新たな軍人英雄。女性英雄ですよね!?
結界が解放されてから、数日が経った。
結界の解放に早めに気付けたのもあって、前線の準備は万端に整った状態での解放だ。
新たな地区に出てきた邪神の手先は確かに強かったが、最初の結界で十分に育っている英雄たちであれば、余裕を持って倒せるようだった。
一時期問題視されていた下級魔族も気付けば出てこなくなっていて、暫くすると新たに解放された結界の先で出現するようになった。
まぁ、エーリッヒが居る限りは大して被害は出ないだろうし、実際に深刻そうな被害報告は上がっていないので大丈夫だろう。
何事もなく、順風満帆というヤツだ。
とは言えど、全く何もないわけではない。
いや、悪いことは何も起きていないのだが、良いことはあったということだ。
そう。
新たな英雄の魂が、ドロップしたのだ。
―・―・―・―
「これが、新たな英雄の魂か。」
さきほど戦場から取り寄せた英雄の魂を手の上で転がしながら、俺はそう言った。
新たに手に入った魂の色は青色。つまり、☆4~6の英雄の魂だ。
結界が解放されてからは、常に戦場が見れるディスプレイを表示させてドロップアイテムをチェックしていたのだ。
全ては、新たな英雄の魂出現を見逃さないために。
秘書達には結界解放後の戦場で何か起きるか確認するためだと言ってあるが、ぶっちゃけ素人の俺が見たところでどうなってるのかなんて分からん。
全ては、新たな女性……いかん、邪念が入った。
新たな英雄を、いち早く出迎えるためなのだ。
「どんな英雄ですの?」
「ナルキアも気になるか?」
新しい女性、じゃなくて新しい英雄の出現に、俺はちょっとテンションが上がっている。
自然と機嫌の良い声で、ナルキアに聞き返していた。
「まぁ、私ほどではないでしょうが、美しい英雄が出るかも知れませんものね。美を共有する仲間が増えるのかも知れないのですから、興味はございますわ。」
ほんっっっとうに、コイツはブレねぇな。
それにしても、ナルキアは自分以外はどうでも良いタイプじゃないのか。
自分より美人が出てきた時には荒れそうな気がしてたんだがなぁ。
ほら、白雪姫の女王みたいに。
あんな風にヒステリックになるんじゃないかとちょっと怖かったのだが、この調子なら別に問題は無さそうだな。
「ナルキアより美人が出てきたらどうする?」
いつもなら踏まない地雷も、テンションのままに踏んでしまう。
言った直後に気が付いて背筋がゾッとしたが、ナルキアの反応は俺の予想とは違ったものだった。
「それは素晴らしいですわ。私が愛するのは私しか居ませんけど、私以上と他の殿方に評価されるような方がいらっしゃるのなら、私が今以上に美しくなれる方法が聞けるかも知れませんから。」
コイツは筋金入りのナルシストだったか。
俺の想定はまだまだ甘かったようだ。
世の中は広い。ナルキアを見ながら、そう思った。
「……取り敢えず、情報を『開示』するか。」
そう言いながら、頭の中で『開示』と念じる。
すると、魂の上にキャラ情報が記載された画面が浮かび上がってきた。
ジョン・クロフォード 男性 軍人
レア度:☆☆☆☆(4)
戦闘力:A+ 智謀:B 特殊能力:B 成長性:D
スキル:『天性の勘』
……。
……やっべ、テンション下がった。
女性英雄じゃないのかよ。
いやまぁ、だろうと思ってたけども。
ほんの僅かに、微かに、ちょっぴりだけ期待して、それを物欲センサーに悟られないために無欲であろうとしてたのは確かだ。
だが結果は、案の定男性軍人英雄である。
これは、俺の真意に物欲センサーが反応したのか、それとも純粋に元々男性英雄が出る物だったのか。
……まぁ普通に考えて、元々男性英雄って決まってたに違いないのだが。
「☆4レアの男性軍人だな。名前はジョン・クロフォード。成長力以外は高水準で、比較的戦闘力が高い英雄だ。スキルは『天性の勘』を保持しているな。」
「ジョン・クロフォード、ですか?」
「知っているのか?エーリッヒ。」
名前を聞いてエーリッヒが反応する。
高柳は他の英雄を知らない世代だって言ってたから良いとして、クロードも反応していない名前の英雄なのだが、やっぱり名の知れた軍人だったのか?
