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ソーシャルな神様、始めました  作者: 九重市 九十九
第一部:世界の管理、始めました。
14/59

安易な選択は、ハードルを越えられるのか?


 あの神殿長は出来るヤツだったな。

 俺の視線を汲んで、あの後すぐに退場の促してくれたのだから。

 本気で助かった。もう、膝から崩れ落ちないか不安で堪らなかったし。


 俺は三十分の休憩を終えて、トイレから出ながらそう思った。

 トイレとは、なんて素晴らしい場所なのだろうか。

 何故、トイレはあんなにも落ち着ける場所なのだろうか。

 俺の足もすっかり震えが止まって、しっかり立てる様ようになっている。


 うん。これなら筋トレもしなくて良さそうだな。

 アレだアレ、緊張して腰が抜けたってヤツだっただけだから。

 決して、筋トレするのが面倒だってわけじゃないから。




 さて。今日は休息日で、俺の仕事もお休みだ。

 秘書達も休息日は休みにしてあるので、今執務室に行っても扉の前に立っている警備員以外誰も居ないだろう。


 我が神様カンパニーでは、週休二日制を採用しております。休息日とその前日がお休みです。

 その代わり祝祭日は基本休みません。まぁ、元居た世界でも一部公務員は祝日休みはなかったからね。

 俺も祝日は働くんだから、文句は言わせません。


 英雄たちの仕事は、主に秘書、巡回警備、戦争だ。

 秘書は事務仕事を担当する俺の側近で、現在は四名だけだが、巡回警備と戦争には高柳君、エーリッヒ、クロードの量産英雄が大量に居る。

 そちらも現場の人手が途絶えないように調整して、ローテーションで休日を取れるようにしてある。

 巡回警備と戦争は、経験値的な戦力と負担の分担のためにも、所属もローテーション制で、現状の人員数だと一ヶ月に一週間程度戦場勤務をしたら、あとは巡回のお仕事だ。


 ……まぁ、この辺のシステムは全部秘書達が考えたんだけどね。

 むしろ、休みは要らないとかほざいてたから、無理矢理二日休みにしたぐらいだ。


 俺が休みたいんだよぉ!!

 部下が働いてんのに上司が休めるかっ!!




 まぁそれは置いといて。

 今日はゆっくり出来る休日である。


 とは言っても俺は安々と神殿から出れないので、行動範囲は神殿内のみに限られる。

 神殿は結構広くて、英雄たちの居住スペースである宿舎が男女別に用意されてたり、官僚が勤める区画があったり、食堂やら倉庫やら大浴場やら、一通り大人数が生活出来る環境が整っている。

 中庭もあって、そこには草木や花々が植えられており、見る者の心を癒やしてくれるヒーリングスポットだ。

 全体的に見てもとても完成度の高い造りであり、一般的な神殿らしいイメージとは違ってる気もするが、それでも神様が鎮座するのに相応しい建物だと言えよう。


 だけど、遊べる場所がない。


 英雄宿舎に遊びに行こうにも、日頃から汗水たらして働いてる英雄達の貴重な休日を、俺みたいなお神輿神様が邪魔するのも気が引ける。

 中庭は確かに綺麗に整えられてて心が癒されるが、ぶっちゃけたまに散歩で通れば十分で、休日を一日潰せるわけでもない。

 官僚は殆ど面識ないし邪魔しちゃ悪いし、倉庫はあの倉庫番の人がちょっと怖いから遊びに行きたくない。というか、威厳云々の関係があって、人間の所には遊びに行けないし。

 食堂なんかは基本的に営業時間が食事時だけに限られているんだが、それ以外の時も休憩場所として解放してある。

 なので、英雄達は休みの日にそこに集まって駄弁ったりしてるらしいし、俺もそこに参加出来ればと思わなくもないが、結局英雄の邪魔になりそうで嫌だ。


 ああ……。

 こういう時に、俺を慕ってくれる女性英雄が居ればなぁ。

 中庭デートとか、食堂で食べさせっことか、俺の部屋で家デートとか。


 まぁ、そんな相手居ないんですけどね。

 そもそも俺、元居た世界でもモテなかったし。

 ナルキア?休みの日は一日中鏡の前でポージングしてそうな人はちょっと……。

 本当にしてるかは確認してないけど、本当にしてそうだから恐くて聞けない。


 それじゃあ、俺は休日にどうしているのかって?

