優しい英雄達。
なんか、最近。
秘書の軍人英雄達が優しい。
すごく、俺に構ってくれるというか、気を使ってくれてる感じがする。
「ファントム様、喉が渇いてませんか?何か飲み物でも持ってきましょうか?」
「ああ……いや、問題ない。そう言えばそうだ。私の前だから遠慮してたようだが、執務室に飲み物ぐらいは持ち込んでも構わんぞ?食事もまぁ、書類を汚さんていどなら問題ない。」
「いえ、私達のことでしたらお気になさらず。適時、小休止にて水分補給は行っていますので。」
高柳君がやけに俺のことを気にしてくる。
今まで喉が渇いたかなんて、聞いてきたことなかったのに。
高柳君も仕事に慣れてきて、周りに目を向ける余裕が出てきたってことなのか?
何でも出来る天才英雄だから忘れがちだけど彼はまだ十七歳で、都市管理なんて今までやったこともなかったはずだし。
いや、彼を秘書に任命した当時は秘書は必須だったから、彼を秘書に据えるのは仕方なかったんだよ。
仕方なかったんだけど……。
やっぱり、色々大変だったのかね?
「ファントム様。近々神殿の外に飲みに行きませんか?」
「神殿の外に、だと?」
「ええ。巡回の私、エーリッヒ=Fに良いお店があるって聞いたんですよ。女性が接待してくれる酒場なんて少し前までなかったんですが、街が安全になって新しく出来たらしくてですね。こう、街の復興具合を肌身で感じるというのも大事だと思いますし。」
「だが、神殿の外に出るのはな……。」
「大丈夫です。変装のコーディネートもエーリッヒ=Fが完璧に用意すると言ってますし、これも公務ですから。」
「……そ、そうか?それじゃあ、頼む。」
エーリッヒは、貴重な休みを俺の接待に使おうとしてくるし。
俺は神様なので、神殿の外で身バレすると大騒ぎになってしまう。
なので、今まで外に出ることはなかったんだが……。
エーリッヒ=Fが用意してくれたコーディネートは、完璧だった。
このご時世にどこで調達したのか、カツラも用意してたし。
お陰で女の子のお店も楽しませて頂きました。
エーリッヒ=Fさん、本当に有難うございます。
……にしても、エーリッヒ=Fってどこかで聞いたことがある気がするな。
どこかに陰がありつつ、表では飄々とした顔をしているエーリッヒらしからぬ、完全なチャラ男だったし。
お店でも、ユーモア溢れるトークでホスト並に盛り上げてたしなぁ。
一体、どこで聞いたんだっけ……。
「ファントム様。今度、孤児院の視察に同行しませんか?」
「孤児院の視察?」
「ええ。時には子どもと触れ合うことで、心を癒やすのも大切かと。」
「まぁ、予算を増やしてからどうなったのかは気になってはいたしな。ここだけの話、少し前にエーリッヒとお忍びで神殿の外にも出たから、変装すれば視察自体は問題ないぞ。」
「……予算を増やしたことを、覚えてらっしゃったんですか?」
「ん?ああ。クロードは気にしてたみたいだしな。俺も少し気にはなっていた。」
「……有難うございます。」
やけに感動してたクロードに連れられた孤児院では、子どもたちからもみくしゃにされながら遊ぶことになった。
なんか、ムサイ軍人勢やナルシス似非ロリやダメ乙女に囲まれてたから、こういった純粋な子どもたちと遊ぶのって新鮮でいいな。
最初はどう接すればいいのか分からなくて戸惑ったけど、慣れてくれば遊んであげてるこっちも楽しくなってきた。
ちょっと童心に返った気がして、楽しかったな。
「ファントム様。今大丈夫ですかね?」
「ん?ああ、ジョンか。どうした?」
「いえ、ファントム様とお話しする機会がありませんでしたので、少しお話しをさせて頂けないかと。」
「そういえばそうだな。それじゃ、隣に座ってくれ。」
「有難うございます。」
俺はたまに食事を食堂で取るのだが、その時にライオンヘアーのジョンが話しかけてくれた。
ジョンは中々に聞き上手で、俺の話を聞いては上手く相槌を打ってくれる。
それに乗せられて、こっちの世界に来てからのことを言っても問題ないていどに色々と話してしまい、二時間も時間を潰せてしまった。
休みの日だったし、ぶっちゃけ暇だったので凄く有り難い。
色々と愚痴も言えたし、ジョンとの会話はリズムが心地よくって、安心して話せたし。
これはアレかな?
