安易な選択が、危機一髪すぎる。
「それでは次の催しは、我らが神であられるファントム様が用意した物でございます。」
舞台の上で、司会進行を行うエーリッヒがそう言った。
おい。ハードルを更に上げんな。
お前ら俺より頭良いんだから、失敗した時のリスクを考えろよ、おい。
楽しい催し物ってイメージを、景品が貰えるかも?って風にイメージを変える言い方で興味を引けばいいんだよ。
それならナルキアがビンゴを知ってて微妙な反応でも、景品に釣られてくれるかも知れないだろうが。
っつーか、これってナルキアがビンゴを知らなくても、ナルキアがビンゴで当てられなかったら盛り上がらないよな?
ちょっと、歓迎会最後の最後で盛り上がるかどうかが運要素ってどうなんだよ。
誰だよ、ビンゴとか用意したヤツは。
俺だよ。
「こちらの機械。これはビンゴ抽選機と呼ばれるもので、回転させることで中に入っている玉を一つ吐き出します。そして、出てきた玉の模様と事前に配っておいた紙に書かれた模様が同じ場合は、その模様をお手元のペンで潰して下さい。縦横斜めのいずれかで、潰した模様が五マス揃ってラインが出来れば、こちらの景品を選ぶ権利が得られます。先着順ですので、是非とも神に。ファントム様に、自分のシートが当たることを祈るように。」
最後の部分で会場から笑い声が上がるが、俺の隣に居るナルキアから笑い声は上がらない。
というか沈黙してる。どうしよう、怖くて顔が見れないんだけど。
「ナ、ナルキア。ビンゴを知っていたか?」
「……ええ。当然私の世界にも有りましたが、まさかこれは?」
「なんだ、知っていたのか。サプライズのためにまだ紙を配ってなかったんだがな。ほら、これがナルキアのシートだ。」
やっべぇ、ビンゴ知ってたかぁ。
いや、その方がルールを理解しやすくていいかもなんだが、期待感が薄れて盛り上がりが……。
やっぱりアレだな、軍人英雄三人が盛り上げ過ぎたのが問題だ。
それはともかく、俺はナルキアに三枚のシートを渡した。
本当なら俺が三枚でナルキアが二枚だったのだが、当たらなかったらちょっと洒落にならんので、ナルキアに渡すシートを一枚増やしておく。
「これは……他の方のシートは違うシートみたいですが。」
「これは抽選機を神様ネットワークで出した時に一緒に出たシートだ。俺とお前のシートだけ、その時のシートにしてある。」
お手製より綺麗な出来だったしね。
五枚しか無いので軍人連中に渡すと贔屓になると思って、俺とナルキアだけ綺麗なシートを使わせてもらうことにしたのだ。
「そうですの……これは本当に、面白い催しですわね。ファントム様のシートは何枚ですの?」
「ん?俺は二枚だが。」
「合計五枚の内、三枚も私に頂けますの?」
お?なんか結構やる気だな。
何で五枚あると知ってるのか分からないが、俺と張り合ってみせるのか。
まぁ、盛り上がってくれるなら何よりだ。
これならテンションダダ下がりも避けられそうだな。
「まぁ、お前の歓迎会だからな。揃うことを祈っていてくれ。」
「ふふふ。神様と共に運試しですか。楽しませて頂きますわ。」
なんだ、十九歳のロリもどきだけど、子どもっぽいとこもあるんだな。
楽しんでもらえるなら、企画した俺も嬉しい限りだ。
「それではファントム様。抽選機を回すために舞台へ。」
「ああ、すぐ行く。……一応言っておくが、不正はしないぞ?」
「ええ、分かってますとも。不正をしては意味がありませんものね。」
そうだとも。
不正があった時点で、ガチャはもうガチャじゃなくなるんだ。
ガチャで欲しいキャラが出ないからと言って買うなんて邪道なのだ。
いや違う。ビンゴだビンゴ。
まぁ、不正は良くないよねって話だ。
俺は壇上に上がり、抽選機の後ろに立つ。
「それでは、ビンゴ大会を開始致します。」
―・―・―・―
ガチャを引く時は、心静かに穏やかに。
決して欲を出すことなく、無心であらねばならない。
無我無欲の境地に至れば、自ずと結果は訪れるのだから。
既に出た玉の数は十ニ個。
俺の持つ二枚のシートは、それぞれ五つと六つのマスが埋まり、どちらのシートも一つずつリーチが出来ている。
これも、俺の無欲の賜物である。
ちょっと不正を疑われそうなので、出来れば一番にビンゴが出るなんてのは避けて欲しいんだが。
現在、まだビンゴ当選者は居ない。
模様の数は七十五種類。ビンゴシートが二十五マスで、中央一マスだけ初めから埋まっているので二十四マス。
大体三分の一の確率で模様が一つ埋められるのだから、現時点でビンゴが出る可能性は非常に低い。
それでも、大体二十個も玉が出れば、運が良ければ最初の当選者が出て来るだろう。
俺が一番に当たるのは避けたいが、これも運だ。
勝負の世界は常に残酷なのである。
だから、最初に俺が当たっても誰も文句言うなよ?
