有能なだけに何も言えねぇ……。
「魂は運営に売却するのもよろしいですが、今後の展開を考えるともっと英雄の数を増やしてもいいですわね。人手が余っても、新しく都市を建設すれば巡回の人手が必要になりますし、私ほど優秀でなくても戦場で育てておいて損はないはずですわ。」
はい、そうですね。すみません。
「戦争と巡回の英雄はローテーションにしましょう。私の美貌を見る機会を与えられないのも可哀想ですし、何より同じ英雄同士で実力に格差が出るのは宜しくありませんわ。」
確かにそうですね。ゲームと違って英雄にも意志がありますもんね。
「同じ顔の英雄がこうも多いと問題ですわね……。私のような絶世の美少女であれば何も問題ないでしょうけど、そうでないのでしたら市民も不安になると思いますわ。この際ですから逆に巡回の人手をもっと増やして、同じ顔に慣れさせてしまいましょう。」
やっぱり不安だったんだ。いや、逆に増やすってのは良い案だと思いますよ?
「週に一度、休息日にはファントム様に神殿で信徒の皆様へと演説をして頂きますわ。本当は私のような麗しの美少女を見たいのでしょうけど、神様であられるファントム様が直接お言葉を贈るほうが信仰をより多く得られそうですものね。」
……そうですね。ちょっと演説とか嫌ですけど、ガチャのためにも頑張ります。
「それと一緒に奇跡を起こしてみせれば、より多くの信仰を得られると思いますわ。奇跡をもってしても、私のような完成された美は創り出せないでしょうけど、病人を癒やしてさしあげるだけでも市民は神様の慈悲に感謝して、英雄達も仕事がしやすくなると思いますしね。」
……まぁ、神様ネットワークの機能で『権能貸与』を使えば、信仰を消費して病人を治すぐらいは出来ますしね。
それで信仰を増やせるなら、初期投資ってやつですよね。
「まだ先の話ですが、ファントム様が直々に各都市へ出向いてお言葉と奇跡を授けるのもよろしいですわね。神殿のある首都へ来て私の姿を拝めない不幸な市民のためにも、せめてファントム様が慈悲深くも来訪して見せるだけで、信仰集めにも大きな効果がでそうですものね。」
うっせぇ!せめてって何だゴラァ!喧嘩売ってんのかテメェ!?
……などと、言えるわけもなく。
言ってる施策は至極真っ当なので、俺は頷くマシーンとなるのみだ。
何だかんだ言って、俺は神様じゃなくて人間だしね。
英雄になるだけの偉業を成して、さらには実際に頭の良いナルキアさんに反論なんて出来ませんとも。
俺は『せめて』ていどの人間ですもんね。はい。
うぜぇ。
執務室で、大鏡が三つも置かれた席に座る、新しい秘書を眺めながらそう思う。
会話の節々に自己賛美が織り交ぜられてるのがうぜぇ。
書類を処理する手は止めないが、その合間合間でチラチラと鏡の方を見ながら、たまにポーズを取るのがうぜぇ。
黙ってれば美少女かと思ったら、ちょっとした仕草が芝居がかっててうぜぇ。
美少女が職場に入って、黄土色の砂埃が舞ってそうな空気が浄化されるかと思ってたら、あいつの周りだけなんか独特の空気が漂ってて浄化された気がしねぇ。
癒されねぇ。
全く癒されねぇ。
ただ、彼女の知能は智謀の値に見合う以上に高いらしく、書類の処理速度が格段に上がった。
それだけじゃなく、新しい施策や先を見据えた計画など、都市管理に慣れてない軍人達では思いつかなかったこともドンドンと提案してくる。
本当に、秘書としては非の打ち所がないぐらい優秀だった。
これでナルシストでウザくなければ最高だったんだが。
こいつを他の神様はどう扱ってるのかが気になって、態々ヘルプ本でチャットのやり方を調べて、質問用チャットで質問してみた。
すると意外にも、他の神様からの彼女の評価はかなり高かった。
どうもこいつは☆6レアリティの中でも最高峰の性能を持っているらしく、戦闘でも巡回でもその他の仕事でも難なくこなす器用な英雄らしい。
性格はどうなの?とも聞いてみた。
神様連中半端ねぇ。
あのぐらいの性格なら神族にも何柱か居たとか、人間らしくて微笑ましいとか。 あの濃い性格を全く気にしていないのだ。
これは、神様じゃない俺が間違ってるのか?
