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時を止める悪役転生、追放されて最強になる。  作者: 砂嶋真三


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4話 ディアナの理由。

 総長の執務室へ忍び込むはずが、白金騎士の美女──ケイトの部屋にいた。


「なるほど……。ディアナってメギストス家だったのか」


 メギストス公爵家は、王宮魔術師として仕えてきた名門中の名門である。『聖地奪還ブレイブサーガ』にも登場するが、俺はディアナという名前に覚えが無かった。


「ディアナ様と呼べッ! 少年!」


 メイドのフランが激怒した時なみの圧迫感がある。


「良いのだ、ケイト。私はメギストスを出た能無しに過ぎん。だから相応に扱ってくれ」

「ディアナ様……」


 ケイトはメギストス家の分家筋に産まれ、ディアナとも面識があった。

 

「いったい何があったのですか? ディアナ様のような大魔術師が修道会にいては、パリス王国の損失でありましょう」

「うむ。実はな──」


 俺とディアナは互いに身の上話をしていない。

 何も聞くなよオーラを発散していたからだ。


「──3年ほど前から、唐突に私の魔力が失われてな」

「ヴィエエッ!!」


 ケイトが怪鳥のような奇声を上げた。


「な、なんとおいたわしい。氷竜の山を焼き尽くした業火魔法が失われたと?」

「焼き尽くすつもりはなかった……」

「賢者の塔をなぎ倒した爆風魔法も?」

「い、意外に脆かったな」

「イリヤの街を──」「デシートダンジョンを──」「陛下の離宮を──」


 ひょっとして、ディアナが魔力を失って良かったのでは……?


「ま、ともあれ全てが使えなくなってしまったのだ。様々な治療を試みたが、やはり魔力は戻らなかった」

「それで、修道会へ……」

「やたらと出来の良い弟もいるのでな。問題ない」


 双子の弟ヘンリー。


 冷静沈着、品行方正、温厚篤実な人柄で家中から大いに愛されている。


 なお、領地や爵位は長男に継承されるのが普通だが、宮廷魔術師を務めるメギストス家だけは少し事情が異なった。


 最も強い魔力を持った継承権者が、メギストス公爵を名乗る。

 なお、俺が原作で知っているメギストスは、弟のヘンリー・メギストスだ。


「確かにヘンリー様は素晴らしい御方です。でも、少しばかり魔力が……」

「歴代のメギストスよりは見劣るが、まったく使えん私よりはマシだろう」


 魔力を失ったディアナは、絶対に宮廷魔術師になれない。


「それにしても薄情が過ぎます。乙女だけを集めたウィルゴ女子修道会や、医道を目指すサレルノ──」

「いや、ケイト。私が申し出たのだ」

「──はい?」

「私は自らの意思でメギストス家を出た。聖ラザロ修道会を選んだのも私自身──その点、お前と同じだ」

「え、ええっ!? 私は剣術くらいしか得手がありませんでしたので……」

「それを言えば魔法を失った私には何も無い。まあ、趣味の料理と語学──いや、それはどうでも良いな。さほど役にも立たんし」


 青竜刀を振り上げた大男を蹴り飛ばそうとしていたので、体術も鍛えている可能性がある。


「とはいえ、私がここに来たのは、全てを諦めたからではない」

「では、ディアナ様も聖騎士を目指されると?」

「違う」


 今回は聖地奪還など下らない云々──の話はしなかった。

 聖騎士を本気で目指しているケイトに失礼だと考えたのだろう。


「魔力を失った私は古今東西あらゆる治療を試し、王家の古文書にまで目を通した。だが、解決の糸口すら掴めず途方にくれていると、1人の旅人が訪れた──」


 ボルトン家でも同様だが、貴族は旅人を客として泊まらせたりする。

 吟遊詩人、剣術家、曲芸師など、娯楽を提供してくれる旅人は特に喜ばれた。


「星を読む男で、これが実によく当たる」


 占星術師……。


 俺は前世の記憶を持っているせいか、占星術に限らず占いをまったく信じていない。

 

 だが、この世界の連中はかなり信じている。

 戦争をやるかやらないかすら占いで決めることがあるらしい……。


「──で、今後の方針をそやつに相談したところ、聖ラザロ修道会に行き善行を積めば、運命を逆転させる男に出会うと言われたのだ」

「善行? 運命? 男?」

「そうだ。運命を逆転と言うからには、再び私に魔力が戻るという意味だろう」


 俺にはその確信のほうが不思議だった。

 他の可能性も十分に考えられる。


「いや、あのな──」

「素晴らしいっ!!」


 だが俺の発言は、興奮したケイトに遮られた。


「ひょっとして、その男とは、ヨハン総長!? それで執務室を訪れようと──いや、ですが、深夜は自室でしょうし、日中もあちこちへ行かれることが多いのです。日を改めて頂けば私が手配いたしますが?」

「手配などいらん。面と向かって会う前に、ヤツの弱みを握っておこうと考えている」

「ほえっ?」

「伝え聞くところによれば、ヨハンは相当に金を溜め込んでいるらしい」


 聖ラザロ修道会行きを決めた際、彼女なりに事前調査を行ない、修道会とヨハン総長の不審点に気付いていた。


 ヨハン総長の蓄財、多数の行方不明者、奴隷商人たちの噂──。


 乗合馬車にこれ見よがしな宝箱を積んでいたのも、盗賊たちを釣るための罠だったのかもしれない。


「そ、そんな……。まさかヨハン総長が?」

「修道会の会計は監査されている。となれば、ヤツは独自ルートで金を稼いでいると考えるほかあるまい」


 盗賊と手を組んで、哀れな能無したちを食い物にしてきたとしたら……。


「アルと私を襲った盗賊との繋がりを証明できれば、ろくでもない悪党を修道会から追い出すことが出来る」


 つまり、善行。

 運命を逆転させる男に出会うために彼女は善行を積む……。


「そんなわけで、ケイト」


 ディアナは居住まいを正し、白金騎士ケイトを見詰めた。


「私たちに力を貸してくれ」

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