「それでは、次に参ります。」
司会進行のエーリッヒは上手いこと場を盛り上げながら進行をしている。
俺のシートと同じ模様配置が書かれた大きな紙を貼り出し、俺のシートの進行状況を公開して、面白おかしく野次りながら進めているのだ。
神様相手に野次るなんて。
と、真面目な英雄達が言い出しそうなことだが、これは俺が提案したことだ。
以前会社であったレクリエーションで、部長がこれをやって盛り上がったのだ。
結局その時の部長は当たらなかったが、それでも終盤まで盛り上がったのだから、きっとこれはウケるに違いない。
それでも野次るのはちょっと……と渋っていたが、盛り上がらない方が俺としては困るのだ。
だから、面白く野次れば野次るほど俺は嬉しいと伝えて、何とか了承させた。
「さぁ、ファントム様は既にリーチが二つ!最初の当選者はファントム様となってしまうのか?それを許さない強運の持ち主が現れるのか!ここからが本番です!」
ノリノリだな、このエーリッヒ。
秘書のエーリッヒは澄まし顔だが、司会のエーリッヒは都市巡回のエーリッヒだ。
やっぱり生活環境が違うと、性格も変わるんだろうか。
「それでは、ファントム様どうぞ。」
その言葉に合わせて、俺は目を瞑って心を無にしながら取っ手を回す。
決して何も考えない。
物欲センサーはどんな小さな欲ですら見逃さないのだから。
「出ました。次はこの模様です!」
玉の模様を確認して、その模様が書かれたA2用紙より少し大きい紙を取り出して会場へと見せる。
俺も確認するが、今回は外れらしい。
まぁ、無心であれば当たるという物ではないのだ。
無心でなければ、邪な心が外れを出させそうな気はするのだが。
「揃いましたわ!」
会場から声が上がった。
この会場で唯一の女性の声。
普段のおしとやかさからは想像できないような、張りのある声が会場に響き渡った。
おお。
まさか、ナルキアが最初にビンゴとは。
一切不正は行ってないので、この結果には驚きだ。
だが、これならナルキアも楽しめてるだろうし、俺が一番にビンゴになるなんて興ざめな展開になるわけでもない。
「おおお!今回の主賓であるナルキア嬢が、今夜最初の当選者となりました!ナルキア嬢は壇上へどうぞ。皆さん、盛大な拍手と共に彼女を讃え、彼女の幸運にあやかりましょう!」
会場から笑いや指笛が響きながらも、盛大な拍手がナルキアに向けられる。
ナルキアは恥ずかしがるでもなく、堂々とした態度で舞台に登ってきた。
「ファントム様。申し訳ありませんが、今宵の栄誉は私が頂きましたわ。」
「ははは。負けてしまったようだな。まぁ、主役に当てられたんじゃ、俺も何も言えないな。」
「……ファントム様?本当に不正はしてませんのよね?」
ナルキアが真面目な顔で聞いてきた。
そんなに心配しなくとも、不正なんて出来る技量も、細工が出来る様な知恵もない。
俺は詐欺師でも賭博師でもない、ただのサラリーマンなんだから。
「それは、誓ってない。神である俺が誰に誓うか分からないなら、俺が俺自身に誓ってもいいさ。」
「そうですの!では、本当に私の運で当たったんですのね!」
もの凄い喜びようだな、おい。
自分の事以外には興味がないと思ってたんだが、これだけ喜んでくれるなら本望だ。
景品で余程に欲しいものでもあったのか?
化粧水やら香水やら、なんで資材にあるのか不明な物を適当に選んで出しといたんだが、これで喜んでくれるなら、今後何かあった時の褒美にするのも良いかもな。
「これで……これで。私は今夜、思い通りの夢を見れる権利を得られたのですね!」
……ん?
思い通りの夢?
なんだそれは。
って、ナルキアが持ってるビンゴシートが光り始めたぞ!?
ビンゴになった列の模様がシートから飛び出してきて、青く光ってる模様がナルキアに吸い込まれ始めた……?
いや、なんだこれ。
ちょっと待て。これって、普通のビンゴじゃないのか!?
「ああ……。まさか、歓迎会でこのような権利を得られるとは!ファントム様には感謝の念が尽きませんわ!不正なくビンゴを競い、勝利した者には望みが叶えられるかも知れない『希望と絶望のビンゴ』を用意して下さるなんて。ファントム様は、なんて盛り上げ上手なんでしょう!」
……『希望と絶望のビンゴ』?
