先輩! キスして欲しいです!
「先輩! 朝ですよー! 起きてください!」
「んー……柚ちゃん。まだ寝てたいよー」
夢心地の中、私はベッドの上でゆっくりと目を開ける。
するとそこには金髪ツインテールの女の子ーー上園柚が青い目をこちらに覗かせていた。
「おはようございますっ! 先輩」
「……おはよう」
よくも朝からこんなに元気だなぁと柚ちゃんに感心する。
柚ちゃんは私が二年生になって初めて出来た後輩だ。
彼女は一年生であり、当然クラスは違うけど、同じ部活なので何度も会話する機会があった。
結果的に私たちは仲良くなり、今では柚ちゃんが朝起こしてくるのは当たり前となっている。
「朝ごはん。用意してますから一緒に食べましょう!」
「いつもごめんね? 私は別にコンビニ弁当でもいいんだよ?」
「いいんです! 私は先輩の為に料理作るの好きですから」
柚ちゃんはそう言うと私の部屋を出ていってリビングへと向かった。
そんな彼女を見送ると私はいつものように身支度を整えて学校へと行く準備をする。
そして柚ちゃんの所へと行き、一緒にご飯を食べて学校へと向かった。
ーーー
「せーんぱいっ! ぎゅってしていいですか」
「ダメって言っても抱き付く癖に」
「勿論です!」
そう言って柚ちゃんは私の腕にぎゅっと抱き付くと幸せそうな嬉しそうな笑みを私に向けて。
「だって私、先輩の彼女ですから!」
迷いのない言葉でそう言った。そしてそれは事実でもある。
私と柚ちゃんは付き合っている恋人同士だ。だけども私は柚ちゃんに恋はしていない。
私の恋はずっと椿ちゃんにあった。それでも柚ちゃんと付き合ったのは柚ちゃんのことが後輩としては嫌いではなくむしろ好きだったのと椿ちゃんの恋心を忘れる為だった。
椿ちゃんは既にその時付き合っていて私は失恋したものだと思っていた。
だから新しく恋人が出来れば椿ちゃんのこの想いも忘れて柚ちゃんのことが好きになれるかも知れない。
そう思って付き合うことにしたのだ。
それは一見すると最低な行為なのかもしれない。
だけどもお互いが両想いで結ばれるなんてことそんな都合よく起こるわけがないのだ。
きっとお互いにある程度好きである程度は妥協しながら恋人ってのは出来るものなんだと思ってる。
だから誰でも良かったわけじゃないけど柚ちゃんなら恋人になっても良いかなって思って付き合うことにした。
恋に届かない気持ちは長く付き合えばその思い出と時間で埋められると思ったのだ。
「私、先輩の彼女になれて幸せです! こうして毎日登下校出来るんですから」
「うん、私も柚ちゃんが恋人で良かった。毎日起こしてくれるしご飯作ってくれるもんね」
柚ちゃんが好きその気持ちに嘘はない。だけども気持ちの量に嘘があるだけ。
柚ちゃんには悪いけど私の気持ちはやっぱり椿ちゃんにあるんだなって思った。
だって柚ちゃんにこうして腕を抱き付かれているわけだけど。
勿論、それ自体は嬉しいけどやっぱり椿ちゃんに比べるとドキドキしない。
椿ちゃんは優しくて綺麗で見ているだけでドキドキして幸せで頭がぼーっとしてくる。
昨日の放課後、椿ちゃんにキスをされた時、頭の中が幸せで一杯になった。
だけども柚ちゃんとキスをしても少しはドキドキしてしまうけど、やっぱり幸せになれるのは椿ちゃんのキスだった。
「あ、あそこにいるの椿さんに文さんですね!」
「……え?」
そこには椿ちゃんと赤髪で赤い瞳をした女の子ーー嬉野文ちゃんの二人が手を繋いで登校していた。
文ちゃんは私の幼馴染みで親友だ。元気で明るい性格で今では私と同じ小説同好会の部長をしている。
二人は互いに見つめ合いながら楽しそうにお話ししている。
それを見てやっぱり私は胸が苦しくなる。椿ちゃんは私のことを好きって言ってくれた。
つまり私たちは両想いなはずなのだ。だけども椿ちゃんの文ちゃんを見る目は恋をしている女の子の目をしている気がして本当に私のことが好きなのか、あの二人で過ごした時間は嘘だったんじゃないかってそんな気持ちが沸いてくる。
こうして愛しあっている二人を見ていると改めて私は浮気相手であって恋人ではないんだなと実感する。
もしも私が椿ちゃんの恋人なら人目を気にせずに手を繋いで学校に行くことが出来るのに。
「……羨ましいなぁ」
「先輩? 私たちも負けてませんよ! もっといちゃいちゃしましょう!」
「あ……」
それはつい気持ちが溢れて出てきた言葉。側に恋人がいるのにそれを忘れて口に出てしまっていた。
勝手に勘違いしてくれたみたいで助かったけどこれからは些細な言葉に気を付けないといけないなって思った。
結局私だって椿ちゃんと同じだ。昨日浮気しようって言ってキスまでしたのに今では別の恋人と一緒にいるのだから。
でも私の恋心は椿ちゃんにある。そして椿ちゃんも……文ちゃんより私の方が好きなんだよね?
自分の好きは自信があるのに相手の好きはふわふわで曖昧で確証がない。
だから不安のまま、私は柚ちゃんと一緒に学校に入った。
学校に入って柚ちゃんのクラスの前に着く。当たり前の話だけど私と柚ちゃんは学年が違うので教室が違う。
だからここでお別れなのだが、いつも通り柚ちゃんは離れたくないと私の腕にしがみついている。
「やだー! 先輩と離れたくないー!」
「いつもそればっかり……仕方ないでしょ? 教室が違うんだから」
「それは分かってますけど……」
そう言って柚ちゃんは上目遣いで甘えるように私を見る。
そして私の胸にそっと手を置いて服をちょこっと摘まんで顔を近づける。
「先輩! キスして欲しいです!」
「仕方ないなぁ」
私はそっと柚ちゃんの方へと顔を近づけるとそっとキスをする。
正直ちょっとドキドキする。結局好きの量の問題であり椿ちゃんは好きだけどそれはそれとして柚ちゃんも好きなんだなって思った。
「先輩……改めて大好きです!」
「うん。私も好きだよ」
柚ちゃんの笑顔に私も同じように微笑んで静かに答えた。