 一日中、部屋に居ますとも。


 暇なんだよ、暇。

 元居た世界だとソシャゲで暇が潰せたし、ソシャゲが無くてもテレビでも漫画でもネットでも幾らでも暇を潰せたんだよ。

 仕事が休みの日には、友達とカラオケ行ったり呑みに行ったりしてたんだよ。

 でも、そんな娯楽用品も施設もないんだよな。

 本気で暇で、どうしようか。




 ん?ちょっと待てよ。

 そういやあったよ、娯楽用品。


 俺は神様ネットワークを起動して、交換所の資材一覧をチェックする。

 酒すら用意してある、あのカオスなラインナップの資材交換所だ。

 そこには、将棋っぽい駒とか、チェスっぽい駒など、多分ボードゲーム由来っぽい資材が幾つも存在していた。


 おお、これいいじゃん!

 そうだよ、これで遊べばいいじゃんか。

 これを英雄たちの娯楽にってことで渡して流行らせれば、休日に食堂や宿舎で俺も一緒に遊んでも問題ないじゃん。

 異世界の品だからゲームのルールが分からないけど、それっぽい駒を集めて将棋やチェスのルールを使って遊べばいいしな。


 さっきの演説で「世界の為に祈りなさい」とか言っといてこんな事に信仰使うのはどうかと思うけど、非公開会計ってことで。


 これも、英雄の皆さんが快く働くためなのです。

 私だって、ガチャのための信仰が目減りするのは心苦しいんです。


 俺もお前も一緒に苦しむなら問題ないよな?

 うんそうだな、決めた。神様の俺が決めたんだから万事解決だ。


 ……ん?ちょっと待て。

 こ、これは……。




 ―・―・―・―




「ナルキアは帰ったな?」



 翌日。

 俺は仕事が終わった軍人秘書三人を集めて、ナルキア歓迎会の計画を立てるべく会議を開いていた。

 残業させる秘書達には悪いが、元居た世界の会社でもこういったことは残業でやっていたので、こういうことは仕事後の方が慣れててやりやすいのだ。

 サービス残業だけど、ぶっちゃけ俺は給料すら貰ってないんだし、そこは我慢して欲しい。

 いや、俺は碌に仕事してないんだけども。



「今日はナルキアの歓迎会のために、少し面白い物を用意した。」


「面白い物、ですか?」



 ふっふっふ。

 三人共、頭の上に疑問符が浮いてそうな表情だな。

 だが、これを見せて説明すれば、きっと納得出来るはずだ。

 俺は机の下に隠してあったある物を取り出し、机の上に置いた。


 それは、台座に乗せられたガラス製の丸い瓶であり、その中には多種多様な模様が書かれた小さな玉がいくつも入っている。

 瓶の横には取手が付いていて、この取手を回すことで丸いガラス瓶を回すことが出来る。

 そして回転させると、ガラス瓶の中の玉が一つだけ出てくるのだ。


 あとは、分かるな?



「これは……なんでしょうか?」



 クロードが思案顔で聞いてくる。

 分からんかったか。

 まぁ、この世界には無い物だったのかも知れんしな。



「ん?これと似たような物を最近見た気がしますね……。」



 エーリッヒがそう言ったが、確信には至ってないようだ。

 そうそう。つい最近見たことがあるだろう?

 例えば、ナルキアを呼び出す寸前とか。



「えっと……もしかして、ガチャですか?」



 おお、高柳君は若いだけあって発想に柔軟性があるじゃないか!

 そうだとも。見た目は似てないが、一つだけ玉を出す機構はガチャ抽選機と似通っているのだ。



「惜しいな。これはガチャではなく、ビンゴだ。」



 しかし、ちょっと違うんだよなぁ。

 そう。これはビンゴゲームで使う、玉が出る機械。

 ビンゴ抽選機なのだ!


