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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第一部:世界の管理、始めました。
17/59

邪神サイド:魔族達の苛立ち。


 荒れ果てた荒野を見やる。

 そこにはかつて、人間共が暮らしていた街があった。


 喜び、楽しみ、愛し合う。

 怒り、悲しみ、嘆き、恨み、欲する。

 様々な感情が入り混じった場所だ。


 だが、既にそんなものは存在しない。

 この場所には、何も存在していないのだ。


 我ら、邪神様の下僕達が、完全に壊してしまったのだから。




「ヴァトゥク様。」



 荒野を眺めながら過去の街並みを思い出していると、部下である下位魔族から声を掛けられる。

 人の姿を僅かに歪めたような姿をした、下位魔族。

 邪神様の御姿を写し取りきれなかった者達。


 我ら魔族は、創造主であられる邪神様の御姿に似せて作られた。

 邪神様は元神族であり、人間も神族に似せて作られたので、我々の姿は人間とも近い形をしている。

 私のような中位以上の魔族は、我らが邪神様と非常に近い姿をしているのだが、それ未満の下位魔族達は、邪神様からは程遠い見た目をしていた。


 下位はいびつに顔や身体が歪み、魔物に至っては知能すらろくに持たず、動物の部位を混ぜたような容姿をしている。。

 私としてはそのような者達を同胞と認めたくなど無いのだが、現在の局面がそれを許してはくれない。




 我らが邪神様の率いる勢力は、神族共が呆けて寝ている隙に、全世界に対して同時大規模侵攻を行った。

 その結果、神族共は対応が間に合わず、壊滅的な打撃を加えることに成功する。

 その後も支配世界に僅かに残した人類から、我らの糧となる絶望を搾り取りつつ、残った神族共の支配世界を侵食していった。


 全ては順調だったのだ。

 あの時が来るまでは。


 突如として現れた、『英雄』と呼ばれる敵の登場。

 英雄共の参戦により戦局は五分へと戻され、現在は徐々に邪神勢力が押されていっている。


 英雄共は、我ら邪神様の下僕の力を糧として生まれ、育つ。

 人々の絶望を糧に育った我らを殺して、力を奪い育つのだ。

 つまりは、絶望を希望に変えるということになる。


 我々は神族の力となる信仰を、人類に絶望や嘆きを与えることで打ち消し、神族共の力を削り取りながら侵略してきた。

 だがそんな我らの戦略は、英雄の登場によって一気に覆されることになった。

 例え信仰の取得を妨げても、英雄共は我らを倒すだけで戦力を増すことが出来るのだから。


 そんな英雄共の登場によって、忌々しいことに獣に等しい容姿と知能しか持たない魔物すら戦力として用いねばならないぐらいに、邪神勢力は追い込まれていったのだ。



「何だ。」



 醜悪な下位魔族の呼びかけに、隠すこともなく不機嫌な声で応える。

 現状を考えれば、下位魔族どころか魔物であっても使わなければならない。

 分かっていても、苛立ちを消すことが出来なかった。



「神族の張った結界の一つが、弱まる兆候を見せております。」


「……そうか、分かった。さっさと下がれ。」


「はい。」



 用件を聞き終わると、早々に下位魔族を追い払う。

 結界が弱まっていると聞けば朗報に思えるが、何故弱まっているのかを知っている身としては素直に喜べない。


 我々は知っているのだ。結界が張られた理由を。

 神様ネットワークとやらの存在を。




 今でこそ、結界に閉じ込められたがために出来なくなってしまったが、結界が出て来るまでは他の世界を侵略している邪神勢力と連絡を取り合っていたのだ。

 その中でも、最も警戒すべきと挙げられていた情報が、神様ネットワークによる結界である。


 決して壊せず、通り抜けることも出来ない結界。

 そんな結界を、世界全土に広がる邪神勢力を分断するように張られてしまう。

 そして、戦力の低い地域から結界が解放されていき、我々は英雄共を育て増やすための餌とされるのだ。




 我々だって、それを知っていて何もしないほど愚かではない。

 過去に別の世界で結界が張られた時。結界の一部が解かれた瞬間に、残っていた中位魔族を含めた全軍で敵の前線に襲撃を仕掛けたことがあった。


 だが、相手には管理に携わる神族や天使も居るのだ。

 大抵は十把一絡げの低級神なのだが、それでも中位以下の魔族では倒すのは難しい。

 しかも英雄共が新たに簡易結界を張り直しているらしく、簡易結界は壊せはするものの、壊すのに手間取ってしまう。

 時間は相手の味方だ。時間を掛ければ、相手は徐々に英雄を増やしていく。

 しかし、速攻で攻め落とすには、こちら側の戦力が決定的に足りないのだ。


 ならばと、分断される際に戦力が低い地域が出来ないようにしようと、事前に戦力を分散させたことがあった。