いや、そりゃあ名の知れた軍人なのは当然か。
英雄なんだし。
「私の記憶が確かでしたら、戦車部隊を率いて危険地帯へと突撃し、悠々と帰ってくる士官でしたかと。」
なるほど、要するに戦争屋か。
スキルで『天性の勘』ってのを持ってることを考えると、エーリッヒと同じように危険を事前に察知して戦うタイプなのかね?
エーリッヒの上位互換っぽくはあるが、戦車乗りだと都市内巡回で使えるかは微妙か。
あと、エーリッヒは☆2だから☆4のジョンと比べて大量展開出来るって利点もあるし。
それでもまぁ、英雄は素で普通の人より強いから、一応都市巡回に使えないこともないだろうけどな。
だが☆4ともなると、今までみたいに大量に手には入らないだろうし、巡回で使うのは勿体無い気もしてくる。
まぁ、その辺は秘書の皆が考えてくれることだ。
シフト調整とかは、秘書達に全部お任せだし。
秘書にジョンを任命するのは……特殊能力と智謀の差がないから、参謀能力は余りなさそうだし無理っぽいか。
いやまぁ、これ以上男秘書が増えても嬉しくないから良いんだが。
「秘書ではなく、戦場で戦ってもらう英雄になりそうだな……まぁ、何はともあれ、創造するか。」
乗り気では無いが、創造しない理由もないので『創造』する。
いつも通り光る石が手元から床へと落ちて、光の柱が出たと思ったら止んで、そこには一人の男が立っていた。
逆立てたようなオールバックに、立派なもみあげ。
金髪であることも合わさり、まるでライオンみたいな髪型だった。
表情は穏やかではあるが顔立ちはゴツゴツしていて、正に武人といった風体だ。
そして何より、クロード並に身体がデカかった。
「我らが神のお声に応じて参りました。ジョン・クロフォードと申します。階級は少佐です。宜しくお願いします。」
そう言って、敬礼するジョン。
見た目は、元の世界だと目を合わせたくないぐらい怖い。
黒いスーツを着れば、何処かの重役のSPでも務まりそうな風貌だ。
それなのに、実際に声を聞いて相対してみると、不思議とそんなに怖くない。
別に甲高い声だってわけじゃないんだが、声音が見た目に反して大人しく、礼の動作もおっとりしたもので、触っても噛まれない飼いならされたライオンのような雰囲気が漂っている。
「ああ、宜しく頼む。俺のことはファントムと呼んでくれ。」
「分かりました、ファントム様。」
そう言って、ジョンが目を細めて微笑む。
パッと見は怖いけど、なんか人の良さそうなお父さんっぽい英雄だ。
父性系軍人か。
同じくガタイが良いクロードは男前な顔立ちなんだが、ジョンはそんなにモテそうな顔つきではない。
でも、ジョンはジョンで別方向で女性に人気が出そうだな。
他の量産軍人と合わせてアイドルユニットでも組ませてみれば、意外と人気が出るかも知れん。
いや、俺が興味ないから作らんが。
「それで、ジョン。君は戦車部隊を率いる軍人で、勘が非常に良いのだと聞いている。今のところ戦場での活躍を考えているのだが、事務作業など他に得意なことは何かあるか?」
これ以上軍人秘書が増えて空気が淀むのは嫌だが、人手が増えれば不測の事態への対応も可能になるからな。
俺が仕事する機会が減るかも知れないというのは別として、一応秘書適正があるのかは確認しておきたい。
別として、だ。
サボリたいわけじゃない。
本当に別としてだぞ?