勘が鋭いから、こっちが言って欲しいことが分かって、相手に合わせた相槌が打てるって感じなのか?
なんだ、そのモテスキルは。
聞き上手な男はモテるらしいし、ジョンも相当モテそうだな。
他の軍人英雄はイケメンや男前ばっかりだし、なんか比較して自分が情けなく思えてくるな。
―・―・―・―
とまぁ、こんな具合だ。
とにかく、やたらと軍人英雄が俺を構ってくるのだ。
高柳君は俺の世話を焼く方面で、なんかお茶汲みとかやろうとしだすし。
エーリッヒはあれ以降もまた外の店に連れてってくれるって約束したし。
クロードも子どもの遊びを教えてくれて、俺が孤児院を訪問した時に子どもたちのヒーローになれるようにしてくれるし。
ジョンはあれからも、俺と休みが重なる日には嫌な顔一つせず俺の話に付き合ってくれるし。
なんか、こう。
アレだ。
ここまで気を使われると、逆に申し訳ない気がしてくる。
そもそも俺、何かやったっけ?
なんで急に、俺に優しくなってんの?
俺が一度激怒して、それで自らの行いを反省した結果。
なんてことも無いんだよなぁ。
そもそも俺、こっちに来てから怒ったことなんてないし。
むしろ、俺が誰か怒る相手がいるとしたら、そうなりそうなのはシュナだろうしなぁ。
ナルキアは……あれは天然だろうから、怒ったところで何を怒られたのか分かってくれなさそうな気がする。
とにかく。
なんで前触れもなく、軍人英雄達が優しくなったのか。
それが分からない。
一応以前から、俺に対する敬意的な何かはあったけど、それにしても最近の変化はちょっと異常だろ。
本気で何が起こってるんだ?
俺、本当に何やったっけ?
執務室にて、周りが仕事をしている中で、俺は一人思い悩む。
秘書達は仕事に集中してるので、俺が悩んでいるのに気付いてないようだ。
俺は周りに聞こえないように、小さな溜息を吐いた。
すると、突然目の前に画面が現れた。
何事か?と警戒を露わにするが、そこに映っている光景を見て、俺は安堵の息を吐く。
画面に映っているのは、ライオン軍人のジョンだ。
唐突に英雄が映った画面が現れるのは、以前にもあったことである。
そう。
好感度イベントだ。
『神様の箱庭』というソシャゲでは、英雄キャラの好感度が上がるとイベントシーンが解放されるシステムがあった。
この世界でもそれに似たシステムがあるらしく、英雄達の好感度が上がるとこうして英雄の日常風景を覗き見ることができるのだ。
そして英雄の日常シーンと共に、英雄の思っていることがモノローグ風で頭の中に入ってくる。
なんか、心の中を覗いてるようで凄く気分が悪いのだが、この画面は念じても消せないし、音声も頭に直接入ってるみたいなのでミュートにも出来ない。
この画面が現れたら、俺は大人しくそれを見続けるしかないのだ。
だが、この状況だと非常にマズイ。
以前に好感度イベントがあったのは、休みの日に一人で自室に居たときだった。
なので、英雄の心情を覗き見るという行為が誰にもバレずに済んだのだが。
今回は、執務室で執務中。
部屋には秘書が居る状態なのだ。
まだ秘書たちはこちらの異変に気付いてない様子だが、気付かれて画面が見られるとマズい。
画面は半透明で、反対側からも薄っすらと中身を確認できるのだ。
それを察しのいい高柳君やナルキアが見たりしたら、俺が英雄の日常を監視できるのでは?と思われてしまう。
折角、ちょっと優しくされてる状況なのに。
このタイミングで変な疑いを持たれるのはマズい。
以前好感度イベントを見た時に危惧していたことが、現に起きてしまったというわけだ。
落ち着け。
落ち着いて対処しよう。
まず、最良なのは?
