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そんなの出来ないよ

「これが貴方の家なのね」


「う、うん」


自宅のリビング。そこで私は顔を真っ赤にしながら小さく呟いた。

てっきり今日は椿ちゃんと一緒に手を繋いで帰って終わりだと思っていた。


だけども椿ちゃんは突然私の部屋に行ってみたいと言ってくれたのだ。

それはまさに夢の光景。椿ちゃんは私の部屋を物珍しげに見て廻っている。


「へぇーちゃんと部屋の中、綺麗にしているのね」


「いや……それはその……ほとんど柚ちゃんが掃除してるの」


柚ちゃんと出会う前の私の家は酷い有り様だった。

私自身、家事には無頓着で食事もコンビニ弁当だったし掃除も身の回りの物を片付けるぐらいでほとんど掃除をしていなかった。

なので今こうして綺麗な部屋に住めるのも美味しい料理を食べたり出来るのも柚ちゃんのおかげだ。


「柚ちゃんには悪いことしてるよね」


「そうね。でも好きになってしまったものは仕方ないわ」


そう言って椿ちゃんは私にそっとキスをする。勿論柚ちゃんに対して申し訳ないと思う、こういうことしてるって罪悪感もある。

ーーだけどそれ以上に私は恋をしていた。キスをされて照れる私に椿ちゃんは頭を撫でてくれる。


「ところで今週の土曜日空いてる? せっかく浮気相手になったんだし一緒にデートでもどうかなって思ってるんだけど」


「あ……えっと土曜日は用事があって」


「そうなの。じゃあ日曜日は?」


「うん、日曜日なら大丈夫」


椿ちゃんからデートに誘われた事実に少し驚いてしまう。

だけどもそれは当たり前のこと。私たちは好きって想いを伝えあった仲なのだ。

確かに恋人ではないけど、それでも互いに恋をしているのだから一緒にデートに出掛けるのは不思議じゃない。


「日曜日、楽しみにしているわ」


嬉しそうに微笑んでベッドに腰掛ける椿ちゃん。

そんな彼女を私は眺めていると椿ちゃんがベッドをポンポンと叩く。


「貴方も座りなさいよ」


「す、座ってもいいの?」


「いや貴方の部屋でしょ」


「そ、それはそうだけど……」


私は深呼吸をしてからちょこんと椿ちゃんの隣に座る。

そんな私に対して椿ちゃんは自分の手をそっと私の手に重ねた。


今日は椿ちゃんと手を繋いで帰った。その時点で椿ちゃんの手の感触は慣れたはずなのに。

やっぱり胸はドキドキして何も考えられなくなる。


「あ、あの……!」


私は椿ちゃんの方を見る。実は椿ちゃんと恋人になったらどうしてもして欲しいことがあった。

だからそれを言おうと椿ちゃんの方を見る。椿ちゃんも私の方を顔を赤くしながら見ていた。


「な、なにかしら」


「その……私、椿ちゃんにして欲しいことがあって」


気がつけば私から椿ちゃんに距離を詰めていた。

そして私はそれを口にしようとした瞬間、私のスマホが鳴る。


私はびっくりしながら慌ててスマホを見ると柚ちゃんからの電話だった。

流石に無視するわけにはいかないと私は電話に出る。


「あ、先輩……その……今お家ですか?」


「うん、そうだよ。それでどうかしたの?」


私と柚ちゃんが電話で話していると椿ちゃんがそっと私の腕に抱き付いてきた。

慌てて椿ちゃんの方を見ると椿ちゃんは静かに微笑みながら私を見ていた。

そんな状況に私は胸を高鳴らしながら電話を続ける。


「本当は明日学校で言えばいいんですけど……早く返事が聞きたくて」


柚ちゃんはそう言うと電話越しに小さく深呼吸をして、よしっと小さな声を漏らしてから言葉を続ける。


「その……今週の土曜日……デートとか駄目ですか?」


「ごめんね。土曜日は別の約束があるんだ」


「そ、そうなんですね。だったら日曜日でいいので! 日曜日! デート行きましょう」


「日曜日も……ごめんなさい」


日曜日に関してはもしかしたら了承して椿ちゃんより柚ちゃんを優先することも出来たかもしれない。

だけども私はやっぱり柚ちゃんより椿ちゃんと一緒にいたい。


「……」


「……えっと、ごめんね。電話切るね」


互いに無言の時間が続いて気まずくなって私は電話を切ろうとする。

だけどもそんな私に柚ちゃんは慌てたように声を掛けた。


「ま、待ってください! その……! 今週じゃなくていいです! 来週でいいので! 数時間でも数十分でもいいです! 私、先輩と一緒に過ごしたいです」


私、最低な人間なんだな。彼女はこんなに私を思っているのになのに同時に私は隣にいる椿ちゃんにドキドキしてしまっている。

感情がぐちゃぐちゃで、だけどもそれを柚ちゃんには悟らせてはいけない。


「来週の土曜日ならずっと一緒にいられるよ」


「本当ですか! ありがとうございます! 先輩一緒に楽しみましょうね!」


「……うん」


それから私たちは何度か会話をして電話を終える。

それと同時に椿ちゃんが私に抱き付いてきた。


「椿ちゃん……?」


「ふふっ、ごめんなさい。でも柚の予定より私の予定を優先してくれたことが嬉しくて」


椿ちゃんは何度も頭を撫でてくれる。それに対して私はゆっくりと彼女から離れようと肩に手を当てて距離を取る。


「ち、違うよ。私はただ椿ちゃんと先に約束したから優先しただけで」


「そうなんだ。残念、でも……」


ちょっと意地悪な笑みを浮かべて舌をペロッと出すとまた私に抱き付いて耳元で静かに囁いてくる。


「もし、これからも柚とデートの予定が被ったら私を優先して欲しいな」


「……そんなの出来ないよ」


「そうね。でも悩んでくれるだけでいいの。それだけでも私は嬉しいから」


椿ちゃんは笑ってそう口にした。私はそれに対して俯きながら小さく頷いた。


「それはそうと……あの時言おうとしてたして欲しいことって何?」


「あ……それなんだけど断られないかなって不安で」


「私は寛容なのよ。ある程度のことなら許容してあげるから言いなさい」


椿ちゃんに促されて私はそのして欲しいことを口にする。

それは聞く人によっては馬鹿げた頼み事なのかもしれない。

その頼み事は些細なもの。だけどもそんな些細なことが私の夢だった。


「ちょっとだけ待ってて」


私はそう言うと本棚から一冊の本を取り出して椿ちゃんの所に戻ってくる。


「私……椿ちゃんに絵本を読んで欲しいの」


「絵本? 別にいいけど……本当にそれがして欲しかったことなの?」


「うん」


私は静かに頷くと椿ちゃんに絵本を渡す。椿ちゃんはそれを受け取ると優しい声で絵本を読み始めた。


「……綺麗」


絵本を読んでいる椿ちゃんがとても綺麗で見惚れてしまう。

ページを捲る仕草、読み聞かせてくれる暖かな声、読みながら私を見つめてくれる青色の瞳。


全てが想像以上で全てが幸福で、何度も夢見た光景は夢で見たよりも綺麗だった。

そして彼女が絵本を読み終わった時、私はすっかり椿ちゃんのことが今まで以上に好きになっていた。

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