 こうすれば、例えどの結界から解放されたとしても、むざむざと英雄共の餌となることはない。


 だが結界を張る前に、どこからか育ちきった英雄共がやってきて、我々を間引くように襲撃していった。

 均等に分けてあったはずの戦力が、結界が張られる時には戦力が偏るように調整されるのだ。

 その扱いはまるで、家畜のようですらある。


 今まで人間共を家畜のように扱い、負の感情を喰らってきた我らが、逆に餌とされてしまっているのだ。

 屈辱以外の何物でもない。


 しかし、それに抗う方法が無い。

 分かっていても、避けることが出来ない。

 邪神様も戦力の増強に励んでいらっしゃるそうだが、英雄共の生産・成長速度はそれを上回る。


 我らは人間を狩って支配せねば負の力を得られないのに、英雄共は人を守りそれをさせない。

 その上で、我々を倒すだけで力が増すのだ。

 不快極まりない上に、敵にとっては非常に効率の良いやり方だ。



「……全ての結界が解放されるまで、か。」



 そんな我々の成すべきことは、全ての結界が解放されるのを待つだけ。

 それまではなるべく戦力を減らさないように、戦力を温存しながら英雄共に抵抗を続けるのだ。

 弱い魔物を英雄共に捧げることとなり、英雄育成の一端を担ってしまうが、それでもそうするしか勝ち目がない。



「結界が無くなれば、増援が来る可能性もある。」



 邪神様の下僕達は、人間共が長い歴史の中で積み上げてきた負の感情によって、ほぼ無限に湧き出してくる。

 だが、そうして現れたばかりの下僕は弱いのだ。

 人の負の感情を喰わねば、とても戦力にならない。


 運良く都市内に高い知性を持つ魔族が産まれたならば、そのまま街に潜伏して負の感情を喰らって成長し、内側から攻めることが出来る。

 だが、それも運任せでしかない。


 そんな我らの唯一の頼みは、邪神様が不定期に行う全世界同時侵攻。

 神族の不意を突きつつ、戦力を削る戦法だ。


 これも、現状の戦力差だと焼け石に水程度の効果しかないのだが、現在邪神様は新たな力を得るために日々研究なさっているとのこと。

 時間稼ぎにしかならないが、その時間が今は重要であるらしい。


 そんな時間稼ぎの奇襲だが、時には成功する時もある。

 英雄が生み出される世界にて、英雄共を屠り、世界の再支配に成功した例があるのだ。


 それは、僅かな可能性に過ぎない。

 普通であれば、そんな物に縋るなど有り得ないことだ。


 しかし、それに縋るしか方法が無いのだ。



「この世界の管理神が、間抜けであれば良いのだが……。」



 間抜けであるならば、増援が来た時の反攻に成功する可能性が高まる。

 神様ネットワークで世界を管理する神族共は比較的能力が低いらしいので、間抜けな神が居る可能性もあるのだ。



「我らが主、邪神様よ。どうか、我らに栄光を。」



 嘗て、人間が栄えていただろう荒野を見つめながら呟く。

 我らの世界侵略が成功することを祈って。




 ―・―・―・―




「クソがっ……クソがクソがクソ共がっ!!」



 やってらんねぇ。

 ふざけんな。

 クソったれめ。


 悪態を口に出しながら、それでも足りないと心の中で追加で罵倒を吐き出す。

 下位であっても魔族である自分が、なぜ今戦わなければならないのか。

 その不満を込めて、全力で腕を振った。


 振られた腕は、人間の兵の形をした木偶を弾き飛ばす。

 森の木に衝突して転がった木偶は、ガードした片腕が折れてあり得ない方向を向いていた。

 しかし飛ばされた木偶はすぐに起き上がり、痛みなどな無いかのように残った腕で銃撃を再開する。



「半包囲を崩すな!敵に合わせて移動しながら撃て!」



 金髪の指揮官らしい人間が、そう叫びながらも撃ってくる。

 あれが噂の英雄なんだろう。

 奴らが放つ銃弾は、人間共が撃つ物より格段に重く、痛い。

 それでも痛いだけで、我ら魔族を討てるほどの強さではない。


 だがそれも、まだ育ちきっていないからなのか、英雄の中でも弱い者だからなのかは分からない。

 まだ皮膚を貫くほどの威力は無いが、いずれは自分を討てる英雄が出てくるかも知れない。

 そう思うだけで、反吐がでる。



「うっせぇんだよ!!さっさと死にやがれ!」



 俺は叫ぶが、銃声にかき消されて相手に聞こえてるのかも分からない。

 苛立ちを解消するために、兵士を出してるだろう英雄の元へと一気に詰め寄る。

 人では出せない速度で、森の木々の隙間を縫うように駆けながら突撃した。


 だが、英雄まであと一歩というところで視界が真っ暗になった。

 上から下へと落ちていくような浮遊感。

 勢い余って、目の前に存在しなかったはずの壁にぶつかり、更に落ちていく。



「落とし穴に落ちたぞ!撤退だ!指示通り、森中に仕掛けた罠に嵌まるように、ルートを進め!」



 銃声が鳴り止んだかと思えば、神経を逆撫でする様な明るい声で英雄が言った。


 俺が、落とし穴に落ちた、だと?