なんだ、それは。
物凄く不吉な名前なんだが。
「『希望と絶望のビンゴ』、か。」
「……もしかして、知りませんでしたの?」
「いや、大体は知っているが……他の奴らのためにも、詳しく教えてやってくれないか?他の英雄には何も言ってないのでな。」
なんか、ここで知らなかったなんて言ったら俺の株が急落しそうな気がする。
なのでここは、処世術発動だ。
知ってたけど、サプライズの為に黙ってた。
だから、他の奴らも知らないから教えてやってくれ。
これで俺も説明が聞ける。
うん、完璧な計画だな。
「これは、私の世界に居た伝説の魔術師特製の魔道具ですわ。これを使ったビンゴで一番に揃えることが出来た者には、揃った模様に応じて願いが叶うか、願いが一生叶えられなくなるかの、どちらかの効果を齎す品ですわ。」
へぇ。そうなんだ。
だから、他の娯楽品より信仰の値段も高かったのね。
……って、え?
願いが叶うのはいいけど、一生叶えられないって?
「願いが一生叶えられない、とは?」
「揃った模様の組み合わせによって、得られる望みが違うんですの。もしも、本心から望んでいる願いと得られた願いが一致すれば望みが叶い、そうでなければ他の模様の組み合わせから一つ、望んでいた筈の願いが一生叶えられなくなる呪いが齎されるんですの。」
……それって、控えめに言って呪いの品じゃねぇか!?
そんな危険なもんだったのかよ!
ってか、ナルキアも先に止めろよ!
どう考えても祝いの場で出すようなゲームじゃねぇだろ!
って、こいつはもしかしたら、そういうギャンブルも好きなのか?
嫌だぞ、俺は。
ナルシストなだけでもキツいのに、更に賭博が好きな危険人物とか勘弁してくれ!!
「こんな場に出すぐらいですから、呪われてもそれを解く方法も用意してあったのでしょう?」
「まぁ、な。」
「ふふふ。流石ファントム様ですわ。そうだと思ってましたけど、言わないことで緊張感を持たせようだなんて、イタズラもお上手ですのね。」
何が「まぁな。」だよ。
そんな方法知らねぇよ。
信仰を使った『傷病完治』で治るか?
いや、呪いって言ってたから別物か。
多分治せる方法もあると思うけど、後で調べておかないとな。
今回は呪われなくて、本当によかった。
「それにしても、それは英雄が使う資材として交換所にあったのだが……それを消費して戦う英雄とは、どんな英雄なのだか。」
「きっと、世紀の賭博師でもあられた魔道士のチェコーティ様ですわね。自らの幸運を利用して、博打要素の強い強力な魔道具で邪神の手勢と戦ってらした方ですわ。」
賭博師の英雄って……世界が変わればなんでもありだな、おい。
いやまぁ、見たことがないが、ナルキアも魔道士だから一応魔法が使えるらしいし。
魔法がある世界があるなら、そんな変わり者も居るのか?
ある意味で、軍人ばかりなこの世界は当たりだったんだな。俺の常識からそんなにズレてないし。
女性英雄が居ないのが不満だったが、外れが居ないのは良いことだったんだな。
「これで、今夜は素晴らしい夢が見れそうですわ!ふふふ……私が、私の美しさの……ふふふ……。」
ちょっと、ヤバい感じでトリップしてらっしゃる。
まぁ、喜んでくれてるなら良いんだが。
俺はまぁ、当たらなくてちょっと残念だが、そこまで見たい夢があるってわけじゃないしなぁ。
というか、俺のシートの模様の組み合わせが何の望みになるのかも分からんし、逆に当たらなくて良かったかもしれない。
ともあれ、彼女にはきっとどうしても見たい夢があったんだろう。
いや、それがどんな夢なのかは絶対聞きたくないが。
大体予想出来るし。
「今夜は素晴らしい夜になりそうですわ。改めて有難うございます、ファントム様。」
「ん?あ、ああ。まぁ、なんだ。景品の方も好きなのを一つ選んでいってくれ。」
「ええ。珍しい化粧品もありますし、私の美を引き立てるられるかも知れませんので、そちらを貰っていきますわ。」
「そうか。まだシートは残ってるしな。別の景品も狙って、まだまだ楽しんでいってくれ。」
「はい!本当は今すぐ寝てしまいたいところですが、これは愛らしい私の創造を祝した歓迎会ですものね。最後まで楽しませて頂きますわ!」
そう言って、ナルキアは舞台上から降りていった。
事の成り行きを見守っていた英雄たちから歓声が上がる。
きっと、盛り上げようとしてくれているのだろう。
まぁ、そんなサプライズな展開もあったが、その後も順調にビンゴ大会は進んでいき、大盛り上がりの中で歓迎会はお開きとなったのであった。
しかし、あの神様ネットワークの資材はとんでもないな。
今回は害がない物だったから良かったが、下手すると負けた相手の魂を奪うボードゲームとか混じってそうだ。
暇つぶしに何か珍しそうなのを出そうかと思ってたけど、それはやめとくか。
うん。
今度、普通に元居た世界にあったボードゲームを作らせよう。
それなら、変な物になることはないしな。




