何か変なことでも考えてたのか?


 ぶっちゃけ言い訳のオンパレードで頭がオーバーヒートしてるから、ジョンが何を考えてたのかとか考えられないぞ?

 まぁいいや。

 取り敢えずよく分からんが、許しとけ。



「気にするな、ジョン。それでは治療に向かうか。ジョン!護衛に着いてこい。そこの母親は娘の元へと案内しろ。」


「は、はい!有難うございます!」



 なんか奥さん、泣きながら頭を下げてるんですけど。


 いや、そういうのいいから。

 出来ればパパっと案内して、ササっと治療させて貰えませんかね?


 俺はこの治療が終わったら、帰ってから秘書に説明しないといけないんですよ。

 なんか恨まれそうなシステムの欠陥について、説明しとかないとだしね。




 ―・―・―・―




 母娘の家にて、ファントム様は奇跡の力で病気の娘を治して下さった。

 女の子の姉である年頃の娘は見る間に様態が回復し、すぐに立ち上がれるぐらい元気になった。




 私は、勘に頼り過ぎてしまっていたようだ。

 ファントム様が現れた時、ファントム様にお願いすれば全てが上手くいくと、私の勘が告げたのだ。

 だから私は深く考えずに、ファントム様にお願いをしてしまった。


 そして、ファントム様の言葉を聞いている途中で気付いたのだ。

 これは、特例を作ってしまうかもしれない事態だと。


 もしもそこでファントム様が快諾なされば、他の民衆も休息日以外で治療を求めるかも知れない。

 そうなれば、ファントム様のお手を煩わせることになってしまう。

 だからと言って休息日以外の治療を断れば、ファントム様は英雄贔屓だと言われたり、この母娘は神様の寵愛を受けたなどと噂され、新たな問題が起きてしまう。


 そんな、少し考えれば分かるようなことを私はやってしまった。

 深く考えもせず。

 ただ勘に頼って。


 その場はファントム様のお陰でなんとか収まったけれど、全てはファントム様が解決策を思いついてくれたお陰だ。

 私の勘に頼った判断は、問題を全てファントム様に丸投げしたに過ぎない。


 これまでも、もしかしたらこういうことが有ったのかもしれない。

 私が気付いていなかっただけで、誰かに判断を押し付ける結果になっていたのかも知れない。


 そう考えると、我が身を恥じるばかりだ。



「ジョンさん、ですか?」



 治療を受けて元気になった女性が、私に話しかけてきた。

 治療が終わってすぐに帰るのかと思ったが、母親の女性がせめてお茶だけでもと言ってきて、それをファントム様が了承したので、今は休憩がてらに椅子に座ってお茶を飲んでいるところだ。



「あ、はい。私がジョンですが。」



 神殿で会った母親と妹は素朴な外見であったが、この少女は母に似なかったのか、非常に美しい容姿をしている。

 私は思わず戸惑って、言葉がつっかえてしまった。



「今日はファントム様を呼んできて頂いて、本当に有難うございました。」



 そう言って礼をする少女。


 だが、私は礼を言われるようなことは、何もしていない。

 お礼をするべき相手は、ファントム様なはずだ。


 そう思って私はファントム様の方を見る。

 しかしファントム様は椅子に座って静かにお茶を飲むだけで、何の反応も示さない。



「えっと、ファントム様には、私はファントム様にお礼を言ってはいけないと言われてまして……。」


「ファントム様に?」


「はい。私が助かるための条件として、私はファントム様に祈らず、世界を救う為に祈るように言われてまして、これもその一貫だと……。」



 ここでもまた、私の軽率な行動の被害者が出てしまったらしい。

 私が安易に神に頼ったせいで、彼女は生き長らえる代わりに、ファントム様に祈ることを禁止されてしまった。


 ファントム様の慈悲を受けた人であっても、世界の為に祈らなければならない。


 そのことを示すための模範として、彼女はファントム様に救われながらも、ファントム様に祈ることを禁じられてしまったのだ。


 これは、今回の治療がそう簡単に何度も行われるものではないと示すためのものだ。

 つまりは、人前でファントム様にお願いしてしまった、私のミスの結果だ。



「……そうですか。」



 自分の未熟さの結果を見せられて、私は気持ちが落ち込む。

 でもこれも、受け入れないといけないことだ。


 私の失敗の、結果なのだから。



「はい。ですが、ジョンさんにお礼をすることまで禁じられなくて、良かったです。」



 そう言う少女は、優しい微笑みを浮かべていた。

 だが私は、彼女の笑顔を見ても、素直に喜べないでいた。




 ―・―・―・―




 焦った。

 マジで焦った。


 女性の家に着いて娘さんを治療したら、なんとジョンの好感度イベントが再開され始めたのだ。


 なので、本当なら秘書に説明するためにも急いで帰りたかったところを、母親の好意に甘えて休憩させてもらうことにした。

 お陰で好感度イベントはそのまま続いて、なんとか終わりまで見続けることが出来たようだ。


 これで、ジョンの俺に対する好感度が落ちてないことが分かって一安心だ。

 だって好感度イベントが途中で途切れたってことは、俺に対する好感度が揺らいだってことでしょう?

 ジョンは、俺の心の癒やしなのだ。

 色々と相談したり話したりできる貴重な相手だから、好感度ダウンは本気で勘弁願いたい。




 何はともあれだ。

 これでジョンからの信頼も回復したみたいだし、娘さんも回復したみたいだし、奇跡の安売りに関する問題も解決できたみたいだし、万々歳ってところかな。


 ちょっと神様ネットワークの画面を見てみたら、なんか信仰が短時間で大分上がってるし。

 あの礼拝堂で言ったことが信仰に繋がったのかね?

 よく分からんけど。


 ぶっちゃけ、本気であの時は焦ってたからな。

 何を言ったのかなんて、半分ぐらいしか覚えてないし。


 一応ジョンのイベント内のモノローグで多少は概要が出てきたので、多少は思い出せている。

 あとでジョンに「あの時なんて言ったっけ?」なんて聞き返せないし、本気でこれには助かった。


 ともあれだ。

 今回の騒動も、これで一件落着ってところか。




 にしてもだ。


 なんで、ジョンの好感度イベントが途中で途切れたんだ?

 俺の登場で好感度が下がるって感じの場面でもなかった気がするんだが……。

 やっぱりアレか?

 俺がイベント中に現れて、イベント内容が変化したからか?


 でも、俺がまだ傍に居るのに、さっきはイベントが再開されたしなぁ。

 俺が介入するだけじゃなくて、何か別の条件もあるのか?


 ……よく分からんな。

 ヘルプ本の索引を見ても、好感度イベントなんて見つからないし。

 最初から最後まで全部のページを探せばこのイベントのことも載ってるんだろうけど、流石にあの膨大なページ数の本を最初から最後まで目を通すのは無理だしなぁ。


 まぁ、まだイベントも四人目だし。

 今後のイベントを見て、どんな傾向なのか掴んでいけばいいか。




 ってか、ナルキアより先にジョンの好感度イベントが来たってことは……。


 いや、これ以上考えるのはよそうか。



 これにて、この作品を投稿開始する前に用意していた書き溜めは終了となります。


 本来はこの話以降は不定期更新にする予定でしたが、キリが良い所までいきたいので、あと二話分は明日、明後日と毎日更新を続ける予定です。


 その後のことはまだ考えていませんが、出来るだけ日を空けないように投稿していきたいと思っていますので、是非今後ともお付き合い頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