 これから逃げる、だと?

 しかも。

 あろうことか、また俺が、罠に嵌まるだと?


 怒りで血が沸騰するかのように、全身が熱くなる。

 穴の底に仕掛けられていた粗末な木の棘を足でへし折り、穴から出るべく全力で跳躍した。

 少し力が入りすぎたのか、木々の上へと出てしまいそうになる。


 だが、木々の枝葉に隠された網にぶつかり、俺の身体は止まってしまった。

 穴から飛び上がることまで計算して、網を仕掛けていたらしい。

 俺を、どこまでおちょくれば、気が済むのだ。


 全力で手足を振り、紙を裂くように網を千切って壊す。

 大地に降り立ち周囲を見回すが、既に敵の姿は見えない。

 音もなく、臭いで位置も判別出来ない。

 穴の底には糞尿を撒かれていたようで、鼻が上手く働かなくなっていた。



「クッソがっ!逃げやがった!俺から、俺様からッ!!」



 まんまと逃げられたことを悟って地団駄を踏む。

 地面がへこみ、大地が揺れる。

 英雄を狩りに来たはずが、英雄におちょくられて逃げられたのだ。

 悔しくて、憎くて堪らない。

 こんな結果では、前線から後方へと戻ることが出来ない。


 その事実がまた俺を苛立たせ、憤りを発散するために怒りの叫び声を上げた。

 だが、静寂の森の中で響き渡る叫びが「負け犬の遠吠え」という言葉を思い出させ、そのことに更に苛立つだけだった。




 ―・―・―・―




 魔族は、本来前線に出るべき存在ではない。

 結界が張られる以前であればまた違うのだが、結界が張られ、戦力温存が戦略目標となった今は違う。

 それなのに出撃を命じられ、下等な魔物と共に戦わねばならなくなっていた下位魔族である俺は、苛立ちが募っていた。


 俺は下位魔族だが、魔物の特徴も備えている。

 腕は二本ではなく四本生え、頭からは山羊の様な角が生えている。

 その代わりに顔立ちや体型は歪んでなく、中位魔族並に邪神様に近かったのだが、その角と四本の手は異形の姿であり、まるで魔物を彷彿とさせた。


 その事が、現在解放されている結界では最上位の存在であり、戦場の総指揮も務める中位魔族のヴァトゥクには不満だったのだろう。

 ヴァトゥクからは下位魔族として扱われず、魔物のように扱われることになった。


 結界が張られるまでは、まだ良かった。

 その頃であれば、他の中位魔族の方々が庇ってくれたのだから。

 だが俺を庇ってくれた方々も、今では結界で隔離されていて連絡が取れない。


 結界が張られてから、ヴァトゥクの俺への対応は当然の如く悪化した。

 その結果が、魔物に混じっての前線行きである。


 容姿のことで蔑まれるのはまだ良かった。

 だが、力に関しては許せない。

 下位の中でも、俺は中位に近い力を持っているというのに、温存すべき戦力と判断されなかったという事実が許せない。

 これは、俺にとってこの上ない侮辱であった。


 だから、英雄を狩ってやろうと思った。

 自分ならば産まれたての弱い英雄なんぞ、赤子の手を捻るように仕留めることが出来るはずなのだから。

 そして、実績を立てればいい。

 いくら俺を嫌っているヴァトゥクと言えども、戦力になると証明されれば俺を後方に下げないわけにはいかなくなるのだから。




 だが、何度やっても逃げられる。

 一応最初は何度か倒せていたのだが、あの金髪が居る時だけは何故か逃げられてしまう。

 罠に嵌められ、不利な地形に誘い込まれ、臭いや音を誤魔化して逃げ切られる。

 雑魚でしかない産まれたばかりの英雄に、俺が遊ばれているのだ。


 そのことが他の下位魔族に伝わってからは、ヴァトゥク以外からも蔑みの目を向けられるようになった。




 ふざけるな。

 俺は、俺は決して弱くなんかない。


 だが、行動で示せていないのだから言い返せない。

 ただただ、苛立ちだけが募る。


 その苛立ちを解消するためにも俺は、今日も戦場へと向かう。



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