手を繋ぎたかったんでしょ?
「それじゃ私たちはここで!」
放課後、私たちは帰り道で別れる。別れるのは文ちゃんと柚ちゃんの二人。
椿ちゃんとは帰り道が最後まで一緒なので家に着くまでは私たちは一緒だったりする。
「ええ、また明日ね」
椿ちゃんは文ちゃんと別れるのを名残惜しそうに呟くとそっと文ちゃんの方へと近づいて二人でキスをする。
文ちゃんは照れているのか困ったような表情でそして椿ちゃんは顔を赤くして手を絡ませて。
正直何度見ても二人がキスをすると胸が苦しくなる。
だけどもそれを表には出さずに恋人である柚ちゃんに別れの挨拶をする。
「柚ちゃんもまたね」
「あの……先輩」
どこか悲しそうな表情の柚ちゃんにどうかしたのかと私は首を傾げる。
すると柚ちゃんは私の手をぎゅっと力一杯握り始めた。
「えっと……柚ちゃんどうしたの?」
「いえ、その……私は先輩のこと好きですから! 私は誰よりも先輩のこと愛してますから!」
「わ、分かってるよ。ちゃんと」
「だったら! その……先輩も私を私だけを好きでいて下さい」
「え……」
もしかして浮気してるのがバレたのかと不安になる。
だからといって浮気してるの気づいた? なんて言えるわけがない。
そんな私の疑問に答えるように柚ちゃんは静かに言葉を紡いだ。
「す、すいません! その、変なことを言ってしまってなんかいつも先輩が違う人ばかり見ているような気がして、ちょっと不安になっちゃって」
「そっか、不安だったんだね」
ゆっくりと私は柚ちゃんを抱き寄せると安心させるように頭を撫でる。
柚ちゃんは嬉しそうに私の胸に顔を埋めていた。
「大丈夫だよ。私は柚ちゃんの恋人なんだし他の人を好きになったりしないよ」
「そ、そうですよね! ごめんなさい! 先輩を疑うようなこと言っちゃって」
柚ちゃんは表情を崩して笑う。そんな彼女の笑顔に私も笑って応えるけど。
内心では不安で一杯だ。自分は知らず知らずの間に椿ちゃんへの好意が溢れでていてそれを気付かれていたみたいだった。
「先輩、キスしてください」
「うん」
互いに言葉ではなく唇をかわす。そして柚ちゃんは安心したのかそっと私から離れた。
椿ちゃんと文ちゃんは既に別れの挨拶は終えているのか私たちを待っている。
「それじゃ先輩! また明日、起こしに来ますね」
そう言って手を振るう柚ちゃんに私も同じように手を振って返した。
ーーー
家までの帰り道。柚ちゃん達と別れて私と椿ちゃんの二人きり。
柚ちゃんや文ちゃんと一緒にいる時は椿ちゃんが近くにいてもそこまで緊張しなかったのに。
二人きりになった途端、私は椿ちゃんに何を話していいのか分からず静かに俯いてしまう。
「……」
「……」
互いに無言の中で私はこっそりと椿ちゃんの姿を見る。
やっぱり何度見ても綺麗だ。白くてすらりと伸びた髪に整った顔立ち、透明な水色の瞳。
ずっと見ていたいと思った。だけど見ているだけでは今までと変わらないと思った。
折角恋人ーーではないけどそれに近い関係に慣れたのだから何かお話ししないと。
だけども話したいことは沢山あったはずなのに彼女を見ると頭が真っ白になってしまって何も話題が浮かんで来ない。
このまま話せず家に着いちゃうのかな。それは何か寂しいな。
そんなことを考えていると椿ちゃんがこちらを見て声をかける。
「そういえば……貴方はどうして私のこと好きなの」
「うっ……」
それに関しては一目惚れとしか言えない。初めて教室で一緒になって椿ちゃんの姿を見た時に恋に堕ちたのだ。
彼女を見て恋人になれたらなって一緒に歩きたいなって頭を撫でて欲しいなって他にも沢山のことをしてほしいって思うようになった。
そんな気持ちをずっと抱えたまま、私は今彼女の隣を歩いている。
「早く答えなさいよ……それとも本当は私のこと好きじゃなかったり?」
「そ、そんなわけない! 私はずっと椿ちゃんのこと好きで……でも」
「でも?」
「ごめんなさい。私、好きになった理由が一目惚れで……一目見て好きになったってそれだけなんです」
もっとしっかりとした理由が欲しかった。優しい性格だからとか、頭がいいからとか料理が美味しいからだとか。
でも恋に堕ちた理由に嘘は付きたくなくて結果的に正直に一目惚れだと言ってしまった。
嫌われたりしないだろうか、私のことを捨てたりしないだろうか。
不安で一杯のまま、ゆっくりと椿ちゃんを見ると彼女は優しく笑いながら頭を撫でてくれた。
「なんでそんな悲しそうな目してんのよ」
「その……見た目で好きになったからそんな私に失望しないかって」
「良いじゃない見た目で好きになった。それもしっかりとした恋の理由よ。私だって貴方のこと結構可愛いって思うし」
「ぁぁう」
可愛いって言われてしまった。それが嬉しくて変な言葉にならない声が出てしまう。
そんな私に微笑みながらそっと頭を撫でる手を離した。
「でも……そうね。見た目だけ好きっていうのも少し寂しいわね」
「そうだよね……ごめんなさい」
「ええ、だから……見た目だけじゃなくて性格や他にも色々な私を好きになって欲しい。いいえ好きにしてみせるわ」
もうその言葉だけで私は椿ちゃんのことがとても好きになっていた。
もっと何か恋人らしいことをしたい。そう思った時、ふと私の視界に母親と女の子が手を繋いで談笑している姿が目に入った。
羨ましい。私もあんな風に椿ちゃんと手を繋ぎたい。
横で歩く彼女にそっと手を伸ばそうとするが触れそうになると自分から手を引っ込めてしまう。
なんでなんだろう。女の子と手を繋ぐのなんて柚ちゃんや文ちゃんと何回もしてきたはずなのに。
私は今その手を繋ぐということさえ、上手く出来ないでいる。
「……さっきから何してるのよ」
「ええっ!? な、なにって……何が?」
「いや、その私の手を凝視しては手を伸ばしたり引っ込めたりしてるから」
「そ、そんなことしてたかな?」
全部見られてた! 思わず自分の恥ずかしい行動に真っ赤になる。
何とか誤魔化そうとしたけど多分それは意味がない。
そんな慌てる私に椿ちゃんは手をこちらに伸ばすと私の手をしっかりと握ってくれた。
「あ……」
「手を繋ぎたかったんでしょ?」
「……うん」
私は赤くなった顔を俯いて隠すと椿ちゃんが握ってくれている手を見る。
手を繋ぐのってこんなにドキドキするんだって思った。
だからつい聞くのを忘れてしまう。私は椿ちゃんのことが大好きだった。そしてその理由は私の一目惚れ。
椿ちゃんはどうなのだろうか。私のどこが好きでこうして手を握ってくれるんだろう。
それは気にはなったけど今さら聞くのも何だか恥ずかしくて今はこの手を握られているという幸せに浸ることにした。