誰にも画面を見られずに、自室に戻ることだな。
そうすれば、長時間掛かる好感度イベントも、ゆっくり見ることができる。
今の時点で秘書達の反応がないってことは、このモノローグ風の音声は周りには聞こえてないみたいだしな。
だが、それは一時凌ぎにすぎない。
今後は下手すると、休息日に市民に演説してる最中にも、この画面が現れたりしかねないのだ。
それを考えると、確認しなければならない。
この画面は、俺以外には見えているのかどうかを。
神様ネットワークの管理画面は、英雄には見えない。
だが、戦場を映す画面は英雄にも見ることが出来る。
となると、この好感度イベントの画面は?
希望的観測混じりで言えば、見えない可能性が非常に高い。
なにせ、戦場画面は見えることで英雄に指揮させるというメリットがあるし、神様ネットワークは機密性やらを考えれば見えないことにメリットがある。
どちらも多少デメリットはあるが、見える見えないにメリットが存在するのだ。
だが好感度イベントの場合は、見えることのデメリットが大きすぎる。
そして、これといったメリットが存在しない。
英雄に見られてしまえば、信用を失くすような代物なのだ。
しかも、出すタイミングを自分で指定出来ない。
そう考えると、この画面は自分以外には見えていないと考えるのが普通である。
しかし、怖い。
もしもバレてしまった時の反応が怖い。
もしも、過去に英雄の日常を覗いてたことがバレたりしたら……。
ん?
そ、そうか。
過去に見てたことがバレなければいいのか。
要するにアレだ。
今回が、好感度イベント画面を見るのは初めてだ。という体で、この画面が見えるのかを確認すればいいのだ。
そうすれば、この好感度イベントの存在を悟られて警戒はされても、黙っていたことによる株価暴落は防げる。
次善の策でしかないのは分かってる。
これで画面が見えてた時には、英雄達は今後いつ自分の日常が見られるかと警戒してしまうかもしれないのだから。
だが、これしかないのだ。
他に良い案が浮かんでこないのだから。
よし……この言い訳でいくぞっ!
「皆、ちょっといいか?」
心臓がバクバク鳴ってるのを隠しながら、ポーカーフェイスで秘書たちを呼ぶ。
「どうしましたの?ファントム様。」
「この画面が見えるか?」
これで「はい」と言われたら、「急に現れたから重要なことかも知れん。少し自室に戻る。」と濁しながら誤魔化せるのだ。
「いえ、見えませんが……どうしてですの?」
「見えないか。いや、神様ネットワークの管理画面でも戦場を確認出来たのでな。それなら管理画面でも見れるかと思って確認してみたんだが……。」
「そうでしたの。」
「悪いが、少し席を外す。ちょっと確認したいことが出来た。」
「はい、分かりましたわ。」
ナルキアが鏡を見つめながらそう言うのを見て、溜息を吐きながら俺は自室へと入っていった。
自室へ入って、強張っていた肩の力を抜く。
良かった。
バレないで済んで、本当に良かった。
最後の溜息を吐くシーンを見れば、他の軍人秘書連中も俺が何かを隠してるとは思わないだろう。
軍人連中の意識は、ナルキアの対応に対して俺が不快に思ってるのでは?という方向に持っていかれるはずだ。
ちょっと変則的なミスリーディングってヤツだな。
ナルキアに矛先を向けるのはちょっと悪いが、鏡を見ながら人と話をするヤツが悪いということで、そこは我慢してもらおう。
……なんか、こっちに来てから言い訳する機会が増えたせいか、こういう技術ばっかり身に付いてる気がするな。
俺って元々、そんなに言い訳するタイプじゃなかったんだけどなぁ。
一度嘘を吐くと、それを隠すのに更に嘘を吐くっていう連鎖ってヤツか。
ホント、嫌になってくる。
それはともかく、今は好感度イベントだ。
この画面にはリアルタイムでジョンの様子が映っていて、ジョンが考えてることが頭に入ってきている。
まだイベントが始まったばかりなので殆ど進展はないみたいだが、これからは何が起こるか分からんからな。
注意して見なければ。
……いや、覗きは嫌なんだけどね?
でも、こういったイベントが用意されてるってことは、何かしら意味がありそうじゃないの。
それを無視して、あとで何か問題が発生したら困るし……。
まぁ、ジョンが俺のことをどう思ってるのかとか、ちょっと気になるけども。
最近、ジョンに色々と愚痴ったりもしてたしなぁ……。
主に、ナルキアとシュナ関連のことで……。