だって、現状でも俺の仕事なんて殆ど無いし。
「申し訳有りませんが、事務仕事は不得手でして……戦場以外では、巡回でも役立てるかとは思っております。」
「巡回でも、か?」
よく考えると、戦車乗りという前情報に意識が引っ張られてしまっていたが、この体格で軍人なのだ。
英雄なので普通の人間より格段に補正が掛かって強いことを考えると、普通に巡回要員としても使えそうではある。
人当たりも良さそうな感じがするので、市民のウケも良さそうだしな。
巡回で戦うことになる邪神の手先は、俺がこの世界に来る前から潜伏してるヤツが残って居ない限り、比較的弱い産まれたての邪神の手先だけなのだ。
英雄である限り、余程戦闘に向かないタイプでもなければ、巡回ぐらいは出来ると考えても問題ないか。
「はい。私は戦場での勘だけでなく、日常に於いても様々なことに勘が働きまして。ですので、巡回任務であれば隠れた敵を見出すことも可能かと。」
ああ、そうか。
そう言えば『天性の勘』ってスキルがあったっけか。
スキルは基本的に資材を消費した戦闘可能状態じゃないと発動しないものだ。
だけど、彼の場合は元々生きてた頃から勘が良かったんだ。
だからスキルを発動しない巡回任務でも、ジョンなら勘を活かして活躍することが出来るだろう。
「それなら、巡回と戦争のローテーションに組み込むのが妥当だろうな。今後のことは、そこに居る秘書達に説明を受けてくれ。俺は少し、自室に戻る。」
そう言って俺は、まだ執務時間中なのに自室へと戻っていく。
本当なら俺の口から色々と説明するのが筋なんだろうが、ちょっと落胆が大きすぎて説明する気力が沸かない。
一応顔に出さないだけの良識があるから気付かれてないだろうけど、今の俺はブルーな気分なのだ。
女性英雄だったなら、手取り足取り……は流石に初対面だとNGだろうけど、それでも説明丸投げなんてしなかったんだが。
まぁ、女性英雄じゃなかったのは残念だが、戦力は確実に強化出来るし、秘書に加わらないなら執務室に漂う黄土色の空気が悪化してドドメ色に変化することもないだろう。
それだけでも十分マシだな、うん。
これ以上男比率が上がる前に、何とかして女性英雄を出さねば。
とは言っても、秘書として活躍出来るくらい智謀が高いキャラとなると、相応のレア度のガチャを引かないとなんだよなぁ。
流石にまだ、ナルキアを呼んで一ヶ月も経ってないから、信仰に余裕は無いしなぁ。
どんな理由があろうと、歓迎すべき新たな英雄相手に落胆の色を見せるわけにはいかない。
そう思いながら、俺は毅然とした態度で私室へと向かった。
―・―・―・―
「私は秘書官のナルキア・リッソールですの。麗しい私の美貌に目が眩んでしまうかもしれませんが、生来の美しさは隠せるものではありませんのでご容赦頂ければありがたいですわ。」
ナルキアさんがいつもの調子で、新たに創造されたジョン少佐に自己紹介する。
本当に、この人はブレないな。
そう思い頬が引き攣りそうだったが、上官と成るかもしれない方の前でそのような無様な顔は出来ない。
何とか表情を固めながらも、クロード中尉やエーリッヒ中尉と同時に敬礼した。
「私はクロード・ジョンソンであります。階級は中尉です。現在私はファントム様の秘書官を務めておりますが、私と同じ顔の同胞は都市内特殊部隊所属の前歴を活かして都市警備と戦場を主任務としております。宜しくお願いします。」
「エーリッヒ・ヴァイツェルと申します。階級は同じく中尉。私の所属及び同朋の任務もクロード中尉に同じです。生前は小隊指揮を担当しており、撤退戦を得意としておりました。宜しくお願いします。」
「高柳 草太と言います。階級は中尉。所属及び同朋任務は両尉官と同じです。生前は小隊指揮、後方事務、特殊部隊に所属しておりました。まだ経験が浅いので、ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。」