そう思うほど、神様達と俺との感性はズレていた。
こんなに人気があるなら、交換所で売ってしまえば良かったかも知れない。
なんで俺は、先に評価を調べてから創造しなかったのだろうか。
……いや、今後も多分調べずに創造すると思うけど。
だって折角ガチャから出したのに、調べ終わるまで創造お預けとか勘弁して欲しいし。
何よりあのチャットの神様連中は、感性が人間とは違うっぽくて信用ならねぇからなぁ。
やっぱり本物の神様達は、細かいことは気にしない大らかな心を持ってるんだろうか。
それでも、あのナルシストの自己賛美を許容するのはどうかと思う。
―・―・―・―
何だかんだで、ナルキアは執務室の空気に馴染んでいる。
ナルキアを創造してから二日しか経っていないというのに、なんとも適応力の高い女だ。
さっきの施策も俺が休んでた昨日の内に考えついてたというのだから、その有望さも脱帽ものである。
「ファントム様。神殿食堂から、酒類の備蓄が残り少ないと申請が来てますわ。」
そんなナルキアが、一枚の書類を持ってきた。
そう言えば、一昨日の愚痴飲み会でかなりの量を飲んだ覚えがあるな。
酒とかはある方法を使って、信仰を消費して補充している。
無駄遣いは勿体ないとも思うのだが……まぁ、心の潤いのためだし、多少はね?
「ああ……一昨日飲み会で飲んでから補充していなかったな。分かった、あとで補充しておく。」
「あら?私の歓迎会はなかったと思いますが、パーティーを開いてましたの?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の顔から血の気が引いていく。
やべぇ、歓迎会の存在を忘れてた。
確かに、一昨日の飲み会にはナルキアを呼んでいなかった。
そりゃ当然だ。主に俺がナルキアの愚痴を言うための飲み会だったのだから。
普通に考えたら、新しく来たナルキアも呼んで歓迎パーティを開くべきだろう。
「そんな風潮は我が社にありません。」と言い訳するにしても、普通にナルキア抜きで飲み会開いてる時点で言い訳がしにくいぞ、おい。
「まぁ、私は見た目が子どもですし、お酒の場に呼ぶのは遠慮したのかも知れませんけど。」
「あ、ああ。そうだな。軍人英雄ばかりだと、どうしても酒を飲む会になるしな。」
自分で言ってて苦しい言い訳な気もするが、ここは便乗するしかないか。
そうだとしても、事前に「酒が出る飲み会だけど参加するか?」と確認しておくべきなんだが。
「一応、私はこんな姿でも十九歳ですのよ?麗しい少女にしか見えないとは思いますけども。ですけど、お酒の場にこんな可憐な美少女を招くのは気が引けるのも分かりますし、仕方ありませんわね。」
「すまないな。今度改めて歓迎会を用意しておくよ。当然、酒がないやつをな。」
「あら、別に構いませんわよ?……と言っても、ここで断るのも無粋ですわね。私の美貌をひと目見たいという英雄方もいらっしゃるでしょうから、慎んでお受け致しますわ。」
セェーッフ!
なんとかこの場は乗り切った!
だが、それにしてもうぜぇ。
何一つ慎んでないじゃねぇかよ。
ってか、十九歳かよ。
見た目はどう見ても十二歳前後じゃねぇか。
でも二十歳未満ってことは、結局酒が飲める年齢じゃないのか?
