頭撫でて欲しいなって
「栞テストどうだった?」
休み時間。文ちゃんが私にテストの点数を聞いてきた。
朝のホームルームが終わって担任の先生から中間テストの結果が配られた。
おかげで教室の話題はテストの話一色。勿論今さらテストの結果を他人と比べたところで点数が変わるわけじゃないけど。
やっぱり他人と自分の点数を比較したくなるのが人間というもの。
ましてや私たちの学校はこの近くでは名の知れた名門校。
この地域の女子高の中では一番偏差値の高い学校となっている。
故にみんな勉強熱心な学生が多く、他者のテストの結果にも興味津々だったりする。
そしてそれは文ちゃんも同様らしく私に尋ねてきた。
「うん。結構良かったよ。全教科九十点代」
「ぐぬぬ! やっぱり栞には敵わないかぁ」
私の机の上で悔しそうに倒れ込む文ちゃん。その手には文ちゃんのテスト用紙が握られていてそれを掴んで結果を見る。
そのテスト結果は全て七十点は越えており、この学園ではかなりの好成績をキープしている。
文ちゃんは明るくてみんなの人気者。その明るい印象やたまに馬鹿なことも口にすることからあまり頭が良くないように思えるけど。
実は結構成績が良かったりする。普段は勉強は嫌いだと言っているけど裏ではしっかりと勉強しているんだろうな。
「文ちゃんも凄いと思うけどなぁ」
「それを九十点以上の栞に言われてもねぇ」
「うっ……」
「でも、本当に今回もテスト頑張ったんだね! 偉いぞー! 栞!」
「えへへ、文ちゃんいつも頭撫でてくれるから好き」
文ちゃんは私がテストで良い結果を取ると頭を撫でてくれる。
今回も文ちゃんに撫でられて幸せな気持ちになる。
でも今回撫でて欲しい人はもう一人いる。それは勿論椿ちゃんだ。
私は頭を撫でられながらそっと椿ちゃんの方を見る。
椿ちゃんは窓際の席でテスト用紙を静かに見ていてその姿はとても綺麗に見えた。
「どうした? 私の彼女をじぃーっと見て」
「あ……えっと……椿ちゃんにも頭撫でて欲しいなぁって思って」
「なんと! 私のナデナデでは足りなかったというのか!」
大袈裟にリアクションをして項垂れる文ちゃん。
だけども別に椿ちゃんに頭を撫でてもらうことそれ自体には特に怒ったり嫉妬したりはしないみたいだった。
「じゃあ一緒に頼みにいく? 栞の頭を撫でるようにってさ」
「い、いいの?」
「もちもち!」
私たちは一緒に手を繋ぐとそっと椿ちゃんの所へと向かう。
椿ちゃんはみんながテストではしゃいでいるのに落ち着いた様子で私たち二人を見ている。
「あら、随分と二人で仲良いじゃない」
「当たり前じゃん! 私たちは親友だもんねー!」
「ねー」
互いに顔を向けて笑う。それに対して椿ちゃんは呆れたような表情でこちらを見ていた。
「それで何の用なの?」
「それなんだけど……」
椿ちゃんを初めて見た時から、頭を撫でて貰いたいってずっと思っていた。
だけどもいざ口に出すとなると緊張してなかなか言葉にならない。
そんな私を見て何故か椿ちゃんは段々と慌て始める。
「あ、あの……大丈夫? そんな思い詰められると凄く不安なんだけど」
「栞! 頑張れ! 自分の気持ちを伝えるんだ!」
「えぇ……」
私たち二人のやり取りに困惑する椿ちゃん。そんな中で私はしっかりと椿ちゃんを見てそっと手を触れると。
「今日テストが返ってきて全部いい点数を取れることが出来たんだ。だから私を褒めて欲しいの……褒めて……頭撫でて欲しいなって」
「ちょ、ちょっと栞! 少しいいかしら」
私の頼みに椿ちゃんは私を引っ張ると教室の角まで連れていく。
そしてクラスメイトには聞こえない小さな声で話し始めた。
「あのねぇ……私たちは恋人ではなく浮気相手だって分かっているの?」
「勿論分かってるけど」
「だったらそういう頭を撫でるとか……そういうのは恋人同士がやることでしょ? それをお願いされても困るのよ」
「え? 頭を撫でたりするのは友達なら普通だと思うけど……」
「えぇ……そうなの?」
「ほら、あっちの子たちも頭撫でてるよ」
テストの点数が悪かったのか一人の女の子が泣いていてそれをもう一人の女子が頭を撫でて慰めていた。
また他の生徒たちも何人か頭を撫であったり抱き合って喜んでたりしている。
「そ、そういうものなのね。私、貴方たち以外友達いないから分からなくて」
「なになに? さっきから二人で密会してたみたいだけどもしかして浮気かぁー?」
「なっ! そ、そんなわけないでしょ!」
「そ、そうだよ! 私たちは清い関係だよっ!」
「いや、そんなあからさまに否定しなくても冗談で言ったつもりなのに」
私たちが慌てて否定したのが余計に怪しかったのか怪訝な顔を浮かべる文ちゃん。
それに対して椿ちゃんは軽く咳払いをしていつもの調子に戻る。
「いえ……二人で話していたのはその浮気の話だったからついね」
もしかして浮気していることを言ったりしないよね?
少し不安になるがここは椿ちゃんに任せることにする。
「その……頭を撫でるのって浮気にならないかなってそういう話をしていたのよ」
「椿は何というか純情だねぇ。いやぁそりゃ誰彼構わず頭撫でる人はどうなのって思うけどさ。椿と栞は友達なんだし頭を撫でるぐらいしても浮気になんてならないよ」
「そ、そういうものかしら。私としては貴方の恋人なんだしもう少し嫉妬して欲しいんだけどね」
「栞は親友だから嫉妬とかはないかな! というわけで撫でてあげてよ」
文ちゃんからの許可は出ている。もう私の頭を撫でることを拒む理由はない。
椿ちゃんは仕方ないといった様子で息を吐くと子供を慰める親のように優しく頭を撫でてくれた。
「よしよし、栞は可愛くてとてもいい子ね。だから一杯頭撫でてあげる」
やっぱり私は椿ちゃんが好きだ。頭を撫でられるとドキドキするし凄く嬉しい。
ずっとこのまま頭を撫でてくれればいいのに……。
でもそんなことはなくてしばらくの間、頭を撫でると椿ちゃんは撫でるのを辞めてしまった。
「これでおしまいよ」
「うん……ありがとう」
「栞! 良かったね! 本当に良かった!」
「うん! 私、椿ちゃんに褒められちゃった」
私と文ちゃんは互いに喜び抱き合い感動の涙を流す。
そしてそんな私たちを見て椿ちゃんはドン引きするのだった。




