ガチャのためなら考える。
俺は考える。
この、断罪の斧という神様は、滅亡の危機に瀕しているらしい。
最悪の場合は神様ネットワークに救済を求めることも出来るらしいが、そうすると罰則があるのだとか。
攻めてくる邪神の手先は、弱いが数が多いらしい。
信仰も資材も残り少なく、手詰まりであると。
これは、稼ぐチャンスかも知れない。
つまりはアレだ。
俺がこの神様に手助けをして、その報酬として信仰を受け取るって取引が出来ないかと考えてるのだ。
英雄や資材を提供して、後払いで信仰を貰うという狙いだ。
俺はあんまり、こういった面倒な取引とかを考えるのは得意じゃあない。
だがそれも、信仰を得てガチャを引くためだと考えると、モチベーションがぐんっと上がる。
そう。
全ては女性英雄ガチャを引くために。
全ては、残念な職場の空気に、華をもたらすために。
まずは、俺の介入で対処が出来るのかを考える。
この神様が困っている理由は、数十万を超える弱い邪神の手先だ。
それに困ってるということは、恐らくこの神様は少数精鋭に近いスタイルで英雄を集めていたのだと考えられる。
少数精鋭は、一応合理的な考えだ。
英雄は、邪神の手先を倒すことで経験を得て、力を増す。
戦う英雄の数を絞れば、その分だけ英雄の成長速度を早められるのだから、少数精鋭というのは悪い方法じゃない。
そして俺の世界は、少数精鋭の逆の方法を使っている。
多数の英雄を創造して巡回と戦争をローテーションさせることで、英雄たちの経験を分散させて、戦力の数を揃えている。
この方法だと相手が大量に攻めてきた時に対処出来るし、都市巡回の人手が増えるので、民衆の安全も確保しやすい。
ただ、強い敵が現れてしまうと手が出せなくなってしまう。
実際にいま、前線に出てきている下級魔族を倒せないでいるのだから、このデメリットも結構デカイものだろう。
軽く分析するとこんな感じなんだが、実は言うと俺の管理世界の軍人英雄達は、本当は少数精鋭向きの英雄なのだ。
その理由は、兵士を具現化することで大量に戦力を展開出来るところにある。
俺の世界の英雄は、特殊部隊出身のクロードを除けば指揮官型の英雄だ。
資材を消費して戦うときに、率いる兵士を具現化して戦う。
小隊規模なのでそこまで多いわけじゃないが、それでも一つの小隊で五十人近くも具現化兵士が居るのだ。
指揮官英雄を五人出せば、それだけで二百五十人もの兵士を呼べるわけだ。
しかも近代軍人の英雄なので、戦列を組んで突撃するわけじゃない。
戦線に拠点や塹壕などの遮蔽物を造り、それらを活かして立ち回るのだ。
つまりは、英雄一人当たりが担当出来る戦場の面積が広いのだ。
逆に言えば、戦場に多くの英雄を投入できないデメリットがある。
その分少数精鋭にすれば、少数であっても大量の敵と戦うことが出来るという、少数精鋭にして多数も兼ね備えることが出来るという、素晴らしい英雄なのだ。
……まぁこれ、今考えてて気付いたんだけど。
だがしかし、俺の世界はまだ結界の解放が途中なので、高レア英雄を手に入れられない。
すると当然低レアキャラしか居ないので、少数精鋭で経験を積んでもそこまで強くはなれない。
それに巡回にも人手が居るし、市民感情緩和やら英雄同士の格差を防ぐやら考えた結果、俺は現在多数弱兵の方針を取っている。
……この方針を考えたのは、ナルキアだけど。
ああ、もう。
そういうのはいいんだよ!
考えたのがナルキアでも、世界がちゃんと管理出来てれば問題ないのだ!
