今度は私からしてもいいですか?
「せんぱーい! お弁当ですよ!」
「うん。ありがとう」
お昼休憩の時間。私たち四人は部室である教室で机を寄せ合ってそれぞれ弁当を用意する。
他のクラスメイト達は食堂で食べたり、屋外で食べたりするのだろうけど私たちは違う。
顧問の先生が細かいことに気にしない性格であることやこの部室が部活動以外では使われていない空き教室だったことも重なって特別にプライベートで教室を使うことが可能になっていた。
おかげで私たちは周りの騒音などを気にすることなく四人だけでゆっくりとご飯を食べることが出来る。
「そう言えば栞はいつも料理を作っていないみたいだけど料理は苦手なの?」
「そういうわけじゃないけど……私、あんまり食事に拘りとかなくて作るのも面倒だからコンビニ弁当で済ましちゃうんだよね」
「柚がいない時の栞はマジで酷かったよ。基本同じコンビニ弁当ばっかり、流石に気の毒というか見てらんなくて私が何度か作ったこともあったんだよね」
今でこそ恋人である柚ちゃんが全ての食事を用意してくれているが、それ以前は食事というものに感心が疎くて適当なものばかりを食べていたと思う。
私はお弁当箱を開けて中身を見る。そこには野菜もお肉も卵もしっかりと入っていて私のことを考えて作ってくれているんだなと改めて実感する。
「柚ちゃん……いつも美味しいお弁当ありがとうね」
私は隣の席の柚ちゃんの肩に頭を乗っけて普段の感謝の言葉を話す。
それに対して柚ちゃんは嬉しそうに表情を崩して笑った。
「えへへ先輩の為ですから! 先輩に食べて貰えるって思うと料理作りが楽しいんです!」
「嬉しいな。そうだ! 恋人なんだし普段からお料理作ってくれるお礼にお弁当食べさせてあげるね」
「いいんですか!?」
「うん」
喜んで口を開ける柚ちゃんに私は野菜を箸で挟んで彼女に食べさせてあげる。
「先輩の料理美味しいです!」
「作ったのは柚ちゃんだけどね」
「それはそうですけどー雰囲気です! 雰囲気。それに先輩にあーんして貰うといつもよりドキドキして美味しく感じますから!」
「そうなんだ。それじゃもっとあーんしていいよ」
「わーい」
私は再度野菜を沢山柚ちゃんに食べさせる。それを見た文ちゃんと椿ちゃんが私の魂胆を理解したのか微妙な顔で互いを見合っていた。
「もしかして栞……」
「しーっ」
私は慌てて余計なことを言わないようにと文ちゃん達を黙らせる。
そして最後のお野菜を全部、柚ちゃんに食べさせるとあーんの作業を終えた。
「どうだった?」
「はい! 凄く幸せでした!」
「良かった。それじゃ私も食べようっと」
そう言って野菜の無くなったお弁当を美味しく食べる。
そんな私に対して柚ちゃんが恥ずかしそうに顔を赤くしてこちらに声をかける。
「あの……今度は私からしてもいいですか?」
「そ、それはちょっと恥ずかしいっていうか」
「でも私も先輩にあーんってしたいです!」
「うぅ……」
まさかの提案に今度は私があたふたしてしまう。
確かに恋人同士なんだし食べさせ合いはするべきなんだろうけど。
まさか自分が食べさせて貰う側になるのは予想外。
でもここで断るなんてことは柚ちゃんの真剣な表情を見た後ではとても出来はしない。
仕方ない。ここは私も柚ちゃんにお弁当を食べさせて貰うことにしよう。
「じゃあ少しだけだよ。えっとお肉が食べたいな」
「はーい! 任せてください!」
そう言って柚ちゃんは野菜をしれっと箸で挟んで私の口の中に入れる。
勿論柚ちゃんの手作りなので不味くはない。だけども野菜の風味はあって私は悲しくなる。
「うぅ……お肉が食べたいって言ったのに」
「好き嫌いはしちゃダメです!」
「もしかして……私の思惑に気づいてたの」
「流石に野菜ばっかり食べてるなぁって思いましたよ」
流石に野菜ばっかりだと気づかれるのかと私は落ち込む。
だけども他の食事は渡したくない。だって柚ちゃんの料理は美味しいから。
「ほら先輩ちゃんと残さず食べましょう!」
「ふぁーい」
私は柚ちゃんに食べさせて貰うことで野菜を食べ終える。
そんな私に対して柚ちゃんは優しく頭を撫でた。
「先輩ちゃんと野菜食べれて偉いです」
「……うん」
何だか頭を撫でてくれる柚ちゃんに不覚にもドキドキしてしまう。
勿論柚ちゃんは私の恋人なのでドキドキすることは何もおかしいことではないのだが。
今まで抱き付いてきたりキスをされたりしてもそんなにドキドキはしなかったのに。
今回は頭を撫でられただけで今までよりも胸が高鳴ってしまう。
これじゃまるで私が柚ちゃんに恋しているみたい。
私が好きなのは椿ちゃんのはずなんだけど、私は私の気持ちが分からない。
だけども今は何だかこの恋に身を預けたい気がしてーー。
「柚ちゃん……好き」
気がつけば私は柚ちゃんにもたれて体を預けていた。
それに対して柚ちゃんは顔を赤くしながら震える手で私の頭を撫でていた。
「柚ちゃん……どうしたの?」
「そ、その……先輩がこんな積極的に甘えてきてくれたの初めてだったので……嬉ーー」
「そっか、甘える先輩は嫌だよね」
「……え?」
私は何を考えているんだろう。私は柚ちゃんの先輩、それなのに先輩が後輩に甘えてきたら困ってしまうのも不思議じゃない。
ちょっと困らせちゃったなと私は柚ちゃんから離れる。
「……あ」
「どうしたの?」
「な、何でもないです」
何だか残念そうな様子でお弁当を食べる柚ちゃん。
そして柚ちゃんは私の方を何故かずっと見て溜め息を吐いた。
「もっと甘えて欲しかったのに」
柚ちゃんが小さな声で何か呟いた。だけどもその言葉を私は聞き取れなくて不思議に思いながらお弁当を食べるのだった。