いや、こっちの世界の法律がどうなってるのかは知らんが。
「ファントム様。我らが飲み過ぎたせいで申し訳ありません。酒類の補充を宜しくお願いします。」
「ああ、気にするな。取り敢えず今から倉庫に行って補充してくる。」
クロード、ナイスアシストォ!
これで有耶無耶な感じでこの場を離れられる!
「ということで、俺は倉庫に行ってくる。決済印が必要なら自由に使ってくれて構わないぞ。それと軍人秘書三人は、今日の業務が終わったら話があるから残っておいてくれ。」
「「「はっ。」」」
軍人連中の返事は短くハッキリしている。
気持ちのいい返事ではあるんだが、いまだに慣れないから若干威圧感を感じて恐い。
「あら、私だけ除け者ですの?いくら私が美しいからって、恥ずかしがらなくてもよろしいですわよ?」
「歓迎会のことだよ。こういうのは当日まで内緒の方が楽しみが増えるだろう?」
「ふふっ、そうでしたの。それでしたら、楽しみに待たせて頂きますわ。」
「ふふっ」の部分とか、そこだけ見ると声も仕草も可愛らしいんだがなぁ。
如何せん、普段の言動が痛すぎる。
まぁとにかく。
これで歓迎会の話はなんとかなったな。
さっさと倉庫に行って酒を補充してくるか。
―・―・―・―
「これはファントム様。この度はどのようなご用件でしょうか。」
倉庫番の長らしき一人が、姿勢を正しながら問いかけてくる。
この倉庫番の人は英雄じゃなくて一般人だから、威厳を保って相手しないといけないし、面倒なんだよなぁ……。
「ああ。酒が減っていると申請が有ったので、補充にな。」
俺が減らしたんだがな。
そこはふてぶてしく我関せずな態度だ。
謝れないってのも不便なもんなんだなぁ。
俺の精神衛生的に、ゴメンの一言ぐらい言っておきたい。
「はっ、了解致しました。お手数ですが品目と数をお教え願えますか?」
一般人、なはずなんだけどなぁ……。
神殿所属の人で、軍人でもない普通の人なはずなのに、口調が堅苦しい。
多分、周りの英雄が軍人ばかりだから、その影響を受けてるんだと思うけど。
こうも異様に畏まられると、慣れてないから居心地が悪いな。さっさと酒を置いて帰ろう。
……そういえばこの人、確か初めて会った時もちょっと怖い反応してたな。
やっぱり、元々が普通の人じゃないのかも知れん。
酒の種類と数を伝えてから、倉庫番長と共に倉庫の奥に入っていく。
そこには、無数の棚や木箱が整然と並べられていた。
報告にあったの通り、部屋の一角を占めているはずの酒類が減っており、そこだけスペースが大分広くなっている。
俺は神様ネットワークの画面を呼び出し、交換所画面へと移行した。
酒を補充するのに倉庫へ俺一人でやってきたのは、俺が酒を出すことが出来るからだ。
その方法はいたって簡単。
神様ネットワークで信仰を使って購入するだけである。
神様ネットワークでは、信仰を使って様々な物を買うことが出来る。
だがそれは、英雄の魂や資材、あとは神様が起こせる奇跡といった、世界管理に必要な物だけだ。
では、どうやって酒を購入するのか?
話は簡単だ。
資材の一覧の中に、酒がある。それだけのことだ。
というか、この資材のラインナップって相当にカオスで何でもあるんだよなぁ。
ペンのインクとか、将棋っぽいボードゲームの駒とか。
一体どんな英雄が使うってんだ?こんなもん。
中には、『市民の人気』って資材もあるんだが。
これって、実際に買ったらどうなるんだ?