とにかくだ。
俺の世界の英雄なら、少数であっても多数に対抗出来るということだ。
つまりは、俺の所のドロップ英雄をこの断罪の斧さんに送れば、多分窮地を救えるかも知れないってわけだ。
「秘書の皆。ちょっと来てくれ。」
「どうなさいましたの?私が美しいから傍に居て欲しい気持ちは分かりますが、仕事が……」
「違う、真面目な話だ。神様ネットワークの件で話があるので、君たちの考えが聞きたい。」
取り敢えず、ここから先は秘書も交えて考えることにする。
俺としては、「この神様に英雄を売れたらラッキーかな。」程度に思ってるんだが、俺の英雄が使う資材があちらの世界で得られない資材だったら困るのだ。
ガチャなどで手に入れた別の世界の英雄は、創造された時に必要な資材が取れる鉱山とかが神様ネットワークの機能で沸いてくるらしい。
なので、もしも断罪の斧さんの所で鉱石などを資材として使う英雄が居なかったとしても、軍人英雄を創造してしまえば、世界の人間支配領域内で鉱山が沸いてくるってわけだ。
だが、断罪の斧さんは窮地に追い込まれているのだ。
鉱山が沸いてくるのを、悠長に待っては居られない。
その場合には、俺が資材を負担して送っておいて、代金の信仰は後払いで払ってもらおうと思ってるのだが、ぶっちゃけ俺の世界にはどのくらい資材が余ってるのかとか、秘書に任せているので全然知らない。
俺が独断で資材を送ると約束しといて、手持ち資材が足りないなんてことになったら困るのだ。
なので、その辺もまとめて秘書と相談して、この神様に話を持っていく前に草案を決めておこうと考えている。
……とは言えど、断罪の斧さんの発言を見て、俺と同じようなことを考えるヤツが居ないとも限らないな。
先に個人向けチャットで連絡取っておいて、軽く草案だけでも提出しておくか。
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xx/xx/xx.xx:xx:xx:xx name.記憶の無い幻影
突然失礼致します。
先程全体チャットを見たのですが、もしかしたら貴方の御力になれるかと思い、個人チャットを送らせて頂きました。
先程の発言では、弱い魔物が多く出現して困っていると書いてありましたが、それは低レアリティの英雄でも対処可能な強さでしょうか?
私の世界の英雄は指揮官型の軍人英雄が多く、英雄一人で五十人の兵士を具現化することが可能です。
レアリティは☆2と☆3ですが、片方は撤退支援スキルも所持しているので序盤を凌げば経験も積めるかと思います。
もしも私の持つ英雄で対処可能なようでしたら、私と取引をしませんか?
英雄の活動に必要な資材も、そちらの手持ち資材で無い物でしたら英雄の魂と一緒に送りますので、資材の心配も必要ありません。
英雄の魂や資材は信仰との交換を希望しますが、現状の手持ち信仰が足りないのでしたら、英雄や資材の対価は後で渡すという契約を交換所にて行えればと考えております。
神様ネットワーク運営への救済処置申請の前に、御一考頂ければ幸いです。
もし興味がお有りでしたら、私宛てに個人向けチャットかメッセージを送信して下さい。
重ねて、唐突な連絡をお詫び致します。
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驚いた。
まさか、全体チャットに垂れ流した愚痴に、反応する神が居るとは。
あの愚痴は、本当にただの愚痴だったのだ。
もう、救済を申請して罰則を受けるしかない状況だった。
最悪の場合、資質を疑われて管理神の座から降ろされる可能性もある。
そう思っての、最後の感傷に近い愚痴。
それに対して、こんな申し出が現れるなんて思いもしなかった。
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xx/xx/xx.xx:xx:xx:xx name.断罪の斧
そちらの世界では、邪神大侵攻には対処済みなのか?