 ビンゴって何だ?と言いたげな顔をしている彼らのために説明してやろう。

 いやぁ、ちょっと性格悪い気もするが、いつも俺より仕事が出来る奴らに何かを教えるってのは気分がいいな。



「この紙を見てくれ。紙には、この機械の中に入っている、玉に書かれた模様が書いてある。」



 そう言って俺は、ビンゴシートを取り出した。

 ビンゴマシーンに五枚だけ付属していたシートで、縦五マス横五マスの合計二十五マスに模様が書かれたシートだ。

 本当は数字の方が分かりやすくていいのだが、新たに玉を作り直すのも手間だし、既に見本のシートもあるのでこのまま使用する予定だ。


 当たったマスを指で押すと穴が空く仕様にしたかったのだが、流石に面倒なのでそれはパスだ。

 歓迎会には、当日のシフトが首都内になっている英雄が、仕事終わりに来る予定なのだ。

 英雄全体でも既に数百人も居る中で、首都勤務のシフトになってる英雄は百人には届かないものの結構な数になってしまう。

 その分、シートの方もかなりの枚数を用意しなければならない。

 シートに模様やマス目を刻むのはハンコでも作れば簡単に出来るが、流石に々カッターで切れ目を入れるのは面倒だしな。


 俺は英雄たちにビンゴのルールを説明する。

 抽選機を回して玉を一つずつ出し、出た玉に書かれた模様をそれぞれが配られたシートと照らし合わせてチェックしていく。

 そして、縦横斜めのどれかで五マスのラインが一つでも出来たらビンゴ。

 ビンゴに当たった人は、先着で景品が送られるのだ。


 他のボードゲームよりも値段が相当高かったが、これなら歓迎会も盛り上がること間違いなしだ。何より、ガチャっぽいし。

 結局、暇つぶしのボードゲームを買うのは信仰を使いすぎてしまうので後回しになったが、これで歓迎会の出し物という悩みを一つ潰せるなら安い買い物である。


 景品についてはまだ考えていないが、そこは神様ネットワークの資材から出せば楽に用意出来るだろう。

 先着で選べる選択式にして、ナルキアが欲しがりそうな女性用の品と軍人用の品を混ぜておけば、ビンゴが当たったのに要らない物を貰って残念。なんてことにはならないはずだ。


 ナルキアの歓迎会だから女性向けの景品を少しだけ多めにするけど、軍人がそれを当てたら町娘にでもプレゼントすればいい。

 神様特製、異世界産の贈り物だぞ?効果は抜群に決まってる。



「おお、これは良いですな。今度似たような物を作って孤児院の子ども達にもプレゼントしましょうかね。」


「いいですね、これは。我々も初めてやるゲームですし、全員で楽しめそうです。」


「確かに、これならナルキア嬢も喜んでくれるかも知れませんね。流石ファントム様です。」



 クロード、高柳、エーリッヒも絶賛だ。

 そうだろうそうだろう。

 何せ、元居た世界でゲームセンターにも置いてあったようなゲームだ。

 大人でも子どもでも、楽しめるゲームだとも。


 何より、玉を出すのがガチャっぽくて楽しい。

 抽選機を回すのは俺の仕事だからな?絶対に譲らんぞ!