事前に考えてあった自己紹介を、二人に合わせる形で少し変えて行う。
今までは軍人英雄は中尉しか居なかったのだが、この方は少佐なのだ。
今後がどうなるかは別として、上官に対して当然の礼儀を示す。
「あら、何をそんなに畏まっていますの?ここはもう軍隊じゃありませんのよ?ファントム様は堅苦しいのがお嫌いなようですし、もう少し砕けた対応の方が宜しいのではなくて?」
確かに、ファントム様の前では比較的緩い言動を許されていた。
だが、かと言って初対面の上官相手に、馴れ馴れしく対応などは出来ない。
唯でさえ俺達より高位である☆4英雄であり、我々以上の功績を成したお方なのだ。
そう簡単に柔らかい態度になど成れるわけがないのだ。
「そうですね。まぁ、私もそんなに軍人らしい軍人ではないですし、ファントム様がお許しになっているのでしたら、もっと軽い感じで話してくれても構いませんよ。」
ジョン少佐がそう言った。
どうやら、ジョン少佐は厳しい方ではないようだ。
軍隊の中であればそれはどうかと思うところもあるのだが、この場ではその方が有り難い。
「私はね、戦場で頭を打って、一度死にかけましてね。それ以来勘が鋭くなったんですが、あのファントム様はどことなくお優しい雰囲気を纏って居られるのが分かりました。最高位であるファントム様がそうなのであれば、私は軍人としても個人としても、それに倣うのに否はありませんよ。」
どうも、ジョン少佐はファントム様の気質も一目で見抜いてみせたらしい。
それにジョン少佐自身も温和な性格みたいだ。
これなら、こちらとしても話がしやすいので助かる。
「ただ、私の姿を見て少々落ち込んだように思えたのが気がかりですね。私はファントム様のお気に召さなかったようです。」
俺の目からは落ち込んでるみたいには見えなかったのだが、ジョン少佐からはそう見えたらしい。
本当に落ち込んでいたのだとすれば、この方の人を見抜く目は相当の物だと言えるだろう。
「えー、では。少し砕けた口調で話をさせて頂きます。ファントム様が落ち込んでるように見えたというのは本当ですか?」
「私の勘ですので、何故そう見えたかまでは定かではないですが、確かにそうだと思えましたね。ああ、私の勘はよく当たるので信用して頂きたいです。」
クロード中尉が率先して、会話から固さを取り去った。
年長であるということもあって、俺やエーリッヒ中尉を色々とフォローしてくれている。
クロード中尉は本当に便りになる方だ。
それはそうと、ジョン少佐の勘は相当な精度で当たるらしい。
実際にその勘を持ってして英雄となり、スキルとして『天性の勘』を得ているのだ。
内心では半信半疑なところもあるけど、本当にその勘は確かな物なのだろう。
「あら。きっとそれは、ジョンさんに対して落胆してたわけではないと思いますわ。最近少し、取り込んでる事情がおありみたいですの。」
ナルキアさんの言葉で思い出した。
ファントム様は、最近執務時間中に自室に戻る様になってきたことだ。
自室で何を為されているのかは知らないが、きっと神様ネットワーク関連で悩みがあり、それの対応に忙しいのだろう。
我ら秘書官一同の見解では、そうだとされている。
だからジョン少佐が感じ取った落ち込んだ雰囲気というのは、きっとその悩みに関することなのだろう。
「ああ、私のこととは別口で悩んでおられるのですか。こう言っては何ですが、少し安堵しました。」
そう言って、柔らかく微笑むジョン少佐。
肉食動物を連想する風貌なのに、彼が微笑むと、まるで穏やかな草食動物に見えてくるから不思議なものだ。
「それはそれとして、今後の説明をお願い出来ますかね?私は考えるのが苦手なので、出来れば慣れている戦場が良いんですが。」
頭を掻きながら照れるように笑うジョン少佐。
その姿を見て、既に俺は肩から力が抜け、ジョン少佐の醸し出す穏やかな空気に慣れつつあった。