私に支援を行った結果、そちらも救済処置入りすると問題になるのだが。
xx/xx/xx.xx:xx:xx:xx name.記憶の無い幻影
こちらはまだ結界が張られているので問題有りません。
なので、余剰資材の大半を送れますのでご心配なく。
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今の私は藁にも縋る思いだ。
もし本当に、この窮状を打破出来るのであれば。
そう思い、『記憶の無い幻影』とやらに返信してみた。
だが、気がかりな点があったので確認はしておく。
私に援助した結果共倒れなんて、あってはならないからだ。
そしてすぐに返信が来る。
その発言を見て私は、苦虫を噛んだ気持ちになった。
結界が張られているということは、この神はまだ世界管理を初めたばかりだということだからだ。
管理世界に平和をもたらせば、管理神は次の世界へと派遣されることになる。
だが、新たな世界管理を始める際に、結界を張るか否かの選択が出来るのだ。
もしも結界を張ってしまうと、結界が張られている間はかなりの信仰を神様ネットワーク運営に取られてしまう。
なので、殆どの神は新たな世界に移動した時に、結界を張らないのだ。
何せ、最初の世界で育てた英雄を連れていけば、結界など無くとも問題なく戦えるのだから。
だが唯一の例外として、前の世界から英雄を引き継げない新米の管理神は、選択の余地なく結界が張られることとなる。
つまり、この『記憶の無い幻影』という神は、新米の管理神ということだ。
そんな、初心者とも言える神に、私は世話にならなければならないのか。
そう考えると、私のプライドがこの話を断りたいと怒声をあげる。
……だが、これはチャンスでもあるのだ。
この神が、もしも本当に善意から私を支援しようとしているのであれば、ここで話を切ってしまうのは勿体無い。
窮地に陥ってしまった私には、初心者の神を笑う資格など無いのだから。
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xx/xx/xx.xx:xx:xx:xx name.断罪の斧
☆2、3の英雄でも対処は可能だ。
質問なのだが、そちらは何処かの同盟に所属しているのか?
xx/xx/xx.xx:xx:xx:xx name.記憶の無い幻影
まだ世界管理を始めて間もないので、同盟には所属しておりません。
☆2、3で対処可能なのであれば、英雄の開示データを送らせて頂きます。
その上でもしもお話しを進めるのであれば、再度ご連絡下さい。
―(英雄データ添付)―
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もしかしたら新手の同盟勧誘の手法かと思ったのだが、それも違うらしい。
私は例えこの場を乗り切れたとしても、同盟に加入するつもりはない。
過去に一度、試しに同盟に加入したことがあった。
しかし、同盟での神同士の関係は非常に複雑で面倒で、私には苦痛だった。
何せ、私が嫌いな系統の神も存在したのだから。
世界を救い、英雄を効率よく育てるためにも、同盟という制度は有用だ。
同盟を結んだ神々が力を合わせることで、様々なことが出来るようになるのだから。
だがそれでも、嫌い神と共に行動するというのは勘弁願う。
だから私は、どんな神が居るかも分からない同盟に加入する気はないのだ。
チャットの発言に添付された英雄の開示情報と、あちらの神が追加で送ってきた契約の草案に目を通す。
確かに、五十人近い兵を呼べる英雄を何十人も創造出来れば、あの数十万の敵も凌ぐことが出来るだろう。
必要資材の食料は、手持ちの英雄にも必要だから多少は残っている。
鋼材の方は手持ちが無いが、あちらが用意してくれるという話だ。
そしてそれら全てを、相場より少し割増の信仰と交換する。
しかも交換に必要な信仰は、後で渡してもいいと。
……話が、美味すぎる。
相手にとっても、相場以上の信仰を得られるのであれば得がある話だとは思う。
だが、こちらの得が大きすぎるのだ。
こちらは窮地に陥っているのだ。
相場の数倍の信仰を吹っかけられたとしても仕方ないと言える状況だろう。
それなのに、割増ではあるが良心的な信仰を求められている。
これでは、大きな借りが出来てしまうのではないか?
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xx/xx/xx.xx:xx:xx:xx name.断罪の斧
分かった。契約の話を進めよう。
こちらは後が無いのだ。
無事に危機を乗り越えられるならば、その後に多くの信仰を払っても構わない。
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しかし、私には最初から選択肢などないのだ。
もしも、管理神から降ろされてしまえば。
それは、無能の烙印を押されるに等しい。
誰にでも出来る。それこそ下級神族でも可能な統治に、失敗しているのだから。
これは、私にとって幸運なのか不幸なのか。
私はあの時、全体チャットで愚痴という弱みを見せて、良かったのだろうか。
まだその結果は分からないが、それでもこの話に乗るしかない。
だが、これは契約だ。
交換所で行われる契約は、神様ネットワークにより強制力を伴うものとなる。
私が、契約で下手を仕出かさなければいいのだ。
契約外のことを要求されても、私には断る権利がある。
『記憶の無い幻影』という名の神と、私は話を進めた。
決して警戒は解かず。
相手の意図を探りながら。
管理神となって以来。私にとって最大の山場が訪れようとしていた。