なんか、洗脳的な未来しか見えなくて怖いんだが。
何はともあれ、酒を選んで購入。
酒の酒類もブランデーやワインにビールと選り取りみどりなので、色々と買っておく。
勿論、事前に口頭で伝えておいた分だけだが。
酒を買うのに一々信仰を消費するのは痛いが、これも必要経費だ。
酒は神殿内の英雄だけで消費するんじゃなくて、ちゃんと前線や各都市で巡回してる英雄にも送ってあるしな。
この世界にも酒は当然あるんだが……まぁ、アレだ。
品質は現在向上中ってところだな、うん。
ちょっと前まで邪神勢力が目前まで迫ってて、酒やら娯楽やらに手が回らなかったんだし、仕方ないっちゃ仕方ない。
取り敢えず用事も済んだし、さっさと帰るか。
時間掛けすぎてサボってると思われるのも癪だし。
軍人連中が多いから、そういう規則に気を付けないといけないのがウチの職場の辛い所だ。
いや別に、俺がサボったからって特に文句を言ってくる訳じゃないんだろうけど、その、何も言わないで陰で何か言われそうなのが怖い。
俺は陰で、なんて噂されてるんだろうなぁ。
今度キャラ別好感度イベントが起きる時には、その辺の本音もちょっと見てみたいところだ。
普通の人間な俺には、神様なんて正直荷が重い。
でも、ここを追い出されても、他に行く宛てなんてないしなぁ。
それに、ガチャ引けなくなるのも嫌だしなぁ。
―・―・―・―
ファントム様がお帰りになられた。
神様が降臨なさると天使様から告げられて、大急ぎで建設されたこの神殿。
そこの倉庫番長である私は、邪神の侵攻によって職を失った商会の支店長だった者だ。
国の採用試験を受け、国から優秀だと認められたので、なんとか神殿の倉庫番長の地位を与えられた。
倉庫番なんて閑職だと思いはしたが、野垂れ死ぬのを待つだけだった私が新たな職に出会えただけでも有り難いことだろう。
最初は、そう思っていた。
初めは、政府からの告知で神様が降臨なされると言われても、今一ピンと来なかった。
天使様が自ら訪れて、信託を授けられた。
そう、国の上層部は言っていたのだが、邪神がすぐそこまで来ている状況でそんな言葉は信じられなかった。
しかし実際に神様が降臨なされ、邪神と戦う英雄様が現れたのだ。
資料が散逸し、口伝で僅かに伝わっている英雄様方がだ。
更に倉庫番である私は、頻繁に神様とお会いする機会が得られた。
そして実際に、鉄材や食料を何もない場所から生み出すのを、この目で見たのだ。
まさかこの目で奇跡の瞬間を見れるとは。しかも何度も目にすることになるとは、思ってもいなかった。
初めてその光景を見た時には、本当に神様が降臨なされて世界を救って下さるのだと確信し、思わず涙が溢れたほどだ。
そして、涙を流す私にファントム様は、慈悲深いお言葉を掛けて下さった。
「何があったかは知らんが、辛いことがあったのなら仕事に逃げてみてはどうだ?ここにある資材は英雄たちの命綱であり、ひいてはお前たちを守るために必要な物なのだからな。重要な仕事であるし、それに励んでくれるなら私も安心出来る。」
その言葉を聞いて、私は自分の浅はかさに涙が止まらなくなった。
この職を閑職だと思ってしまったことが、恥ずかしかった。
物資を守ることが、世界を守ることに繋がる。
それは、神様が訪れる前から当然のことだったのだ。
物資が無ければ、人間の軍人も戦えないのだから。
涙と嗚咽が止まらないまま、そのことに気付かせて下さった神様に感謝の言葉を告げたが、上手く言葉にできていなかったかもしれない。
そして今では、神殿に勤める他の部署の者達から、羨望の目で見られる立場だ。
ファントム様の御業をその目で何度も見れる部署なんて他にないのだから、当然と言えば当然だろう。
だが、奇跡を見たいだけの邪な連中に、この仕事を譲るわけにはいかない。
私はあの時誓ったのだ。
この仕事に、私の人生全てを賭けると。
私の力は微力だが、私の僅かな力でも、世界を守る力となるのだ。
何がなんでも。
例え命を賭けてでも。
ここにある物資は、必ず守ってみせる。
ファントム様のお言葉のままに。