 ……何はともあれ、これで歓迎会の目玉は決まったのだ。

 あとは英雄諸君に一発芸やら何やらをやるように指示して、細かい所は彼らにお任せである。


 悲しいけど、俺って上司なのよね。

 部下の仕事を奪うなんて真似は出来ないんだ。

 本当に、悲しいことだ。




 ―・―・―・―




 そして歓迎会当日。

 歓迎会開催を決定してから一週間ちょっとしか準備期間がなかったのだが、思っていた以上にクオリティの高い催しになっていた。

 現在、量産英雄三人による催し物が終わったところだ。


 酒はないが、その分俺が資材一覧から呼び出した既製品の料理を出してある。

 それらは、邪神によって滅亡寸前で食料事情が困窮しているこの世界から見ても、相当高い水準の料理だ。

 元の世界で舌が肥えてる俺でも、美味いと思えるものだった。



「どうだナルキア。時間を掛けただけのことはあるだろう?」



 俺が用意したのは、この後予定されてるビンゴ大会と料理だけで、手間も何も、殆ど何もしてないのだが、素知らぬ顔でそう聞いてみる。



「ええ。歓迎会なんてちょっとした冗談だったつもりなんですけど、麗しの私を出迎える花道としては、上々でしたわね。」



 ほんとブレねぇな、コイツ。

 神様相手に上から目線って。

 俺は人間だから良いんだけど、他の神様達は本当にコイツに高評価を出してていいのか?

 ちょっと、温厚な神様多すぎだろ。

 普通に考えて、俺が本当の神様だったらキレてるぞ?



「何より、なんと言いますか……さきほどの演劇は、本当に高柳さんだけでの演目でしたのですか?」


「……ああ、まぁ。そうなんだが。そのはずなんだが。」



 ついさっき終わった余興の一つで、英雄諸氏による隠し芸披露大会があったのだが、その出来がちょっと、宴会芸のレベルを超えていた。


 クロードは、金が取れるレベルの大アクションを曲に合わせて披露してたし、エーリッヒは大きな四角い氷の塊を舞台に持ってきたかと思えば、総勢十人のエーリッヒが一斉に削り初めて、ハンマーでノミをリズム良く叩いて曲を奏でて、五分でエーリッヒ自身の彫像を作って「一人増えました!」とかやってたし。


 そんなクロードのアクションやエーリッヒの隠れた才能も霞むような出し物をしたのが、高柳君だ。

 なんと、同じ顔の高柳君だけで演劇を初めたのだ。

 その完成度たるや、もはやプロ並の演技だった。

 女性役も老人役も全部高柳君。

 声も演じ分けしてて、本当に全部高柳君なのか、近くに居た秘書の高柳君に聞いてみたぐらいだ。


 魔物によって街が壊滅し、引き裂かれた男女の恋物語。

 死んだとされた女性を探す男がなんとか女性を見つけ出すが、満身創痍だったために女性の腕の中で息絶えるという悲恋の物語だ。

 不覚にも、ちょっとウルッときた。

 俺の涙腺を攻撃するのはやめて欲しい。



「脚本、監督、役者に演奏。全て高柳でお送り致しましたが、如何でしたでしょうか?」



 俺たちの反応を見て、秘書の高柳君が笑顔で聞いてくる。



「全部高柳がやったのか?」


「生前も、部下の慰労に飲み会を開く際に、芸で盛り上げていましたので。」


「いいですわね……あの演目でしたら、私が特別に出演して差し上げても宜しいと思えるぐらいでしたわ。」


「お褒め頂き光栄で御座います、お嬢様。」



 そう言って優雅な礼をする高柳君に、それに応じて笑顔を返すナルキア。

 おい、舞台から飛び出して俺の近くで演劇始めるんじゃねぇよ。

 凡人の俺が浮いて見えるだろうが。



「さて、ファントム様。お次は例のアレとなっております。」


「ああ、遂にアレの出番か。」



 近くに居た秘書のエーリッヒが、次のプログラムの存在を仄めかす。



「あら、まだ私を祝う催しが続きますの?」


「食傷気味か?」


「いえ。今までのものでも十分満たされましたけど、まだ楽しめるのでしたら嬉しい限りですわ。」



 ……やっべ、ハードル上がった。


 というか、サプライズのために確認してなかったんだが、ナルキアの世界でビンゴがあったらどうすんだ、俺。

 ここまでの演目が凄まじすぎて、インパクトが薄れて落胆されかねんぞ?

 俺が用意したのが盛り上がらなかったら、他の英雄も申し訳なく思いそうだし、そうなると全体的に盛り下がって大失敗になるんじゃないか?


 ……テメーら英雄どもが本気出しすぎなんだよ!

 もうちょっと手加減しとけ、な?


 とは言っても、今更別の物を用意出来るわけもなく。

 遂に、俺が用意したビンゴ大会が始まるのだった。



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